超特急論破 後編   作:鳶子

26 / 42
非日常編3

✧ ✧ ✧

 

 

 

「佐島俊雄…貴方の本当の狙いは、何ですか?」

 

「…………」

贄くんの問いに、佐島くんは答えない。

 

 

「…改めて、言わせてください。これはあまりにも上手くいきすぎている。犯人を断定する証拠がほとんどないことも、全員にアリバイがあるのも。偶然にしては、出来すぎています」

「だから、それが根焼くんの罠なんじゃないの…?」

僕は贄くんにそう尋ねた。全て根焼くんが仕掛けたものなら、出来すぎた偶然というのにも説明がつくはずだ。しかし、贄くんの反応は違った。

 

「いえ…むしろ、ボクにはそれが、根焼くんの自殺に見せかけるための"罠"のように思えるのです」

「根焼くんを、自殺に…?」

「何者かが彼を殺害し、工作をした上で根焼くんの犯行のように仕立て上げ、彼に投票させる。疑い深いボクは、そう考えてしまったんです」

 

それは、根焼くんを殺した真犯人がこの中にいるってことなのか?贄くんはその可能性を、提示しようとしている…?

その時、へらへらとしていた佐島くんが、突然真顔に戻って、贄くんに言い放った。

 

 

「…なんだ。やっぱり君が、人のことを1番信用してないんじゃないか」

 

 

「仲間を信じろって偉そうに言っておきながら、君は結局、仲間を疑うことしか出来ないんだね。もう結論は出たのに、わざわざそれを覆してまで大切な仲間を疑えるその神経、申し訳ないけど僕には理解できないよ」

「……っ」

贄くんは一瞬言葉に詰まる。佐島くんの言っていることは、贄くん自身が1番よく分かっているんだろう。それでも彼は、主張を続ける。

 

「…ボクは、皆さんを不正解に導かないようにあらゆる可能性を考えたい。これはその中で、思いついた事です。ボクはそれが現実的に有り得てしまうと、気づいてしまった……」

「アリバイは最初に確認した通り、根焼さん以外の全員にあったよね。まさか今更、他にアリバイがない人がいるとでも言うつもりなのかな」

それに対して、佐島くんは余裕の表情だ。彼の推理に隙なんてあるのか…?

 

 

「佐島くん。貴方のアリバイは、本当ですか?」

「…は?」

 

「貴方のアリバイは、掃気さんさえ協力してくれれば、捏造できるものです。掃気さんに自分はずっと研究教室にいたと言ってもらうだけで、貴方は自分のアリバイが証明できた…違いますか?」

「…………」

佐島くんは、じっと贄くんの方を見つめる。

 

「ふうん…君って、本当に最低なひとだね」

それは、侮蔑するような、どこか憐れむような目だった。

「折り合いの悪かった僕を疑うならまだしも、今まで協力してきてくれていた、掃気さんまで疑ってるんだ。見境ないね…最初から最後まで誰のことも信用できないなんて、可哀想な人だなあ…」

その、どこか甘ったるいような声に、背筋がぞくっとするような心地を覚える。

 

「…佐島くん。ボクの質問に答えてください」

そんな言葉と、言いようもない恐怖感を意にも介さないとでもいうように、静かな声が佐島くんを問い詰めていく。

僕達は固唾を呑んで、じっと2人の舌戦の行く末を見守ることしかできない。

 

「どうしてこの事件に僕のアリバイが必要あるのかな。そんなに僕達の中の誰かを犯人に仕立てあげたいの?君は一体、誰の味方なの?」

「…答えてください」

「君こそ答えてよ。どうして辻褄が合ってるのに納得できないの?僕が意見を出したから?宗形さん以外の誰かが出した真実じゃ不満なの?」

 

 

「…君はそんなに、人を疑うのが好きなの?」

「答えなさい!!」

 

贄くんが、初めて声を荒らげた。一緒に過ごしてきた僕でも、見たことのないほど感情的になっている。その厳しい表情には明らかに、怒気が滲んでいた。

 

「……ッ」

その勢いに、佐島くんが一瞬押し黙る。

しかし、一瞬の後、佐島くんはいつものように平然と、冷ややかな目で彼を見つめていた。

誰も身じろぎすらできない、一触即発の空気。

 

「……………」

「……………」

 

2人はお互いに睨み合っている。誰もが仲裁に入ることはおろか、口を挟むことさえできない。裁判場の温度が、一気に5度ぐらい下がったような感じがする…。

2人がお互いに口を開こうとした、その時だった。

 

 

「…おにいちゃん、もう、やめて……」

 

 

掃気さんが、泣き出しそうな声で、絞り出すように言った。その目は、佐島くんを見つめている。

「え…?」

視線の先の彼は、動揺したような顔をしていた。

 

