超特急論破 後編   作:鳶子

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4章 世界の中心で少年は何を叫ぶ
(非)日常編1


✧ ✧ ✧

 

超高校級の生徒を集めて殺し合い。

これだけの大仕事を裏から完全にコントロールするのは難しい。

この事から"参加者の中に黒幕、或いは内通者がいる可能性が高い"。目の前の男がそう推理した事は間違っていなかった。

 

「単刀直入に言います…黒幕は貴方だ、照翠くん」

 

この男にとっての問題は現在の状況全てだ。

黒幕に雇われただけの内通者を目前に口火を切ってしまった。監視カメラの向こうから両者の手元、言葉、何なら表情さえも見えてしまうこの角度、この位置で。尤もこの位置に誘導したのは僕だが。

この男の口火にガソリンを撒いて大火事にするのが僕の仕事であり、流れとしては間違っていない。間違ってはいないのだが。

 

「…根拠は?」

 

僕にとっての問題は今の質問に尽きる。

僕さえ耄碌していなければ、こんな早くの内に僕が黒幕側の人間だとは解らない筈だ。いつも通り、何ならいつも以上にその辺は気を使っている。僕が具体的な証拠を落としていないと断言する為に金を払ってやっても良い。

ともすれば故意に限らずヘマをしたのは僕では無くもう一人の方だ。

 

「ボクは…この学園生活が始まってからずっと皆のことを調査していました。その中で貴方は特にこの状況でも常に冷静だった。…まるで最初から全て分かっていたかのように」

「マネキンが串刺しになったのは中々ビックリしたぞ」

「リアクションの話だけではありま…」

「ならばもう少し具体的な話をしろ。冷静な人間は本当に僕だけだったか?同じ理論で僕が貴様を疑って他から信用されると思うか?」

「それは、」

 

詭弁だ。今のは僕より考える時間を与えない為の問い掛けに過ぎない。そんな事は此方も勿論理解している。

 

「…今は…具体的な話はできません。まずはボクの質問に答えてください」

「……」

「貴方は…このコロシアイの首謀者、黒幕ではないですか、照翠くん」

「……」

「貴方はここまでずっと…この状況にあまりにも順応し過ぎている。疑問や反感の一つも見せずに」

「……ふむ」

「…沈黙は肯定と受け取っても良いのですか」

「勝手にしろ。僕が"違う"と答えても貴様を完全に納得させられる証拠は無い。僕を納得させられない貴様と同じだ」

 

特に面白くもないが僕の返答にこの男は少々面食らったらしい。

 

「…とは言え曖昧な答えだけというのもフェアでは無いな。サービスとして貴様が具体的な話を出来ない理由を当ててやる」

 

探偵と犯人。この両者の関係性の中で、犯人という生き物は探偵に名指しでその悪事の追求をされたら認めるように出来ている。諦めが悪ければ抵抗や反論という選択肢もあるが、最終的には探偵が決定的で確たる証拠を突き付けて屈服させるものだ。

今この関係性が成立しない理由は明確。この場にいる二人が"探偵と犯人"ではないから。只の"探偵助手と内通者"でしかないのだ。

 

「僕を疑う証拠はあるが、僕と話した事でその証拠を突き付けるには証拠その物が疑わしくなった。…違うか?」

 

一瞬瞳が揺れた。が、その反応にも返事にも興味は無い。

この男が本当に僕の態度という不明瞭な根拠だけで僕を本気で疑っているのだとしたらお粗末が過ぎる。そこまでの凡骨なら僕はこの場からさっさと離れているだろう。

 

「…見てはいけない物を見てしまったんだろ? 笑至贄。」

 

気に食わない笑みが少し薄れる。

犯人、今回ばかりは黒幕として睨んだ相手が罪を認めることもせず、はたまたハッキリと否認すらしない。しかも自分が尋問してやる筈が尋問される立場になっている。"探偵"としても、"超高校級の探偵助手"としても、こんな経験はそう無い。そもそもあったらこんな展開には本人がしないだろう。

