超特急論破 後編   作:鳶子

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(非)日常編10

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▶side:こむぎ

 

朝起きて食堂に行くと、今日もレジスタンスの3人はいなかった。朝ご飯は荒川さんと芥原さんが作ったらしく、ご飯と味噌汁、少し焦げた魚がちょん、と明らかに魚用ではないお皿の上に鎮座している。

 

「宗形さん。昨日の監視はどうだった?」

佐島くんが魚をつつきながら小声で僕に聞いてくる。

「えっと、夜時間になって一人一人バラバラに30分おきぐらいに出てったよ」

「ああ、たぶんお風呂だろうね…うん、予想通りだ。それ以外には特に何もなかった?」

「うん。ずっと見てたけど後は何も…」

「そう。ありがとう」

 

佐島くんは何事もなかったかのように食事を続ける。僕も食事に戻り、やや硬めのご飯をよく噛んで食べた。

 

 

✧ ✧ ✧

 

「黒幕を見つけるには、やっぱり、あの3人と接触するしかないと思うんだよね」

佐島くんは食堂から出ると開口一番、そう言った。

 

「笑至さんは黒幕をほぼ突き止めてるみたいなことを言っていたし、月詠さんは内通者だから黒幕の正体がわかっている可能性は高いし。無闇に死体を漁ったりして証拠を探し回るより、明らかにそっちの方が簡単だよ」

「それはそうだけど…でも鍵が閉まってるのにどうやって3人に会うの?」

「お風呂の時には出てくるんでしょ?その時に誰か1人を捕まえればいいよ。1人捕まえればあとは芋づる式に出てきてくれるんじゃないかな」

佐島くんは涼しい顔でそう言ったけど、本当にうまくいくのかな…。

 

「そういえば、このチームの名前を決めてなかったね」

「なまえ……?」

掃気さんが首を傾げる。

「向こうがレジスタンスっていう名前がついてるんだから、こっちも何か名前があった方がいいかなと思って。宗形さん、何がいいと思う?」

「えっ…!?」

 

突然言われても何も思いつかないな…。ホットケーキの時から2人とは仲良くなったから…

「……くまさんズ、とか?」

「…………」

佐島くんの目線が一気に冷たくなった。

「くまさん…もこ、すき……」

「ありがとう、掃気さん…」

掃気さんの言葉がどこか慰めのようにも聞こえて、自分の命名センスのなさに悲しくなる。

 

「まあいいよ、くまさんズで……名前が可愛らしい方が相手を油断させられるしね」

佐島くんが諦めたように首を縦に振った。

「じゃ、今晩に作戦決行で。がんばろう、くまさんズ」

「…えいえい、おー……」

「お、おー…!」

 

 

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▶side:凰玄

 

「言い忘れてたけど…昨日、監視カメラを見つけたワ」

寝袋から這い出て、1番にそう言った。うまく隠してあったが、こちらだって伊達に軍人をやっている訳では無い。

「…監視カメラ?」

眠たそうに目をこすりながら月詠が聞き返してくる。目のクマからしても、あまり熟睡はできていないようだ。

 

「時計塔を出たところにね。草むらに隠してあったから、おそらく誰かがわざと仕掛けたんだと思うけど」

「それは、まったく気づきませんでした」

笑至が携帯食糧を袋から出しながら話を続ける。

 

「しかし、草むらに隠すなんていう不完全な工作を黒幕がするとは思えませんし…となると、あちら側の方々の犯行でしょうね」

「そう思うワ。倉庫にはいくつか犯罪行為に使えそうな道具があったし、あの中なら監視カメラがあってもおかしくない」

「…目的はおそらく、僕達の行動パターンを把握するためでしょう」

3人でいつものように、ちゃぶ台を囲むような形で向かい合う。

 

「昨日ボク達は入浴のために一度時計塔を出ています…それをおそらく確かめたかったのでしょう」

「おにーさん達が外に出た時に、話しかけようとしてるってことなのかな…」

「その可能性が高いわね。こちらを1人捕まえれば全員出てくると思っているんでしょう。典型的な罠ね」

向こう側の目的がはっきりしないため、何を聞きたいかは分からないがおそらく何か用があるのだろう。

 

「何にせよ、昨日とは時間をずらす必要があります。少し早いですが、あちらの方々が普段夕食を食べている時間に入浴しに行きましょうか。3人同時に行けば万が一捕まりそうになっても対処できるはずです」

「うん、2人がいるなら心強いよ」

「…襲いかかってきたら撃退していいのね?」

頭の中であの中のメンバー1人1人に襲撃された場合のシミュレーションをしながら、一応確認する。

 

「構いませんよ。あ、気絶する程度でお願いしますね」

「わかってるわよ…」

「えへへ、こうげんくんは心強いねえ」

「それでは、そういう事で。今日は夜に向けて各々身体を休めましょう」

そう言って笑至は携帯食糧を食べ終えるとすぐに寝袋の中に戻った。たくさん考えるには睡眠もたくさん必要なのかもしれない。

 

腕が鈍っているかもしれないと、日中は月詠に時間を計ってもらい、筋トレをして過ごした。

 

 

