ルド大陸転生記   作:ぱぴろま

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注意:この二次創作作品の原作は18禁ゲームとなっております。当作品にも数多くのそうした表現が登場するため、それらに堪えられない方はブラウザの戻るボタンをクリックして下さい。
なんてのは手遅れですかね。


3rd

 冒険者という職業、あるいは生き方は、傭兵など戦いを専門に請け負う戦争屋と異なり便利屋という側面も持つ。どちらも、国家などの大きな権力に雇われこそすれ直接は属したがらない自由人な気質があった。ただ、傭兵が傭兵団など一個の群体を形成し活動しているのに対し、冒険者達は単独、ペア、あるいはパーティと、比較的少数で活動している。それは元々冒険者というものが、未知の解明・踏破を己が好奇心と欲望のもとに達成してきた者であるためだ。それゆえ、彼らは多数で行動することを望まず、フットワークの軽さを重視していた。戦いを主とする傭兵と違い各々が目指すものは千差万別、とかく、冒険者達は傭兵以上に自由を愛しているといえるだろう。

 

 しかし、過ぎた自由とは不自由とも同義である。彼らは他者から束縛されることを拒む代わりに、庇護されることも放棄してしまっているのだ。つまるところ、彼らには後ろ盾が、ない。国に守られる国民、属する団に養われる傭兵。それぞれ、形は違えど組織に束縛されることと引き換えに、一定の安寧を得ているのだ。

 ゴールドを稼ぐためには冒険をしなければならない。しかし、冒険をするにも前準備がいる。物資、情報、人手、コネ、それら全てを個人単位で揃えることは、困難極まる。そして結局そのためにゴールドがいる。それが、冒険者の不自由だ。

 

 とは言え、不自由ばかりでは終わらせないのが人間の社会である。

 最初に始めたのは誰だったのか、冒険者をバックアップする組織が、ある時自然に誕生した。冒険を引退した元冒険者や、親しい者を亡くした遺族が発端ではないかとは言われるものの、真相は定かではない。ともかく、そのシステムはあちこちへと爆発的に広まっていった。冒険者の、民間からの仕事を請け負う便利屋としての側面が生まれたのも、この頃からだ。

 

 冒険者相互扶助組合、通称冒険者ギルド。組合間で主に情報などのやり取りはあるものの、各地に在する組織自体はそれぞれで独立して成り立っている。そのため、組合毎に形態に多少の差異があった。だが、今やあらゆる都市に一つ、ないしは複数その組合が置かれており、地域と密接につながりながら冒険者のバックアップを行っている。

 冒険者達はそれぞれの冒険者ギルドと契約し、各々の自主性を維持しながらも仕事の斡旋や情報提供、冒険者仲間の紹介など、様々な援助を受けていた。

 

 ここ、自由都市アイスの冒険者ギルドでもそれは変わらない。民間から仕事を請け負いながら、よそのギルドとも提携をとり、仕事に適した冒険者を、また冒険者には望む仕事を紹介している。が、最近ではその流れに淀みが生じ始めていた。

 

 アイスにある冒険者ギルドで昨今特に注目されているのは、ドーレンギルドと、キースギルドの二つである。

 片やアイスでは古参のギルドであり、元はアイス一帯の仕事を一手に引き受けていたドーレンギルド。そして、そのドーレンギルドから離反した冒険者が新しく立ち上げたキースギルド。

 一応商売敵同士である故、そのギルド同士が仲良しこよしになろうはずがない。

 

 問題は、彼らが商売敵である以上に不仲であったことだろうか。

 

 

 

 

 

 

「よぉフリーズ。戻ったか」

 

 ギルド長の執務室に入ったフリーズとスピアに、見事に禿げ上がった頭の男が片手を上げる。

 鍛えあげられた体躯に、隙のない身のこなし、余裕の滲んだ笑みで只者ではない風格を醸しだすのは、ここキースギルドの長、キース・ゴールドであった。その堂々たる様はむしろ、正規組織のそれよりもイリーガルなマフィアのボスに相応しい。

 キースの座る椅子とデスクは極めて豪奢なものでありながら、お金がないのか部屋の内装が比較的質素なために、キースの存在とその周囲だけが景色の中で些か浮いている。

 

