超特急論破 後編   作:鳶子

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非日常編3

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「………」

僕は今、自分自身の疑いを晴らすために考えなきゃいけない。

笑至くんからもらったヒントは、遺体に関する証拠から僕以外の誰かが真犯人である証拠を導き出すこと。

でも、あの遺体の中にあった中で、犯行のヒントになるものって一体なんだろう…?

 

あの頭の出血から、男子の犯行の可能性が高いことはわかるが、完全に誰がやったかを決めることはできない。もし決めようとしたら、僕が1番怪しいことになってしまう…。

首を絞められた跡からも、捜査中に考えた通り、誰が犯人かを特定することはできない。

となると、残った証拠は…妄崎さんの爪に付着していた、赤い"何か"だ。

 

だけど、あの正体が何なのかは今の僕には分からない。それが分かれば、決定的な証拠を突きつけることもできるかもしれないけど…。

「…そうだ」

分からなかったら、聞いてみればいいんだ。…それが仲間を信頼するってことなんじゃないのか?

僕はずっと、1人で何とかしようとしていた。周りにこんなにも頼れる仲間達がいるのに…。

 

 

「実は妄崎さんの爪の中に、赤い何かが付着してるのを捜査中に見つけたんだ」

「…爪の中に?」

僕が恐る恐る話すと、笑至くんが反応してくれた。周りのみんなも、僕の言葉に顔を上げて考え始める様子を見せる。

 

「あの遺体の首に吉川線はありませんでしたが…そうですか、爪には残っていたんですね」

「吉川線…?」

聞き覚えの無い言葉だ。みんなのきょとんとした顔を見て、笑至くんが説明してくれる。

 

「被害者の、首に見られるひっかき傷の跡をを指す言葉です。首を絞められた時に被害者が縄や相手の腕を解こうとする際に、発生するものです」

「そうなんだ…でもそれが、爪のあれと何か関係があるの?」

「はい。吉川線がある時は、同時に、被害者の爪にも血液や皮膚の断面が付着していることが多いんですよ」

 

「今回は手で首を絞めていたので、引っ掻いたとしても相手の手に当たってしまったのでしょう。ですから、妄崎さんの爪に付着していたのは、もしかしたら犯人の血液かもしれませんね」

笑至くんがそうまとめる。でも、あの爪の中に入り込んでいたのって、あんまり血っぽくはなかったような…。

 

「妄崎さんの爪の中に付いてたのは、血ではなかったと思うんだ。もう少し、なんというか、人工的な赤色だったような気がして……」

僕は思ったことを正直にみんなに伝えた。

「よく分からないな。つまりどういうこと?それが本当に犯人を決定する証拠になるのかな?」

佐島くんがすかさず再び僕を責め立てる。

「としおくん、こむぎくんの邪魔しちゃだめだよ」

月詠くんが強めの口調でそう言い、佐島くんは少し不機嫌そうに口を閉ざした。

 

妄崎さんは首を絞められて抵抗し、相手の手を引っ掻いた…もしあれが、犯人の血じゃないとしたら…?

「へー、ボクわかっちゃったかも」

議論の行く末を観察するようにじっと聞いていた根焼くんが、突然口を開いた。

 

「それって、相手の手を引っ掻こうとして相手の爪を強く引っ掻いたんじゃないの?」

「…爪?」

「そうそう。ほら、もうわかるじゃん?この中で誰が1番怪しいのか、さ」

相手の爪を引っ掻いて赤いものが付着する。それってもしかして、

「…ネイル」

僕はひとつの確証を持って呟いた。

「妄崎さんは、犯人のネイルを引っ掻いた…?」

 

根焼くんは満足気に頷いた。

「ボクもそう思ったんだよねー、妄崎さんが抵抗して強く引っ掻いて、相手のネイルが爪に入ったんじゃないかって」

「………」

自分で出した結論が、信じられない。

…確かに、1人には絞ることができた。でも、これで本当に正しいのか?どう考えてもおかしいだろう。

 

 

だって、赤いネイルを塗っている人なんて、1人しかいないじゃないか…!

