鬼の子の物語   作:おにこ

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黒駒制圧完了

 モリアは拾った捕虜、死体達を一旦カマクラに集めた。そこで捕虜の影を抜き取り、死体に入れていく。即興でゾンビ兵の完成だ。

 

「キシシシ。牛丸との戦闘で痛手を負っている今がチャンス。あまり時間をかけると治療も進むし拠点を動かされるかもしれねえ。今すぐ、こちらから仕掛けるぞ」

「いいよー」

 

 俺は人間のゾンビ兵と動物のゾンビ兵を例の巨大な袋に入れ、担ぐ。モリアは俺の肩に乗る。こうして移動するのが一番速いのだ。

 拷問で吐かせた黒駒の拠点は実はいくつもある。麻薬工場、武器工場、炭鉱、輸送船、歓楽街、等々。彼等は悪行を重ねつつも普通の商売もやっているのだ。俺達が狙うのは、炭鉱とその近くにある武器工場。おそらく総大将は歓楽街におり、そちらは牛丸に取られてしまうが、今回は名より実を取る。武器工場が手に入れば俺達に必要な職人、武器、金が手に入るのだ。それに、街には一般人も多くいるので巨体の俺やモリアは戦い辛い。その点、炭鉱や武器工場なら気兼ねなく破壊できる。爆発したりしたら危なそうだけどね。

 

 炭鉱は希美という島の山奥にあるという。鈴後の北西の島だ。険しい山が多く、隠れ家になりそうな場所がいくつもある。拷問して吐かせた場所が、合っていればいいが。

 

「この付近に採掘場へ続く洞窟があるはず。であるならば、武器工場も近くに」

 

 モリアは俺の肩を離れ、影に乗って飛んで移動する。こうするとさらに高さが出て、遠くを見渡せる。

 

「ふむ。少し木々が薄くなった所から、煙が出ているな。武器工場はあそこだろう」

 

 モリアが飛んで先導する。俺は彼に従ってついていく。

 と、不意に銃声が聞こえた。それも何発も。モリアが笑みを浮かべて言う。

 

「やつら出てきやがった! 戦闘だ!」

 

 敵がモリアに気付き、撃ってきたようだ。その後も銃声、砲撃が勢いよく続く。本当に多い。攻撃の終わる気配がない。モリアはたまらず高度を下げ、木々に身を隠す。

 

「さすがに武器工場。銃弾や砲弾はたらふくあるってことか?」

 

 モリアは避け切れなかったらしく、頬や肩から血を流している。

 

「どうするの? まだ戦える?」

「ふん。こんなもん傷でもねえよ。それに、遠距離戦で俺が負けることはありえねえ」

 

 モリアは自分の影を工場に放つ。こいつは負傷しない無敵の影、敵の弾幕がいくらすごかろうが、何度も形を取り戻す。そしていつか弾が切れたら、食らい尽くすだろう。

 

「黙って見てるってのも退屈だから、俺も攻撃するよ」

「ああ。ゾンビ兵も解放しよう」

 

 俺は布を開く。そこからゾンビとなった動物や人が現れて、モリアの指示で敵基地に突っ込んでいく。俺は、その辺の巨木を割り、投げる。巨木は砲撃でひしゃげるが、大部分は基地に到達し、破壊する。

 

「ふふっ。あと何度耐えられるかな?」

 

 と、しかし向こうの砲撃もこちらに飛んでくる。すごい数だ。避けきれない。

 

「あいたっ」

 

 痛い、熱い。血が出ちゃいそう。死ぬほどではないけど苦しい。鬼に軽く殴られる感じ。それを何発も受けると俺でもキツい。

 

「おい! 投げるなら移動してからにしろ! 俺の位置が向こうにバレる!」

 

 モリアの怒鳴り声を聞く間にも、俺は移動している。しかし敵の弾幕があまりにも多いので、背中や足元に何発も当たってる。多少痛い。

 モリアは森に完全に隠れられるが、俺の巨体だとはみ出て見えてしまう。だからかなり離れないと撃たれちゃう。でもあんまり離れたら俺の攻撃も届かないんだよなあ。問題は敵の大砲の性能とどちらが上かだな。ただ、ここは山だから高さの問題もある。上から下に投げる(撃つ)方が距離が出る。地形の有利を使ってみるか?