「で、どうだった」

「やはり、以前と比べると野盗の数が増大しているようだ。……まさか、村一つ焼くほどとは思わなかったがな」

「そうか。どうにも、愉快なことじゃないな。それで? 大本はヘルマンか?」

「確証はない。が、十中八九そうだろうな。どいつもこいつも痩せちゃいたが、肉さえついていればヘルマン人の体格そのものだった」

 

 ヘルマン帝国。大陸の北方を占める、大陸一の歴史、国土、軍事力を持つ、紛れも無い大国である。

 鉱物資源が豊富に存在しており重工業が盛んだが、如何せん寒冷地方であるために衣食住においてはあまりに過酷な環境にある地域だった。それ故、温暖にあり豊かな国土を持つ、ヘルマンとタメを張るほどの大国リーザスに、ヘルマンは既に六度も、大規模な侵攻を行っていた。

 

 さて、そのヘルマンの転機の一つとなったのが、とある大物評議委員の死去だ。その人物は武芸のみならず政治力にも長けていたために、策謀・謀殺の類は幾度と無く自力で跳ね除けてきた。しかし、そんな人物も病には勝てなかったのだ。

 それに端を発する、ヘルマン上層部の腐敗の始まり。確かにその国土ゆえ人材は豊富で、上層部にも未だに優秀かつ公正な人物は数多くいる。が、それ以上にヘルマンという国は大きすぎた。それは国土という意味だけでなく、そこにいる人間達の思想という点でもだ。例え武技に優れようと、例え民生に優れようと、ヘルマンを真に良き方向に進めようとする者達の中に、権謀術数に詳しい人材はいなかった。彼らは、良くも悪くも正直過ぎたのだ。そのため、過分に自己利益に走る者達の専横を彼らでは完全には止められず、大国ヘルマンは少しずつ、少しずつ腐り始めていた。

 

「その上、ヘルマン皇帝は迎え入れた後妻にかまける始末だ。最近じゃ浪費が激しいそうだし、皇帝も昔はボンクラってわけでもなかったらしいが、老いで耄碌したかね」

「ヘルマンは、貧しくとも精強ではある。落伍者がこちら側に流れてきているようだが、ヘルマンそのものはまだしばらく保つだろうよ。仮にも大国、腐り切るにも時間がかかる。切っ掛け一つでどちらにも転ぶさ」

「ふん! 再生だろうが崩壊だろうが、こっちに塁が及ばなければそれでいいんだよ。野盗連中もでかい山脈があるってのに、ご苦労なことだぜ。そんな気力があるなら、他にすることがあるだろうに。ともかく、これからも盗賊は増えるだろうし、戦力の増強が必要だな……」

 

 キースはつるつるとした頭頂部に手を当てて、面倒くさそうに呟いた。それに、フリーズは苦笑する。

 もちろんのことながら、一冒険者ギルドがそこまでのことを気にする必要などはないのだ。冒険者は便利屋であって、治安維持を主としているわけではない。にも関わらずキースがそちらに手を伸ばしているのは、キースギルドが組織として未だ若輩であるためだった。所属する冒険者の数は少なく、またコネはあれどそれらもまだ開拓が今一つ進んでいなかった。だがキースは、情報が武器になることを知っていた。それをもって、アイスの都市長などお偉方との繋がりを密にしようとしていたのだ。

 

「苦労をかけるな」

「そう思うんなら、しっかり働いてくれよ、フリーズ。今のキースギルドの稼ぎ頭はお前なんだからな」

「分かっている……」

「……ところでさっきっから気になっていたんだが。そこにいる嬢ちゃんは、一体何なんだ?」

 

 そう言って、キースはフリーズの斜め後ろに大人しく立っていたスピアを指さした。内容を理解しているのかいないのか、スピアは二人の話を身動ぎもせずずっと黙って聞いていたのだ。

 

「……」

「あぁ。拾った」

「拾ったってお前。わんわんやにゃんにゃんじゃないんだぞ」

 

 愛玩動物にもされるムシを例に上げながら、キースは改めて上から下まで視線を巡らせて、スピアを観察した。

 

 歳は大体十代前後。あちこちピンピンはねた、手入れのされていないパサパサとした茶色い髪と、不健康に痩せた身体。ちびた服の袖や半ズボンから見える手足には、幾つもの傷跡がうかがえる。さらには不似合いな、見るからに手作りの胸当てと鞘を装備しており、全体的にちぐはぐでみすぼらしい。どこかの路地裏にでもいそうな、どう見ても浮浪児じみた風体だ。