 

「…貴方は、何処まで見えているんですか」

 

僕の問い掛けに微かに首を横に振った後でやっと口が揺れ動いた。

此方が座り、向こうが立って僕を見下ろしている。この視点から見る他人の動揺は千差万別と言えいつも似たように見える。…今回は僕がこの男より先に情報を得ていたとは言え、少し違うように見えて欲しかったが。

 

「…さぁ。三割程度だったが貴様と話して少し増えたかな」

「だったら、」

「聞かせろと?断る。貴様には一つも教えてやらん」

「何故ですか、貴方は…」

「あぁ、勿論僕は黒幕ではない。貴様が今考えている通り…僕が黒幕ならもっと上手くやる。僕なら貴様にこの段階で情報なんかくれてやる訳無い」

 

猜疑心から警戒心。目は口ほどに物を言う、とはよく言うが、それをあまり表に出さないこの男は、本来ならば他人の表情から考えている事や些細な感情の揺れを見抜き、推理をするのだろう。僕の尋問から一体どこまで推理し得たのだろうか。

 

「…待ちなさい、まだ話は終わっていません」

 

お互いに言葉が止まったところで僕が席を立つと諦めが悪い声に呼び止められる。漸く高さが揃った視線を合わせてやると相手の喉が震えた。

 

「いや、今回は終わりだ。今の貴様に僕を納得させられる推理は出来ない」

 

一方的に言葉と手で探偵の解決譚を打ち切る。コレも探偵からすれば暴挙と受け取るのだろうか?

 

 

【挿絵表示】

 

 

「次に会う時までにもう一度推理を纏めておけ。僕に反論される隙がない、完璧な推理を。」

 

口を塞いでいるので返事は無いが、微かに頷いた気がしたので解放する。別に頷いてなくとも僕には関係無い。不満とも動揺とも取れそうな顔を無視して、目に悪い廊下へと歩を進めた。

 

 

✧ ✧ ✧

 

「………さい」

「…き………さい」

 

「起きてください!」

 

「うわあ!?!!?!?」

飛び起きて目を開けると、真っ赤な双眸が僕をじっと見つめていた。

その瞳には、見覚えがある。

 

「……教えてください」

2つの目は遠ざかっていく。最初に出会った時と同じ状況。変わったのは、ここが僕の寄宿舎の部屋の、ベッドの上であることぐらいだ。

 

「…どうしてボクは、生きているんですか」

「…笑至くん」

 

綺麗な顔に張り付いた表情からは、すべての感情を読み取ることはできないけど、動揺しているのは僕でもわかる。

 

「ボクは、あの時…殺されたはずでしょう?」

 

目に浮かぶのは、大量の鉄パイプに貫かれた笑至くんの身体と、苦悶の表情と、涙。あの時彼は、確かにこのコロシアイから離脱したはずだった…自分の死を以て。

 

「意識が戻った時、ボクは自室のベッドの上にいました。身体に異常はなく、頭もスッキリとしている。…ええ、もちろん、あの時の全身を貫かれた感覚もはっきりと覚えています。傷は全く残っていませんが」

 

笑至くんの身体を見ると、確かに綺麗なままだった。あの無惨な死体の面影はどこにもない。

 

「…貴方なら、何か知ってるかもしれない、と思いこうして足を運んできた訳ですが、その表情からして…何か、ご存知なんですね?」

「…うん」

僕は小さく頷く。

「笑至くん。君は、モノケンのボーナスの"黄泉がえりの書"で、生き返ったんだ」

「生き返った……?」

 

笑至くんのこんなに驚いた顔もそう簡単には見られないだろう。当たり前だ。人が生き返るなんて普通はありえないことだ。ましてや自分が死ぬ時の感覚を覚えているなら、余計に信じられないだろう…。