僕はネイルの持ち主を見た。彼は毅然とした態度で立っている。

「…揚羽くん。君は爪に、赤いネイルを塗ってるよね」

「そうだけど…あたしを疑ってるの?」

揚羽くんはこちらに赤いネイルを見せてくる。遠目でも見てもはっきりとわかる赤色が、その爪に塗られていた。

「さっき話してた通り、あたしには確実なアリバイがあるワ。犯行は不可能よ」

 

「それでも、こうやって証拠が見つかったんだから、お前が1番怪しいんだよ?」

根焼くんがにやにやと揚羽くんの方を見ながら言う。

「お前、1回人を殺してるんだし、殺人がバレない悪知恵とかもついてるんじゃないの?」

「…勝手なことを言わないでもらえるかしら」

揚羽くんが不快そうに言い返す。

 

「あっ、そうか!元が軍人だしそもそも人の殺し方なんてとっくの昔に分かってるのかぁ!ごめんごめん、軍人さんは人を殺すことに抵抗ないんだったね!」

「………」

揚羽くんはかなりイライラしているようだけど、わざと無視しているみたいだ。荒川さんや月詠くんが心配そうに2人をきょろきょろと見回している。

 

「揚羽くんのアリバイは既に証明されています。それを崩すのは難しいと思いますが…」

険悪な雰囲気に笑至くんが割って入り、言葉を切って僕を見つめた。どうするんだ、とでも言うように。

揚羽くんが容疑者だと証明しない限り、僕が犯人にされてしまう。今の僕が無罪を主張するには、彼の犯行を証明するしか方法がない…。

 

 

「よくわからなくなってきたですよ!どっちが犯人ですか?」

「わ、私ももう、何がなんだか……」

「こうげんくんは犯人じゃないと思うけど、それだけでこむぎくんを犯人って言い切るのもなあ…」

「おにいちゃん……はんにん…じゃない……」

みんなが思い思いにしゃべり出す。まずいな、このままだと議論がいつまでも進まない…。

 

「ボクは揚羽が犯人だと思うなぁ。コイツの方が殺しに抵抗ないし、軍人さんの身体能力なら監視カメラぐらい避けられるでしょ」

「…あの監視カメラはあたしでも避けられないワ。撮っている範囲が広いし、時計塔から寄宿舎に行くにはあそこを避けては通れない。あたしが寄宿舎に行ったならその姿が映像に映るはずよ」

「アリバイと今出てる証拠、どっちが確実かなんて目に見えてるでしょ。妄崎さんの爪にお前のネイルが残ってるんだから、お前が首を絞めたのはもう決まりだよ。残念だったねぇ」

「………」

「あーあ、切ヶ谷さんを殺した上に妄崎さんまで殺して、お前って血も涙もない最低な奴だな!」

「……………」

 

 

「……ごちゃごちゃと、うるせぇな」

 

俯いてじっと黙り込んでいた揚羽くんが、顔を上げた。前の裁判のあの時と同じような、ぞっとするような冷たい目。

 

「はは!やっと本性見せたなぁ、揚羽。ま、もう遅いけどね」

根焼くんがその顔を見て心底楽しそうに笑い、対照的に揚羽くんは表情を歪める。

「さてさて、もう1回自白するチャンスをあげよっかなー?」

 

根焼くんが悪魔のような笑みを浮かべた。

「切ヶ谷さんの時みたいに、何も知りませ〜ん!みたいな一般人ヅラするのかなー?楽しみだなぁ」

「…根焼夢乃。その減らず口を閉じろ」

「や〜だ♡お前の本性暴いて引きずり出して、みんなに晒してやるもんね」

根焼くんが挑発的な表情を一層強める。

 

 

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「お前が殺ったんだろ?揚羽」

 

「俺は、殺してないッ!」

 

揚羽くんの一吠えで、裁判場は静寂に包まれた。

「…へー。認めないんだ」

「…………」

「宗形!お前、自分が犯人じゃないって証明したいなら、コイツのアリバイを崩したらいいよ!」

根焼くんは、獲物を見つけたようなきらきらとした視線を、今度は僕の方へと向けた。

 

「そうだね。正直僕はまだ宗形さんも怪しいと思うな…揚羽くんのアリバイを不成立にするのは難しそうだしね」

佐島くんがちらりと横目でこちらを見る。その情も温もりもない視線に、背筋がぞくっとした。

…忠告してもらったのに、こんなに簡単に裏切られたんだ。笑至くんがそんな彼を冷ややかな視線で見つめている。

 

 

「俺のアリバイを崩すことは不可能だ。時計塔はあの出入口でしか外と繋がっていない」

揚羽くんが僕に向かって静かに言った。

「………」

本当にそうなのか?出入口以外で外に出られる場所が、何か今までの発言で出ていなかったか…?

