鬼の子の物語   作:おにこ

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鬼ヶ島脱出

 ここは鬼ヶ島、暴力が支配する土地。ケンカや殺しは日常茶飯事。唯一の法は強さのみ。気のみ気ままに暴れるだけ。

 

「おいクソガキ、いいもん持ってんなあ? よこせやオラァ」

「いやだ! 大人だからって調子にのんなよ!」

「マ、マルオ君、無茶だよ。あげようよ」

「おい! せっかく手に入れた宝だぞ! ありえない!」

「くっくっくっくっく、俺は今機嫌が悪ぃんだ。逆らうなら殺してでも奪っていくぜ」

「んなもんにビビるか!」

「マルオ君! あの目はやばいって!」

「藤鬼は弱虫だな。名前はかっこいいのにくそだっせぇ」

「話は決まったか? じゃあ死ね!」

 

 5歳の頃、友達のマルオは大人に殺された。その大人はマルオの両親に決闘を挑まれたが、返り討ちにした。それで事件は終わった。俺の母親は「マルオのことは残念だったね。しかしこれが現実だ。悔しかったら強くなれ」と言うだけだった。強ければ何をしてもいいんだと島の住人が大小なりとも認識していた。

 だが、皆は知っているのだろうか。子どもは誰でも弱いのだ。本当に強ければ何をしてもいいのならば、赤ちゃんは生きていけない。子どもは成長する前に死ぬ。この島は存続できない。存続できているのは、自分の子どもは守るべきという、母親の本能があるからだろうか。しかしそれもあてにならない。ふつう女より男の方が強いからだ。子どもはいつも他所の大人の男におびえて生きなければならない。自由に宝探しもできない。こんな社会は間違っている。

 だが、社会に愚痴を言ってもどうにもならない。ここで自由を手に入れるためには、誰よりも強くならなければならない。大人になるまでどれだけ長い年月が必要だろうか。最強になるまではさらにあと何年、またどれだけの厳しい訓練が必要だろうか。気が遠くなる話だ。しかしおびえ続けるよりは目標がある方がマシだった。

 友人が死んでから俺は前にも増して熱心に戦闘訓練に励むようになった。母はその姿に喜んでいるようだった。友人の死を喜ばれているようで空しくなった。

 

 それから8年。修行を続け13歳になった俺は、大人に近い実力を持つようになっていた。厳密には11歳から1人暮らしを始めて、人があまり寄り付かない海辺で暮らしているので、大人とケンカしてどちらが強いかは分からないのだが、大型海王類も素手で殺せるので、たぶん大人の中でも強い方だと思う。

 ある日、しばらく疎遠になっていた母が俺の根城を訪ねてきた。

 

「やあ、生きてるかい」

「ああ、もちろん」

「ははっ。お前は生き汚さだけは立派だったからねえ」

「何の用?」

「久しぶりの再会だってのにつまらないねえ。いやね、村長に言われてね。お前もそろそろ収穫をしてみろって」

「いやだ。めんどくさい。というか村長なんていたの?」

 

 収穫とは、チビ人間の街へ行き酒や食糧や便利そうな道具を強奪することである。

 

「いたよ。海外で海賊やってたけど久しぶりに帰ってきたんだ」

「海外? 何それ」

「あたしもよく知らないが、この島やちび人間の島以外にも、島はたくさんあるみたいだよ。ここから見える海の端の、さらに先のずっと遠くの方にね。そいつらから金銀財宝奪って暮らしてたらしい」

「ふーん」

「興味あるなら村長の家に行ってみるかい? 珍しいもんがたくさんあるよ。その前に、収穫をしてからね」

「はぁー」

 

 ここで断れば、母親と戦闘になる。そういう雰囲気だ。それを望まないので、収穫とやらをすることにする。収穫すればチビ人間と戦闘になるだろうが、まあ彼等にはかわいそうだが母親を相手にするよりはマシだ。俺の方も手加減できるから殺す心配はないだろう。

 

「ほとんどのチビ人間は弱いけど、刀を使う侍に気をつけな。やつらは妙な術を使うよ」

「はいはい」

 

 島のはしっこに行き、チビ人間の住む島を眺める。けっこう遠い。波は荒い。しんどいなあ。

 

「泳いで行く気かい?」

「それしかないでしょ。はあ」

「ふつうは船を用意してもらえるんだけどね。あんたは村の大人と関わろうとしないから。ああでも、この袋は持っていきなよ。袋いっぱいに収穫してこそ一人前と認められるんだからね」

「はいはい」

 

 俺と同じくらいの背丈がある袋を渡される。帰りはもっとしんどくなるなあ。憂鬱だ。

 

