だけど、あいつ。ボコられるとしても笑いながらボコられるか、ボコられる前に逃げてしまうイメージしか無いんだよなぁ……
昼のミーティングが終わり、遅めの昼食を取っていた時のこと。定食を食べ終わったタイミングを図って、セイバーのアルトリアから声を掛けられる。
「マスター、少し宜しいでしょうか?」
「……アルトリア、何かあった?」
マシュが円卓の騎士について話を聞きたいと言っていた時に、勉強も兼ねて同席したことがあったけど……ここまでイライラしたセイバーのアルトリアは初めて見る。
「少し、シミュレーション室を借りたいと思いまして……」
済まなそうに頭を下げているけど……一体、何が目的なんだろう。
「いい機会なので、マーリンに灸を据えたいと思いまして」
「……うん、何があったの?」
「……他の方には言わないでくれますか?」
聞けば、何となく理解できる話だった。楽しみにしていたおやつを誰かに横取りされた時はイライラするのも仕方ない。それも、美味しそうに食べている感情も好きだけど、偶にはしょんぼりした感情も食べてみたい……などという愉快犯よろしくな行動をされたら、腹が立つというもの。
「……でもさ、マーリンのことだから気が付くよね」
「その点についても十分に理解しています。なので、一計を案じて欲しいのです。そもそも、このような我儘など許されないと分かっているのですが……」
「まぁ、考えてみる。丁度、不足していた素材もあるから、その時にマーリンを連れて行けば……」
普段から、あまり強い要望を出さないセイバーのアルトリアからのお願いだ。
「ありがとうございます」
深々とお礼をするアルトリア……まさか、これがあんなことになるとは思わなかったけど。
翌日、アルトリアの宝具威力を確かめたいからとマーリンを引っ張ってきて、無事にクエストを終えたまではいい。さり気なく退出しようとした時にそれは起きた。何となく嫌な予感がしたマーリンの腕を掴むアルトリア。そして、そこに入ってくるアルトリアと同じ顔をした……
「何故、周回に私を呼ばない。我が夫」
「えっと……ですね。今日の周回は終わったので、そろそろこの部屋を出ようと思っているんですけど……」
何故か俺ではなく、部屋の中を見ているような気がする。
「まだ使われているのに、か。丁度いい、私もこの奥に用事があるのだ。マスターもついてくるがいい」
いや、あの奥にはアルトリアとマーリンがいるから……というか、アルトリアとモルガンを接触させては不味いんじゃ……そんな声を掛ける暇も無く、誰かに引っ張られて強制的に退出させられた。
「……一体、何が?」
不味い、シミュレーター室が不味いことになるのでは……?
「ご無事ですか。マスター?」
この声は……ランスロット?
「う、うん。大丈夫だけど、なにか……な゛?」
一緒に来ていたガウェインから、シミュレーター室の中が分かる端末を渡されて……思わず呻き声が出た。
「……怪獣大戦争、かな?」
白と黒の聖剣の輝きがクロスするように、白髪の魔術士に襲い掛かっている。あー……そう言えば、全体宝具だからアルトリアオルタの方も連れてきていたんだった……出てきていないと思ったら、混じっていたのか……そうかー、マーリン死なないよね?
「アルトリア、私が一体何をしたと言うんだい!?」
この安心すら覚える胡散臭い声は黒の聖剣を剣で、白の聖剣を杖で受け止めている。アルトリアの師匠を謳い、魔術よりも剣が得意と言う魔術士だけど……何で捌けるんだろう。
「死ね!」
おまけに、乱入してきたモルガンも加わって、リンチのようなマーリン退治が始まった。ただ、厄介、かつ幸いなことに、モルガンはアルトリア達と致命的に息が合わないらしい。あ、モルガンの魔術がアルトリア達を巻き添えにしようとして……その隙にマーリンが逃げた。
「姉上、もう少し範囲を抑えられないのですか!」
「マーリンはその程度で殺せないだろう!」
おや、誰かが歩いてくるような……気の所為かな?
