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「そうは言っても、どうしたらいいのかなあ……」
僕はすっかり頭を抱えてしまっていた。あんなことを言ったはいいけど、良い案は何も思いついていない。
「何も考えていないのに、どうしてああも向こう見ずなことを言うんですか…」
贄くんが僕に呆れたように言う。正論だ…気持ちばかりが先行して今の状況を冷静に見られてなかったけど、もしかしてこれ、かなり詰んでるんじゃないか…?
「かなり、どころではありませんね。厳しいことを言うようですが、犠牲なしで今の状況を動かすことはほぼほぼ無理です。ですからあんな事を言うなら、何か考えがあるのかと思ったのですが…」
「ご、ごめん……」
「まあ、そんな探偵をサポートするのがボクの本来の役目です。やっと助手としての腕の見せどころと言ったところですよ」
贄くんはそう言いながらも大きくため息をついた。うう、苦労かけちゃうなあ…。
とりあえず僕、贄くん、芥原さん、荒川さん、月詠くんの5人で席について、今後について話し始める。
「根焼さんをガミガミ叱ったらどうですか?めってすれば、反省するかもしれません!」
「そ、そんなことして根焼さんが怒っちゃったら大変です…!逆上して皆さんが殺されちゃうかも…」
「ややっ!?それは嫌ですね、こういうことを考えるのは、くぐはらには難しいかもしれないです…」
芥原さんがしょぼんと肩を落とす。芥原さんなりに、真剣に考えてくれてるんだろうな…。
「な、何か、私たちを解放せざるを得ない状況を作るとか、ですかね…?」
荒川さんが控えめな声で次の案を出す。
「解放せざるを得ない状況…って言っても、この学園は根焼くんの支配下だから、下手なことをしたらむしろこっちが追い詰められちゃいそうだよね…」
「根焼くん自身を追い詰めるのが難しいなら、このコロシアイの成立自体を追い詰めればいいのではないでしょうか」
贄くんが考える仕草をしながら言った。
「コロシアイの成立…?」
「はい。このコロシアイはゲームだと言っていましたが、どんなものでも、ルールが破綻していればゲームにはなりません。そこの穴を突けば、そのまま脱出、とはいかなくても何かしらの変化は出るのではないでしょうか」
「でも、カメラで監視したりしてたのに、ゲームが破綻してる所なんて…あ」
そう言いながら気づいた。
あの、最初の殺人。
根焼くんが犯人なら、贄くんが処刑されたのはどう考えてもおかしい。本当はあそこで、不正解のままゲームは終わるはずだったんだ。
「…気付いたようですね。ボクは照翠くんを殺していない。ですから、あの裁判は不成立です。本人も犯行を自供しましたしね」
贄くんは僕に向かって頷いた。
…いや、一瞬納得しかけたけど、疑問は残るな…。
「それでゲームが不成立になるなら、どうして、根焼くんは自分のことを犯人だって言っちゃったんだろう?」
「それは……考えていませんでしたね。もしかしたら何も考えなしに、思わず口走ってしまったのではないか、とは思いますけれど」
「…いいかな、ちょっとだけ」
それまで黙っていた月詠くんが、声を上げた。
「それはおにーさんも疑問に思ってたから、あの後むのくんに会って聞いてみたんだ」
「!」
月詠くんがあの時礼拝堂を出ていったのは、その為だったのか…。
「むのくんは『だから生き返らせてあげたんだしいいでしょ』って言ってたよ。元々あの子、ゲームって題目をつけてはいても、ルールとか気にしなさそうだし…最初で全員がおしおきされるのも、準備してきたむのくんにとっては面白くないだろうし、都合のいいにえくんに犯人を押し付けたのかもね」
「…なるほど……」
確かに、おしおきされた贄くんは、今こうして生き返って僕達のところにいる…。だからって許される訳じゃないけど、月詠くんの言う通り、根焼くんは厳密にルールを決めるってタイプじゃないだろう。
「愉快犯的な犯行は、時に計画的な犯行より厄介なことがありますが…まさに、今がそれですね。これだけ大掛かりなことをしておきながらルールを自ら壊すなんて、ボクだったら考えられません」
「それじゃ、これもだめかあ…。うーん…」
「えっと、なんかごめんね…おにーさんも、がんばって考えてみるね」
月詠くんが申し訳なさそうに謝る。議論はまたスタート地点に戻ってしまった。
その後、みんなで考え続けたけれどいい案は浮かばず、気づけば佐島くんが食堂を出てから、もう4,5時間が経っていた。
「やっぱり、方法は1つしかない」
「…何ですか?」
僕は馬鹿らしい考えだとは思いながらも、口にする。
「根焼くんと、もう一度ちゃんと話し合ってみようよ。話せばきっとわかることだってあるし、一生懸命伝えれば、もしかしたら何か心変わりしてくれるかもしれない。僕はそれに賭けたい」
「………」
みんなが静かに、僕の話を聞いていた。
「子供みたいな考えなのはわかってるけど、僕は根焼くんを、もう一度信じてみたい。僕はどうしても、彼があんなことをする人だったなんて、思えないんだ…!」
「…やってみるしかありませんね」
「え?」
贄くんは、にっこりと微笑んだ。
「やりましょう。今はとにかく動かなければ何も始まりません。ボク達はまだ大人ではありません、たまには子供っぽく、人を信じてみたっていいでしょう。
成果が出なかったら出なかったで、次の作戦を考えればいいですから」
「わ、私も、誰かが危ないことをするより、宗形さんの案の方がいいと思います…!」
「くぐはらも賛成です!」
「うん、おにーさんも、それでいいと思うよ」
「みんな……」
全員が、僕に強く頷いてくれる。
熱い気持ちが胸にこみ上げてきた。こんな頼りない僕のことを、みんなは信じてくれているんだ…。ちょっと涙が出そうになったけど、まだ早い。ぎゅっと目をつぶってこらえる。
「それでは、善は急げと言いますから。今から根焼くんの元へ行きましょうか」
「うん!」
贄くんの声掛けで、僕らは食堂を出て教室へと向かった。
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夕暮れの教室は、ドアが閉まっていた。覚悟はできていたつもりだったけど、こうしていざ目の前にすると緊張する…。
「…開けるよ」
一度みんなの方を振り返った後、僕は引き戸を、ゆっくりと開いた。
「あれ…?寝てる…?」
「これは……」
「根焼さんは夜起きていたから、今居眠りしちゃってるんじゃないですか?」
僕達が音を立てないよう静かに教室に足を踏み入れた、その時。
「ピンポンパンポーン!死体が発見されました!オマエラ、すぐに現場の本校舎1階の教室に向かってくださーい!」
死体発見アナウンスが、鳴った。
「…そんな、」
贄くんが根焼くんに駆け寄り、根焼くんの首に指を当てて呼吸を確認する。
そして、僕達の方を向くと、
ゆっくりと首を横に振った。
…どうして。一体誰が、こんな事を?
立ち尽くす僕達の身体から、電子生徒手帳の、聞き慣れた着信音が鳴った。
遺体情報が、届いた音だ。
「……………………………」
コロシアイは、続いている。
「ザンネンでしたー!楽しい楽しいコロシアイは、まだまだ終わりませーん!うぷぷぷぷ………!!!」
スピーカーからのそんなアナウンスが、僕の脳内で何度も、反響音を響かせていた。
【5章 日常編】END