マスター……ではなく、カルデアを対象とした24時
イベントへ向かったマスターをサポートするカルデア一行
割と前に作ってはいたんだけど、何となく挙げられなかったもの。
「……はい、主の命であれば」
「じゃあ、お願い出来るかな。後で聞きに行くからさ」
「ハッ」
流石は忍者。一瞬で姿を見せたかと思いきや、一瞬で姿を消す。
「とりあえず、微小特異点の解決に行こうか。同行するメンバーは……」
さて、自分がカルデアにいない間、皆はどう過ごしているんだろうか。
日差しの差さないカルデアでは、時間を意識しなければ簡単に生活のリズムが崩れてしまう。サーヴァントであれば、日中だろうと夜中であろうと活動に支障はないだろう。しかし、生きている者達はそうではない。
──カルデアのある一角、とある倉庫から緩慢な動作で起きる中年の男がいた。
「今日も寝心地が悪かった。早く私専用の部屋を作って欲しいものだが……」
ふと、夢に出てきたホムンクルス達を思い出す。そう言えば、彼らの寿命が来る前にハワイへ連れて行ったものの、私の中のサイレンが鳴り響いた為、急いで脱出したのは何時の話だったか。あの時は悪い事をしてしまった。だが、結果的に危機を避けられたはずなので、ノーカウントにして欲しい。何しろ、私は一文無しなのだから。
「……さて」
ここ最近は、異聞帯の攻略以外にもあまりに理解出来ない出来事があり過ぎて、頭がパンクしかかったことが何度あっただろうか。姉にしろ、あの藤丸が怯えるチェイテピラミッド姫路城にしろ……というかあれ、本当に何なのかね。本当に何なのかね。
「知らない方がいい事もある、か」
そもそも、他の面子に聞いてもまともな回答が帰って来ない以上、碌でもない代物なのだろう。確か……技術顧問は今日もマシュと一緒に、微小特異点へレイシフトした藤丸のサポートをしているはずだ。私も上司として見ておくべきだが、これに関しては彼らの方が上手だ。ならば、基本は彼らに任せておくのが一番だろう。
「そうなると彼らは……」
折角だ。彼らの日頃の労いも兼ねてケーキでも作ってやろう。何だかんだ言って技術顧問も無理をするし、マシュも藤丸に何かがあると血相を変えるから、多少の息抜きは大事であろう。うむ、他に取り急ぎ確認する資料も無さそうだし、作りに行くとしよう。
「それにしても、毎度の如く微小特異点が発生するとは。これも人理漂白の影響だろうか」
私に出来ることは無いので、アフタヌーンティーとケーキを楽しむだけだが。
……幾らリソースとなる聖杯が取れるチャンスだからとは言え、些か頻度が多すぎるのではないかね。
──料理はいい。
調理中は余計なことを考えることもないし、美味しいと思える料理を食べた時は心の底から幸せになれる。だから、料理にしろ、菓子にしろ、それらを作っている間は余計な──例えば、シミュレーション室で模擬戦闘を始めたサーヴァント達が、シミュレーション室以外でも戦闘を始めようとしたことや、ムニエルが成人向けのゲームを片付け忘れたのか、子供サーヴァントに見つかったことなど──そんな身に余る面倒事を忘れられるし、出来上がった料理を食べ終わるまでは、そんな些細な悩みなど吹き飛んでいるからだ。そこに笑顔で食べる者がいれば一層というものだ。
「よし、これでいいだろう」
さて、確か今回の特異点は博物館に収容された聖杯の回収が目的だったな。うむ、異聞帯攻略時のような荒事が少ないのは何よりだが、その分理解できないことが起きるから用心せねばなるまい。食堂に置かれた時計は、短針が二を回っていた。
キッチンを出た後、作ったケーキとティーポットを台に乗せて、二人の元へ足を運ぶ。
「あ、ゴルドルフ新所長。お疲れ様です」
「やぁ、ゴルドルフくん。よく来たね。大方、立香君の確認かい?」
「うむ。首尾は順調かね?」
そうして、モニターに映る映像を見て目を疑った。……何で、天草四郎時貞が怪盗風の衣装を着ているのかね?
