ノウム・カルデアベースの小話と思って頂ければ
それにしても……書いてみると書き易いな、ゴッフ。
イメージとしては、微小特異点に行ったぐだ、マシュはノウム・カルデアで留守番していて今回は出てきません。
基本的にゴッフとフォウがメインです。
私はゴルドルフ・ムジーク。カルデアの現所長であり、白紙化した世界を取り戻すべく、現地調査員や経営顧問、技術顧問の暴走を防ぐ立場をしている。……と言ってみるが、こんな組織の頂点など、誰かに勧められてやるものではない。特にレイシフト技術、これらの戦いが終わったら直ぐにでも凍結すべきだ。あれがあっては命が幾つあっても足りないじゃないか。……全く、前任の技術顧問が特異点に関する資料を捏造したのがよく分かった。こんなもの、表立って書けたものではない。
さて、そんな私には悩みの種が沢山あるのだが、このカルデアでの生活が始まってから続く大きな悩みがある……それは。
「フォウフォ~ウ」
「止めんか。これは私の肉だ。やらんぞ、決してやらないからな。そもそも犬には多量の塩分を含むベーコンは不味いのではなかったのかね?」
「キュキュ、フォーウ!」
「仲が良いねえ、朝から君たちは」
何を言っているのかね、この技術顧問は?
「仲が良い訳ないだろう。このケダモノが私の大切なベーコンを奪いに来るこの光景……見て分からないのかね?」
「フォウ……」
可愛らしく嘆いても無駄だぞ、その眼がベーコンを見ていることなどこのゴルドルフ、疾うに分かっておるわ。
「本当かなぁ、実のところ影でおやつを上げていたんじゃないの?」
「し、しとらんわ。じゃあ何だね、このケダモノは。私を給仕のような何かと思っているのかね?」
「キュキュ、フォーウ!」
「む!」
その軌道、読み切ったわ。さり気なく軌道を塞ぎつつ、クッションの所に向かわせるように……
「ベーコンフォーウ!」
馬鹿な、空中で軌道修正だと。何故、このベーコン泥棒は私のベーコンに執着するのかね?
「……あ、コラ!」
フォークで刺していた部分こそ免れたが、約7割のベーコンが奪われる、とは……このゴルゴルフ・ㇺジーク、一生……ではなかった、本日の不覚!
少し離れた所で、ゴルドルフ・ㇺジークと同様に食事をする職員数名が、揃いも揃ってその光景を眺めていた。
「今日はベーコン残ったねぇ。昨日は全部奪われたのに」
「流石のおっさんも少しは対策しているからだろ。まぁ、奪われるんだけど」
「そこ、煩いぞ。ピカタくん」
「俺だけかよ!? それと、あんた毎回間違えるよな、おっさん。いやぁ、レーション続きの生活が多いんで、少しでも面白いものがないとさ……それにしても、毎回負けるから意味がないなぁ」
「だねぇ、ベーコンを奪われる事が確定していますから……」
そこ、技術顧問含めて満場一致で頷くんじゃない。そしてオクタヴィアくん、君は何故か満足げな顔をしているのかね。
「何を言うか、カワタくん。これは仕方なくだ。このケダモノが他のメンバーの食事を邪魔しないようにだな……」
「じゃあムニエル、掃除ね~」
オクタヴィアくん、今のはどういうことだね。
「くっそ~、全部奪われると思ったんだけどなぁ……」
ん、どういうことだね。このスタッフたち。まさか……
「私をダシに、賭け事をしないでくれるかね!?」
「まぁまぁ、落ち着いて頂ければ、所長」
何だね、経営顧問。これは私の沽券に関わる話なのだぞ!?
「誰だって楽しい時間は持ちたいものです。貴方が美味しく食事を取ることに喜びを覚えるように、スタッフ一同も食事や貴方とフォウ君のやり取りを楽しんでいるのです。所長もマシュや藤丸の様々な記録や微小特異点の様子を見ているでしょう」
ぐ、経営顧問め。それを言われたら強く言えないのを分かって言っておるな。そして、それは私が所長として彼らの功績を知らないのは不味いと思ってだな……
「フォウ、フォーウ!」
お前(ベーコン泥棒)はお前で満足げにベーコンを完食しやがって……明日こそは、明日こそはベーコンを奪われないようにしなければ……
朝食が終わればモーニングブレイクのコーヒータイム。砂糖は使わず、ケーキで糖分補給するのがゴルドルフ流だ。
「……ふむ」
依然として、異聞帯の排除に追われる私達だが悲観してはいけない。何故なら、我々しか世界を取り戻す事が出来ないからだ。悲観している時間があったら彼らの報告を読み、次の指示を出すことが大事だろう。
「今のところ……経営顧問からも技術顧問からも報告は上がっていないな」
彼らは実に優秀だ。彼らが居なかったら我々は此処まで辿り着かずに全滅していたことだろう。ダ・ヴィンチの方は疲れが溜まっているようだから、休ませないといけないはずなのだが……空元気をしおって、あれではその内倒れてしまうぞ。これは調査員にも言えた事だが。
「……うむ」
それにしても皆がギリギリの状況で良くやってくれている。責めて、私で出来る事をするとしよう。微小特異点へ向かっている調査員には悪いが、技術顧問には鍛えられたマッサージを再び披露するとしよう。休む時間を削ってまで発明するのも技術顧問の気晴らしかもしれないが、しっかり休まんと良いモノは出来ないだろうからな。よし、ついでにベーコン泥棒のいい対策を聞き出すとしよう。