「もうやめて…もう、いいよ……もこのこと、これ以上かばわないで……」

「…………」

佐島くんは、何も言わずに下を向いた。庇うって、どういうことだ?…いや、まさか、そんなはずは……

 

「……みんな、だまっててごめんなさい」

掃気さんが、僕達の方を向いて、ぺこりと頭を下げた。そして、ポケットから何か小さなものを取り出す。

 

 

「…もこが、殺したの」

 

それは、いかにも薬が入っていそうな、青い蓋の茶色い小瓶だった。

 

 

「…あれは、」

贄くんが思わずつぶやくと、長い間の静寂が解ける。

「ややっ!?もしかして、お薬ですか!?」

「そんな、まさか、もこちゃんが……」

「そ、掃気さん…?そんなはず、ないですよね…?」

 

掃気さんは、ふるふると首を横に振った。犯人は自分なのだ、とでも言うように。そして、いつもの彼女の話し方で、ぽつりぽつりとつぶやいていく。

 

 

「もこが、犯人……これは、くすり。おにいちゃんは、ずっと、もこをかばってた……」

「………」

佐島くんは、俯いたままだ。掃気さんの独白は続く。

 

「おにいちゃんが、かみん、してるあいだに…もこが、きょうしつにいって…ころした……それをみた、おにいちゃんが、じぶんにまかせろって……」

じゃあ、佐島くんは、掃気さんの殺害を目撃した後、ずっと彼女を庇って、根焼くんを犯人に仕立て上げようとしていた…?

 

「…それでは、あのアリバイは嘘ということですね?」

贄くんの質問に、彼女はこくりと頷いた。アリバイを偽証していたのは掃気さんじゃなく、佐島くんだったんだ…。

 

「嘘ついて、ごめんなさい……だまってたのも……おにいちゃんに任せればいいとおもってた、けど……このままだと、しんじゃうから……みんなも、おにいちゃんも。もこだけが生き残るなんて、だめだから……」

 

掃気さんの言葉に、動揺したようだったみんなが、それぞれ辛そうに顔を背ける。僕も思わず耐えきれなくて、掃気さんから目を逸らしたくなってしまったけど、ぐっと堪えて彼女に尋ねる。

「掃気さんは…どうやって根焼くんに薬を飲ませたの?」

「もこが、教室に行ったら…ボクを、殺しに来たんだろって……いいよっていって、もこがのませたら、そのまま……」

掃気さんは、そう言って俯く。

 

根焼くんは、自ら薬を飲むことを選んだのか…。黒幕である彼の、コロシアイというエンターテイメントに対する異常な情熱と覚悟を、改めて感じる。

 

 

「だから、もこにとうひょうして……。おにいちゃんは、わるくない…おにいちゃんのこと、しんじてあげて……」

「掃気さん…」

佐島くんは、どこか呆けたような顔で、掃気さんを見た。

 

「…貴方にアリバイがないということは、同様に、佐島くんにもアリバイがないということですよね」

贄くんが小さな声で言ったのが、頭の中で引っかかった。どうして今彼は、それを言うんだ…?

 

掃気さんは、その言葉にびくんと反応した。

「…もこが、犯人だって…さっきからいってるのに……なんで…?」

「いえ、事実を確認したかっただけです…そうなんですね?」

「……おにいちゃんにも…アリバイはないけど…。でも、もこが殺したんだよ……おにいちゃんは、かんけいない…」

掃気さんは、わなわなと小さな拳を握りしめた。

 

「にえくん。もうもこちゃんが認めてるんだからやめようよ…」

「弱い者いじめはだめですよ!」

「え、笑至さんはもしかして、掃気さんが犯人じゃないと思っているんですか…?」

「さあ、どうでしょう?それと、もう1つ。………」

 

 

贄くんがぺらぺらと話しながら、僕の方をちらりと見る。…もしかして、彼は時間稼ぎをしているのか?

「………」

この事件にはまだ何か裏があって、それを僕に、見つけさせようとしている?

 

…そういえば、どうして掃気さんは毒薬の瓶を1つしか持っていなかったんだろう。根焼くんの研究教室にあったのは、自決用の毒薬と、睡眠薬。掃気さんが犯人なら、彼女がどちらも持っているはずじゃないのか…?今彼女が手に持ってるのは、どっちなんだ?

「……!」

その時、僕の中で、1つの推理が浮かびあがった。

…後は、彼女から確証を得るだけだ。

 

「おにいちゃん…おにいちゃんは、もこの言うこと、信じてくれるよね…?」

いつの間にか、掃気さんはこちらを向いていた。

「…うん。君の主張を、聞かせてよ。掃気さん」

僕は、強く頷いた。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。