(非)日常編1
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さて、そろそろ計画実行といこうか。
楽しいコロシアイもなんか段々つまんなくなってきたし、ぶち壊しちゃおう。
「…黒幕サマはまだ生き残ってるんだよ、あはは」
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翌朝、食堂にご飯を食べに来た人はまばらだった。
この数日間は本当にいろいろなことがあったし、無理はないだろう…。
月詠くんが内通者だという話。妄崎さんが殺され、そして彼女が黒幕だという推理。揚羽くんの死。
信じられないことが多すぎて、考えるだけで頭がクラクラする。今はご飯を食べているから大丈夫だけど、何か体を動かしていないと今すぐパンクしそうだ。
「宗形くん、後で少しお時間を頂いてもよろしいですか」
食堂内の長い沈黙を破って、向かい側に座っていた笑至くんが静かに尋ねる。彼は事件の後でも落ち着いた顔だった。やはりこういう事態には慣れているんだろうか。
「表情に出にくいだけでボクも動揺はしていますよ」
「そ、そうなんだ…」
久々に心を読まれた…。でもなんだか、いつも通りでちょっとだけ安心する。
「それでは後で、宗形くんの部屋に伺いますね」
「う、うん」
そう言って笑至くんは食べ終わった食器を洗いに行った。僕は勝手に彼と通じあったような気でいたけど、そういえばちゃんと仲直りはできていない…。一体何の用なんだろう?
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「先日は、ご迷惑をおかけしました」
開口一番、笑至くんはそう言って深く頭を下げた。
「ええ…!?そ、そんな、怒ったりとかしてないから顔上げてよ…!」
そう言うと、笑至くんはゆっくり元の姿勢に戻った。そのまま床に正座する。
「状況が状況でしたし、致し方なかったと言うのは…言い訳ですね。サポートすると言っておきながら、裏切るような真似をしてしまって、本当に申し訳なく思っています」
「ううん、気にしてないよ。でも、黒幕を倒したいなら言ってくれればよかったのに、その、僕って笑至くんに信用されてなかったのかな、とか思っちゃったり…」
思わず恨み言のような言葉が出てしまい、はっと口を押さえた。それ程までに笑至くんが僕に内緒でいろんなことをしてたのが、なんというか、寂しかったのかもしれない。僕は彼にとってそんなに頼りなかったのかな…。
笑至くんは僕の言葉を聞いて、少し動揺したような顔をした。
「貴方のことは誰よりも信用しているつもりです…口で言っても信じられないかもしれませんが、本当に。生き返ったボクが信用できるのは貴方だけでした」
真っ直ぐな笑至くんの視線に射抜かれるようだ。何か相槌を打とうとしたけど、口をつぐんでしまう。
「ただ、ボクは自分自身が信用できませんから。…貴方をボクが信用できない相手と付き合わせる訳にはいかない。
それに、あの計画は実行すればかなりのリスクを伴いました。ボクは、貴方を危険な事態に巻き込むことはしたくないんです。これはボクのエゴ、我儘ですが。
最終的には、ボクは計画に巻き込んだ仲間を1人失った上に、コロシアイは終わらなかった…計画は失敗も同然です。超高校級が聞いて呆れますね」
そう自虐的につぶやいて、笑至くんは目を伏せた。事件を思い出したのだろうか、拳がきつく握りしめられている。
「…そんなことないよ、笑至くんはコロシアイを終わらせようと生き返ってからもずっと頑張ってたじゃないか。それに、僕はちょっとぐらい危険な目に遭ったって大丈夫だよ。
植物だって大変な時期を越えたら大きく成長するんだ、僕を仲間として信用してくれてるなら、巻き込むぐらいのことはしてもらわないと困るよ!」
「宗形くん…」
「君が例え最初の笑至くんじゃなくたって、君と一緒に今まで過ごした時間は本物だよ。君はもう、僕の大切な仲間なんだ…!」
「………」
呆然としたような笑至くんの目から、涙が静かに零れた。
「え、笑至くん!?」
慌ててハンカチを差し出すと、笑至くんは僕を手で制した。
「…お気になさらず。すみません、こんな恥ずかしいところをお見せしてしまって…」
笑至くんはそう言って俯くと、涙をコートの袖でごしごしと拭った。そのまま言葉を続ける。
「ボクが誰かから信用してもらえるなんて思っていませんでした。
人を疑うのも犯人の恨みを買うのも職業ですから、慣れているつもりでしたが…そうですね。ボクはずっと誰かに、そう言って欲しかったのかもしれません」
「こんな状況下で言うのもなんですが…貴方に出会えてよかった、こむぎくん」
笑至くんは顔を上げ、少し涙目のまま顔を綻ばせた。胸の奥がじわじわとあったかくなるのを感じる。
「これからも、こんなボクと一緒にいてくれますか?」
「もちろん。…僕達は親友なんだから当たり前だよ、僕も精一杯頑張るからさ、何でも頼んでよ」
「…ありがとうございます」
笑至くんは正座したままぺこりと頭を下げた。つられて頭を下げると、傍から見れば互いに土下座し合うような面白い感じになってしまって、思わず笑い声が漏れる。
しばらくすると、笑至くんは不意に立ち上がった。
「それでは行きましょうか。必ず、ボク達の手でこのコロシアイを終わらせましょう」
「そうだね、…贄くん」
僕達は寄宿舎の部屋を出た。外に出ると、空は青く澄んでいて、柔らかく差し込む日差しに目を細める。いい天気だ。
どんな辛いことも、大変なことも、仲間と、贄くんと一緒なら乗り越えられる。そんなぼんやりとした思いは、いつしか確信に変わりつつあった。