超特急論破 後編   作:鳶子

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非日常編4

 

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▹▸「…もこのことを、信じてよ!」

 

 

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▹▸「もこは、むのおにいちゃんを殺した……」

 

▹▸「でも、おにいちゃんだって……大事な"なかま"だった」

 

▹▸「だから、もこは…おにいちゃんが、くるしまないように殺そうと思った……」

 

▹▸「…それで、くすりでねむらせて…殺したの……」

 

▹▸「もこが犯人…それがこの事件の、真相なんだよ…!!」

 

◎ 自決用

△ 毒性

□ の

✕ 毒薬の

 

 

▹▸【自決用の毒薬の毒性】

 

▹▸BREAK!!!

 

 

 

 

 

「掃気さん…君が持っているのは、何の薬?」

「これは…」

掃気さんは、瓶に貼られているラベルの印字を確認した。

「睡眠薬……たくさん飲んだから、おにいちゃんは窒息死した……」

 

「いや、それをたくさん飲ませられる訳がないんだ」

「え…?」

掃気さんの今までの真剣な表情が、崩れた。どこかきょとんとした顔をする。

 

「掃気さん。君は犯人が犯行現場にわざと落とした睡眠薬を拾って、根焼くんは睡眠薬によって殺されたんだと、勘違いしたんだ…」

「ちがう…だって、くすりはあとちょっとで…」

「そう…それは根焼くんの殺害前に、その多くが使われていたんだ。僕達が昨日夕食を食べた、あの時に」

 

夕食を食べてしばらくしたあと、僕は異様な眠気に襲われた。そしてそれは、同じ食事を食べた贄くんや、他のみんなも同じだった。ある人を除く全員が、朝まで目覚めることがなかった。

 

「…昨日のメニューには、僕達を深夜に起こさないようにするために、睡眠薬が混ぜてあったんだよ」

そしてそれができるのは、夕食を作ったあの人しかいない…!

 

 

「君だよね…佐島くん」

「………」

佐島くんは、落ち着いた表情で僕を見ている。

 

 

「昨日、君は自分の分を除いた夕食に睡眠薬を混ぜて僕達に振る舞い、深夜に根焼くんの研究教室から自決用の毒薬を盗み、殺害の用意をした。

そして今日、掃気さんに、少し用があるから外に出るということを告げて研究教室から教室に行き、根焼くんを殺害したんだ…」

 

「君は根焼くんを殺害したあと、カモフラージュのために毒薬の代わりに睡眠薬を置き、教室を出た。でも、その姿を陰から見ていた人物がいた…」

 

「…掃気さんだ。掃気さんは佐島くんが心配になって、こっそり後をつけていたんだ。君が教室で根焼くんを殺害したのを目撃して、その現場に入り、証拠になるものを回収しようと考えた。そこで床に転がっていた睡眠薬を拾い、研究教室に戻ったんだ…」

 

「佐島くんではなく、自分が事件の犯人だと偽って、彼1人だけを生き残らせるためにね……!」

 

「この事件の犯人は、君しかいないんだ…!"超高校級のショコラティエ"佐島俊雄くん!」

 

 

「………」

佐島くんはさっきと変わらず、無言で僕を見つめていた。

 

「……」

 

「うぷ、うぷぷぷ」

 

「あーっはっはっはっは!!!」

 

…その、次の瞬間。

佐島くんは、突然大声で笑いだした。

 

「おにい、ちゃん…?」

掃気さんが、呆然とした顔で佐島くんを見つめる。僕達にも何が何だか、さっぱり分からない。

そんな僕らを見ながら佐島くんはひとしきり笑った後、口を開く。

 

「笑っちゃうよねぇ、みんな、あんな奴のことを黒幕だって思っちゃってさぁ!」

佐島くんは、この世の邪悪さをすべて詰め込んだような顔で嗤う。

 

 

 

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「ザンネーン!このコロシアイの首謀者は俺サマ、佐島俊雄サマなのでしたー!」

 

 

 

「…おにい、ちゃん……」

「…………」

「そんな…だって、黒幕は根焼くんのはずじゃ………」

 

「あー?アレはアイツの勝手な演技。ホントのホントの黒幕は俺サマでーす、うぷぷぷぷ…!完璧な偽装だったでしょ?騙されちゃった?ねぇねぇ、騙されちゃった?」

 

佐島くんは心底楽しそうに僕らの顔を覗き込む。未だに我を忘れている人、目に涙を浮かべる人。

一つ一つの絶望の表情を、彼は貪るようににやにやと眺めていた。

 

佐島くんの独壇場は、続く。

「…そりゃあ最初は誰かを黒幕に仕立てあげた方が楽だしやりやすいかなーって思ってたけど。

アイツに俺サマの今までの努力がぜーんぶ横取りされたみたいでムカついたんだよね。だから言っちゃう!言っちゃった!!!あはははは!!!!」

 

