鬼の子の物語 作:おにこ
お披露目を終えて、モリアの屋敷に移動する。花の都の中央部。城壁に囲まれたその奥。狭くて俺は中に入れない。そして警備の兵に囲まれる。皆緊張の面持ちだ。まあ、今まで散々俺達はチビ人間から搾取してきたからな。しかも、酒や金を差し出させる見返りに、国の中央は襲わないと約束しているはずなのである。それを破棄したのかと思われても仕方ない。
「モリア様!? 何事ですか?」
「鬼ヶ島の鬼だ。今日仲間にした」
「なんと……」
「一応将軍様にも報告しておこうと思ってな。住む場所も手配してもらいたい」
「それは、直接お話していただくのがいいでしょうな。そちらの、鬼の方は、しばしお待ちを」
「いいよー」
俺が軽く返事をすると、兵はガクッと姿勢を崩した。恐がり過ぎだろう。まあ俺も大人を恐がっていた時期があるから分かるけど。
「モリアって様々よばれてるけどさ、何物なの?」
「将軍様の、奥方様の、ご子息だ」
「へー、偉いじゃん。じゃあ将来は将軍になれるかもしれないんだね」
「いや、血がつながっておられるわけではない」
「ああ、そうなんだ。母親が将軍と再婚したってことか。まあモリアはあの見た目だもんね。父親は俺達人間、ああゴメン。君達の言う鬼かな?」
「それは誰にも分からんことだ。奥方様が口を開かん限り」
「ふーん」
などと話していると、モリアが帰ってきた。何かいっぱい人を連れて。
「おい藤鬼! 将軍様からお話があられる! 謹んで失礼なきよう返答するように!」
「いいよー」
俺の返事に、モリアとその周囲の人達がガクッとなった。いちいち反応がおもしろいなー。
「てめぇ。口の利き方から教えねえといけねえようだな」
なんかモリア達怒ってる。笑える。
「くすくすくす」
「笑うんじゃねえ!」
「いや、いい。鬼達はこういうものだ。それで藤鬼と言ったか、私はこの国の将軍、光月スキヤキだ。君は鬼ヶ島の使いではないのか?」
「使いってのは、話を届ける人だっけ? 村の要求とかそういう」
「ああ」
「違うよ。むしろ俺は、収穫を命じられたんだ」
「収穫!?」
チビ人間達は驚き、慌てて武器を取る。おおっ、なんか強そうな雰囲気出てるな。さすがは将軍の護衛か。ちょっと緊張しちゃうかも。
「収穫とは略奪の隠語だな? 奉公と関係のない略奪は契約違反だ。許すつもりはない」
「いやいや、命じられたけど、めんどくさいからそんなの辞めてモリアの仲間になったってわけよ」
「辞めた? 証拠は出せるのか?」
「証拠? ……この袋、あげよっか? この袋いっぱいに値打ちのありそうなものを入れろってのが命令だから、袋がないと遂行できない」
俺は肩から背中にかけていた巨大な袋を腹側に回す。
「……いや、必要ない。いいだろう。モリアの仲間になるというのなら、こやつに任せてみよう」
「よろしいのですか? スキヤキ様」
「簡単な取り調べはしておけ。無駄だろうがな。鬼は謀術の類を使わんからな。使う必要もないほど強いためであるが」
「しかし、奥方様の件で……」
「鬼の子がたった1人で、堂々と都まで来たのだぞ? これに恐れるようではますます鬼に舐められる。それにな、わしは清濁併せ呑むことも必要と思っていた」
「やはりそれは、おでん様の件でも」
「それは言うな。……しかし、住居と食糧が問題になるか。何せあの大きさだ。モリアに与えた領地だけでは足りんだろう」
「確かに……。九里を与える、というわけにもいかんでしょうし……」
チビ人間達が悩んでる。俺は住めさえすればどこでもいいんだけどな。
「住む場所だけ指定してくれたら、家は自分で作るし食料も海潜って大きいやつしとめるからいいよー」
「できるのか? その方が助かるが……」
「できるできる。あっちの島でも自分で家作って生活してたしー」
「なんと、それほど優秀なのか。君、いくつだ?」
「13」
「モリアと同じではないか! それに巨人の13歳というのは我々で言うところの……」
