数多の戦力を保有することは重要だ。故に、軍事調達は欠かさない……と言う名目で、マスターは今日も虹色の石を溶かしていた。
「マスター、もうそれ以上は……!」
マシュの静止が耳に届く。だけど、これは退けない戦いなんだ。
そうして、なけなしの石を召喚陣に送り込む。
「どうだ」
直後、奇跡が起きた。召喚陣から虹色の光が灯されたのだ。これが正真正銘のラストチャンス!
「……来い、来い、来い!」
そうして召喚陣から現れたのは……
「私を召喚したのですね……バーサーカー、モルガン。妖精國ブリテンの女王にして、汎人類史を呪い続けるもの。それで問題がないのなら、サーヴァントとして力を貸しましょう」
妖精国の女王:モルガンだった。
モルガンを召喚して一週間モルガンはバーサーカーだけどNP獲得のスキルも使えて、クリティカルや全体宝具といった攻撃面でも期待できるサーヴァントだ。指揮する側としても使い易いため、召喚に成功してからは様々なシミュレータ室で出来るクエストに連れて行き、その能力の高さを再認識していた。そうしてモルガンのことなんかも色々と聞いていたんだけど……事件が起きた。
「以前から不思議に思っていたのですが……何故、私以外のバーサーカークラスが要るのです?」
「え」
「全員解雇しなさい、必要ありません」
マイルームで二人しかいない状態だったら、まだ何とかなったんだ。だけど、さ。
「ま・さ・か・聞き入れるつもりなんて、ないですよねぇ……ますたぁ?」
「っうわぁぁぁぁぁっっ!!」
……本気で、本気で驚いた。気配遮断スキル持っていたっけ、清姫!??
「誰かと思えば、龍になれると思い上がった小娘ですか」
え、何か違うバトルが始まりそうなんですけど。
「ちょ、ちょっとモルガンも煽らない!」
「マスターが言うのであれば」
こっちの言う事は聞くけど、他の人やサーヴァントの言うことはほとんど聞かないからな……例外があるなら、食材を取り扱う際のキッチンにいることが多いサーヴァントやマシュくらい、か。
「ま・す・た・ぁ……ところで、さっきの世迷言はどういう事でしょうか?」
眼が怖いです、清姫さん。
「ただ、事実を言ったまでですが……何か?」
そしてモルガンは喧嘩を買わないで。
「貴女には聞いていません、シャーッ!」
清姫が蛇のような威嚇をしている……でも、爬虫類より昆虫の方が効くと思うよ。
「貴女も知っての通り、此度の現界によるバーサーカークラスとは、基本的に攻撃が有利なクラスです……反面、どのクラスよりも撃たれ弱いという欠点があります。それを踏まえた場合、バーサーカークラスは強力なサーヴァントである私がいれば事足りるのでは、という結論に至ったまでです」
これはモルガンなりの分析なんだろうけど、戦闘面だけで言えば間違っていないから困る。
「それは他のクラスのサーヴァントにも言えるでしょう。それに、色んな状況に対応出来るサーヴァントがいた方がいいとますたぁも仰っていましたわ」
「……そうなのですか、マスター」
「うん、そこは清姫の言う通り。微小特異点とか色んな有事を考えると、ね」
だけど、その時の状況で必要な戦力や適合出来るサーヴァントは変わってくる。だから、より多くのサーヴァントがいた方がいい。魔力が持てて、カルデアを荒らさなければ。
それに、長い付き合いのあるサーヴァントがいると助かることもあるんだけど……やっぱり、モルガンにも狂化スキルの影響があってその辺りの意思疎通が難しいのかな?
