✧ ✧ ✧
僕達は本校舎の贄くんの研究教室に来ていた。僕はここで見つけた照翠くんと贄くんの名前が書いてあった契約書を、彼に見せようと思ったんだ。
「あれ…?」
ところが、この前置いておいた場所だけでなく、どこを探してもそれらしきものは見当たらなかった。
「…本当にそんな物があったんですか?」
贄くんは訝しげな顔をして首を傾げている。その表情は本当のようにも、はたまたしらばっくれて僕を騙そうとしてようにも見える。本当だと思いたいけど、贄くんにはまだ僕に言えないことがあるのかもしれない…。
「そういえば、贄くんが妄崎さんを黒幕だと推理したんだよね?」
僕はとりあえず応接用のソファーに座り、贄くんに尋ねた。
「ええ。ボクは最初の殺人の真犯人が妄崎さんであると思っています。あの状況で照翠くんの元へ向かえるのは妄崎さん、芥原さん、根焼くん、ボクの4人でした」
贄くんも向かいの椅子に座り、静かに話し始める。
「小柄な芥原さんが照翠くんを縛って拷問するというのは無理のある話でしょう…魔法でも使ったというなら否定はできませんが。
根焼くんと妄崎さんは殺害が2人とも可能ですが、根焼くんが犯人というのは…あまりに出来すぎているような気がします」
「できすぎてる?」
聞き返すと、笑至くんはこくりと頷いた。
「怪しすぎるんですよ、彼は…才能も分かっていない、言動も掴めない根焼くんは、首謀者としては不向きです。本来、黒幕を探すのなら真っ先に疑われるはずなのは、素性の分からない彼なんですよ。
ボクには、黒幕がそこまで見え透いた容疑者のような位置につくとは思えません。やるなら生徒に完全に紛れ込んだ上で操作した方が、周りにはバレにくいはずです」
「な、なるほど……」
確かに、根焼くんについては僕も知らないことが多い。ふらっとどこかに行くし、いつもどこにいるのかもよく分からない。
最初にみんなとの自己紹介を終えた時、この中で1番怪しい人をあげろと言われたら、僕は根焼くんを選んでいただろう…。
「とは言え、妄崎さんが亡くなってもこうしてコロシアイ生活は続いています。ボクはまた推理を外した、と考えるのが妥当でしょうかね」
そう言って贄くんは肩を竦めた。表情にはやるせなさが滲み出ている。
「っていうことは、今1番怪しいのは…」
「ええ、もうお分かりでしょう?」
きっと今の僕は、目に見えて不安そうな顔をしているだろう。そんな僕を見据えながら、贄くんはきっぱりと言い切った。
「今最も首謀者に近いのは、根焼くんです」
✧ ✧ ✧
上手く今の状況を飲め込めないまま、とりあえず次の話題に移る。贄くんに聞きたいことはまだたくさんある。
「贄くんは、本当に月詠くんが内通者だと思う?」
贄くんは、眉をぴくりと上げた。
「…その可能性は、高いのではないでしょうか。貴方も佐島くんからそれを伺ったんでしょう?」
「う、うん…。月詠くんとモノケンが話してるところを見た人がいたらしいよ。あと、夜時間もみんなの動きを報告しに行ってたんじゃないかって…」
「成程、そんなことを言っていたんですね」
贄くんは少し考えるような素振りを見せた。
「月詠くんは、頭を打って保健室に運ばれた際に、内通者にならないかという提案を持ちかけられたのかもしれませんね」
「あの時に…?でも、どうして彼が内通者なんかに…」
「ボクは見ていませんが、動機ビデオというものがあったんでしょう?それを作成できることからも分かるように、黒幕は外の世界でも、一定以上の力は持っているはずです。
例えば、実際に、お父さんやお母さん、学校の友達がリアルタイムで捕らえられている映像を見せられたら、貴方ならどうしますか?」
そう言われ、みんなが牢屋のような所に入れられて、僕に助けを求めている映像が思い浮かんでぞっとする。
「それは、すごく焦るよ…早く助けなきゃって思うな…」
「ではもし、"自分達に協力しなければ、コイツらを殺す"と言われたら?」
「………」
今では絶対にしないけど、みんなと出会ったばかりの頃なら、黒幕に協力してしまうかもしれない…。
「そのように大切な人を人質に取られたり、定期的に脅されていたりしたら、月詠くんでも手を貸してしまうことは有り得るでしょう」
「そうだね…」
もしなしたら月詠くんは、1人ですごく怖い目に遭ってるのかもしれない。彼を助けるにはどうしたらいいんだ…。
「黒幕を捕まえる他ありませんね。人質を解放させた上で、コロシアイも終わりにさせる…それしか方法はありません」
「うん。月詠くんを絶対に助けよう」
僕は優しい月詠くんの姿を思い浮かべながら、強く頷いた。
✧ ✧ ✧
「…くしゅん!」
「どうしたの?風邪とか?」
「いや、風邪じゃないと思うけど…うーん、誰かに噂でもされたのかな…」
「そうなんじゃない?内通者なんだし、噂されてもしょうがないでしょ」
「………」
「そんな怯えた顔しないでよ、傷ついちゃうなぁ〜」
「…きみ、ほんとに終わらせてくれるんだよね?」
「さあ、どうかなぁ」
「………」
「…おにーさんの家族は、無事なの?」
「……それはこれからのオマエの心がけ次第かなー」
「そう…わかった。最後まで付き合うよ。…これはきみじゃなくて家族のためだ」
「そんなこと言われなくてもわかってるって。オマエがボクのこと嫌いなのも恨んでるのもわかるよ、でももうちょい付き合ってね」
「もうすぐ、このゲームも終わりなんだから、さ」