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「「いただきます」」
僕達は食堂で夕ご飯を食べていた。やっぱりどんな時でも、お腹が空いていたらやる気も出ないだろう。根焼くんと月詠くんを除くみんなが、午前ぶりに集まっていた。
今日のご飯は、佐島くんが作ってくれたらしい。いつものコップではなく、ワイングラスに水が入っている。お肉の焼き加減が絶妙なのに加え、ソースがお皿に綺麗に散らされていて、まるで高級料理店に来たみたいだ。
「こうやってみんなで並んで食べてると、最後の晩餐みたいだね」
もっとも、作った本人はこんなことを言ってるけど…。
月詠くんの家庭的な味は大好きだけど、佐島くんの料理もすごくおいしい。贅沢な料理って感じで、食べるのがもったいなくなってくるな…。
「…1つ提案なんだけど、今晩はここでみんなで泊まるっていうのはどうかな?」
佐島くんがふと箸を置いてそう言った。
「ここで…?」
「うん。黒幕がいるとなると、またこの前みたいなことになるかもしれないだろう?それならみんなで一箇所に集まっておいた方がいいんじゃないかな」
「お泊まり会ですか?くぐはらは賛成です!楽しそうです!」
「み、みんなで集まれば、怖くないですよね…!私、一人で寝るのがすごく不安で……」
「………」
確かに、ここでみんなで集まれば、一人で抜け出すこともできないのかもしれない。
「贄くんはどう思う?」
贄くんは手を口元に当てて考えている。
「方法としては、悪くはないと思います。…提案する側に何らかの意図がなければ、ですが」
「…僕って信用されてないのかな?君が仲間を信用してくださいって言ってたと思うんだけど」
佐島くんは少し困ったように苦笑いをした。
「僕も一応、君達から信用してもらえるように精一杯頑張ってるつもりなんだけどな…」
「おにいちゃん…もこは、しんじてる……」
掃気さんが小さな声で言った。佐島くんはありがとう、と言って話を続ける。
「ここで泊まって、夜中は2人組か何かを作って怪しい動きがないか見張っていればいい。僕が信じられないなら、僕のペアに信用できる人をつければいいよ」
「僕も、みんながばらけて過ごすよりは、安心だと思うな…」
僕はそう同意した。またあんな事件が起こるのは絶対にだめだ。
「…それなら、異論は特にありませんね。ボクやこむぎくんが貴方と一緒に監視をするなら大丈夫でしょう」
贄くんもしぶしぶといった感じで頷いた。
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女子は倉庫にあった布団を持ってきて食堂に敷いて寝ることにして、男子が深夜の監視をすることになった。
それぞれがお風呂に入り、みんなが再び食堂に集まりくつろいでいたその時。
食堂のドアが開き、見慣れた顔が姿を現した。
「…みんな、何してるの?」
月詠くんだ。敷いてある布団を見て怪訝そうな顔をしている。
「やあ、月詠さん。これから全員で食堂に泊まるんだ。良かったら君もどうかな?」
「ちょっと、佐島くん!?」
そんなお泊まり会みたいなノリで、気軽に誘って大丈夫なのか…!?
「…おにーさんがここにいた方が、内通者の行動が監視できるからいいってことなのかな」
月詠くんは静かにそう言って、扉を閉じた。
「へえ。よく分かったね」
佐島くんは悪びれもせず頷く。
…それより僕は、内通者、という言葉が月詠くんの口から出たことに動揺を隠せなかった。
「月詠くん、君はやっぱり…」
「うん。今まで騙しててごめんね、こむぎくん、みんな」
彼は静かにそう言う。普段との月詠くんとは違う、冷静で落ち着いた顔だった。
「おにーさんは、怪我をした後から、ずっとみんなの様子を隠れてモノケンに伝えてたんだ。それなのに黙ってて、仲間のふりして、ほんとに、最低だよね…だから、おにーさんのことはもう、仲間だと思わなくていいよ」
月詠くんは、淡々と僕達に告げる。みんなが息を呑む音が聞こえたような気がする。僕は、喉がからからになっていた。必死で頭の中でどうしたらいいか考える。
「ほ、本当に内通者なんですか…?根焼さんに、言わされてるだけじゃないんですか?月詠さんは、そんなことする人じゃないって、わ、私、思います……!」
荒川さんが、恐る恐ると言った感じで声を上げた。それは、そうあってくれという、悲痛な願いのようにも聞こえた。
「………」
月詠くんは、辛そうに顔を背けた。
「そう思ってたのも全部、印象操作だったんじゃない?君は今まで信じていた人が簡単に裏切っていくのを、これまで何回見てきたのかな」
佐島くんの発した一言に、場の空気が凍りつく。
「……っ」
荒川さんの目から堪えきれなかった涙が零れ落ちた。贄くんが近づき、彼女を落ち着けるように背中をとんとんと叩く。
「内通者だっていうのは、本当だよ。おにーさんは、みんなを今までずっと、裏切ってたんだ」
「それって、黒幕に人質を取られていたとかじゃないの…?しょうがなく従わざるを得なかった、とか…」
僕はそう尋ねる。月詠くんが何もなしにみんなを裏切るなんて思えない。そんなの、全てが信じられなくなってしまう…。
「…それは、言い訳に過ぎないでしょう?確かに、やらなきゃ家族を殺すって脅されたんだ。でも、自分の意思で、やるって決めたのはおにーさんだから」
彼は、唇をぎゅっと噛み締め、ゆっくりと首を横に振って言った。
「………」
きっと、自分の行動を、他人のせいにしたくないんだろう…。もし僕だったらそんなことはできない。月詠くんは強いな、と場違いながら、改めて思った。
「それにしても、内通者だったはずの貴方が、どうしてここにいらしたんですか?」
贄くんが話題を変える。内通者であることがわかってしまっていたあの状況なら、根焼くんのところにいる方が自然なのかもしれない。
「むのくんが、もう内通者の役目は終わりだって…みんなに迷惑かけちゃうかもしれないから、戻るか迷ったんだけど、戻らなくて心配されるよりはいいと思ったんだ。嫌ならすぐいなくなるよ」
「まあ、バレたら内通者の意味もないだろうからね」
佐島くんが肯定する。ということは、根焼くんは今、一人でいるのか…。
月詠くんがここに泊まることには誰も反対せず、11時頃になり、女子のみんなは眠りについた。
じゃんけんで、僕と佐島くんが深夜の監視をすることになった。
「………」
ナツメ球だけがついている薄暗い食堂の中で、みんなの寝顔を見つつ、ぼうっとしながら時間を過ごす。佐島くんは伏し目がちに机に頬杖をついて、じっと何か考え事をしているようだ。
佐島くんは、この状況で何を考えているんだろう。そんなことを思っていた時。
突然、猛烈な眠気が襲ってきた。こんな状況が続いてて、疲れているのかもしれない…?寝ちゃいけないと頭ではわかっているのに。体が、自分では制御できないほどに重たくなっていく。
必死に耐えるけど、瞼が鉛を乗せたように重く、勝手に閉じる。どんどん視界のすべてが薄暗い中にフェイドアウトする。だんだんと、いしきがとおのいていく。ぼくは。ぼくは…。