「ですが、それは戦闘だけのこと。普段の生活や食事事情などではまた違う話でしょう」
お、清姫が言い返している。え、仲裁に入らないのかって。導火線に火が付いた爆弾に突っ込んでも砕け散るだけだよ。せめて、爆発が終わった後にしないと。
「普段から食堂にいるサーヴァントはエミヤというアーチャー、ブーディカと呼ばれるライダー、よく分からないですが料理が出来るタマモキャットと認識しています。タマモキャットはバーサーカーですが……料理の腕は認めましょう。戦闘にさえ出さなければ良しとします」
「どうしてキャットさんだけ別なんです!?」
そりゃあ聞くよね。同じバーサーカーなのにキャットだけ除外されたんだから。
「意思の疎通こそ不要だが、奴は自分の領分を理解しているからだ」
……もしかして人間じゃないから、バーヴァンシーにとって付き合い易いサーヴァントに成り得るかもしれない、とか。うん、有り得そうだ。
「確かにキャットさんは料理上手ですのでその点は言うまでもありませんが……そもそも、安珍様のことを勝手に夫(妻)と呼ばないでくれませんか?」
あ。
「そちらこそ何を言っている。私を召喚したのです、マスターが夫(妻)であることは明白でしょう」
そして、お互いに間違っていないことを間違った形で言っているので、会話になっていない……
「私だって、ちゃんと段階を踏んでですね……」
「そもそも、安珍とやらをマスターと混合すること自体が無理のある話だ」
……そろそろ止めないと、ヤバイ。
「ちょ、ちょっと二人共その辺で……」
「何でしょう、マスター。今は大事な話をしているのですが」
「そうですよ、ますたぁ。強い絆で結ばれたこの私を解雇させようと宣うこの女郎を放置してよい、と?」
……清姫の怨念がましい眼と冷めきったモルガンの眼が怖い。どちらかと言うと清姫の視線が怖い。だけど、ここで逃げてはいけない。
「俺は色んなサーヴァントの力を借りてここにいます。だから、必要に駆られない限り、他のサーヴァント同様に解雇は考えていません」
「……なるほど、マスターがそう言うのであれば」
モルガンはこちらの意見をきちんと聞くのは有難い。サーヴァントによってはそれで済まない場合もあるからなぁ。
「それに、どうしても人手が必要な時もあるので、そう言った時にも他のサーヴァント達が居るお陰で助かっていることも多いんです」
実際、沢山のサーヴァントがいなかったら解決出来なかった微小特異点も数多くあった。
「確かに、それであれば必要ですね。具体的にはどのようなことがあったのですか?」
「少し前は日本の都市に出来た微小特異点で買い物を……その少し前はサーヴァントユニヴァースのペンテシレイアと協力して配達の手伝いなんかを……」
ああ、流石のモルガンも訳の分からない顔をしているな。うん、普通はそうだよね。
「マスター……まず、微小特異点は兎も角、サーヴァントユニヴァースとは何でしょうか?」
「ああ、うん……それはね……」
さて、何処から説明しようか……それにしても、さっきから清姫が静かなのが不気味だ。
「……これもわたくしと、ますたぁの愛ゆえ、ですね。あとはそうですね……指輪……結納……ウェディングドレス……ふふ……うふふっ、うふふふ、ふふっ」
これじゃあ、サーヴァントユニヴァースの説明どころじゃないよ。まぁ、説明できるものでもないけどさ!
「そこの小娘は何を言っている。只でさえトトロットに避けられているにも関わらず、婚姻衣装などとよく言えたものだ」
トトロットってハベトロットのことだよね。花嫁の手助けをする妖精から避けられているってことだから……あ、終わった……これ。
「…………」
ウィーン、ってマイルームの扉が開いた気がするけど……こんな状況だもの、皆が逃げるよね。……ところで、マイルームって何だっけ?
「……そこの方、いま何と申し上げましたか?」
……マイルームじゃなくて、火薬庫の間違いだよね?
「トトロットが避けるような奴に花嫁衣装が似合うものか、と言ったのだ。トトロットが推していたマシュなら別だろうが」
そう言えばそんな話があったし、ハベトロットからもそんな被害報告あったね……それはそうとして、火にガソリンを注いだんだけど……分かっています?
「……燃やします」
「戦闘は、シミュレータ室でやって下さい!!」
モルガンもその釜は何ですか!?
「ますたぁ……ますたぁは私のウェディングドレスが見たくは無いのですか!?」
清姫が暴走状態に入った。マシュ、助けて―!!
「お二方、そこまでです!!」
「え、マシュ!?」
いつもの盾が俺の眼の前に現れる。
「はい、先輩の正式サーヴァントのマシュ・キリエライトです!!」
あれ、顔が赤い。もしかして、さっきモルガンが言っていたことが耳に入っていた……?
「どうする、マスター。私としては我が友人のストーカーをここで退治してもいいのだが」
だから、いつも以上にやる気なんですね。勘弁してください。
「お二方、戦闘ならシミュレータ室でやって下さい。そもそも、ここは先輩のマイルームです!」
ふと何でマシュがこっちに来たかを考えていたけど……そうだ、次のミーティングがあるんだった。
「そう言う訳で、ここで戦闘は止めてください。それから、そろそろミーティングがあるので一旦ここで去りますけど、ここで戦闘だけは止めてくださいお願いします」
最悪、ゴルドルフ新所長の所へ逃げ込むか……!
「それもそうか。では龍の成りそこない、シミュレータ室に来るがいい」
「望むところです。私のお嫁さん力53万の力を見せてあげましょう」
うん、、清姫は清姫で何を何処で覚えたのかな。……とりあえず、シミュレータ室に行くみたいだからマイルームは無事が確保された、よね?