「……考えても仕方ない、か」
彼女らには、その独り言は流されてしまったが。
「それはバッチリさ、普段はあまりやらない広告宣伝、コラム作業にやる気を出したサーヴァント達が居るからね」
確かに普段ならば敵対戦力に対して最適な人材を用意するところだが……ああ、だからか。
「通りでシェイクスピアや何故かライオン頭のエジソンが張り切っていた訳だ。うむ、問題ないなら構わない。それより疲れていないか。幾ら君たちが優秀でも、休憩は必要だろう」
「そうだね。モニターさえ維持できていれば少しは休んでもいいかもしれないね。マシュ、休んでいいからね」
「それを言うならダ・ヴィンチちゃんだって休んだ方がいいですよ。レイシフトも安定していますし、あまり休まれていないのでは?」
全く、二人共無意識に無理をしようとするからな。ここは私が言ってやらないとダメか。
「あー、こほん。いいかね」
「あれ、それは何ですか」
マシュ君、今気付くの。折角、言おうとしたのに。
「おー、もしかして私達のために作ってくれたのかな?」
「うむ、日頃から異聞帯だけではなく、微小特異点でも頑張っているからな。キッチンの者から材料を借りて私が作ったものだ、感謝して食べなさいよ」
料理に関しては何やら生意気な赤い弓兵がいるが、幾ら英霊と言えど現代の調理技術を舐めて貰っては困るのだよ。
「ありがとうございます。ゴルドルフ新所長」
「いやー、ゴルドルフ君の作ったケーキか。こりゃあ楽しみだ」
うむ、何だかんだ言って、二人共年若い少女なのだから、偶に食べても罰は当たらないだろう。
「それじゃあ、切り分けるから待ちたまえ」
さて、あまり私の分を多くし過ぎると、技術顧問に文句を言われるからな。気をつけて切らないと……今、誰かそこに居なかったかね。いや、気のせいか。まずはケーキを食べるとしよう。
カルデアへ帰還した藤丸が、バイタルチェックを終えた後にマイルームへと戻る。そして、他に誰も居ないかを確認した後、手を合わせて音を鳴らす。
「お呼びですか、主殿」
音もなく、赤髪の忍が姿を見せる。
「うん、お願いしたこと、どうだったかな」
「今からお話致しましょうか」
「うん、寝る前に聞いておきたいな。皆がどうしているのか、やっぱり気になるから」
「承知致しました。まずは今朝の話からですが……」
そうして赤髪の忍、風魔小太郎は、ゴルドルフ・ムジークを含めた職員達の行動について、簡潔に説明する。
「……以上が、皆様の行動でした」
「ありがとう、小太郎」
「いえ、この程度のことなど私達にかかれば造作もありませんよ。そう言えば、どうしてこのようなことをお願いしたのでしょうか」
小太郎の問いに、彼は照れ臭そうに頭を掻く。
「いやさ、普段は特異点の攻略ばかりだから、マシュとかダ・ヴィンチちゃんとか、皆はどうしているのかな、って思ってさ」
「なるほど、主らしい心遣いです。そういえば、話に出てきたケーキの件ですが」
「うん?」
どうやら、話の続きがあるらしい。しかも、新所長作のケーキ、思わず聞き耳を立てるしかない。
「結局、ケーキを振る舞ったことが他の職員にもバレてしまったのですが、これは私の分だと言い張ってゴルドルフ所長はケーキを渡さなかったようです」
ムニエル達職員が詰め寄る様子が思い浮かんだのか、うんうんと頷く素振りを彼が見せる。
「どうなるかと思いましたが、エミヤ殿やブーディカ殿へ事前に話をしていたのでしょう、職員達のケーキは彼らが既に作っていたようです」
つまり、自分だけケーキ無しってことなのか……酷くない?
「そしてこれは余談なのですが……ゴルドルフ殿が作ったケーキの残りが食堂の冷蔵庫に置いてあるとか」
つまり新所長のケーキを食べるチャンスはある、ということか!
「……の、残っているなら食べられるかな」
「あまりお勧めは出来ませんが、食堂に行きますか?」
でも、気がかりがある。こんな時間に甘味を取ろうとすると……
「だよね。水なら兎も角、甘味目的でエミヤにバレるとお叱りがなぁ……」
エミヤお母さんから一本取る(つまみ食い)のは並みの英霊でも難しいと聞いた。そして、その後に畳み掛けるような説教が待っていることも。
「どうする、恐らく明日の朝には無くなっているだろうゴッフケーキだ。ならば、今から食堂に行って確保だけでも……!」
「お待ち下さい、主殿」
思わず、心の声が出ていたようだ。
「小太郎、止めないで。今のオーダーは、明日には無くなるだろうゴッフのケーキを食べること……!」
この想い(食欲)は、決して間違っていない。間違っていないんだ!
「その件ですが、ブーディカ殿がゴルドルフ殿に内緒でこっそりとマスターの分を取り分けていましたし、エミヤ殿とブーディカ殿が作ったケーキもマスター用に確保している、と聞いています」
……これは聞き捨てならない。
「……ホント?」
「ええ」
「……ホントにホント?」
「はい。エミヤ殿とブーディカ殿から明日の昼にでも用意する、と言っていましたよ」
オーケー。それなら素直に言う事を聞こう。
「分かった、寝る」
翌日の昼、昼食を食べ終えたマスターの下に新所長作のケーキが届き、満足な笑みを浮かべて完食したとか。