 俺は少し方向を変え、山を登りながら距離を取っていく。しばらくすると、敵の砲撃が止んだ。

 

「よし。ここまで離れると撃ってこないみたいだ」

 

 距離はだいたい小型海王類3匹分くらいだろうか。これなら俺の投擲でも届く。ただし、コントロールの問題があるが。

 

「せい! どっ、せい! せい!」

 

 木を千切り、投げる。また千切り、投げる。石ころも投げてみる。モリアの方には飛ばないように気をつけながら。命中率は5%くらいか? ほとんど当たってない。木って形が一定じゃないから当てるの難しいんだよね。葉っぱが風を受けちゃうし。石ころの方が当てやすそうだ。

 

「えい! えい! そりゃ!」

 

 おお、いい感じに当たってるぞ。この調子で続けるか。

 ふふふ、ゾンビ兵もようやく到達したみたいだな。クマが侍を食ってるのが見える。ま、クマの方も何匹かやられてるけどね。さすがに拠点の侍は雑魚ばかりではないらしい。

 と、ゾンビの壁から抜けてきた侍が1人、2人、3人、こちらに走ってくる。そこそこ強そうだ。身長もチビ人間にしては大きいかな。モリア程ではないけど。

 

「オラァ! 遠方から好き放題投げやがって!」

 

 ほう、侍の1人が、俺に斬撃を放ってきやがった。俺達鬼が使う斬撃と比べるとその規模はしょぼいが、斬撃自体は鬼の中でも上位の戦闘能力を持つ者しか使えない技。この侍、技量はなかなかだな。

 俺は手のひらで斬撃を受けてみる。痛い。ちょっと切れた。鬼に爪で引っかかれた感じ。まあこんなもんかな。

 

「チッ、直接斬らねえと効果は薄いか」

「お返し!」

「ぐっ」

 

 俺は地面から砂利みたいな石ころをたくさん広い、ババッと広範囲に投げる。俺達にとって砂利でもチビ人間にとっては顔くらいの大きさがある。雑魚が当たれば死ぬだろうね。モリアなら打撲くらいで済むかも。

 

「ほれー、ほれー、ほれー」

 

 砂利を何度も何度も投げかける。それだけで3人の侍は吹き飛ばされ、血を流し、動きが鈍くなる。

 

「菊さん! 私達は回り込みます!」

「3方向から攻めましょう!」

 

 3人の侍は三方向に別れた。何をするのかな。おもしろそうだから放置してみよう。

 

「てめえ、なんで攻撃してこねえ。余裕のつもりか?」

「うん。だって余裕だもん」

「はんっ、後で吠え面かきやがれ」

「くすくす。……わんっ! わんっ! 似てるかな?」

「戦いの最中に遊んでんじゃねえ!」

 

 戦いねえ。俺にとっちゃ戯れてるようなもんだからなあ。もうちょっと強い相手じゃないと歯ごたえがない。

 まあ、この人はもともと怪我してたようだし、それがなければもう少し強かったのかもしれないが。

 

 と、待っていると侍は三方向に位置できた。そこから、一斉に切りかかってきた。

 

「おおっと!」

「ぐあっ」

 

 菊と呼ばれている侍の攻撃は、ちょっとヤバそうだったので先に手のひらで叩いた。向こうも攻撃してたからちょっと斬られちゃったけど、まあ薄皮一枚切れたくらいかな。男の方は高々と舞い上がり、基地を超えて山の向こうへと吹っ飛んでいく。チビ人間だし死んだんじゃないかな。

 他2人は放置してたから斬られちゃうけど。

 

「おー、気持ちいい」

「なんて硬い肌っ」

「私の流桜が、通じない?」

 

 海王類の皮は切れたけど、俺の筋肉は斬れてない。背中の痒いところを引っかいてくれたって感じだな。多少血は出るかもしれないが。

 

「ま、頑張った方かな。はい少量の土」

 

 俺はまた土をほじくり、投げかける。

 

「それは岩だ! うおおっ!」

「でっけぇ岩が! グギャッ」

 