「た、助かった……マシュ」
「先輩、大丈夫でしたか」
普段の戦闘以上に、冷や汗がどっと流れた気がする。
「久し振りに生きた心地がしなかった」
思わず、尻餅もついた。
「どうしますか。ダ・ヴィンチちゃんに伝えて、休みにしてもいいですよ」
「いや、出るよ。こうしてマシュも迎えに来てくれたし……何より今はマイルームにいるのが怖い」
「ご、ご愁傷さまです」
ミーティングが終わった後、マシュと一緒に食堂へ行こうとしてシミュレータ室を通りがかった時、あるシミュレータ室に二人のサーヴァントがいたことにが気が付き……知らない振りをすることにした。
二日後、確認することがあったのでとあるサーヴァントを呼び出すことにした。そのサーヴァントは快く応じてくれたのだが……マイルームへ着いた途端、どっと疲れた顔をこちらに見せた。
「ど、どうしたのハベトロット?」
明らかにやつれている。いや、サーヴァントだから食事等でやつれることはないはずだなんだけど……
「……マスターがマイルームへ入ることを禁止したサーヴァントがいるじゃんか」
ああ、マイルームで暴れようとした清姫とモルガンについて、ゴルドルフ新所長から1週間とはいえ立ち入り禁止にされたんだったね。生まれたての小鹿のように足を震わせていたから説得力があまり無かったぞ、と後でモルガンに言われていたけど。
「そうしたらさ……清姫のストーキングが激しくなった、というか」
「……ごめんね」
気が付けば謝っていた。うん、あれは怖いからね。
「いいんだ、マスター。まぁ、正直言うと、ちょっと疲れていてね……まぁ、ここなら逆に心配ないんだけど」
「それはそれでどうかと思うけど……」
四六時中、何かを求めるように視線を向けられ続けるのは辛いよね、うん。
「まぁ、それはいいや。で、確認したいことって何かな?」
「うん、今まさに言っていたことなんだよね。モルガンと清姫と関わりがあるサーヴァントって少ないから」
強いて言えばメリュジーヌも該当しそうだけど、清姫のことは眼中に入れてなさそう、というかそんな雰囲気を感じるので。
「あー……なるほど。まぁ、清姫はマスターの部屋に近付けない以外に変化はないよ。それからモルガンも変化はないかな。アフタヌーン決めてる時に偶にうっとおしそうな視線を何処かに向けていた気がするけど……その位かな」
「なるほど、ありがとう。どうしているか、ちょっと気になったからさ」
だからと言って……マイルームで暴動を起こすのは、勘弁して欲しいんだけど。
「そうだ、マスター。折角だから僕のケアをしてよ。ほめる、なでる、いたわる、ハグる。なんでもいいよ~」
うん、ちょっと苦労させているみたいだし、普段の3割増しでケアをするとしますか。
「お、やっとその気になったか。ハベにゃんのケア……しっかり頼むよ、マスター」
今までは被害を受けるだけだったが、こうして蚊帳の外だったはずのハベトロットまで被害を受けたことが申し訳なくなり、存分にモフモフする。
「うーん、気持ちいいなー。それにしても、こう……随分と手馴れているね。猫とか飼っていたの?」
「猫らしき生き物と言えばタマモキャットがいるし、ここには馬とかもいるから、慣れたんだと思う」
「そっかー。確かに、色々いるから慣れるのか。他の動物だけじゃなくて、マシュや他の女性サーヴァントに同じように対応しているかと思ったけど」
「していないよ、それは!?」
確かに、やたら近付いてくる女性サーヴァントが多いのは事実だ。だが、俺は断じてアーチャーのエミヤではない。
「冗談だって、君がその辺はしっかりしているって分かっているから」
「全くさぁ……」
「でも、君もそろそろそういうことを頭に入れてもいい年齢なんだろう。マシュなんてどうだい。僕的にはおススメしたいんだけどなぁ……」
どう答えようか口籠った時、部屋の外からガタっという音が耳に届く。誰かが聞いていたんだろうか……あれ、ハベにゃんが死んだ魚のような眼に……一体どうして?
「だ、大丈夫。ハベトロット?」
「いや、うん。大丈夫さ。僕は何時だって毛並みがつやつやなハベにゃんさ!!」
明らかに強がっているハベにゃんを見て、気付いてしまった。だから、外には聞こえないように耳元でハベトロットに。
「もしかして……清姫が外にいる?」
そう聞くと案の定、ぶんぶんと勢い良く頷いた。
「マスターこそ大丈夫なのかい。四六時中付き纏わられるのはキッツいんじゃないか?」
その痛すぎる指摘は置いておこう。まずはハベトロットをどうにかしなければ……
「モルガン……は呼べないし、マシュを呼んで話でもしようか」
そうすると、ハベトロットがぱぁっと顔を明るくする。
「いいのかい。何だかんだ君たちは忙しそうにしていたからこちらとしても機会を作ろうとは思っていた所だけど」
「そうだったんだ。そうだ、折角だから、エミヤかブーディカさんからお菓子も貰ってくるよ」
「おお、いいのかい。それじゃあチョコレートというのを食べたいな!」
「うん、分かった。それじゃあ、少し待っていてね」
モルガンに倣ってではないけれど、アフタヌーンをマシュと一緒に決めてみようか。