「光月おでんってチビ人間に出会ったら、逃げてもいいよ。ま、あんたなら何も言われずとも逃げるだろうけど」

「はあ? 何で俺がチビ人間相手に」

「くっくっく、まあ頑張りな」

 

 パンツ一丁武器何もなし、袋をかついで海にダイブ。やっぱ今日は波が強えは。海王類と戦うこともあるし、泳げないことはないんだけど、進むのが遅くなるからごっそり体力削られる。はあ。

 

「ぷはっ、ぶるうううぅー。ぷはっ。ぶるううぅー」

 

 波のせいで息継ぎが安定しない。ちょっと海水飲んじゃう。くっそムカつくわー。

 遠いなー。疲れるなー。はぁー。クロールだと疲れるから背泳ぎにしよう。

 

「すうー、はあー。すうー、はあー。おっ」

 

 無心で泳ぎ続けていると、足が砂に当たった。やっと岸に着いたようだ。朝出発したのにもう昼になってる。疲れたし、腹も減ったし、何か食べて寝よう。

 

「ぎゃああああ! 怪物だぁーー!」

「鬼が島の鬼だぁー! 逃げろー!」

「侍を呼べー! 大名に連絡をー!」

 

 久しぶりに見たけど、チビ人間って本当に小さいなあ。俺を見るだけでビビッて逃げてるのは、なんか昔の自分を思い出す。大人にビビッていた自分を。滑稽ではあるけど笑えない。

 こいつらから食糧とかを奪うのか? なんか嫌だなー。自分で食糧集めたらダメなのか? うーん、分からん。あっ、でもあいつら酒にはうるさいからなあ。酒は盗まないと認めないだろうなあー。はあめんどい。

 

「よっと、こんなもんか?」

 

 俺は巣もぐりで大きめの魚や海草を手に入れる。そしてガツガツ食べていく。普段からこうして生活しているから慣れたものだ。そんで食べたら眠くなる。チビ人間が侍を呼んでるみたいだけど、眠いから仕方ない。寝よう。

 

「ん?」

 

 なんか手首がきつくなった気がして、目が覚めた。

 

「ぎゃああああ起きたぁああああ!」

 

 近くにチビ人間がいっぱいいる。いや、1人だけ俺達の赤子よりやや大きいやつもいる。角も生えてるし、間の子かな?

 

「キシシシシシ。目覚めたか。鬼のガキ」

 

 間の子が話しかけてきた。

 

「うん。しかし君ら暇だねー。寝てるだけの俺を見にこんなに集まるなんて」

「きっしっしっし。余裕だな。だがその余裕がどこまで持つかな?」

「何が? えっ、もしかして手首のこれのこと?」

 

 俺の手首には鉄製の鎖が巻きついている。足首にも巻きついている。だが、細すぎる。

 

「ふんぐっ」

 

 ちょっと力を入れると、ほら壊れた。

 

「や、やべえええええ! なんだこいつはあああ!」

「前に来た鬼はこれで拘束できたのに!」

 

 へー、壊せない人もいたんだ。やっぱ俺、ふつうの大人よりは強くなってるっぽい?

 間の子はうれしそうに拍手している。

 

「キシシシシシ。多少は腕に覚えがあるようだな。どうだお前、俺の部下になる気はないか?」

「モ、モリア様ぁー!? なんで!?」

 

 おもしろいこと言うなあ、この間の子。やっぱ間の子だから俺達に興味あるのかな。仲間みたいに思ってるのかな。でも、俺達とは関わらない方がいいよ。チビ人間みたいに協力なんてできない、最低の村だから。

 

「部下は嫌だよ。俺は安心して暮らしたいんだ。誰かに監視されるような生活はごめんでね」

「じゃあ仲間ならどうだ?」

「仲間? やっぱ間の子だから親近感とか感じてるの? だったらやめといた方がいいよ」

「何の話だ?」

 

 間の子は意味が分からないという反応だ。あれ? 違うの?

 と、間の子が急に目を輝かせている。

 

「オラァこの国で終わるつもりはねえ! いずれは世界を獲ってやるんだ! そのためには部下のこいつらだけじゃ足りねえ! 強力な仲間が必要なのさ!」

 

 へー、そんなこと考えてるんだ。チビ人間の癖に、考えることがめちゃくちゃデカいなあ。俺なんてこの強さでまだ島の大人たちにビビってるってのに。

 

「モリア様!? どういう意味で!? もしや海外へ違法に」

「おめえは黙ってろ!」

「君、おもしろいこと言うね。もっと話を聞かせてよ」

 

