ちなみに、二つのぐだぐだ邪馬台国イベントクリア前提の内容です。
前半は壱与を案内する卑弥呼視点
後半は先輩の卑弥呼の後を追う壱与視点。
やはり、ぐだぐだは沼……!
ところで、どうして邪馬台国には新選組が定番となったのでしょうか?
カルデア一行が新邪馬台国の特異点の事件を終わらせた数日後、卑弥呼は相も変わらず自らの妹のような壱与に振り回されていた。その理由は単純明快、以前の自身と同じようにカルデアのあらゆる場所を案内したことだ。
ただでさえ時代認識が違う上、自分より後に生まれた英霊の紹介など始めると切りがない。未来くんに頼るという術もあったが、彼らは彼らで忙しくしていることも多いし、休む暇さえないようにも見える。
そういう状況だったこともあり、このカルデアでも先輩なのだから案内すべきだろう、と自ら案内役を受けたのことが間違いだったのだろうか。お陰で、卑弥呼としては珍しく疲弊していた。ただ、その案内もあってカルデアになんやかんややってきた駒姫の案内を壱与自身がやることになったので、今はちょっとした休憩時間だった。
「あーもー……疲れた」
「いやぁ、大変でしたねぇ」
そうして、食堂のデスクに体を預けていた所に居合わせたのが、邪馬台国の用心棒、違う……新選組の沖田総司であった。たまたま一緒になった彼女から、同じように頼んだカフェオレを受け取る。そう言えば、山南という同僚が来たようだが、彼の案内は彼女がしたのだろうか。
「そう言えば、山南さんの案内は誰がしたの?」
「ああ、それなら斎藤さんが。新選組の時も仲が良かったんですよ、あの二人」
「へえ~……それじゃ、積もる話もある訳だ」
「ま、そういうことです」
二人してカフェオレを飲む。少々疲れた体には、この甘さが心地よい。
「そう言えば、壱与さんはどうしたんですか?」
「今は駒姫ちゃんを案内をしているはず。あの子、友達とか殆どいなかったしから、いい関係になるといいけど」
「さっき騒がしい声がしていた気がしましたが、あの二人だったんですか」
きっと、目を輝かせて案内する内にテンションが上がった壱与と、とんちきにも順応してくる駒姫がカルデアの色々な部屋を見たら、大きな声の一つも出るだろう。実際の所……
「私も最初はああだったことを考えると、皆には苦労させたわね~」
「始めは皆、そんなものでしたよ。それにしても……」
沖田が飲みかけのカフェオレを見る。
「駒姫さんで思い出しましたが、ラテの飲み物を見るとあれを思い出してしまいますね」
「あー……」
元はと言えば、超千利休が抹茶ラテを消し去らんが為に起きた【北野大茶武道会】(嘘)。以降、やらかしの張本人でもある千利休は茶を点てる時以外で出てくることなく、駒姫の脚に専念しているらしい。尚、それを良しとした駒姫は抹茶ラテを毎日のように飲んでいる、とか。勿論、お代(QP)は千利休の持ちである。
「何であの人、あんなに抹茶ラテを嫌うんですかね」
「うーん。壱与ちゃんは甘くて美味しいからと言って、駒姫と同じように飲んでいるけど……何でだろうね。私は
ハマグリやお米と合う普通のお茶の方がいいかなぁ。暫くはいいけど」
「私もお団子と一緒に食べるならお茶ですけど……同じく暫くは」
一生分で飲むであろうお茶を短期間で飲んだ上、接してきたのだ。二人が暫くお茶から離れたがるのも道理である。それはそれで……お茶を点てることに興味を持った者もいた。
「やぁ、ここにいたんだね。沖田くん、卑弥呼様」
「おっと、山南さんですか……今度はどんなお茶ですか?」
緑色の液体と見て、沖田と卑弥呼が真っ先に浮かべるは抹茶の類。しかし、香ってくる匂いは鼻を抜けるような爽やかな香りだ。もしかして、抹茶の類ではないのだろうか。
「ああ、これは香草のお茶だよ」
「香草……ハーブとミントとかのことですか?」
1人、香草と言われてピンと来ていないのが卑弥呼である。
「あー……香草って道端とかに生えている、良い匂いがする草のこと?」
「おおまかにいえば、そのような類ですね。食堂にいる方々に少し都合して貰ったんです」
「へぇ、そういうことでしたか。気に入ったんですか?」
沖田の問いに、山南が頷く。
「ええ、本を読む時の供にも良さそうです。沖田くんも今度飲んでみると良いですよ」
「山南さんの勧めですし、もう少ししたら飲んでみようと思います……ただ、暫くは緑色の飲み物は控えたいですね」
「ははは……まあ、緑色の液体はこれでもかと言う程見てきたからねぇ……それにしても」