「時間を貰っていいかな、技術顧問」
「うん、突然どうしたのかな。ゴルドルフ君」
全く、部屋に籠っていたかと思えばまた新しい発明をしていたか。他の職員は適度に休むようだが……彼の天才なのだ、そのように焦らずとも良い成果は出せると思うのだが。
「うむ、いつも忙しくしている技術顧問に休みを与えたいと思っていたのだが、君は暇さえあれば新しい発明をしているだろう」
「……うーん、確かに言われてみればそうかも」
言われてようやく気付きおったか。現地調査員が体を張っている手前、おいそれと休めないという気概か、気持ちは分かるが。
「経営顧問であれば誰も近寄らない所に行って休んでいるようだが、君はそうでは無いからな。とりあえずマッサージをしてあげるから楽にしなさい。これでもトゥールに褒められた腕だから、安心して受けるといい」
受けない、という選択肢はないぞ。と言うか、断られると割と傷つくからな。幾ら押しつけがましいとしても。
「まだすることはあるんだけど……何があっても休ませる、って言う目をしているね。分かった分かった、途中で倒れて二人に心配なんてさせたくないからね。大人しく君の施術を受けるとしよう」
「技術顧問は物分かりが良くて助かる。ついでになのだが、マッサージが終わった後でいいから、一つ相談に乗ってくれないだろうか」
「それも目的だったか……まぁいいよ。私の手に負えることならね」
技術顧問はそう言って、殆ど使われていないであろうベッドへ横になる。全く、やはり殆ど休んでいなかったか。
「うむ、ではまずマッサージを始めると……って」
君の肩は岩か何かか。全く、しっかり休まないからこうなるのだ。
「全く、こんなに硬くしおって。調査員も調査員だが君も君だな。しっかり解すから大人しくしていなさい」
「あ~、分かっちゃう?」
全く、そんな困った風に言うんじゃない。責めるに責められないじゃないか。
「分かるとも、君はいつも二人に気を遣っているからな。それも含めて気が張っているのだろう。ほれ」
まずは指圧で……と考えていたが、改めなければな。しっかりと凝りを解すとしよう。
「あ、あああ~~……き、効くぅ……」
全く、困ったものだ。ここまで硬くなっているなら肘で固さを取った後、指圧で固い部分を満遍なく解してやらなければ……
「……き、君に……こ、こんな特技が……あ、あ~~……あった、なんて」
うむうむ、効いているようで何よりだ。
「あ、ああ……あああ……あああああ~~~~~………………」
……効いているのは何よりだが、あられもない声を出しおって。全く、皆には見せないがこれは相当に疲れを溜めておったな。
「どうしたの、ゴルドルフ君」
「いや、君の体の硬さに驚いていただけだ」
うむ、どうやら此処の部屋、防音設備が整っているようだな。技術顧問は技術顧問だが、あらぬ噂は立てられたくないからな。
「そこは……もう少し、弱く出来るかな」
「分かった分かった。こら、じっとしたまえ」
これは……研究の為に同じ姿勢を維持していたな。そりゃあ筋肉が硬くなる訳だ。全く、サーヴァントと言えど、体に代えはないんだぞ。
「おおぉぉぉぉぉ……ああ、おおぉぉぉぉぉ……」
だが、マッサージは此処からだぞ、技術顧問。トゥールに鍛えられたマッサージ技術が飾りではない事を証明して見せるわぁ!
「あ、あぁぁ~~。ま、まさか、此処まで効くとは思わなかったよ」
途中から君、寝ていたからね。全く、この様子ではまた揉んでやらないとな。
「うん、ありがとう、ゴルドルフ君。頭がすっきりした気がする」
「うむ、休めたようなら何よりだ」
背伸びをしているが……若干の硬さがあるな。微小特異点で時間が取れた時にやってやろう。そうすれば、トンチキな事態が起きた時にムニエルへ押し付けられるよね、よね?
「そう言えば、相談って何かな?」
おおっと、マッサージに本気を出し過ぎてつい忘れておった。
「うむ、朝食の度に現れるあの憎きベーコン泥棒を何とかしたいと思っているのだ」
そこ、どうしてどうでも良さそうな顔をしているのかね。
「うーん、フォウは二人に懐いているからねぇ……私も長い時間接した訳じゃないんだ」
ぐ、こういう時に限って、通信の届かない微小特異点へ出ているのだから困ったものだ。
「それでも何か知っておらんか。これでは明日もまた、あのベーコン泥棒に私の大事なベーコンを奪われてしまう。それでは、彼らへの威厳というものがだな」
「うーん、大した案じゃないけれど……こんなのはどうだろうか」
お、流石は技術顧問。名案を持っておったか。
「本当に大した事じゃないよ」
話を聞いたが……うむ。だが、それが一番確実なのは技術顧問の目から見ても思うのだろう。ならば、それに倣うしかあるまい。
その日以降、フォウくんがベーコンを奪う事は殆ど無くなった。何故ならば……
「これ、お前の分はこっちだ。減塩しているベーコンを食べなさい!」
「フ、フォウ……フォーウ!」
「おい、こら!」
しかし、ゴルドルフ所長とフォウ君のバトルはまだまだ続くのだった。