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▶side:こむぎ

 

「…………」

僕と佐島くんは監視カメラの映像をじっと見つめていた。いつもなら、そろそろ夕食を食べている頃だ。

「もしかしたら、向こうが時間をずらしてくるかもしれないから対処しておこう」

という佐島くんの言葉に従い、2人で僕の部屋にあるモニターを眺めているのだ。

危ない目に遭わせる訳にはいかないと、掃気さんには普通に夕ご飯を食べてもらっている。

 

「…出てきた」

監視カメラに、月詠くんの靴が映った。彼の靴以外は何も映らない。

「よし、行こう」

僕達は走って寄宿舎を飛び出し、月詠くんの元へと走っていった。

 

「こむぎくん、としおくん…!?」

寄宿舎を出て少し走ったところで、プールへと向かっていた月詠くんとちょうど鉢合わせした。

驚いた様子の月詠くんに、佐島くんの合図で僕が向かおうとしたその時。

 

「…ッ!?」

佐島くんが、どこからか現れた揚羽くんに羽交い締めにされていた。

「月詠さんは、囮だったのか…」

「そうよ。…殺しはしないから、安心しなさい」

そう言って揚羽くんは佐島くんの首をぎゅっと締め上げた。

 

「佐島くん!」

佐島くんの元に駆け寄ろうとすると、誰かに腕を掴まれた。そのまま両腕を後ろでがっちりと拘束される。

「おにーさんを捕まえようとするなんて…めっ!」

…月詠くんだ。ほっそりした彼のどこにそんな力があるんだ…!?

 

「こむぎくん。としおくんをおぶって帰りな。追いかけてきちゃだめだよ」

「うん。…ごめん」

僕は腕を解放されるとぐったりとした佐島くんをおんぶし、寄宿舎へと足を進めた。後ろを振り返ると、僕を静かに見つめる赤い瞳と目が合った。

こうしてくまさんズはレジスタンスに、呆気なく完敗した。

 

 

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▶side:凰玄

 

「うまくいったわね」

シャワーを浴び終えて、肌のケアをしながら先程のことを振り返る。

「はい、お2人ともありがとうございました」

「おにーさん、久しぶりにどきどきしちゃったよ」

乾杯、と水の入ったペットボトルを合わせ、静かに勝利を喜ぶ。

 

「これに懲りて、向こうもしばらくは手を出してこないでしょう。こちらがもう少し動いても、支障はなさそうです。明日から早速、本来の目的に向けて動きましょう」

「黒幕の打倒…ね」

月詠は今度こそこの話題になったら何か言うかと思ったが、特に何も言わず黙っている。

 

「ええ。今晩は今後について話し合いましょう。

多少心理的に余裕ができました、早まる必要はないでしょう。じっくりと作戦を練って、実行に移す。それだけです」

「具体的に実行の日時とかは決まってるの?」

「そうですね…少なくとも3日は証拠集めに時間がかかりそうですから、実行するとしたらその後でしょうね」

 

これまでの一日があまりに中身が多く、思ったよりも3日が随分長く感じてしまう。

「まあ、失敗できないものね…」

「ええ。焦る必要はありません。黒幕はこちらが動かない限りは行動を起こさないでしょうから」

ふと月詠を見ると、心ここに在らずと言った感じで、どこか遠くの方を見ていた。

 

 

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▶side:こむぎ

 

「………」

昨日の失敗から一夜明けて、重たい頭を起こした。昨日の夜遅くに目を覚ました佐島くんは、作戦が失敗した今、しばらくは行動は起こせないだろうと言っていた。

 

僕の気持ちに対応するように、はなちゃんも心なしかしおれたように見える。そろそろ大きめの植木鉢に変えてもいいのかもしれない…。

 

そんなことを考えながら僕は食堂へと向かった。

席につくと、いつもより少しがらんとしてるように思えた。

「…妄崎さんが、いないんだ」

僕がそうつぶやくと、みんなが不思議そうな顔をした。

「くぐはらは見てないですよ!」

「い、いつも結構早くに来てますよね…」

「寝坊したんじゃないの?」

 

「一応、みんなで見に行ってみようよ」

佐島くんの言葉に従い、僕らは妄崎さんの部屋に向かった。

「…鍵が開いてる」

そっとドアを開けて入ってみると、ベッドの上に妄崎さんの姿はなかった。

 

「…宗形さん」

佐島くんに指さされて、僕が視線を横にずらすと、

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

ドアのすぐ横。ベッドの方ばかり見ていた僕は、それに全く気づくことができていなかった。

 

頭から血を流した妄崎さんが、力なく床に座り込んでいた。

 

「ひゃあ…っ!?!?」

「妄崎さん!?大丈夫ですか!」

「あちゃー…死んでるね」

室内に取り付けられたスピーカーから、アナウンスが無常にも響き渡る。

 

 

「ピンポンパンポーン!死体が発見されました!オマエラ、すぐに現場の寄宿舎に向かってくださーい!」

 

「…どうして」

こうして、波乱の日常は幕を閉じ。

再び、悲惨な事件の幕が上がってしまった。

 

 

【4章 日常編】 END

 

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