周囲を見れば、古今東西の英霊たちが歩いている。果たして、斯様な場所が他にあるのだろうか。
「改めて、カルデアは凄い所だね。まぁ……あの時から思い知った事ではあるけれど」
「山南さん、あの時みたいな儚い目をしなくていいですから。あんなことは早々……」
山南の言葉を否定しようとした沖田だったが該当する事件は……あまりにも心当たりが多過ぎた。
「おやぁ、そこそこありますね」
「だろうね。それに沖田くん。斎藤くんから聞いたんだけど……」
「何でしょう?」
それとなく対応していた沖田だが、ある直感が働いていた。多分、自分に関わる何かに突っ込みが入る、と。ノッブについては答えられると思っていたが、山南が指摘したものは別のことだった。
「カルデアには、水着霊基というもののがあるらしいね。それだけでも訳が分からないんだけど、斎藤くんから聞いた所、沖田くんの水着霊基には何故かジェットが付いているとか……いや、水着にジェットって何だい?」
「今、それを突っ込みますか!?」
それから3人で会話をした後、山南は人と会う約束しているのか席を外す。恐らく、斎藤一の所へ向かうのだろう。沖田も沖田で、いつものボイラー室横に戻ると言う。そんな二人と分かれた卑弥呼は、もう一杯カフェオレを頼みながら、自分自身の後輩である壱与を食堂で待っていた。駒姫とは早々に仲良くなった話を聞き、驚きこそ覚えた卑弥呼だが、自分の妹のような壱与がカルデアでも偏見を持たれずに上手くやれていることは素直に喜ばしい。
「すみません。お待たせしました、卑弥呼さん!」
「卑弥呼様、お待たせしてすみません」
そうこうしている内に、壱与が駒姫と共に食堂へやってきたようだ。待ち合わせの時間には多少遅れているが、そこは気にしない。
「いーのいーの。私もちょっと休憩したかったし。それで、駒姫ちゃんはどうだった。色々回ってみて」
「カルデアの生活がとても楽しみになりました。暇を見てはマスター様の今までの旅路を見たいと思っています」
「壱与も見たいです。それから、他の方たちからちらほらと聞いたんですけど、水着霊基って何ですか?」
女性のサーヴァント達にとっては、一夏の勝負衣装とも言える水着霊基。相手が違うとは言え、再び話題に出されるとは思っておらず、卑弥呼の返す声にも力が入る。
「あー!私もまだゲットしていないのに、その話をするー?」
「だって、夏は水着を着る物だって色々な方たちが」
日本出身のサーヴァントで水着霊基を持つ者も多い。源頼光、清少納言、紫式部と言った面子から、身近な人物で言えばノッブや沖田も該当する。気にならないと言えば嘘になるだろう。何故か沖田の方は、ジェットパックが標準装備となったが。
「それについては、私も気になっております。いつか、海での水遊びと言うものをやってみとうと思っております」
「あー……」
海での水遊び……それを聞いて多少の苦笑いが浮かんでしまう。それも仕方ない。まともに水遊びをしたのは何処だっただろうか。未来くんに聞いても答えられないのではと邪推してしまう程には、記録に無いのだ。強いて言えば、何時ぞやのキャンプと冒険譚だろうか。その辺りは真っ当だった気もする。ただ、何れも水遊びが本題では無かった気がする。
「うーん、まあ、後々分かるんじゃないかなぁ。多分、夏に何かあると思うよ」
「まあ、卑弥呼様ったら。誤魔化すなんて」
「宣託でも分からないんですか?」
「……この前の【北野大茶武道会】(嘘)みたいなことが、度々起きると言ったらどう思う?」
とある夏はレースの途中から脱獄が始まったらしい。どうしてそうなった。
「え……?」
「まぁ、それは。駒は一層楽しみになりました」
思わずポカンとする壱与と、一層イキイキとする駒姫。後者の今後が心配である。
「それで、ここで集合にしたのは何か理由が?」
「ああ、そうそう……一緒に食事でもどうかなーって」
「卑弥呼さん、それはいつも一緒のような……それとも何か、特別なものが出てくるんですか?」
卑弥呼は生前の経緯から、誰かと食事を共にするようにしていた。例えばそれは新選組、あるいは日本で名を連ねた戦国武将……時には、それ以外の時代の日本出身のサーヴァントなどが多い。ただ、壱与がカルデアへやってきてからは、ほぼ毎回のように壱与と食事を共にしていた。
「そういう訳じゃないんだけどね。ただ、今日はカレーが出てくるって聞いたから、一緒に食べようと思って」
「カレー、ですか?」