「ああ、俺も父親は人間らしいからね。ふつうの鬼よりは年取りやすいよ」
「何? それでは君がモリアの仲間になったのは、父親の件もあって?」
「いいや、あんまり気にしてないよ。単に村は居心地悪くて退屈だったから」
「そうか……」
その後、今までの生活や、この国について知っていること、村について、などなどいろいろ聞かれて、やっと解放された。俺は鈴後という寒い場所に住むことになるらしい。寒いのは嫌いだが、人があまり住んでいないので、間違って踏み潰したりする心配が少なく、動きやすそうではある。
花の都を離れ、鈴後に移動する。先ほどまでいたモリアの家臣は厳密にはモリアの母の家臣。鈴後までは付いて来ない。その代わり、家庭教師は1人付いてくる。モリアも一応土地を預かる立場、貴族。貴族には教育をさせねばならん、とかなんとか。
モリアは地図を持って俺の肩に乗っている。彼の指示を聞きながら将軍に指定された土地へ向かう。家庭教師のコンブとかいう小さいおっさんも反対側の肩に乗っている。
「さっむいなあ。裸だとキツい」
昔、最強の魔人と呼ばれた俺達の先祖も、凍死したみたいだしな。寒さはキツい。
「だが、お前に着せる服なんてすぐには用意できないぞ?」
「ああ大丈夫、この収穫用の袋があるから。ちょっと退いてて」
「おいおい」
俺は袋に穴を開け、頭から被る。不恰好だがずいぶんと暖かくなった。
退いてと言ったモリアは、なんかよく分からん黒いやつに捕まって飛んでいる。
「何それ?」
「キシシシシ。知らねえのか? 悪魔の実の能力だ。この国じゃ妖術と呼ばれているがな。実を食べたら何か不思議な能力を1つ使えるようになるのさ」
「モリア様、不用意に海外の情報を与えるのは」
と、コンブが割って入ってきた。
「別にいいじゃねえか。こいつは鬼ヶ島の住人なんだ。うちの法は関係ないはずだろ?」
「しかしあなたの仲間になる以上は」
「ちょっと待ってよ、君達海外の話禁止なの?」
「ああ。バカみたいだろ。鎖国は防衛のためという意図も分かるが、情報の禁止は明らかに過剰だ」
「モリア様、国を批判するようなことは」
「海外人を受け入れておいて、故郷の話もできねえたあ、ずいぶん肝っ玉の小せえ野朗じゃねえかい」
「……将軍様には報告させていただきますぞ」
「ふん、勝手にしてろ」
なんかこの家庭教師、監視みたいだなあ。チビでよわっちいから何の脅威にもならんけど。
俺は再びモリアと家庭教師を肩に乗せる。
「ちなみに俺が食ったのはカゲカゲの実だ。影を自由に操れるようになる」
「影って、ただ太陽の光が当たらない部分だと思ってたけど、動かせば触れるんだね」
「ほう、するどいな。それが悪魔の実の不思議なところだな。概念を現実化するというのかな」
なんかよく分からないなあ。まあいいけど。
「キシシシ。実は鈴後はな、ちょうどよかったんだ。俺もここに気になる物があったから」
モリアがある場所を指差しながら言う。
「何があるの?」
「とんでもない化け物がいるらしい。鬼よりももっと巨大な」
「モリア様、その話も不用意に言っては……」
「ええ? 俺より大きいの? 海王類かな」
「いいや、悪魔のような姿をしているらしいぜ。と言っても死体らしいがな」
「ですからモリア様!」
「なんだ、死体か」
途端にがっかりした。そんなの見ても気分が悪くなるだけだ。
「というかコンブだっけ? なんで死体なんかを恐がってんの?」
「……そういうしきたりがあるのです」
「は? バカみたい」
「だろ?」
何故かコンブはため息をついた。やれやれと思っているのはこっちなのに。
俺は一歩が大きいので、チビ人間よりずっと早く移動できる。目的地にもすぐに到着だ。
「何もないね。雪と木ばっかり」
「仕方ないさ。お前の大きさを考えると村があるとむしろ不便だ。俺もお前ほどじゃないが大きいしな。俺の支配する土地は、新しく村ごと作り直す方が都合がいい」
「へー。考えてるんだね」
「あっちの海岸からあっちの森まで全部うちの土地だ。俺達の食糧は森と海で調達できる。雪を溶かせば飲み水には困らねえ」
