それにしても、頭のねじが緩み切ったバレンタインイベントはツッコミどころ満載でしたね。ラブラブヨハンナ様像よ、永遠に。
壱与は珍しく時間を持て余していた。普段なら駒姫と一緒に話をするか、卑弥呼さんと一緒に行動するかが多いものの、今はその二人が不在。
「することと言ってもね~」
図書室によって本を借りることも考えたが……ストームボーダーの点検にリソースを割いている為、今は閉館しているらしい。聖杯のお陰で多少は読めるようになっているものの、そこまで難しい本が読める訳でも理解できる訳でもない。
「いつものボイラー室横もなぁ……」
誰かいないかと話せる人を探してボイラー室横へ行こうにも、駒姫ではなく、千利休として他のサーヴァント達へお茶を振る舞っている。流石に、そのタイミングで入ろうとは思わなかった。誰がいるかは分からないものの、雰囲気を読まずに抹茶ラテを頼もうなら、作ってくれはするだろうが凄まじい顔を見せた時もあった。あ、抹茶ラテは美味しかったです。
「卑弥呼さんは卑弥呼さんで、医務室で何かしているらしいし……」
姉のような卑弥呼さんは言うと、これまた別件で席を外していた。新たにやってきた高杉さんとやらが病弱を克服していることに愕然として、沖田さんが病弱を根本的に治したいと言い出したらしい。以前の託宣で即座に無理だと出たにも関わらず、だ。が、それはそれとしてその試みに興味を持ったらしく、それに付き合っているとか。
あ、新選組の人達も興味半分で見に行ったみたいです。私個人としても気にはなるけど……医務室の臭いが苦手なのだ。なので、大きな怪我をしない限りは寄り付く予定はない。人伝で聞いた話だと、マッドサイエンティストとバーサーカーの看護師という組み合わせが何時もの面子であり、患者によっては悲鳴を上げるのもしばしばあるのだとか。怖くないですか、カルデアの医務室。
「ふぅー……どうしよっかな」
こういった暇な時の行動は主に三つ。食堂で料理を作っている人達をのんびりと眺める。ああやって料理が出来上がるのを見るのは生前では出来なかったので見ているだけでも面白い。そして、ついつい食べ過ぎる。若しくは、月夜のシミュレータで体を動かす。それからもう一つ、とりあえず未来さんの部屋へ行ってみる。
「……そうだなぁ」
今日はなんとなく未来さんの部屋へ行こう……そう決めた。
未来さんの部屋はいつも騒がしい印象だ。と言っても、本人が不在の時の方が騒がしい傾向にある。
「……今日はいるかなぁ」
そんな未来さんだからか、その部屋の私物と言えるものは少しの遊び道具と人形が3体置いてあるだけ。昔の私のように、生活感が薄い。もう少し未来さんの趣向なんかも分かればと思うが、度々微小特異点が発生して現地へ行っていることから、寝る場所と多少ゆっくりする場所程度にしか認識していないのかもしれない。まぁ、もっと大きな理由はきっと……夜の襲撃だろう。マスターと接点を多く取りたい気持ちはよく分かる……出来れば、私だってそうしたい。けれど、流石にそんな状態では休まる時も無いだろう。それは私だって何時かは嫌な気持ちになると思う。まぁ、そんな状態なら私物を置きたいと思えないよね。
そんな噂をカルデアに来て早々に聞いてしまったので、夜だけはあまり近付かないようにしていた。
「おじゃましまーす……」
煩くならないように、けれども他人の部屋に入るので声を掛ける……ものの、未来さんから返事はない……ということは、不在なのだろう。そのことに少しだけがっくりしつつ、未来さんが何をしているかを予想してみる。マシュさんと一緒にいるのだろうか。それとも、暇な時にマスターだけが作れるという噂の青い林檎の関係だろうか。見たこと無いんだよね。あれ、大量にあるらしいけど、何処で保管しているんだろうか。小さく音が鳴って扉が開く。その先にいたのは……
「……あ」
そうして、いつもの先客達がそこにいた。
今日は朝から素晴らしいことがあった。何と、ぐっさまが項羽と食事をするシーンを拝めたのだ。偶には研磨しておこうと術に時間を割いていたら、ぐっさまと遭遇せずに一日を終えてしまう……そんな日もあるから、朝からそのお姿を拝見出来るだけで徐福は今日一番の幸福なのです。
「あーうー……」
が、そのぐっさまウォッチも時間が経てばやがて終わるもの。今日もいつも通り項羽……様と一緒に食堂を後にされる。ああ、何時見てもお美しい。項羽と一緒……なのはもう割り切った。だからここではその魅力を語ろう。一緒に同じ飲み物を飲むときのお笑顔、安らぎを感じているその微笑み。その全てが美しい!
例え、誰かに育てられた花が如何に美しくとも、野に咲くぐっさまの美しさには遠く及ばない。ああ、このあふれ出るぐっさまの魅力を誰かと語り合いたい!
「……でもなぁ」
なのに、蘭陵王からは何故か無視される。はぁー、私の方が古参なんですけどー!?