 

…そうだ。荒川さんが、時計塔には窓がついていると言っていた。それを使えば、監視カメラを使わずに寄宿舎に移ることが可能かもしれない…!

「笑至くん。時計塔の窓はどこについていたかわかる?」

「管理棟に面する側と、中庭に面する側の2つです」

そう言い終えた笑至くんが、はっと何かに気づくような顔をした。僕は確認を急ぐ。

 

「えっと、時計塔の窓と管理棟の窓との距離って、どのぐらいだったかな?」

「…確か、3m程だったと思います」

「…そのぐらいの距離だったら、時計塔から管理棟の窓に飛び移れたり…しないかな?」

この学園の窓は立て付けが悪いのか、鍵が閉まっていてもがたがたと何度か動かせば開けることができる…窓からの侵入は可能のはずだ。

 

管理棟の中に入ることさえできれば、本校舎の釘バットも取りに行くことができるし、そのまま監視カメラに映らずに寄宿舎に行くこともできる。

「えっと、それは難しいんじゃないかな…」

月詠くんが困ったように僕に話しかける。

 

「2つの窓には高低差があって、時計塔より管理棟の窓の方が位置が高くなってるんだ。

いくらこうげんくんがすごい身体能力の持ち主だからって、さすがに向こうの方が高い窓に向かって3mも跳躍するのは無理だと思うよ…」

「そ、そっか…」

僕は思わずがっくりと肩を落としてしまう。

 

「宗形くん。他になにか見落としている証拠はありませんか?」

「見落としてる証拠…?」

「ええ。君ならきっと何か掴んでいるはずです」

笑至くんは複雑な顔をしていた。まるで全てを悟ってしまったかのような…。後は証拠が揃うのみだ、とでも言いたげだ。

 

「そういえば、管理棟の窓の下あたりに何かが強く擦れたような跡があったけど…」

「それは関係ないって話にならなかったかな。芥原さんの衣装の装飾が擦れた跡でしょ?」

佐島くんが今更持ち出すのか、と言いたげな呆れたような顔で言う。でも、なにか引っかかるような…。

 

「おにいちゃん…ちがう……」

掃気さんが、佐島くんに向かって小さく首を横に振った。

「おねえちゃん…ほんこうしゃ、から……はいってきた……」

 

「…そうだ」

引っかかりの原因は、それだ。芥原さんが空を飛んで入ってきたのは、本校舎の窓からだったんだ。

「じゃあこの傷って、一体…」

「その傷と併せて、安全に管理棟へ渡る方法も考えるべきですね」

飛び移るんじゃなくて、安全に管理棟へ移動する方法か…。

 

「えー?揚羽ってもしかして忍者だったりしたのかなぁ?それか綱渡りのピエロ?」

根焼くんが揚羽くんをまたからかう。揚羽くんはそんな彼を無視して僕の方を向く。

 

「……裁判も終盤だ。そろそろ、どっちが正しいか決着をつけるか」

「…うん」

 

その言葉に頷きつつも、僕は思考を続ける。

…揚羽くんがもしかして登攀用の鉤爪で本校舎の壁を登ったんじゃないか、とも思ったけど、あの壁には出っ張りはないのでそれは却下だ。

でも、あの擦った跡が鉤爪でできた、というのは結構いい時点かもしれない……。

 

「!」

その時、僕の思考にさっきのあの人の言葉が重なって、一つの答えを導き出した。

 

「…揚羽くん」

「いいみたいだな。それじゃあ始めようか。…これは遊びじゃない、半端なものなら容赦なく潰す」

「……うん」

僕は、強く頷いた。

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