 海外、か。何があるんだろう。怖いこともあるだろうし、面倒くさそうでもあるけど、それ以上に気になる。見てみたいと思う。

 俺は今まで、最強になるまでは大人にビビり続けるしかないと思っていた。だけど目の前の間の子は、たぶん俺よりずっと弱いのにこんなに自由だ。不安なんて全くない。すごく楽しそう。そういう生き方を、やってもいいんだね。俺も、やってみたい。仲間になるかどうかは別だけど。

 

「キシシシシシ。どうせなら立派な船が欲しいところだが、生憎とこの国では出国自体が違法でな。誰も船を作ろうとしねえ。だから文句を言えないように、まずはこの国を手に入れるぞ。俺がトップになり鎖国の法律を変えてしまえば、家臣も文句を言わんだろう」

「よく分からないけど、船を奪えばいいんでしょ」

「いや、海外に行くための船はねえ。作らせる必要がある」

「うわっ、めんど」

「確かに面倒だが、仕方ねえだろうが!」

「うん、まあ」

「順当に行けば、将軍が死ねば次の将軍は光月おでんと言われている。だから、俺達でこいつをぶちのめす!」

「モリア様!? なんということを!」

「構わねえだろうが! あんな犯罪者どう呼ぼうが!」

 

 光月おでん? どこかで聞いたような……。ああ、母が言っていた強いチビ人間。

 

「だいたい俺が言ったぶちのめすってのは、功績でぶちのめすって意味だよ! そしたら俺が将軍になんだろうがよ!」

「そ、そうでしたか」

「チッ、バカが」

 

 この間の子、単にチビ人間の中では大きくて強いだけじゃなくて、偉いのかな? なんかチビ人間は強さじゃなくて血筋とかよく分からない者で村長を決めると聞いたことがある。というか「弱いくせに偉ぶるとかお前頭チビ人間かよ」って悪口が村で流行ってる。

 しかし、どうせ島に帰っても、退屈だしね。島の暴力バカ野朗共とは関わりたくないし、ここは乗ってみるのもありか。嫌ならやめればいいだけだ。

 

「面倒そうだけど、いいよ。暇だし協力してあげる」

「キシシシシシ。じゃあ今日からてめーは俺の仲間だ。お前名前は?」

「藤鬼」

「藤鬼か。強そうな名前じゃねーか。気に言ったぜ」

「よく言われる」

「よろしくな。藤鬼」

「おいっす。モリア」

 

 俺が小指を差し出し、モリアが小さい手で握り締める。なんかかわいい。

 

「よし。ではさっそくお前が俺の配下になったことをアピールするぞ!」

「えっ、配下じゃないよ。仲間だよ」

「分かってらぁ。だが将軍になるためには配下って言っといた方が都合がいいんだ」

「そんなもんかね」

「どうしてもってんなら仲間ってことでもいいが?」

「いや、気にしないよ。チビ人間の文化を俺が気にしても仕方ない」

「……お前、俺の仲間にそういう言い方はすんなよ?」

「ああ、うん。そうだね。確かに失礼かもしれない」

 

 気をつけないと。チビ人間でも仲間なんだ。種族が違うからって気持ちを無視するべきではないね。よく分からないけど。

 

 モリア達の行列の一番後ろをついていく。道が狭い。しかも俺が踏むと足跡で凸凹になっちゃうから、綺麗な道は踏めない。歩くのも一苦労だ。

 街に着くと、チビ人間が本当にいっぱいいる。皆俺を見上げて、恐れている。いや、チビ人間の子どもは、俺を指差して笑ってるやつもいるな。無知ゆえってやつか。

 

「オラァ、見て驚けェ! こいつは今日俺の仲間になった鬼ヶ島の狩人、藤鬼だぁーーーー!」

 

 あっ、部下じゃなくて仲間って言ってくれた。その辺心得てるのなー。

 

「おいっす! おいっす!」

「おいおい、もっと派手にできねえのか?」

「うーん、と言われてもなあー」

 

 俺は村の連中みたいに豪快にぎゃはぎゃは言うの嫌いだからなあ。

 

「はっ、せいっ!」

 

 なんかパンチとかキックとかやってみる。風圧でチビ人間が飛んじゃってかわいそう。あっ、建物壊れちゃった。ゴメン。

 

「ひいいいっ」

「うわああああ逃げろぉおおお!」

「わの国一の武闘派はヤス家でもヒョウ五郎一家でもねえ! モリア一味だ! 覚えとけよオラァ! ほらっ、お前も何か言って見ろ」

「うーん。俺は大きくて強くて最強なんすわー。おらー」

「チッ、しまらねえなあ」

 

 うーん、結局ここでも強さアピールで偉くなるのか。なんだかなー。

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