ピンと来ていない駒姫に対して、前々から卑弥呼のいるカルデアに興味津々だった壱与の反応は一味違った。
「待ってください。白米に合って、ニンジンやらハマグリとか色んな食べ物に合うというあの……!?」
「そうそう……って、知っていたんだ。最初は見た目で驚く人がいるから、私もいた方がいいかなって」
「よし、それでは早速頂きましょう!」
風のように、壱与が列へ並ぶために動き出した。が、直後に赤い服を着た白髪の男性に注意を受けたらしい。男性なのに、その姿はさながらオカン。ハマグリをより美味しく調理してくれる、素晴らしい料理人である。
「あーあー、エミヤくん怒らせちゃったよ。ま、あの分だと大丈夫そうだけど。ところで、駒ちゃんは何か希望とかある……って、あれ?」
壱与の方を見ていた隙に、霊基が駒姫から利休に代わっていた。
「ほう、カレーですか。私の時代では知る由もなかったですが、聞く所によると香辛料をふんだんに使った料理だとか。それでも尚、人にあった味を選べるものなのですか。利休、驚嘆」
「その辺の味加減は、作ってる人達に聞くしかないかなぁ……それでも、一つの料理で大人から子供まで喜べるのっていいよね」
「それはごもっともにございます。はて、そんな料理であれば機会があれば私も頂きとうございます。それでは、駒姫様」
驚く間もなく、霊基が利休から駒姫へと戻る。
「もう、利休様は突然なんですから」
「私達は慣れたけど、初めて話した人が見ると驚くかもね。それで、さっき言おうとしたことだけど、味が甘口、中辛、辛口と選べるんだ」
裏メニューで激辛があるらしいが、頼む面子が固定されている上にとても、とても辛い食べ物を好む人たちしか頼まないらしい。
「まぁ、味も選べるのですね。それでは甘口でお願いします」
「おっけー。それじゃあ、少し待っていてね」
場所取りを兼ねて駒姫を待機させて、駒姫の分のカレーも貰いに行く。今日の具材にハマグリこそなかったが、いつも通り美味しいに違いない。
「よーし、それじゃあいただきます!」
卑弥呼の声を皮切りに、各々が匙を持って食べ始める。初めは見た目に驚いていた壱与と駒姫だったが、一口食べるとそれは一変。無言で匙を進めていき、あっという間に食べ終えた。
「よし、今日もお代わり貰おうかな。二人はどうする?」
「そうですね。私もいただきます。駒姫ちゃんは?」
「少量であれば、頂きたいと」
「分かったわ。辛さは甘口でいいの?」
「ええ、お願いします」
「あ、それじゃあ今度は私が運びますね」
卑弥呼と壱与が再度列へ並び……直ぐにその番がやってきた。
「はい、どうぞ」
「ありがとう、ブーディカさん」
カレーをそれぞれ受け取り、駒姫のいる席へ戻る……その途中。
「あ、そうそう。この後少し、時間ある?」
「ええ、大丈夫です。もしかして、駒姫ちゃんはいない方がいい感じですか?」
「そうね。いてもいなくても変わりないけど、出来ればね」
「分かりました」
「うん。じゃあ、お代わりも食べちゃおうか」
「はい!」
そんな会話と共に駒姫の待つ席へ戻り、三人で再びカレーを食べ進めていく。
その途中……
「カレーに合う漬物はらっきょうだと思うんです!」
「私は……福神漬けの方が良いかと。何しろ、縁起も良さそうですし」
「うーん、どちらとも美味しいからなぁ……」
そんな会話があったとか、無かったとか。
そうして食堂での食事を終え、卑弥呼と壱与は廊下を歩いていた。駒姫はぐだぐだ以外の日本のサーヴァント達に会うと言って食堂を出た所で分かれたが、その直後に利休の霊基となっている辺り、彼らにお茶を点てるのだろう。
「それで、今から何をするんですか?」
「紹介したい人がいるの」
「え、もしかして未来さん以外のいい人なんですか!?」
紹介して、と何度言っても相変わらずぼかすので、これには驚きだ……と思った壱与だったが、どうも卑弥呼の表情が違う。
「違う違う。ちょっと未来くんから聞いたかな、と思って」
「何を、でしょうか。聞かれたと言えば……私と卑弥呼さん周りの話でしたけど、弟さんはここに居ないですよね?」
「そうそう。だから、多分知らないだろうなって思って」
何となく話の流れを掴んできたので、驚きを露にする。そんな人物はこのカルデアでは見ていなかったし、いたならば卑弥呼から紹介するだろう。
「え、もしかして卑弥呼さんの弟さん、いらっしゃるんですか!?」
「本人はいるんだけど、その一部になっているというか」
「えーと……どういう状況でしょうか?」