彼を一度は自分たちが殺してしまったという罪悪感で、胸がチクリと痛む。

 

「僕が亡くなった7人の名前が書いてあるカードを引いて、それで君が生き返ることになったのが昨日。それで朝起きたら、今の状況なんだけど…」

「何ですか、その限りなく公平性を欠いたシステム。7枚のカードが裏返されているなら、本当に7人全員の名前が書いてあるかなんて分からないのに」

「い、言われてみれば確かにそうだね……」

 

そういえば、全くそんなことは確認してなかったな…。あのカードは全員にチャンスがあると思って、疑いもなく引いてしまった。

 

「…まあいいです。そこら辺の怪しいミラクルについては後々じっくり考えるとしましょう。それより、ボクが死んでいた間に5人の方が犠牲になったんですね?」

 

その言葉を受けて、2番目、3番目の事件で亡くなった5人のことを思い出す。犠牲になった、という言い方からして、たぶん、笑至くんはそれらの事件のことを知らないのだろう。

犠牲になった人だけでなく、犠牲を生み出して、処刑された人もいるのだから。

 

「うん。話すよ…5人のこと。話は長くなるし、うまく説明できないかもしれないけど」

「大丈夫です。思い出すのも辛いでしょう、話さなくていい、とは言えませんがゆっくりで構いません」

 

笑至くんは僕を安心させるように優しく微笑んだ。その笑顔が懐かしくて、ずっと緊張しきっていた身体がふっと開放されたような気がした。

 

僕は笑至くんにこれまでのことを語った。

野々熊さんが陰崎さんに殺されてしまったこと。

月詠くんが頭を打って流血し、気を失っていたけど無事回復したこと。

陰崎さんがお母さんのために外に出たがっていたこと。

僕が陰崎さんを犯人と突き止め、彼女がおしおきされたこと。

 

片原さんがスティーヴンくんに殺されてしまったこと。

スティーヴンくんの多重人格のこと。

切ヶ谷さんがジョンくんに背中に毒矢を刺されたあと、揚羽くんに殺されたこと。

そして…スティーヴンくんがおしおきされたこと。

 

「…そうですか、」

笑至くんは聴き終わった後に大きく一つ息を吐いた。

「宗形くん、それで全部ですか?」

「え?うん、笑至くんがいない間に起こった事件はこれで全部だと思うけど…」

「いえ、まだ話し足りない、というか誰かに聞いて欲しいことがあるように見えたので。…おそらく、貴方自身の感情の問題だと思いますが」

「………」

 

感情の問題。そう言われて、思い当たることは一つだけあった。

 

「…僕は、切ヶ谷さんのことが好きだったんだ」

 

自分の声が震えるのを感じた。笑至くんが微かに、目を見張る。

 

「笑至くんがいなくなってから、切ヶ谷さんは僕を心配してずっとそばにいて、僕を励ましてくれてて。僕は、太陽みたいに明るいあの子と一緒にいられて、辛い中でも、楽しいことがたくさんあって。

もっと、もっと一緒にいたかったんだ…!」

 

 

【挿絵表示】

 

 

そう言った途端、今までずっと我慢してた涙が、止まらなくなって溢れてきた。

 

「……僕はっ、切ヶ谷さんの電話を聞いたのに、…彼女は、僕に、助けを求めてたのに……最期の瞬間すら看取れなく、て……」

 

堪えていた感情がどんどんせり返ってくる。悔しい。彼女の信頼に報いることもできずに、彼女は死んでしまった。これがあの状況の中では最善だったとわかっていても、後悔の気持ちが次々に胸を締め付ける。

 

「…宗形くん……」

 

笑至くんは僕の背中を、とん、とん、と涙が止まるまで優しく叩いてくれた。背中に感じた手の温もりで彼は生きているんだ、って思った。

 

よかった。

笑至くんは、笑至くんのままだ。

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