「ですが、その威力では私達も避けざるを得ません。マーリンはその隙を突いて攻撃を避けるのです!」
「ならば、諸共死ね!」
これは酷い。どうして、こんな大惨事になったんだろう……
「先輩、先輩、聞こえますか!」
「マシュ!」
端末越しに、マシュの声が!
「モルガンが来た理由……マシュは何か聞いている?」
「ご、ごめんなさい。私もそこまでは……」
端末越しのマシュも分からないらしい。だけど、端末越しからマシュ以外の声が入る。
「それは私から説明しよう」
おや、この声はブーディカさん。
「あ、ブーディカさん、こんにちは」
「一体、何があったんですか?」
あまり聞きたくないけど、聞いておかないと。
「あれは、私とエミヤ、キャットがいつも通り食堂にいた時の話なんだ」
「前にアルトリアが言っていたんだけど……マーリンって食事は取らないけど、人が何かをする際に生まれる感情が好物なんだよね?」
確か、似たようなことをバビロニアでも言っていた記憶がある。
「だから、姿を消して食堂にいることも多いんだって。聞くまでは、全く気付かなかったけど。だから、かな。あれが起こったのは」
「ブーディカさん、目が遠くなっています」
マシュのツッコミが耳に入る。あれ、何かランスロットも目が遠くなっていない?
「……元はモルガン妃だったのかな。バーヴァンシーにご飯を食べさせたい、って言ったんだ」
「「あ゛……」」
唐突にフラッシュバックする忌まわしい記憶。即死を放つ作られるべきではなかったチョコ……アルトリア・キャスターとモルガンが同じ楽園の妖精だと言うのなら……そういうことも似る可能性は十分に考えられる。そして、マシュの考えていることは同じのようだ。
「マスターとマシュも落ちが読めたみたいね。それで、私もエミヤも手伝っていたんだけど……」
「もしかしてあの時みたいに……ある食材を魔術でまとめて投入した、のでしょうか?」
「そう、当たり」
やっぱり……か。
「いやー、私達も急に減ったから何でだろう~、って思っていたんだけどさ」
「ほら、娘にご飯を作りたい、って気持ちはさ。痛いほど分かるんだ。だけど……ね?」
「そうしたらマーリンがさ。魔術なのか分からないけど……それを消しちゃってさ」
ああ、モルガンが怒った理由は分かった。そして、マーリンが善意でそれをしたことも理解した。だけど、何でそれにアルトリアオルタが混じっているんだろう。モルガン、アルトリアは嫌いだよね。というか、まだ持っているんだ、マーリン。二人の剣戟を捌きながら、モルガンの魔術は最低限の守りと幻術を使って避けている。もう、お前一人でいいんじゃない?
「……ところで、何でアルトリアオルタが混じっているの?」
「あっちはあっちで積年の恨みというか……何と言うか」
呆れたように、疲れたようにブーディカがため息をつく。
「この前さ、パーシヴァルが来たじゃない?」
うん、頑張って召喚したからね。
「マーリンがさ、食堂にいたパーシヴァルに要らんこと言ったらしくて……」
「よし。その辺りの話は私からさせて貰おう」
おや、キッチンで聞き慣れた男性サーヴァントと言えば……
「あ、エミヤ。食料……どうしようか?」
「幸い、地下に備えている備蓄庫に十分な食料がある。それから、あの時に冷蔵庫へ入れていたのは完成品ばかりだった。それが幸いしたのだろう、モルガン妃もそれには手をつけていなかったから、被害はさほど大きくない。あの分なら俵藤太殿に言わずとも支障のない範囲だ。まぁ、それはそれとして、だ……」
きっと、エミヤも遠い目をしているのだろう。端末越し、かつ画面に映っていなくても想像が付く。それにしても、どうして食堂では他のサーヴァント達が問題を起こすのだろう、無意識に。
「パーシヴァルがアルトリア達に背丈を伸ばさないと、と言って肉と根菜を振る舞おうとしたんだ。それを止めたまでは良かったんだが……」
何だ、今度は何があったんだ。