始めは本人に会えると思っていたが、どうやらそうでもないらしい。
「駒姫ちゃんと利休さんが一心同体と言えば、今から会う人と弟くんの関係は……その人の中に弟くんがいる感じ、かな」
「えーと……霊基には刻まれているけれど出てくることはない、ということですか?」
「そうそう。そんな感じ」
そうして歩いている内に目的の部屋の前に着いたからか、卑弥呼がノックもせずにある部屋の扉を開ける。
「やっほー、信勝くん」
「姉上、姉上です……って、あなたでしたか」
姉上と呼ばれる人物では無かったからか、露骨にテンションが下がった男性。黒い服装を基調とした細身の男性は壱与からすれば見知らぬ細身の人物だが、その男性がそうなのか。
「卑弥呼さん、もう夜ですよ。そう言えば、今回の特異点でも色々あったとか。僕も一緒に居たら、姉上にお茶を点てられたかなあ」
「まぁ、終わった後のあれは酷かったけどね。それはそれとして、信勝くんが従えるちびノブの新しいタイプがいたわよ。何で定期的に新しいタイプが出るのかしら……ちびノブ」
「言うまでもなく、姉上の可能性は無限大ですからね。それにしてもお茶ノブでしたか。聞いた所によると、一部は会話が出来たそうですね。試しに僕もやってみるか……ところで、隣に居るのは誰ですか?」
始めは様子見の為に二人の会話を聞いていた壱与だが、その男性の内側から何か懐かしい雰囲気を纏っていたことに気が付いた。より正確に言えば、その男性に……というよりはその霊基にである。
「あ、初めまして。私は邪馬台国二代女王、壱与と申します」
「邪馬台国二代女王……ああ、そういうことでしたか」
何故、唐突に卑弥呼がやってきたのか、信勝には合点がいったらしい。徐に手のひらを胸元へ重ね、懐かしむように口を開く。
「ええ、既にお聞きしたかと思いますが……いますよ、確かに」
「…………」
「その人がどう生きて、どう死んでいったのか。それは僕にももう分かりません。ですが、とても立派な人だった、ということだけは分かります」
その言葉に卑弥呼は思うことがあったのか、「……そっか」と言葉を漏らす。
「今、霊基が少し温かく感じるんです。多分、懐かしい人に会えて嬉しいんだと思いますよ、壱与さん」
「……そっか、ありがとう」
「それで卑弥呼さん、用件はそれだけですか?」
先程とは打って変わって、つんけんとした態度を取る信勝。どうやら、この態度が素のようだ。その反応に慣れている卑弥呼は、あっさりと踵を返す。
「そうそう、急に来てごめんね。それじゃ、戻ろっか」
「あ、はい」
「今度は急に来ないでくださいよ。僕だって驚くので」
「ごめんごめん。それじゃ行こっか」
「あ、はい。失礼します」
信勝の部屋を出て、卑弥呼の部屋まで戻るその間。
「やっぱり弟さんは……私達のようにはなれなかったんですね。そもそも、私がここにいるのも奇跡のようなものですけど」
「そうねー。だけど、いたことはあの時の皆が覚えている……それでいいじゃない」
「…………」
それが強がりだと感じた壱与は、卑弥呼の様子を伺う。
「だって、例え人の姿をしていなくても。あの時、あの場所にいたのは確かだもの。まぁ、此処へ来る前のように話をしたいとも思うし、女王になる前のように遊びたいと感じることもあるわよ。だけど、弟君がいたことを、私や壱与ちゃんが、あの時の皆が覚えていれば、きっと大丈夫。私の託宣もそう下りるわ、きっと」
「…………」
「それにね。信勝くんも弟くんのように似たような存在で、弟くんの霊基と合わせてやっと現界出来る存在なんだって」
確かに信勝と呼ばれる男性の纏っている雰囲気は、名の知れた人物より細い……というよりは弱いと壱与自身も感じていた。
「だから……それでいい、って思えるんだ」
「ええ、そうですね」
確かに、卑弥呼さんの弟は思慮深く穏やかな人だった。自分のような部外者も、同じ邪馬台国の人として受け入れてくれた……信勝さんの言う通り立派な人だった。卑弥呼さんと同様に恩人と言える人だった。
「はい、しんみりとした話題はこれでおしまい!」
「そうですね。それじゃあ、明日もお願いしますね!」
一通りの紹介こそしてもらったが、簡単な紹介だけだったので使い方がまだ分からないものも少なくない。例え、卑弥呼が分かっていない施設の使い方があったとしても、自分自身が覚えればいい……そう壱与は感じていた。
「えー……明日も~。まぁ、いいけど」
ため息交じりの言葉だったが、卑弥呼の表情は明るかった。