 が、そんな中にあってその容貌だけが異彩を放っていた。痩せて薄汚れてはいたが、その薄白い顔にだけは一切の傷跡がなく、まるでそこだけは傷つけることを禁じられているかのような、妖しい魅力があった。パッチリとした二重瞼に、吸い込まれそうな茶色の瞳、すっと通った鼻梁の先には、桜のように小さな唇が据えられている。人形のような、という例えが当てはまらない、人間味溢れる造形をしていた。そして、どれも形容するなら可愛らしい、といった風情の特徴なのだが、何故か妙に異性を惹きつける匂い立つような色香を持っていた。

 このまま成長すれば、さぞ男達に身体を狙われるような女になることだろう。(ただしホモは除く)

 

 しかしそんな整った容姿をしていながらも、その顔に浮かべる表情は乏しくキースを見つめる瞳は無感情そのもの。

 が、それでいてその瞳の中に、激しく生きようとする活力と静かな理知的な光が同居していることを、様々な人間を見てきたキースは気付いていた。

 

「……それで、その嬢ちゃんをどうするつもりなんだ? お前は」

「冒険者になりたいらしい。俺は、その手助けだ」

「おいおい。第三者の俺がどうこう言うのも何だが、無茶だろ。その痩せた細腕で、何が出来る」

「そう見えるだろ。だが、これでももうレベルは10を越してる。イカマンやハニーを複数体倒した実績もあるしな」

「ほぉ。子供に何やらせてんだという突っ込みはさておき、将来有望だな」

「そういうことだ。何より、本人がそれを望む以上俺はそれを叶えてやるつもりだ。こいつ自身が止める気にならない限りな」

「そーか。ま、お前がそう決めたんなら、俺ももう何も言わねぇよ」

 

 とは口で言いながらも、心中ではキースもフリーズの方針に賛成していた。この物騒な世の中、モンスターも怖いが、害意・悪意を持った人間はさらに別の意味で恐ろしい。自分の身を守る術を持っていなければ、この娘は直ちにおぞましい目に合うだろうとキースは確信していた。……娘の様子を見る限り、もう既に合っている可能性のほうが濃厚だったが、こうしてフリーズに教えを請う程度には絶望していないのなら大丈夫だろうと、キースはそれ以上詳しいことを聞くのは止めておいた。

 

 と、おもむろにフリーズがキースに近寄り、心持ち小声で話しかける。

 

「それで、できればなんだが……」

「何だ、似合わねぇことしやがって。気持ち悪いぞ」

「俺に何かあったら、頼む」

 

 フリーズのその言葉に、キースは少し眉を顰めた。

 

「……子守は出来んぞ」

「見た目の年齢以上に、頭の回転は速いようだ。支援程度の世話で構わない、あとは自分で何とかするだろうさ」

「それぐらいなら、構わんが」

「助かる」

 

 フリーズはキースから離れると、今度は後ろでじっと佇んでいたスピアの背中を押してキースの方に近付けた。

 

「こいつはキース・ゴールド、俺のかつての冒険者仲間だ。これから世話になるかどうかは自分で決めろ。とりあえず、挨拶だけはしておけ」

「……初めまして。スピア、です」

 

 言葉少なに、ぶつ切りに。口を小さく動かしてスピアがキースに会釈する。そのたどたどしいしゃべり口は、言葉は正しく理解しているものの、ただ今までしゃべっていなかったのでまだそうすることに慣れていないだけのように見えた。

 しかし、その一連の動作の中、スピアがキースから目を離すことはなかった。その仕草に、敵意はない。ただ、キース同様にスピアの方もキースを観察しているだけだった。何かを見極めようとしている、キースにはそう感じられた。

 

「こりゃご丁寧にどうも。俺はキース・ゴールド、このキースギルドのボスをやっている。ちなみに、思わず揉みたくなるような美人秘書を募集中だ」

 

 そこで言葉を切り、少し考えたあとに再びキースは口を開いた。

 

「どうだ? ウチのギルドと契約しておくか、スピア嬢ちゃん。冒険者ってのは実力が物を言う仕事だ。何分今は人手が足りなくてなぁ、子供でも大歓迎だ」

 

 

 

 

 

 

 キース氏が、予想以上に若禿でした。

 第一原作キャラと初の衝撃邂逅を果たし、俺は感動と諦観の中でギルドを出て行くフリーズの背中を追いかけていた。

 

「意外だったな」

「何が?」

 

