超特急論破 後編   作:鳶子

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(非)日常編5

✧ ✧ ✧

 

「…………」

 

礼拝堂は異様な沈黙に包まれていた。

これは悪夢か何かだと思いたいけれど、根焼くんの放った一つ一つの言葉が、身体に杭のように刺さって抜けない。その感覚が余計に、これが現実だということを伝えていた。

彼は本当に仲間じゃなかったのか…?今までずっと、僕達は裏切られていた?そんなの、あまりにも惨い。信じきることができない。

 

「………」

僕がそんなことを考えていた時、突然月詠くんが黙ったまま、止める間もなくふらっとした足取りで扉を開けて出ていった。バタン、とまた礼拝堂の中に重い音が響く。その反響音をぼんやりと聞いているしかなかった。

 

「…ここで止まっていても埒が明きませんよ」

贄くんの静かな言葉に、僕ははっと現実に連れ戻されたような気がした。

「こむぎくん、彼の研究教室に行ってみましょう」

「研究教室?」

「彼は最後までボク達に才能を明かしませんでした。ですが研究教室に行けば、もしかしたらそのヒントがあるかもしれません」

 

確かに、根焼くんの才能はまだ分からないままだ。行ってみる価値はあるかもしれない。

「…わかった。行ってみよう」

他のみんなは、放心状態だったりじっと考え込んでいたりしていて、一緒に探索できるような雰囲気じゃない…。僕達は2人で礼拝堂を出た。

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「ここが、根焼くんの研究教室…」

 

お洒落な装飾が施された木でできたドア。鍵はかかっていない。

 

「開けてみましょう」

贄くんの言葉に従ってドアを開けると、

 

 

そこに広がっていたのは、黒、黒、黒。

 

 

床も壁も、天井に至るまで、全てが深い闇色で塗り潰された部屋だった。

 

 

その光景に言いようのない恐怖感を覚えながらも、足を踏み入れる。

中央には硝子でできたテーブルと、血の色のような、真っ赤なふかふかのソファーが置かれている。テーブルの上には読みかけの雑誌のようなものが投げ出してあり、奥の方にある小ぶりな黒い本棚には、何かの資料のようなものが乱雑に詰め込まれていた。

小さな薄型のテレビまで置かれていて、食料さえあればしばらくは生活に困らなそうだ。

 

どんな才能だとこんな研究教室になるんだろう。この部屋が表してるものって、一体…?

「…とりあえず、何か重要なものがないか部屋の中を探しましょう」

贄くんも少し呆気に取られたような、なんとも言えない表情をしている。

 

僕はまず、机の上に置いてあった雑誌のようなものを手に取る。近くで見ると、それは雑誌というよりはスクラップ記事のようなものだった。

パラパラとめくってみると、みんなの顔写真が次から次へと出てくる。慌てて表紙を見てみると、そこには【生徒情報】という文字が印刷されていた。

 

試しに目次に書いてある自分のページを開いてみると、身長体重・才能など、電子生徒手帳に書かれていることだけでなく、僕が家族や仲の良かった友達の写真、中学校の頃の得意教科と苦手教科、園芸部に入ったきっかけなんてことまで書かれている。

彼は首謀者だから、みんなの情報をこんなにたくさん持っていたのか…?確かに、これを元にすればあの動機ビデオの内容を考えることも容易いだろう。

陰崎さんのページを見ると、お母さんとの関係性のところに手書きで赤いアンダーラインが引かれていた…。

 

ふと思い立って、根焼くんのページも開いてみたけれど、名前と顔写真以外には何の情報も載っていない。

…ただ、ページの隅にボールペンで『絶望は希望と共にある』という言葉が書かれていた……。

 

 

生徒情報を机に再び置いて、今度はテレビを調べてみることにした。こうして普通のテレビを見るのも随分と久しぶりだ。

電源を入れると、何分割にもなった映像が出てきた。画面の中には、見慣れた校舎や寄宿舎が映っている。

「これって…」

「監視カメラの映像、でしょうか」

気がつくと、贄くんが横に立ってテレビを眺めていた。

 

「か、監視カメラ…?」

「おそらくこの学園全体に、監視カメラが設置されているのでしょう。ほら、例えばここを見てください」

贄くんの指さしたところを見ると、礼拝堂の中に荒川さんと掃気さんがいるのが映っていた。

「これでボク達の動きがリアルタイムで確認できるのでしょうね。ほとんどの場所に置かれているようですから…映像がないのは、大浴場とお手洗いぐらいでしょうか」

 

僕達は、今までずっとこうやって学園生活を監視されていたのか…。

「…あれ?」

「どうしましたか?」

「これ、教室の映像もないんじゃないかな…?」

画面が切り替わっても、その中に1階の教室の映像は映っていなかった。

 

「本当ですね…もしかしたら、今そこに根焼くんがいるのかもしれません。誰かにここが見つかった時の為に、最初から監視カメラに映らない場所を用意していた、というのは有り得ますね」

「なるほど…」

他の映像を見ても、根焼くんは映っていない。その可能性は高そうだ。

 

「このカメラの履歴を辿れば最初の犯行も映っているのではないかと思いましたが、既に過去の映像は消去されているようですね」

贄くんがテレビの脇に置いてあったリモコンを操作しながらそう言った。これがあるなら、黒幕側が犯人を把握するのは簡単だったんだろう。根焼くんは全ての犯行がわかっていた上で、学級裁判に臨んでいたんだろうか…。

 

「そういえば、本棚を調べている中で、1つ気になるものを見つけましてね」

贄くんは思いついたように、一冊の古びたノートを僕に差し出した。

「このノートに、根焼くんのコロシアイが始まる前までの過去が事細かに書かれているようでした」

「えっ…!?」

 

急いでノートを開いて中身を読み始める。それは三人称形式の日記で、根焼くんの昔の行動が綴られているようだった。

 

『幼い頃から、彼は他の子供達より明らかに秀でていたそうだ。後から聞けば、周りの大人の行動さえ、当時からある程度読めていたらしい。

彼の天賦の才能をもってすれば、人の心を読み、弄ぶことなどきっと容易かっただろう。』

 

確かに、根焼くんって運動も勉強もできるって自分で言っていたような…。人心掌握もやればできてしまいそうなイメージがある。

僕達の今までの行動も、彼にはすべてお見通しだったのかもしれない。

 

ところどころ乱暴に破られてはいるが、幼い頃に家庭崩壊があったことが読み取れた。…続きを読もうとしたけど、読んでいるうちにとても耐えられなくなって、僕はとりあえず最後のページだけを読み、本を閉じた。

そこには、

『かくして少年は、"超高校級の (黒く塗り潰されている) "となった。』

とだけ記されていた。

 

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「…あぁ、もうお前の役目は終わりだよ。素敵な頼れるお仲間達の元に帰るなり、ボクのことを言いふらすなり、好きにしなよ」

「………」

「ナニ?また家族のことが不安なの?だったらボクを殺せば?」

「…そんなこと、できないよ」

「ちぇっ、つまんねーの。お前は意外と度胸ありそうなのになぁ」

 

「最後にもう一回だけ聞いていい?きみは、本当にみんなをここに集めた黒幕なの?」

「…は?ボク、気が変わりやすいからしつこく聞かない方がいいと思うけど。何回も言わせんなって言ってんの。わかるよな?」

 

「……ごめんね」

 

月詠澄輝は、申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 

「さっさと行けば。くれぐれも、ボクに向かって余計なお節介とかしないでね。邪魔だから」

 

…それはやはり、予想通りの反応だった。

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