佐島くん……このゲームの黒幕は、演技がかった仕草で、両手を大きく広げた。

「みんな、実に素晴らしい死にザマだった、楽しめたよ!やっぱりデスゲームっていうのは愛する人を裏切り、陥れ、偽りの涙で見送る狂気がなくっちゃねぇ!」

 

「でも、もう飽きちゃった。」

彼は、愉悦の表情から一転、無表情になった。

「ほら、何かをやり遂げた時ってそのことを暴露しちゃいたい気持ちになるでしょ?その背徳感って、たまらないよねえ」

 

 

「うん。根焼夢乃を殺したのは"僕"だよ」

佐島くんはそう言って、頷いた。

 

 

「…………………」

裁判場は、嗚咽と、すすり泣く声と、それさえ押し潰すような重い沈黙で包まれていた。

 

「…出会って間もない頃に貴方のチョコレートを食べた時、貴方の本性を味わってみたい、と言いましたが……それが、これですか?」

長い沈黙を破ったのは、贄くんだった。

「お待たせしてごめんねー。お味はどう?」

「ええ、堪能させていただきましたよ」

 

「……クソ不味いですね。」

贄くんは、吐き捨てるようにそう言った。

 

 

「うぷぷ、それ、捨て台詞のつもり?結局オマエは、真実を見抜けなかったんだよ、最後まで」

「…ですが、それももう終わりですね。今から貴方は処刑されます」

 

佐島くんはその言葉を聞いて笑う。

「うん、そうそう!エクストリームなおしおき用意してるから、みんな、俺サマに投票忘れないでねー」

 

「はいはーい!議論終了だよ!」

佐島くんが言い終わるのを見計らったかのように、モノケンが言った。

 

 

「ここからは投票に移りまーす!ひとりひとり、クロだと思う人に投票してね!あ、ちなみに投票を放棄した場合は死ぬからね」

モノケンはいつものようにペラペラと喋る。

「それでは、投票スタート!」

 

 

▹▸投票先を選んでください

 

▷揚羽凰玄

▷荒川幸

▷陰崎ひめか

▷笑至贄

▷片原桃

▷切ヶ谷小町

▷芥原芥生

▶︎佐島俊雄

▷スティーヴン・J・ハリス

▷掃気喪恋

▷月詠澄輝

▷照翠法典

▷根焼夢乃

▷野々熊ひろ

▷宗形こむぎ

▷妄崎しなぐ

 

 

僕は、佐島くんに票を入れた。

 

「それじゃ、投票結果を発表するよー!」

 

 

 

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「さてさて、投票多数によってクロに選ばれたのは佐島クンでしたー!さあ、ワクワクドキドキの結果発表だよー!」

 

「今回、根焼クンを殺害したクロは…」

上からモニターが現れ、みんなのドット絵がくるくると回り、

 

佐島くんのところで止まった。

 

 

「"超高校級のショコラティエ"佐島俊雄クンでしたー!おめでとうございまーす!」

 

モノケンの威勢のいい声と共に、天井からカラフルな無数の紙吹雪が舞い降りてきた。

 

 

 

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✧ ✧ ✧

 

 

「……………」

 

裁判が、終わった。いろんなことがありすぎて、正直まだ頭が混乱している…。みんなも同じ様子みたいだ。

特に掃気さんは、未だに嗚咽で肩を震わせている。さっきまで流していた涙を必死にこらえているのがわかる。

 

 

「…終わったね」

佐島くんが涼しい顔で言った。その言い方は、さっきまでとは違い、いつもの彼のようだった。

その立ち居振る舞いに違和感を覚え、首を傾げていると、佐島くんが気づいたように言った。

 

「ああ、さっきのは黒幕のフリ。みんなが確実に僕に投票してくれるように一芝居打ったんだ。本物っぽかったでしょ?」

「え……?」

 

僕は思わず、間抜けな声を出してしまう。周りを見ると、みんなぽかんとした顔をしている。

 

 

「…あはは!まさか、本当に黒幕だと思ってたの?」

佐島くんはそんな僕達を笑い飛ばした。

「君たちって、最後の最後まで勘が悪いんだね!」

そう言って彼は楽しそうにくすくすと笑う。

 

「あ、僕が根焼さんを手にかけたのは事実だから、そこは安心していいよ。今からおしおきされるのは間違いでもなんでもないから。

今まで散々引っ掻き回してきた嫌な奴がやられる映像なんて、スカッとして楽しそうでしょ?」

「…………………」

楽しくなんて、ない。絶対に。

 

「…みんな、何でそんな辛そうな顔してるの?何が辛いの?」

佐島くんは僕達を見て、不思議そうな顔をする。

「君たちって、僕のこと嫌いだったんでしょ…?」

 

