お題:うどんを食べる武蔵ちゃん
それは武蔵ちゃんの一言から始まった。
「おうどん食べたい」
「この前の特異点では食べなかったの?」
何故かミートタワーまで登り切ることになったが、そういえば武蔵ちゃんの姿を見ていなかった気がする。
「アキハバラね。ラーメンとかお蕎麦はあったんだけど……おうどん屋が中々なくて」
「そうなんだ」
言われてみればそうかもしれない。ラーメン屋や立ち食い蕎麦は多いが、うどんは蕎麦と一緒に提供している程度だろう。
「ここの食事は美味しいし不満なんてないんだけどね……偶には食べたいな~って。けど、紅閻魔ちゃんにはね……言い辛いというか」
「ははははは……」
全く以てその通りである。聖杯うどんのことを考えると、こうしてきちんと反省しているだけいいのかもしれない。
「おや、マスター。どうしたのかね?」
通りがかったエミヤが、俺の様子を見に来たようだ。
「武蔵ちゃんがね、偶にはおうどん食べたいって」
好物が食べられない気持ちは分かる。だって、日本人だもの。
「ふむ……」
何か妙案があるのだろうか。まぁ、エミヤなら幾らでも出てくる気がするが、一人のサーヴァントの為にそこまで力を入れなくても……いや、入れるだろう、彼ならば。
「うどんと言えば地域によって様々な方法で食べられているが……この機会だ、試してみるのも良いか」
「え、本気なの。エミヤ」
まぁ、この人たちが作るなら、外れなんて在り得ないから期待はするけれど……
「何、彼の宮本武蔵からのオーダーだ。少しくらい応えても問題あるまい」
「え、いいの!?」
跳び上がらんばかりに武蔵ちゃんは喜色満面の笑みでエミヤを見る。ただ、そういった視線に慣れているのか、さらりと流した上で……
「折角だ。どうせ作るなら色々やってみようじゃないか」
夏の装いを着た時のような子供っぽい目をしていた。
それが起きたのは三日後のこと。その日は特異点や異聞帯の攻略が無かったため、トレーニングで汗をかいた後にお昼を食べに食堂へ行った時だ。
うどん、うどん、うどん、UDON……皆の食事のありとあらゆる食事がうどんだった。驚くことに、うどんと言えば、きつねうどんやたぬきうどんの定番から、肉うどんやカレーうどん、焼きうどんが浮かぶかと思うが……それにしても。
「……種類が多い、だと?」
一体どれだけの種類のうどんを作ったのだろうか。大部分の利用者がうどんを食べているにも関わらず、あまりレシピが被っていないようにすら見える。よく見れば、洋風のうどんや中華風のうどんなんかもある。最早何でもありか。
ふと、数人が食べているうどんを見ると、更に変わったことに気付く。白いうどんではなく、桃に近い赤のうどんや緑色のうどんを食べているようだ。
「へぇ~、こんな色の麺も作れるのね」
感心しながら食べているのは女性のサーヴァントや職員だ。なるほど、食べやすい量で盛られたうどんに加え、紫蘇の千切りや大根おろしで彩ったそれは春を思わせる一品だ。さっぱりした味も併せて、女性たちに人気なのだろう。あ、珍しいうどんだからか、ゲオルギウスさんが写真に収めている。
「なるほど。この酸味は梅干しか。梅干しは白米に合わせるものだと思っていたが、このような使い道があるのだな」
柳生さんや宝蔵院さんが感心したように呟きながら食べるのを聞いて理解した。あれは恐らく、梅干しを練り込んだ麺なのだろう。他にも緑色、恐らくほうれん草を練り込んだうどんを食べるサーヴァントもいる。
「……見ていたら、お腹減ってきた」
そうして、いつも食事を作ってくれる彼らの元へ近付くと、発端となった人物もいた。
「え~~、こんなに色々作って貰っちゃっていいの?」
信じられないものを目の当たりにしたような武蔵ちゃんの声だ。
「折角の機会だからな。カルデアは食事こそ十分だが、季節を感じる機会が少ないだろう。偶にはこうして工夫を凝らすことも大事なことだ」
エミヤの言うことには同意だ。何しろ、外に出られないも同然なのだ。
「それにしても……エミヤは色々知っているし、本当に器用だよね。今回はうどんでやったけど……もしかして、練り込みとかはパスタやピザでも使えるんじゃないかな」
「その通りだよ。パスタだとバジルやホウレン草などで使われることもある」
「ほうほう」
そう言って、メモを取っているのはブーディカだ。今回の試作も手伝ったのだろう。
「おや、マスターか。今日は試作も兼ねて様々なうどんを作ってみた。色々あるが、どんなうどんを食べたいかな?」
元は武蔵ちゃんの発言から始まったのだ。
「武蔵ちゃんと同じうどんは出来る?」
「どれを食べたいんだ、マスター?」
エミヤの質問が分からず、武蔵ちゃんが持っているお盆を見る。
「なるほど、そういうことか」
麺の太さが全部違う……しかも、麺を味わうために一つ一つの量を少なくしているぞ、この大剣豪……!