マスターはマスターで親しいけれど、なんか違う。なーんか、違うんよね。マシュちゃんが一番話合うと思ったんだけど……
マシュちゃんもちょっと違う。まぁ、あの二人がいるから今のぐっさまが在るし、会えたからいいけど。
「あ……やっべ」
おっと、タイミングを間違えると始皇帝に遭遇する。ダメ、折角の気分が最悪になる、主に胃痛で。
「はーあー……どうしよっかな」
マシュちゃんはマスターさんと一緒に任務らしいし、前みたいな妖精騎士杯とやらのようなトラップの依頼もない。かと言って、術で何かを作る気も湧かないので……暇だ。
「仕方ないから、寄ってやりますか~」
何か、この前も夜間に忍び込まれた被害とかあったらしいし。ま、あの部屋。何にもないんですけどね。
「よう、いるかー」
と言っても、いない日も多いんだけど。
「あら?」
この部屋で偶に見掛ける顔が複数、そこにいた。
カルデアには様々な施設がある。食堂、召喚室、ブリーディングルーム、管制室、青銅の林檎畑、医務室、シミュレータ室、個人の部屋……そして、今、ヨハンナがいる場所もその一つ。聖卓だけがある小さな部屋……そこは物置としては手狭な小さな部屋だが、神を信じる者としては欠かせない場所だった。
「…………」
今はその部屋で祈りを捧げているが、実はヨハンナ自身の部屋にもある。ただ、今日は他のサーヴァントも利用するような礼拝堂で祈りを捧げたいと思ったのだ。
「……よし」
祈りを終えて、小さな礼拝堂を後にする。祈りの場所が変わることはあれど、これは日課だった。あの悪夢のようなバレンタインを通した後でも変わらない……自身が、自身としてある為の大切な儀式なのだ。
「どうしようかな、この後」
あの悪夢の出来事を通して話すようになったラーマ様から、過去の特異点で何があったかを聞いてみようか。それとも、ナーサリーさんやジャンヌ・リリィ様と一緒にお茶会に参加させてもらおうか。それとも、ジャンヌ・オルタ様と話をしてみようか。
「うーん……」
礼拝堂へ来る前に食事は済ませた。マスターの故郷の食事とざっくりした要望を出した所、随分と種類があったので選ぶのに時間が掛かってしまった。その国特有の食事はどの地域にも勿論あるが、他国の食事文化をあれほどまでに取り込んだ文化もそう多くは無いだろう。
「あ、この辺って……」
そう言えば、マスターの部屋が近かった筈だ。折角だし寄って行こう。何かあるかもしれないし。
「……」
扉が空く瞬間……少しドキドキすることがある。あれは夜だったか、クエストを共に巡った後にブリーディングが入っていたことから、終わった後にチョコレートとコーヒーでも差し入れしつつ、少し話をしてみたいと思って部屋へ向かった時だ。……あの時は怖かった。誰も居ないマスターの部屋に三人のサーヴァントが潜入していた時の事……そう言えば、その三人がある特異点で取った行動から恐れられているとか何とか……
「……あ」
そうして、同じ時間帯に出くわすサーヴァント達に遭遇した。
「徐福様に壱与様でしたか。こんにちは」
「あー、ヨハンナ。マスターに用事、いないよ?」
かつて秦という国で道士をされていたという方で、マスターの国では多くの伝説を持っているとか。何か性別が違うらしいし、ベッドで寝転ぶ様は自堕落しているようにも見えるが……やはり、伝説に名を遺した人物。私の素を見抜かれてしまった。
「ええ、そのようですね。それから壱与様もこんにちは」
「はい、こんにちは」
そして、私の素がバレた時に一緒にいた壱与様。邪馬台国の二代目であり、その代で国が無くなった、らしい。力の属性的に対極の位置にいるが、どうもシンパシーを感じる。
「それにしても、まーたこの面子か」
「そうですね。まぁ、未来さんが眠る前に遊びにくるよりかはずっと健全かと」
「えーっと……聞いたことがありますね。夜に来ると襲撃される、とか」
「まー、私は興味ないけどね。案外、このぬいぐるみが何とかしてんじゃないのー?」
三人寄れば何とやら。
「確かに、あまり物がないマスターの部屋に置いてあるんですから、意味があるのかも」
「私はあまり分からないのですが……そういうものなんですかねぇ」
ぬいぐるみが動いて侵入者を撃退する……ですって、そんな馬鹿な。
「えー、でもさー。このちっさい槍を持ったぬいぐるみなんて、所々修繕した跡があるよ。こことか」
「あ、ほんとですね」
「えー……」
うーん、俄かには信じがたい。けど、確かにあるね、これ。
「一体、ここで何が起こっているんですか……」
「知らなーい。ま、私たちに被害がないから、いーんじゃない?」
「それも……そうですね」
触らぬ神に祟りなしと言いますし、触れない方がいいかもしれませんね。それにしても、またこのお二方と会いましたね。
「良ければ、普段何をされているかお聞きしてもいいですか。カルデアへ来てから短いので、どのような人がいるのか分からないのです。身の回りというか、関連のある人は把握していますが、他の地域の方となると……」
「あ、いーですよ。ほら、徐福さんも」
「えー、何でー。ま、することないからいいけどさ」
女三人寄れば市をなすとはこの事か。とは言え、誰かに敬われる訳でも無ければ、こちらも気遣う必要も無い……そんな会話もきっと楽しいものだろう。話題が続く中、手持無沙汰だったので簡単なゲームをすることになった。といってもトランプでババ抜きや7並べといった簡単な遊びだ。聖杯によって知識がある程度インストールされているが、知っているだけなのとこうして実際にやって体験するのはやはり違う。結構、徐福様が意地悪く8を隠し持っていたりしたりなど、新しい発見が一杯だ。
「あー、負けちゃいました」
「ふふーん、これなら負けないもんね」
本来の部屋の持ち主のいない昼下がり。彼女らは何気ない会話に花を咲かせて時間を過ごしていた。