「嫌いなんかじゃ、ない………!!!!!!」

その時、掃気さんが、初めて聞くような大声を出した。

 

「もこは、……ずっと、おにいちゃんが…………っ」

「…ありがとう」

佐島くんは、肩をふるわせる掃気さんに、近寄ろうとはしない。

「でも、違うんだ。君と僕は、結ばれるべきじゃない。君はもっと、陽の当たる明るい場所で生きていくべき子なんだよ」

 

「君は、僕の元に来るべきじゃなかった…そのせいで辛い思いをさせたね」

「そんなこと、ない……」

掃気さんは首を横に振る。

 

「もこは、おにいちゃんと一緒にいられて、たのしかった……」

「……ごめんね」

佐島くんが最後に彼女に告げたのは、その一言だけだった。

 

「僕が根焼さんを殺した動機は、秘密だよ。美味しいチョコレートには、隠し味が必須だからね」

佐島くんは、しー、と指を口元に当てる仕草をした。

「さて、君たちに話すことはこれで全部じゃないかな…最後にみんなに励ましのメッセージを送るなんて、僕らしくないよね」

 

「…それじゃ、"後"は任せたよ。」

佐島くんは誰に向けてでもなく、そう独りごちた。

彼はもう、行ってしまうのか…?

 

 

「おっと、もういいのかな?こんなにスピーディーに進行できるなんて、運営冥利に尽きるねー。じゃあじゃあ、佐島クンも準備ができたみたいだし、早速やっていきましょう!」

裁判場の中で一際高い位置から、おどけた声が聞こえる。

 

「それでは張り切っていきましょうっ、おしおきターイム!」

 

モノケンが、ボタンを叩いた。

 

 

その瞬間、佐島くんの首元に頑丈そうな首輪がかかり、一気に上に引っ張りあげられていく。

 

「おにいちゃんっ!!」

掃気さんが必死に背伸びをして、佐島くんの手を掴む。

 

 

佐島くんは静かに微笑みながら…

 

その手を、振りほどいた。

 

 

 

▼さとうクンがクロに決まりました。おしおきを開始します。

 

 

 

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モニターに、佐島くんの顔がアップで映る…。

後ろにあるのは、チョコレートでできた壁だ。

 

 

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彼の四肢は金具で拘束されていて、磔のような状態にされていた。

 

 

 

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佐島くんの目の前に、パティシエのような格好をしたモノケンが現れる。その手には無数の、お菓子作りで使うようなナイフ。

…それを、1本ずつ佐島くんに向かって投げていく。

 

 

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「……ッ」

そのうちの1つが、佐島くんの頬を掠めた。

 

 

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そのまま2本、3本とナイフが壁に突き刺さり、後ろのチョコレートから、ミシッと嫌な音が鳴った、その時。

 

 

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…ひびの入った板チョコが、一気に砕けた。

 

 

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支えを失った佐島くんの身体は、ものすごいスピードで真っ逆さまに落ちていく。

 

 

 

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砕けた板チョコの壁と共に、佐島くんは巨大な、透き通ったビーカーの中に落ちた。ビーカーは更に大きな、お湯の入ったボウルの中に入っている。

 

…いわゆる、湯煎の状態だ。

 

 

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ビーカーの中のチョコが溶け、どんどんかさが増す。

最初の方は胸元まで見えていた佐島くんの身体が、チョコレートの沼の中に沈んでいく。

 

 

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その後もチョコレートの量は増え続け…ついに、佐島くんの顔まで埋まってしまった。

そんな危機的な状況とは対照的に、彼の表情は落ち着いている。

それどころか彼は、少し笑っているようにさえ見えた。

 

 

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…そして、ビーカーの中は完全に、溶けきったチョコレートで満たされた。

 

 

 

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轟音と共に鉄製のシャッターが閉じ、僕達からは中の様子が確認できなくなる。正面の"冷却中"と書かれたランプが煌々と光った。

 

…佐島くん。佐島くんは、無事なのか…?

 

ゆっくりとシャッターが上がると、佐島くんがいたそこには、1箱のチョコレートが置かれていた。

 

 

 

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箱には、Satou/Toshioの文字。

 

 

『う〜ん!絶望的に絡みつく、ビターなお味!皆さんもおひとついかが?』

 

 

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

モニターの画面が、黒に戻る。

佐島くんのおしおきが、終わった。その瞬間、ぱたん、と何かが崩れ落ちる音がした。

 

 

 

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「…ひぐっ、うぅっ、うえぇん、ええぇぇぇん………!」

 

…掃気さんが、泣き崩れていた。

 

 

「ぅっ、おにいちゃん、おにいちゃん、おにいちゃんっ………!!!!」

僕らはそんな彼女を、今はただ、見守ってあげることしかできなかった。

 

 

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