「説明しておくと、きしめんにさぬきうどん、それから梅干しを練り込んだ細麺のうどんだ」
エミヤから、麺の説明が入る。とりあえず、色んなうどんを食べたいんだな、武蔵ちゃん。
「いや~、まさかこんなに種類があるとは思いませんでした。折角だから、色々試さないと勿体ないじゃない」
「……と言う訳だ。マスターは何にする。一番人気は梅干しの冷やしうどんだが」
多分、ここでそれを言うってことは残りが少ないからだろう。
「じゃあ、それでお願い」
「了解した。茹で上がるまでの間、席に座って待っていてくれ」
折角だ。出来上がるまでに、武蔵ちゃんの食べっぷりも見ておこう。
「あれ、マスター。一緒に食べる?」
「折角だから、うどんに目が無い武蔵ちゃんの感想を聞いてみたい」
「そっか~。マスターの分が出来上がるまで待ってあげたい所だけど、温うどんだけは先に食べちゃっていい?」
「勿論」
温うどんは伸びると美味しくないからね。
「ごめんね。先に頂くわ、マスター」
さて、そんな武蔵ちゃんが平たい麺をずずっと一口。
「ん~、美味し~。このコシに麺全体の噛み応え、これがきしめんか~。食べたことあると思うけど、ここのうどんはまた違いますなぁ……」
麺を食べる武蔵ちゃんを見ていると、更にお腹が減った気がする。満足そうに何度も頷きながらきしめんの温うどんを食べ終える。一度食べ始めると手が止まらなくなったらしい。こちらの茹で上がりを待つことなく、次は梅干しが練り込まれたうどんに手をつける。
「へぇ~、初めて食べたけどさっぱりしていて美味し~。付け合わせの紫蘇もいい味してる~。うんうん、暑い時にはこれが一番ねぇ~」
まるで、暑い日にビールを飲むサラリーマンの台詞だ。更に腹の虫が鳴った気がする。中太ながらもさっぱりとしているからか、するするっと口に入るようだ。瞬く間に食べ終えて、さぬきうどんを食べ始める。
「ん~~。やっぱうどんと言えばこれよね~。このコシにのどごし……やっぱり、うどんは美味しいなぁ……」
やばい。どれも食べたくなってきた。
「マスター、出来上がったから持ってきたぞ」
丁度そこに、天の遣いがやってきた。
「あ、うどんのお代わり頂戴!」
「了解した。マスターはどうするかね?」
同時に、悪魔の遣いでもあったようだ。
「……お願いします」
「量は少なめにしておくぞ。何、うどんは保存が効く。例え、今日食べることが出来なくとも、別の日に食べたいと思ったら作ることは出来る」
よし、まずは梅干しを練り込んだうどんを堪能しよう。
「ごちそうさま~」
気が付けば空の器が二つ。美味しそうに食べる人を見ると余計にお腹が空くよね。
「マスター君も成長期って所ね~。梅うどんと追加で頼んだ肉うどんもけろっと食べちゃったね」
「目の前で美味しそうに食べる人がいたのと、作る人が上手だからね」
おっと、横から褐色の腕が。
「それは光栄だ、マスター。それはそうと、午後からも予定が入っているとマシュが言っていたと思うが、時間は大丈夫かね?」
そう言えば……マシュはお昼、何を頼んだのだろうか。
「エミヤ。そう言えば、マシュは何を頼んだの」
「ああ、皆の様子を見て、感心したようにこちらを見た後、普段は見られない梅のうどんを頼んでいたよ。まぁ、梅干しの酸味に苦戦していたみたいだが」
確かに、梅干しの酸味は日本人じゃないと中々慣れないよね。
「確かに、うどんは大体白いからね。それより、あんなうどんってあるの?」
「あるとも。梅干しで有名な和歌山県が発祥だったはずだ。発売されたのは平成になってからだがね」
「へぇ~、初めて知った」
おや、うどんに目がない武蔵ちゃんも知らなかったようで、かなり驚いている。
「ふむふむ、そうなのね。私が生きていた時にはそんなおうどん無かったから新鮮だったわ」
あれ、何故か唐突に悪寒が。
「いやー改めて、おうどん美味しかったわ。そう言えば貴方、アーチャーだけど二刀流の剣士でもあるって聞いたんだけど……」
「確かに私はアーチャーだが、時と場合によって剣を使うこともある」
「へー、そうなのねー」
あ、ヤバイ。鯉口を切ろうとしていない、武蔵ちゃん。
「何 を し よ う と 言 う の か ね」
「何 を し で か す つ も り で ち か」
エミヤは兎も角、閻魔ちゃんは何時の間に……あ、気配遮断か。武蔵ちゃんも観念したのか、両手を挙げた。
「ご、ごめんなさ~い。この通りです」
「どうちますか。エミヤ様」
「とりあえず、一週間は皿洗いだな」
流石、食堂の主。あらゆる英霊にはそれなりに敬意を持っているらしいけど、自分の領分を乱そうとする者には容赦がない。
「助~け~て~、マ~ス~タ~」
「聖杯うどん」
あれと似た事態を引き起こす訳にもいかない。
「うっ」
「それに、このうどんパーティをやる為に色々準備してくれたんだから、それ位やってあげたら?」
それを聞くと、決心がついたらしい。
「それを聞いては仕方ありません。この武蔵、皿洗いの手伝いをさせて頂きます」
「割らないように気を付けるでちよ」
こうして、うどんパーティが幕を下ろしたのだが、今回の企画が武蔵ちゃんの一言だったのが何処かでバレたらしい。特定の好物を持つ英霊たちが次は別の食材を使って色々作って欲しいと言う要望が上がったとか。
感想にリクエストを頂いたのですが、ちょっとすみません。
リクエスト内容を基に検討してみたのですが、具体的な情景・構想が浮かばなくて書けなかったです。申し訳ない。
リクエストは受け付けているのですが、私がその情景を浮かべることが出来ないと書けないので、その辺りについてご了承ください。