超特急論破 後編   作:鳶子

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(非)日常編2

朝の放送が流れたのを合図に、僕達は2人で食堂へと向かった。

 

「笑至さん…!?生きてたですか!?」

「あれ〜、笑至くんだ。会いたかったよ、久しぶり〜♡」

「へー、ほんとに生き返ったんだ」

 

食堂に現れた笑至くんをそれぞれが驚いた表情で迎え入れる。お久しぶりです、と言いながら笑至くんは僕の隣に座った。

 

「よく自分を死に追いやった人の横に座れるね」

 

佐島くんが焼きたての食パンを頬張りながら言う。食堂の和やかだった雰囲気がピシッと音を立てるようにして壊れる。

 

「彼はあの時に最善の行動をしたまでです。証拠もない話で周りを撹乱させていた貴方とは違って、ね」

「へえ、擁護するんだ?やっぱり照翠くんを殺してのうのうと生き返ったってことなのかな?」

「憶測で物事を言う癖は相変わらずのようですね。そうやって駄犬のように噛み付いて、ボクが戻ってきたのは貴方にとってそんなに気に食わない出来事なのでしょうか?」

「酷いなあ、僕は仲間との再会を大切にする方だと思うんだけど。せっかくまた会えたのに人のことを駄犬呼ばわりする君とは違って」

 

2人は今にも立ち上がって口論を始めようとしている。まずいな、明らかに険悪な雰囲気だ…。僕と月詠くんが目配せして2人を止めようとした時だった。

 

「……おにいちゃん…けんか、だめ………」

佐島くんの隣に座っていた掃気さんが、彼のセーターの裾をきゅっと掴んだ。

「………ごめんね」

佐島くんは何か言い返すかと思いきや、意外にもそのまますとん、と椅子に座り直した。

 

「…おにいちゃんも…もこ…けんか、こわい……」

掃気さんは笑至くんに向かってふるふると首を横に振った。

「…すみません、かっとなってしまいました」

笑至くんも咳払いをして足を組み、テーブルにあるコーヒーを飲んで一息つく。見事な仲裁だ……。

掃気さんは俯いてまたちまちまと食パンを食べ始め、食堂は何事もなかったかのように元の雰囲気に戻った。

 

いや、おかしな点は一つあった。

揚羽くんが、食堂にまだ姿を現していないのだ。

 

 

「ねえ、揚羽は来ないの?」

根焼くんがそう言い出したのが始まりだった。みんなもなんとなく気づいてはいたけど、言い出せていないような感じだったのだ。

 

「特に何も言われてないけど…朝ご飯、届けに行こうかな…」

「まー、人殺しと同じ食卓になんてつきたくないからいいんだけどね」

 

その物言いに思わず僕は口を出してしまう。

「…根焼くん、その言い方は……」

「えー?だって怖いじゃん、次はボクが日本刀でグサッと殺されちゃうかも〜」

根焼くんはそう言って大袈裟に身震いをすると、月詠くんが持っていた朝食のトレイをひったくるようにして奪った。

「ちょ、ちょっと、むのくん…!?」

「ボクが代わりに様子見てきてあげるよ」

根焼くんはひらひらと手を振って、そのまま食堂を出ていってしまった……。

 

 

✧ ✧ ✧

 

▶︎side:凰玄

 

やかましい朝の放送で叩き起された後、食堂に行く気にもなれずベッドに自堕落に体を預けていた。

 

小町が死んだ…いや、"俺"が殺した。

何もかも悪い夢のようなのに、その実感だけが背中にじっとりと張り付いたように今も残る。

 

「………」

 

枕元には、小さな白い花。

小町が残していった、唯一の遺品の髪飾り。重い腕でそれを取って、胸元に着けた。こんなことに意味は無いとわかってはいるけど、小町が見守ってくれるような気がして、そうせずにはいられなかった。

鏡を見ると、髪の毛はボサボサで、肌のツヤもない。いつもの自分からはかけ離れた姿だ。胸につけた一輪の花だけが清純なもののように思えた。

 

(いや、見守るじゃなくて、監視…か)

 

自分の命を奪った人間を優しく見守る訳がないだろ。

そう自虐的につぶやいて、また布団にくるまろうとした時だった。

 

『ピンポーン』

 

部屋のチャイムが鳴った。誰だろう、と体を反射的に起こして身構える。

 

「揚羽〜〜揚羽〜〜揚羽〜〜」

『ピンポーン ピンポーン』

 

…最悪だ。

チャイムは続けて鳴るが、もちろん無視する。

 