 多少腕に自信がある者でも、こんなものだ。やはり種族の差は大きすぎるな。モリアは俺ともそこそこ戦えるが、あいつはたぶん間の子だからなあ。

 さて、敵拠点の方はどうなったか。まだ砲撃は続いている。やはり武器工場だけあって戦いが長引くのかなあ。また石ころ投げる。

 

「えいっ。えいっ。えいっ」

 

 30分くらい、石を投げ続けていた。何度か基地で大爆発が起き、悲鳴が聞こえてきた。そしてとうとう、敵の砲撃がやんだ。

 諦めてくれたかな? 俺は石ころを投げるのをやめて、待ってみる。10分くらい待つと、モリアがこちらに飛んできた。

 

「キシシシシ。降伏するんだとよ。これで武器工場と人材は俺達のもんだ」

「おおっ。よかったよかった。ところでモリア、ずいぶん傷ついてるね」

 

 見ると頬の傷が増えてるし、泥だらけだし、わき腹も切られてる。深くはなさそうだけどね。

 

「ああ、覇気使いがいたんだ。強かったぜ。まさかゾンビの影を使わされるとはな」

 

 あれかあ。数にもよるけどゾンビの影をモリアにたくさん入れたら俺より強くなるからなあ。それほどの相手がいたのか。

 

「へー。仲間になってくれるの?」

「それは交渉次第だな」

「こっちもそこそこ強そうなのが1人いたよ。そいつはぶっ飛ばしちゃったけどね。そこに寝てる2人も雑魚ではないかな。モリアに比べれば弱いけど」

「キシシシシ。ありゃ女じゃねえか。容赦ねえなあ」

 

 倒れているうちの一人が女だったらしい。

 

「あれ? でも侍は男だけでしょ?」

 

 と、母から聞いていた。

 

「ヤクザの黒駒を侍とは言わねえよ。それと女の侍はいる」

「ふーん。そうなんだ。ところで女は攻撃しちゃダメなの?」

「ダメじゃあねえが、ふつうの男はできるだけ女を傷つけねえもんだ」

「へー。こっちは皆戦士って感じだからよく分からないんだよねえ。まあ一応殺さないよう手加減はしてたけど」

「キシシシシ。まあ戦闘中にそれだけ余裕があれば上出来だ」

 

 残った手で軽くつまみ、基地へと移動する。近づくと砕け散ったゾンビ兵や人の死体が見えてきた。俺が投げた石ころで潰れた人もいる。悲しいけどこれが戦いだ。人質にするとか言って向こうからこっちに攻撃してくるんだから仕方ない。鬼ヶ島の連中に比べたら弱いから恐くはないが。

 動いているゾンビ兵もいる。彼等は忙しく降参した敵を縄で縛っている。

 

「どいつ? その強い侍」

「あいつだ。キシシシシ」

 

 黒服の男が、顔を血まみれにし、大の字になって横たわっている。白眼をむいており気絶しているが、息はあるようだ。ところで服の質が少し、見慣れない感じだな。高級なのだろうか?

 

「たぶんこいつは、海外人だな」

 

 モリアが黒服を見て言う。

 

「えっ、分かるの?」

「キシシシ。俺も海外にいたからな。ひょっとしたら政府の人間かもしれねえ。役人はこういう服を着たがるからな。少し質が違う気もするが」

「政府? 役人? 何それ」

「ワノ国の外じゃ、200近くの国を束ねる巨大な世界政府があるのさ。その役人じゃねえかな。ワノ国は世界政府に加盟してないが、この国の兵器加工技術、そして武力、欲しいはずだ。密かに役人を送っても不思議じゃない。黒駒みたいな犯罪組織はいい隠れ蓑になるしな」

「へー。なんだかおもしろそうだね」

「キシシシシ。なんだそりゃ。おもしろいか?」

「だって隠れて悪いことやってるわけでしょ? なんだか複雑な事情がありそうで、おもしろそうじゃん」

「キシシシシ。どうだかな」

 

 俺達が話している間にも、ゾンビは敵を縛り終えていた。既にモリアに服従を誓った人間は、ゾンビに金庫の開け方を説明し、金を渡している。その金がさらにモリアに渡す。モリアはほくほく顔だ。

 