「木があると家も作れるね。でも家ができるまでは寒そうだ。いちいち花の都まで移動してもいいけど」
俺にとったら大した距離じゃないからね。チビ人間にはしんどくても。
「おいおい、家なんてみみっちいこと言うなよ、ドデカイ城を作ってやろうぜ!」
「えっ、できるの!?」
「キシシシシ。それが俺様のすごい所でな」
「賢いんだね、モリア」
「キシシシシ。多少の下準備は必要だがな」
ほー、城で生活できるのか。楽しみだなー。
「城ができるまでは、とりあえずカマクラで寝るか」
「何それ?」
「雪をこう、山みたいに積み上げてその中に穴を開けて寝るのさ」
「えっ、そんなことできるの? 楽しそう。あれ? でもそれって暖かいの?」
「風がしのげるだけでもマシらしいが」
「ふーん。よく分からん」
「話によると、カマクラの中で動物の毛皮を着て寝ると暖かいらしい。だったよな?」
「はい。モリア様」
久しぶりに家庭教師のコンブが発言した。
「ふーん。俺は海王類でもないと着れないや」
「探して来い。俺も森で毛皮にできそうな動物を探しておく。食糧にもなる」
「狩りできるの?」
「舐めるなよ。お前より小さいからと言って、このモリア様は弱くねえぞ」
「そうなんだ。ごめんよ強いチビ人間を見たことないから」
というわけでモリアは森に、俺は海岸に向かう。向かいながら思ったけど、この海もめっちゃ冷たいんだよなあ。はあ、入りたくない。
「うおおおおお、ほおおおおお」
飛んだり跳ねたり、走ったり、身体を温めてみる。覚悟を決めろ、行くぞ。
「うおおおおおおおおお」
足をちょんとつける。つんめてえええええ、え? あれ? 思ったほどじゃない。これなら海より地面の方が冷たいくらいだ。
「これくらいならいけるかな?」
ずずずっと海に入っていく。うむ、鬼が島の海より冷たいが、思ったほどではないな。これなら問題ない。よし、海王類探そう。
おっ、牛みたいな海王類がいるな。って、逃げるのはやっ。向かって来いや。王の名前取り消すぞ?
追いかけていると、もう一回り大きい牛みたいなのが見えた。親かな? こいつは、向かってきた。角を向けて突っ込んでくる。
ふふふっ、ふつうの流線型の相手なら角で突かれてしまうのだろう。だが残念、俺には両手がある。
オラ角ゲットぉおおお。
俺は両手で角を掴み、突進を受け止める。牛の海王類は目に見えてうろたえた。その顔面へ、俺の拳が迫る。
「ンモオオオオオオ!」
一撃、たった一撃で終わり。自分より強い相手を知らない、奢れる海王類なんてこんなもんだ。俺は村で恐怖しながら鍛えてきたわけだからね。最強種族同士でも強さは全然違うのさ。
殺した牛は急いで血抜き。そして、適当に巨木を探して、突き刺す。これは干しているのだ。こうすることで腐らなくなる。
さて、面倒くさいけど、皮を剥ぎ取っていこうかな。鬼の爪の硬さを教えてやる。
「あ、これは……。めんどいよー。くっそめんどいよー」
ダメだ。やっぱめんどい。寒いから俺の手に力が入らないのもあるけど、凍っちゃった毛が硬いのが大きい。これ、毛を剥ぎ取るだけでどんだけ時間かかるんだ? 夜になっちゃいそう。
それでも毛皮でも着ないと寒すぎてやってられないからなあ。あークソ、なんでこんなことに。もっと楽しい新生活が始まるはずだったのに。退屈でしんどい単純作業とか。はー。
「キシシシシ。苦戦しているようだな」
と、モリアがクマの毛皮を身につけて飛んできた。黒い影がモリアを運んでいる。
「早いなー。こういうの得意なの?」
「キシシシシ。まあな。手伝ってやろうか?」
「そりゃありがたいけど、君にこのサイズは無理でしょ」
「キシシシシ。そうでもねえ」
「へえ」
モリアは自信ありげに笑うと、海王類の頭に降りていく。そして彼の影が、海王類の頭の中に入っていく?
「えっ? うわっ」
「キシシシシ」
突然、海王類の死体が動き始めた。モリアの反応を見ると、これはモリアの能力なのか?
