「それじゃあ、改めてルール確認だよ。今回の裁判では、根焼クンを殺害したクロを見つけてね。議論の後、投票でクロを決めて、合ってたらクロ1人がおしおき、間違えてたらクロ以外の全員がおしおきで、クロは晴れて卒業だよ!」
「それでは、議論スタート!」
モノケンの口上が終わり、全員が互いに向き合う。
荒川さん、贄くん、掃気さん、月詠くん、佐島くん、芥原さん、そして僕。
最初に16人いたはずのメンバーは、今では7人しかいなかった。
「……………」
この中に、本当に根焼くんを殺害した犯人がいるのか…?
「…そもそも、このメンバーの中で犯行が可能な人なんていないんじゃないかな」
まず、佐島くんが口を開いた。
「僕と掃気さん以外は全員ずっと食堂にいた。そして僕と掃気さんは、互いのアリバイを証明できる…そうだよね?」
そう言って、佐島くんは掃気さんの方を見る。彼女はこくりと頷いた。
「もこと、おにいちゃん…ずっと、おにいちゃんのきょうしつに…いた……」
「掃気さんが、僕を追いかけてきたのは知ってるよね。あの後、掃気さんが僕の研究教室に来て、死体発見アナウンスが鳴るまで、2人で過ごしていたんだ」
佐島くんの研究教室は、確か本校舎の2階にあったはずだ。食堂からは近いから、掃気さんも彼を見失わずに済んだのだろう。
「そうなると、本当に誰も……」
「うん。アリバイのない人物は、ここには誰もいない…そういうことになるだろうね。君にとっては残念だろうけど」
佐島くんはあっさりと頷いた。
そんな、全員がアリバイがあるなんて…それじゃあ、誰が根焼くんを殺したって言うんだ?
「話が分かりやすくなるよう、一度整理しましょうか。
佐島くんと掃気さんが食堂から出たのが、午前11時前。
根焼くんの死亡推定時刻が午後14時。
そして、ボク達が遺体を発見したのが午後16時頃です。
つまり発見までには2時間程時間がある、ということになりますね」
贄くんが時系列をまとめてくれた。僕達が見つける2時間前に、根焼くんは既になくなっていたのか…。
「結局、根焼さんはどうやって殺されたんですか?」
芥原さんが首を傾げる。うん、僕も贄くんの説明がなければ、窒息死が毒薬が原因だとは分からなかっただろう…。
でも、今の時点で自決用の毒薬のことを知っているのは、おそらく犯人と贄くんと僕だけだ。これはもう少し伏せておいた方がいいかもしれない…。
「根焼くんは、たぶん薬を飲まされて殺されたんじゃないかな」
「薬…?」
「実は根焼くんの遺体の近くの床に、零れた液体が着いてたんだ。だからそれが、何かの薬だったんじゃないかと思ったんだよ」
「くすり…ちっそく、する…?」
掃気さんが不思議そうに尋ねる。贄くんが僕の後を追うように答えた。
「ええ、薬でも窒息死する可能性はありますよ。例えば睡眠薬でも、呼吸機能を抑制する作用があるものもあります。そういったものを大量に使えば、呼吸困難になり、窒息死する場合もありますね」
「なるほど……」
贄くんが澱みない説明で、うまい具合に毒薬の存在を隠してくれた。やっぱりプロは頼もしい…。
一度静まった裁判場で、再び佐島くんが発言した。
「死因が薬の大量摂取なら、疑問があるな。そもそも、根焼さんに誰か他の人が薬を飲ませることってできるのかな?」
「それは僕も考えてたけど、きっと難しいよね…」
僕は肯定する。あの根焼くんが毒薬を渡されて、正直に飲むなんて思えない。薬を何かに紛れ込ませたとしても、黒幕の彼が、人からもらったものを警戒もせず、体に入れるだろうか…?
「はあ…君たちって、分かってはいたけど本当に察しが悪いんだね」
その時、佐島くんが突然呆れたような顔で言った。
…どういうことだ?彼は何かわかっているのか?
「もう言っていいかな…あのさ、事件当時やその直前、アリバイがない人はいたよね」
「アリバイがない?ここにいる全員のアリバイは確認できてるはずじゃ…」
「……いえ、違います、こむぎくん」
贄くんが僕の言葉を止めた。佐島くんはそんな彼をどこか冷めた目で見ている。
「やっと分かった?探偵でも助手でもなんでもいいけど、笑至さんなら、このぐらいは予想した上で裁判に臨んでるんだと思ったんだけどなあ…」
「………」
贄くんは少し苛ついた表情で佐島くんを見据えている。佐島くんより先に気づけなかったことは彼にとって不覚なんだろう。僕にはまだその言葉の意味すらわかってないけど…。
「今日、アリバイがなかった人物…そりゃあ1人で教室にいたんだから、アリバイがなくて当たり前だろうね」
「…もしかして、」
「根焼さん。彼は、事件当時のアリバイがないよね?」
佐島くんは、僕の結論を先回りして答えた。
「これが根焼さんの自殺なら、全ての辻褄が合うんだ…全員のアリバイが証明されているのも、死因が毒殺だということも。
自殺に他人の力なんて必要ないし、自分でなら、薬を飲むのに抵抗はない。そうでしょ?」
…確かに、そうだ。佐島くんの言っていることは正しい。
「でも、どうしてむのくんが自殺するの…?そんなことする必要、あの子にはなかったんじゃ…」
月詠くんが佐島くんに尋ねた。たぶん、内通者として1番近くで根焼くんを見ていたからこそ、余計にそれを感じるのかもしれない。
「彼は命懸けで、このゲームを面白くすると言っていたよね。まさに、これはそうなんじゃないかな?僕らの中に誰も犯人がいないという状況を、自分の命を捨てることで実現させる…」
「これは根焼さんの作り出した、罠なんだよ」
「…………」
佐島くんの推理には穴がない。誰も反論せず、静かに聞いている…彼は、更に続ける。
「あらかじめ自殺するつもりなら、この裁判の用意だって前もってできるだろう。そしてこの裁判で誰かがクロに決まれば、僕達は全員処刑だ」
「そ、そんな…!」
「じゃあどうすればいいんですか!?」
みんなが口々に焦った声を出す。根焼くんが自身を殺したなら、この中の誰がクロに決まっても、もちろん不正解だ。
「宗形さん。君だったらどうする?」
「…え?」
不意に名前を呼ばれて、思わずきょとんとした声が出てしまう。
「君はこの状況を、どう打開するつもりなのかな」
「僕は……」
この中の誰にも投票できない。投票自体が不可能なのか…?このままだと投票をしてもしなくても、殺されてしまう。
…いや。投票の際に出てくる画面には、全員の名前があったはずだ!
「僕は…僕だったら、根焼くんに投票するよ」
佐島くんはにっこりと笑った。
「やっと言い当ててくれたね。その通り。根焼さんに入れれば、僕らはおしおきされない。みんな、後は自分のすることはわかるよね」
「はい!くぐはらは根焼さんに投票するですよ!」
「ね、根焼さんに票を入れればいいんですね…!わかりました!」
「うん、むのくんには申し訳ないけど、そうするしかないね」
「…待ってください!」
その時、贄くんが声を上げた。その鋭い声に、思わず動きを止めた。
「これは、あまりにも…上手くいきすぎています」
贄くんは額に汗を浮かべていた。真正面の佐島くんを、じっと見つめる。まるで、必死に彼から何かを読み取ろうとしているかのように。
「佐島俊雄…貴方の本当の狙いは、何ですか?」