「さてお前達、選ばせてやる。俺の部下になるか、ここで死ぬかをな!」

 

 モリアが脅すように言う。彼等はそっと頭を下げた。全員が服従を選ぶようだ。まあ、ここで歯向かうような骨のある連中は既に殺し終えているからな。ただ、気絶している者の返答はまだだが。

 

「よし、ならばお前達は今日から俺の部下だ。安心しろ。悪いようにはしねえよ。俺も心強い部下と武器が欲しいからな」

「あと大工」

「キシシシシ。そう、今は特に大工は重宝するぜ。どでかい城、どでかい船を作る予定だからよお。さあて職人は名乗り出な」

 

 縛られた男達はビクッと震え、顔を見合わせる。しばらくして、おずおずと口を開く。

 

「お、俺は大工もやってたぞ」

「俺は石職人だ」

「俺は船」

「俺は武器しか作ったことねえが、それでもいいんだろ?」

「ああ構わねえ。キシシシシ」

 

 ここは武器工場なので、ほぼ全員が何らかの職人。見習いや雑用の子ども、事務的な仕事をしていた女、戦闘専門の男も少しはいるが、たいていは武器職人との兼任。これだけいれば、城の製作に取り掛かることができるだろう。何せ影を入れれば俺やオーズが作業できるのだ。オーズの巨体ならば巨大な城でも不自由なく作ることができる。

 

「よし、選別はこんなもんでいいだろう。ガキと女は鈴後に連れて行き、男は一先ずここに残して工場の修理をさせる。その間に影は抜いておき、ゾンビに入れて鈴後で城と船を作らせる。どうだ完璧だろ」

「ガキと女いる?」

「ま、人質みたいなもんだな。影を抜いておけば太陽に当たることはできないが、夜中は移動できる。脱走の可能性がある。それを防ぐための人質だ」

「ふーん。そういうのが効果あるんだ」

 

 鬼はたぶん、子どもなんて見捨ててさっさと逃げるか反乱するだろうなあ。

 

「武器の販売についてだが。どうやら黒駒は主に海外向けに売っていたようだ。それはこの国では犯罪だが、今後の展開を考えると悪くねえ。工場が修理できたら、武器の販売自体は今まで通りやらせりゃいい。その金を徴収するのが、黒駒から俺に変わるってだけだ」

「犯罪ってことは、こっそりやるの?」

「まあ、既にバレにくい販路があるんだろう。今まで通りやらせりゃいい」

「ふーん」

「政府の役人が、俺を認めない可能性もあるがな。そんときゃ将軍に全部話して、役人の首を手柄にしようかな」

「どっちに転んでもってやつだね」

「こっそり武器を売る方が儲かるだろうがな。伝電虫は、俺が持っておく」

 

 そうしてモリアはガキ、女、影、少量の強いゾンビ、気絶した侍を連れて鈴後に帰って行った。鈴後の警備を整えてから、もう一度こちらに帰ってくるらしい。その間俺はお留守番。他にも多くの弱いゾンビがここに残ってるし、その中には今回の戦闘で出た死体から作った新しいゾンビもいる。黒駒がこの拠点の奪還に動く可能性が高いからだ。今頃牛丸に狩られているかもしれないが、生き残りが再起を賭けてここに来ることもありえる。

 それはそれとして、腹が減った。今日は山菜をガッツリ食べよう。負傷者の分も、採ってきた方がいいかな。

 

 この吉備の山は、鈴後と違って暖かいので山菜に恵まれていた。栗、柿、どんぐりなんかも文字通り山ほどあった。食べる物に苦労しないという点では、鈴後よりいいかもしれないな。

 ただし、暑い分腐りやすい、海王類の毛皮が、臭くなりやすい。俺は早々に毛皮を脱いで、裸で生活することになってしまった。まあ仕方ない。

 武器工場の修理について、高い所の作業や、岩や大木を退ける作業は、俺も手伝った。石や鉄を加工する機械の大部分は巨大で頑丈だったので壊れておらず、すぐに復旧できた。鉱物を運ぶトロッコの修理の方が時間がかかったかもしれない。

 

 職人達は作業初日にビクビクしていたが、二日目には慣れたものだった。図々しくも要求してきた。

 