「その時にマーリンがな……年頃の少女に不相応な量の食事は相応しくないだろう、と助言をしたらしい。パーシヴァル殿はパーシヴァル殿で、騎士たる者として食事を取らねば体を作る事は出来ません、と言って退かなかったんだが……その時に言った言葉がな」
その続きを、ブーディカが口にする。
「アルトリアはアルトリアでとっても頑固者だからねぇ。君が用意すれば食べてくれるとは思うけど……ここには食堂があるんだ。どうせなら、色とりどりの料理を用意出来る者に任せてはどうだろうか、と」
「別に悪いことではないような……」
マシュもそう思うよね。パーシヴァルも生きていた時の感覚で言っているだけだし、無理強いをさせるような人でもないし……
「ただね、続けてこう言ったんだ。何、アルトリアはいるだけで戦場を制圧できる。カルデアの食事事情という戦場をね、と」
「…………」
うん、雲行きが怪しくなってきた。
「そこにアルトリアオルタが来ちゃってねぇ。余計に問題が拗れちゃったの」
「……具体的には?」
きっと碌でもないんだろうな……それでも、マーリンはアルトリアオルタをなるべく避けるようにしていた記憶があるけれど。
「おっと……それよりも、ジャンクばかり好むアルトリアがやってきたぞう。食生活を改善しなければならない程の、暴食の限りを尽くす王様が。パーシヴァルも、そちらの王様よりも、猛獣のようなこっちの王の食生活を改善させてくれないかなぁ。私からの助言はここまでだ。それじゃ、私は失礼するよ……と、言って姿を消したんだ」
「……マーリンシスベキフォーウ」
おっと、何時かフォウ君が言っていた言葉が蘇る。いや、どうしてそうなった。
「ああ、あの時のことですね……」
そうして、深いため息をついたのはランスロット、どうやらその場にいたらしい。
「ああ、だから私を呼んだのですか、ランスロット卿」
何故アルトリアとモルガンが協力とは言えないものの、同じターゲットを狙っているかがようやく理解できたガウェインが頷く。
「突然、理由も言わずに呼び出して済まなかった。ガウェイン卿」
多分、他の円卓の騎士はランスロット的に呼び辛かったんだろうな。
「いえ、それにしても私の知らない所でそのような騒ぎがあったとは……」
あれ、誰かがこっちに近付いてきて来ているような……あ、ちょっと危ないよ!
「今、この部屋に入ったら危ないよ!」
って、その姿を……
「大丈夫です。私もモルガンと同じく、マーリンに用事があったので」
おや、全く同じ声でモルガンと似たような装いということは……
「あれが異聞帯の我らが王……」
二人が物珍し気に見ている内に、キャストリアが部屋に入ってしまった。
「……不可抗力ですが、力を貸しましょう。モルガン」
「お前……」
でも、セイバーのアルトリア達は気付いていないので、先ほどと変わらずにマーリンへ白と黒の聖剣を振るっている。あ、そう言えばアルトリア・アヴァロンは数多いるアルトリアから見えないんだっけ?
「この時のために、死なない者を処する魔術を編んだのです。ここで使わずに何時使うというのでしょう……楽しみにしていたチョコレートの罪、ここで贖うといい」
あ、アルトリア・キャスターが普段通りの表情で、見たことない魔術を放って……シミュレータ室で良かったと同時に、恐ろしい。
「…………」
あ、あまりの光景にランスロットとガウェインも閉口している。あれ、マーリン大丈夫??
「全く……乱暴だな、君たちは!」
生きているよ。何か焦げている気がするけれど、ぴんぴんしているよ、この夢魔。
「ねぇ、ランスロット」
「どうしました、マスター?」
「マーリンってさ、武芸百般でも持っていたかな?」
うん、どうしてあれを捌き続けられるの??
「ない筈ですが……疑いたくなる気持ちは分かります。しかし、流石はマーリンと言うべきか。あそこまで魔術と剣を巧みに使い続けられる魔術師は、早々いないかと」
ズゴーーーーン!!
端末から物凄い音が……まさか、宝具使ったの!?