「死体に影を入れると、自由自在に操れるようになるのさ。自由と言っても、能力者の才能にもよるがな」
「へー」
モリアの能力はすごいなー。モリアがすごいのもあるのかなー。
モリアは海王類の尻尾を丸めて、それを海王類の歯で噛ませることにより、皮を剥いでいく。めちゃくちゃ器用だ。やっぱこいつもすごいなー。
「ほれ、俺は尻尾からやるからお前は背中の続きをやれ」
「うむ」
これなら夕方前には終わりそうだ。
日が沈みかける中、とうとう皮を剥ぎ取り終える。
「よっしゃあああああああ!」
歓喜の雄たけび。さっそく皮を着る。臭いだろうけど感動の方が勝る。
「あ、あれ? 臭くない?」
「そりゃ凍ってるからな」
「え? 凍ると腐らないの?」
「……知らなかったのか?」
「うん」
モリアは当然のことのように言う。だけど俺の住んでる所、凍るほど寒くなるなんて滅多にないからね。知らなかった。
「じゃあもしかして、肉も干さなくても腐らない?」
「そりゃあそうだ」
「うおう、便利」
鈴後は悪いことばかりじゃないってことか。
皮剥ぎの作業で疲れたので、とりあえずご飯にする。今回食べるのは皮を剥いで残った肉の部分。死なせてしまったわけだし食べないともったいない。モリアも俺が分け与えた海王類の肉を少量だけ食べたが、不味いと言ってほとんど捨てた。おぼっちゃんはグルメでいけないな。
「キシシシ。なるべく早く料理人を部下にしてえな。毎日美味い飯が食いてえ」
「俺はどっちでもいいけど」
「それはお前が本物の料理を知らないからだ。知ったら世界が変わるぜ?」
「ふーん」
「あとは女だな」
「女? なんで?」
「……お前何も知らねえんだな」
「はい?」
「まあ女の話は後だ。先に宝探しに行くぞ!」
「宝? あるの!?」
「あるはずさ。キシシシシシ」
日が沈み、月明かりに照らされる中、家庭教師のおっさんは放置して、モリアの指示する宝の場所へ向かう。
「暗いなー。よく見えないや」
「キシシシシ。だからいいのさ。こういう時、なんか出そうだろ?」
「出るって何が?」
「……お前ひょっとして、お化けも知らんのか?」
「お化けって何?」
「夜1人で歩いてると鬼に食われるぞ、とか……」
「そんなの昼も一緒だよ」
「……もういい」
モリアは地図を持ち、指示を出す。その通りに動いているが、目的地に着いても何もない。ただ雪が一面に広がっているだけだ。
「おかしいなあ。この辺りのはずだが。もっと北か? いやもっと南か?」
「お宝なんてないんじゃないの?」
「いや、あるはずだ。他ならぬ将軍が言ってたからな」
「ふーん」
「とりあえずこの辺をグルーっと回ってみよう」
「ほいきた」
モリアの指示通り歩いて回ってみる。しかし何もなかった。
「なんでだ? うーん」
「やっぱ何もないんじゃないの?」
「あっ。そうか下か!」
「うん?」
「キシシシ。宝はたぶん、雪の下にあるんだ!」
「そうなの?」
「キシシシ。そうと分かれば明日出直そう。明るくないと精密な位置が分からんからな」
「まあ別にいいけど。暇だから」
俺達の領土に戻ると、家庭教師が怒っていた。しかし彼は無視し、かまくら作りに入る。
まず地面を掘り、そこそこ硬い氷を取り出す。それをブロックのような形に斬る。あとはそれを丸い形に積み上げていく。最後の方はブロックが置けないので、雪で繋ぐ。あっという間にできあがり。モリアのやつは。やっぱこいつ器用だわ。
俺のやつは、ダメだ時間がかかり過ぎる。
「キシシシシシ。手伝ってやろうか?」
「いやでも、モリアと俺ではサイズが違いすぎる。それに影で操れる巨大な動物もいないし」
「キシシシシ。いるじゃねえかよ」
「まさか、俺とか言わないよね? 死体しか操れないって」
「生者を操るのは難しいが、俺の影をお前に与えることで、お前が俺の技術を手に入れることはできるのさ」
「マジ?」
「キシシシ。ほれ」
モリアの影がモリアから離れ、俺に突っ込んでくる。影は俺に触れ、そのまま浸透し、なんかすっごいものが入ってきた。よく分からないけど、グンと力とか知恵とかが漲ってきた。すげえ。なんだこれ。
「ほら、かまくら作ってみろ」
「できる。できるぞ。今の俺なら、効率的方法で。キシシシシ」
えっ、変な笑い方が移った? なんで? まあいっか。