 フリーズの呟いた独り言に反応して、聞いてみる。

 

「キースは義理堅く気の良い奴だが、仕事には存外シビアだ。剽軽に振舞っているように見えてもな」

「ふぅん」

「そんなキースが、お前を一目見て勧誘したんだ。何か思うところがあったのか、あるいは気に入られたのかもな」

「そっか」

 

 キース氏との付き合いが長いらしいフリーズと、彼の一面しか見ることのなかった原作経験者である俺とでは、やはりキース氏から受ける印象には差異がある。しかし、俺もフリーズもキース氏に向けている感情は正のものだ。信用・信頼の違いはあれど、少なくとも頼っても良い人物ではあるのだろう。

 そう考えた俺は、キースギルドとの契約に頷いた。子供であること以外に未熟ということも加味されたので、今は名前のみの試験期間ではあるが、これで俺もようやく仮とはいえ冒険者と言える存在となれたのだ。

 そうだ、冒険だ。あの村からここまで来るのには、モンスターの相手をしていただけ。それはそれで楽しめたが、冒険、と認められるような高揚感とは到底言えなかった。

 だからこそ、これからのめくるめく冒険に期待して、俺はウキウキする気分を堪えきれなかった。

 

「冒険、行くの?」

 

 俺は、抑えられない好奇心を声に出してフリーズに尋ねた。

 フリーズは、キース氏に俺の特訓に丁度いい迷宮を聞いていた。そして、それのついでにこなせるような手頃な依頼も。代わり映えのしなかった、先の見通せるような既知の平原ではない、全く知らないダンジョンを探索することが出来るのだ。期待をしない、わけがない。

 しかし、フリーズは首を横に振った。

 

「いや。いいかスピア、くれぐれも忘れるなよ。冒険ってのは、始める前が重要なんだ。特に、携帯食料や道具類を消費した今はな。それに、装備も新調するぞ。いつまでもその身体に合っていない戦利品を使わせるわけにはいかん。その剣、特にこだわりはないんだろ」

「もちろん」

 

 これが剣だから、使っていただけ。愛着など微塵もなく、正直どうでもいい。

 

「それに、腹も減ってきただろう。丁度昼時だ、飯にしよう」

「わぁい」

 

 村にいた時は語るまでもなく、アイスまでの道中も味気ない携帯食料の繰り返しだった。お陰で飢餓一歩手前の状態からは回復したものの、俺は娯楽としての“食”に飢えていたのだ。これでようやく、生まれて初めてまともな物が食べられる。俺は諸手を上げて喜びたいのを必至で我慢して、フリーズに言ってみた。

 

「へんでろぱ。食べてみたい」

「おお。へんでろぱ、へんでろぱ、な。…………あれ高いんだよなぁ。期待させといて悪いが、イカカレーや焼きそば辺りで我慢してくれ」

「うん。ありがと」

 

 それでも十分過ぎるデス。

 申し訳無さそうにぽんぽんと頭を撫でてくるフリーズに、俺は逆に申し訳なくなりながら、せめて精一杯の感謝を込めて頷いた。

 

 

 

 

 

 この世界に憧れて、一度は折れて。そして今また再び、憧れている。

 真実を知っていれば、どうしようもなく生きにくい世界なのだけれど、それと同じぐらいにこの世界は魅力的だ。全てを手に入れよう、と思うほど強欲でも傲慢でもないし、ましてや自殺願望もない。だが、世界を見てみたいとは思う。ただただ気の向くままに、誰かに邪魔されることなく、自分のしたいことをやり通したいと思う。

 俺は、誰かに何かを強制されることが嫌いだ。この世界は弱肉強食。自分の好きに生きたいのなら、自分が強者になるしかない。だから強く、ただ、強く。いつの日にか、心の安寧を得られるまで。

 

 




レベル神のことについて、恥ずかしながら存じ上げませんでした。ただ、主人公は生まれた時よりその特異性からマッハに目をつけられており、また面白いからと見過ごされてきました。本人は知りませんが、契約も勝手に結ばれているものです。

にわかゆえ、今後もこのような矛盾が多分にあるかと思いますが、ご指導ご鞭撻のほどよろしくお願いいたします。

また、副詞の誤用報告に感謝いたします。なんかあった違和感がすっきりしました。

ところで皆さん、色々こだわりがあるようで面白いですね。自分も、ネット小説を読んでいて趣味が合致すると、無性に楽しくなるものです。

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