「全く……乱暴だな、君たちは!」
本気で怒ったアルトリア達はここまで怖いのか。というか、マーリンはなんでまだ無事なの?
「それにしてもこれは……酷い、ですね」
マシュの声を聞いて、改めてシミュレータ室の様子を見る。
「うわぁ……」
「……これは」
「…………」
これは、酷い。シミュレーション室で構築されていた風景が更地になっている。中心部のクレーターは恐らくモルガンだろう。そして、クロスするように地面に刻まれた剣線はアルトリア達の宝具かな。あ、上空から白い光が……これは、アルトリア・キャスターの魔術だろうね。でも、夢魔を殺す魔術だと言うなら、喰らったら不味いんじゃ……
「退散退散……後は任せるよ」
今、何か聞こえたような……
「あ、あーーーーーーー!!!」
マシュ、今度は何が……って、いつの間にセイバーオルタとモルガンで戦闘が!
「何故だ。アルトリア。何故、その宝具の名前に私の名前を付けた!」
「後からのこのこと現れた姉上に話す道理などあるまい!」
「貴様!」
…………壊れないよね、シミュレーション室。
「……マスター、マーリンを見なかったですか!?」
「へ?」
唐突にシミュレータ室から声を掛けられたので、反応が遅れてしまったけど……少し目を離した隙に、マーリンを見失ったアルトリア・アヴァロンと青いアルトリアが憤慨していた。
「まさか……幻術で逃げた?」
この後、アルトリアとアルトリア・アヴァロンが個別でマーリンを追いかけたみたいだけど……エミヤがデザートの差し入れに行っていた辺り、何も起きなかったことから捕まえることが出来なかったんだろう。
さて、シミュレータ室の様子を見たけど、アルトリアオルタとモルガンの戦闘が続いている。うん、どうしようか。
「……この後、どうしよう」
ここまで来たら、自分で止められるかが分からない。困ったなぁ……あれ、ランスロット卿が、覚悟を決めた表情でアロンダイトを取り出したぞ。同じように、ガウェインも柄ティーンを取り出したぞ。
「ガウェイン卿、協力を頼めるか」
円卓最強……今度、マシュとのお茶会に呼ぶね。
「そうですね、ランスロット卿。マスター、ここは我らにお任せを」
太陽の騎士……今度、じゃがバターを一緒に食べよう。
「二人共……お願い出来る?」
「「お任せください」」
おや、こんな危険地帯に誰が……
「ランスロット卿にガウェイン卿……一人でも手が多い方がいいだろう。私も協力しよう。何、夕食の仕込みは終わっているし、食堂もブーディカやタマモキャットがいれば回るだろう」
諦めたように声を掛けるエミヤ……ごめん、迷惑を掛けて。
「何、いつものことだ」
「うんうん。マスターは自分の時間を大事にしないとね。夕食の遅れは無いから安心してね」
……端末越しからありがとう、ブーディカさん。
数日経った後、その後の経過をエミヤとブーディカに聞いてみた。
モルガンについてはブーディカとエミヤ、キャットが付きっきりでお菓子作りを手伝ったらしい。そして、そのお菓子とエミヤが淹れた紅茶で、バーヴァンシーとお茶会をしたのだとか。
アルトリア・キャスターやセイバーのアルトリアにはチョコレートを使ったデザートを作り、セイバーオルタにはジャンクな料理を振る舞ったのかと思ったけど……そこはエミヤ、細かい所に手を入れていたらしく、ケチを付けている所をムニエル達が何度も目にしたらしい。
「はぁ……」
ようやく頭の片隅に置いていた問題が全て片付いたので、マイルームのベッドに寝っ転がる。そうした時にふと思い出したのが……モルガンのマーリンに対する言葉だった。
「マーリンとは悪夢そのもの。何度殺そうと、何かの弾みでひょこっと現れては、最悪の思い出を更新していく。なので……奴は閉じ込めるに限る」
「うーん、頼りにはなるんだけどなぁ……」
きっと今日も、マーリンは食堂で俺達の様子を眺めている(食事をしている)のだろう。
それが悪いとは思わないけど、問題は起こして欲しくないなぁ……