「仕事終わりのいっぱいがないのは辛いっす。酒くらいくださいよー」

「最低でも月に2回は、街にイかせてくださいよ。俺もまだ若えんだ。こんな男所帯じゃあ、出るもんも出ねえ」

「妻子にはいつ会わせてくれるんで?」

 

 酒はあげたが、移動の許可は出さず、妻子との面会も知らんで通した。彼等はどんどんやる気を無くしていった。作業効率が悪くなっていった。怒った方がいいのだろうか。しかしビビらせるのは好きではないので、放置していた。その頃だ。見張りのゾンビ犬が、吠えた。

 

「敵が来た。やっとか」

「アオオオオオオオン! アオアオ、アオオオオオオオオオン!」

 

 犬の遠吠え。そして銃声が聞こえてくる。武器工場の職人は、にわかに活気を帯びた。

 

「おやぶんが来たんだ!」

「きっと菊様が報告してくれたんだ! あの人は生きてると思ってた!」

「助けてくだせえおやぶん! こんな時のためにみかじめ料払ってきたんすから!」

 

 彼等は皆、黒駒の勝利を願っていた。これほど喜ばれては、戦うのに躊躇してしまいそうになる。だが、俺はここをモリアに任されたのだ。鈴後へ先に攻め込んできたのは黒駒というのもあるし、負けてやることはできんなあ。

 

 銃声の方へ駆け寄る。ゾンビが、たった3人の侍に、蹂躙されている。そのうちの1人は先日俺がぶっ飛ばしたやつだが、残り2人は知らないな。

 

「出たぞイッショウ、鬼だ!」

「見りゃあ分かりますよ」

「ケヒヒヒ。出血大サービスで、今までの借金チャラにしてやろうってんだ。負けるんじゃねえぞ」

 

 どうやら1人は借金の末に雇われたみたいだな。面倒なことにそいつが一番強そうだが。まあ、オーズほどの威圧感はない。

 その1人が、俺へと大きくジャンプして突っ込んできた。ヤバいな雰囲気があるぞ。斬られるかもしれん。なら、こちらも攻撃で合わせる。

 

「オラァ!」

 

 俺の爪と、相手の刀がぶつかりあう。硬ってえなあこいつの刀。重さも信じられんくらい重い。チビ人間とは思えないとんでもない力だ。鬼を相手にしている気分だ。

 

「グッ」

「おっと」

 

 衝撃でお互いに弾かれる。体重の関係もあり、相手の方が大きく離れるが、俺も大勢を崩してしまっている。追撃はできない。

 

「隙あり!」

「うおっ」

 

 その隙に、工場のやつらが菊様と呼んでいた侍が攻撃してきやがった。侍の癖にズルい戦法するのなあ。あっ、黒駒は侍じゃなかったか。

 俺の皮膚が少し斬れて、血が流れる。痛い。

 

「よぉおおしいいぞお! やれやれえええ!」

 

 強いやつと一対一なら勝負になりそうだが、三対一はキツいなあ。ここはまた、あの戦法で行くか。

 俺は3人に背を向け、山を登っていく。

 

「なっ、逃げるだろ! 追え! 追え!」

「卑怯な! 逃げるんじゃない!」

 

 やつらは俺を追いかけるが、身体の大きさが近すぎるので俺の方が速い。そして、これは逃げたわけではない。距離を開けただけだ。俺は立ち止まり、手で地面の石ころを大雑把に掻っ攫う。

 

「おらよ!」

 

 前回と同じように、石ころを投げて攻撃するのだ。

 

「またそれか!」

「うわぁ! お、おい! 俺を助けろ!」

「大丈夫ですかい?」

 

 強いやつが偉そうなやつを庇い、二人とも無事。残されたもう1人は、少し傷を負う。よし、いい感じだ。これで削ってみるか。

 

「オラァ! オララァ! 少量の土だオリャア!」

「どこが少量!」

「岩だ! うわああああ!」

「うーん。これはマズいですなあ」

 

 投げる、投げる。何度も投げる。庇われてない方のやつが、ズタボロになり、とうとう刀からを手を離してしまう。次の一撃で、こいつは終わりだろう。

 

「オラァアア!」

「しまった」

「お、おい!」

 

 止めと思い、懇親の力で土砂を投げかけてみる。ところが、そこで強い男はその弱った方を庇いにいった。偉そうな男は、盾を失い攻撃を直接受けてしまう。これは、死んだかな?