「あ、鍵空いてる」

ガチャッという無遠慮な音と共にドアが開いた。ドアの前に立っているのは顔も見たくないあの男だ。

 

「不用心だなー、誰がいつ殺しに来るかわからないってのに。ま、お前は狙われないだろうけど」

そう言いながら土足で部屋に上がりこもうとしてくる。

「何勝手に入ろうとしてるのよ」

「だって空いてたんだもん、入れって言ってるよーなもんでしょ」

「今すぐ出てって頂戴」

犬を追い払うようにしっしっと手を振ると、明らかに不満そうな顔を見せる。

 

「えぇ〜?わざわざ朝飯届けに来てやったんだけどなぁ……いーや、食っちゃお」

そう言うやいなや、ドアの前で持っていたトレイに乗っていた食パンに齧り付いている。不快という感情を抑え、あくまで紳士的な振る舞いを心がける。

 

「いいわよ別に…食べるならちゃんと食堂行って食べてきなさい。お行儀悪いワよ」

「めんどくさ〜い。もぐもぐ……はー、めっちゃ薄いわこれ、8枚かなあ」

ドアの前にパンの食べカスがぼろぼろと落ちている。人の部屋を何だと思っているのか。

「…あまり散らかさないでほしいのだけど」

 

そう注意すると、パンを頬張ったままの顔を顰められる。結構面白い顔ではあったけど、生憎笑える気分じゃない。

 

「あー、うるさいなぁ…それもどうせキャラ付けなんでしょ?」

パンに飽き足らず、高麗人参のジュースにまで手を出しながら話しかけてくる。

 

「そのぶりっこやめなよ、気持ち悪い」

「…ぶりっ子?何のことかしら」

「お前のことだよ」

「あたしはぶりっ子じゃないわよ」

 

嘘つき、とでも言うように口角が上がり、意地悪そうな笑みが顔に浮かぶ。…これが、この男の本性だ。

「口調感覚振る舞い表情存在全部嘘、嘘だらけだよ」

 

「ほんとは切ヶ谷さんを毒矢で刺したのも、お前だったりして、」

「あたしが小町を毒矢で刺す訳ないでしょ!?」

自分ペースに乗せるための口述だろうとはわかっているが、反論せざるを得ない。

「それはあの裁判で、全部知ってるはずよ……」

 

「………」

じっと黙り込んで様子を見られる。その探りを入れるような覗き込む視線が、以前からどうしようもなく腹立たしい。

 

「前から思ってたけど。あなたさっきからずっとあたしにばっかり嫌味言って、何がしたいのよ」

「裁判の推理だって、結局は宗形の妄想でしょ?お前が2番目だったから間違えずに済んだけどさ」

「……」

今度は自分が黙る番だ。構わずに話は続く。

 

「そーやって自分に嘘ついて馬鹿なフリして生きてるやつってさぁ、その仮面を剥ぎたくなっちゃうんだよ。

みっともなさすぎて。」

 

「…あなた、性格悪いワね」

「ふーん、人殺しにそう言われるとはねぇ」

「……」

「…黙っちゃうんだ、もしかして図星?」

図星も何も、目の前の相手が小町を殺したことはよく分かっているだろうに。

 

「…用はそれだけかしら?早く出てって頂戴」

「超高校級の軍人、だっけぇ?仲良しのいとこさんも殺しちゃうほど残虐でサイテーな奴なんだ、あーあ、次のクロも揚羽になっちゃうのかなぁ!」

「ここら辺に殺虫剤なかったかしら」

言いながら殺虫剤を探す仕草をする。見つけたら本当にかけてやろうかと思った。

 

「…無視できると思ってんの?あ、そうだ!お前がまたクロになればいいんだよ!ボクが協力してあげる。それで、オシオキされなよ負け犬。

ちゃんと死に様、見ててあげるからさ」

 

「根焼夢乃。他に言い残すことは?」

 

素早く日本刀の峯を首元に突き付ける。このまま刃の方を食い込ませたいという気持ちを無理やりに押さえつける。これでも感情のコントロールは得意な方だ。

 

「おー、怖い怖い。そんなお花なんて付けちゃって感傷的になってるつもりでもさ、

お前は結局…力しか使えない、バケモノなんだよ」

 

胸元の白を指さし、ケラケラと小悪魔のように笑って飛び退くと、そのまま一目散に逃げていった。

 

 

「…チッ」

再び静寂が訪れた部屋に、自分の舌打ちだけが空虚に響いた。

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