 

「イッショウ、何故俺を……」

「女を見捨てるようじゃあ、武士の名がすたる」

「武士なら主を救えよ! おい! だいたい俺は男として!」

 

 なんだ? あいつも女だったのか? しかし男だなんだと言っている。よく分からんなあ。

 

「はあー、雇い主が死んじまったんじゃあ。今回はただ働きだあ。あんたどうします? あっしらを見逃してくれるってんなら、あっしも大人しく帰りますが」

「勝手に決めんな!」

「うん? 俺は別にお前達を殺す気はないよ。行ってよし」

「さあ彼にああ言ってることだし。帰りましょうや。姫」

「姫って言うな! 勝手に決めるな! だいたいお前借金はどうする! 返せるのか!?」

「それもまた、天が決めることでさあ。では鬼の旦那、失礼しやした」

 

 強い男は頭を下げ、女を無理やり連れて帰ろうとする。だが、俺は待ったをかけてしまうのだった。

 

「ああ、そう言えばモリアには強いやつを勧誘するよう言われてるんだった。お前等、うちで働く気はないか? 部下になるなら歓迎する」

 

 2人は立ち止まる。

 

「……ああ言ってますが?」

「バカ野朗! ご恩ある主人を簡単に裏切れるか!? 武士を舐めるな!」

 

 ダメみたいだ。まあ仕方ない。強いやつほど我も強い。それは鬼もチビ人間も同じみたいだな。

 

 それからしばらくして、モリアが帰ってきた。モリアは人質を鈴後に送り届け、ゾンビ兵を増員した後、都に寄って将軍に今回のことを報告したらしい。黒駒の襲撃を受け、それを撃退したと。武器工場のことは隠して。そこで牛丸と鉢合わせ、手柄自慢をされたそうな。

 予想通り牛丸は本拠地である歓楽街を襲撃し、制圧したらしい。黒駒は負け惜しみのようにまだ武器工場が残ってるとか言っていたそうだが、そこは俺達が潰しているので当然援軍などあるはずがなかった。そして一番重要なのが、総大将、黒駒シャブの首を獲ったか否かだ。牛丸は取れなかった。黒駒は1人で逃げてしまったらしい。海外へ逃げた可能性もあり、捜索は困難とのこと。

 

「そのシャブって、こいつじゃね?」

 

 先日の三人のうち、俺の土砂にさらされて死んでしまった男。ゾンビにするために、腐らないよう地面に埋めていた。それを掘り起こし、モリアに見せる。

 傷が酷いのでよく分からないが、たぶん黒駒シャブらしい。やっぱりか。モリアは明日死体を持ってもう一度都に戻ることにした。戻る前に、真剣な顔で重大な話があると言ってきた。

 

「やはり黒駒は政府の連中に武器を売っていたみたいだ。ところが、販売先には政府の敵である金獅子のシキやキャプテン・ジョンの名も出てきた」

「金獅子? キャプテン・ジョン?」

「金獅子は海外の有名な海賊だ。ワノ国を追放された黒炭の子でもある。キャプテン・ジョンは残虐さで有名だな」

「えっ、国外に出たのってコウナントカだけだって言ってなかった?」

「有名過ぎて逆に忘れてたんだよ。金獅子は」

「そんなことあるかなあ」

「どうだっていいだろ。とにかく、電伝虫で連絡は済ませてある。世界政府は武器さえ売ってくれれば取引相手は俺でもいいらしい。金獅子もそうだった。だが、ジョンはダメだった。やつは俺に、無料で武器を流すようふっかけてきやがったんだ」

 

 モリアは珍しく、うろたえているように見える。

 

「もちろん俺は断ったが、後々戦闘になるかもしれねえ。その覚悟はしておいてくれ」

「う、うん。いいけど、ただのチビ人間なんでしょ?」

「やつらを舐めるな。かつてこの海を支配した、伝説の一味の残党だぞ」

 

 そんなことを言われても、俺にはよく分からないのだった。

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