超特急論破 後編   作:鳶子

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6章 終着駅でさようなら
(非)日常編1


 

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「……………」

 

▷同期が完了しました。活動を開始します。

 

✧ ✧ ✧

 

「──ッ!?」

どおん、という骨にまで響く轟音で目を覚ました。大きな建物が崩れたような音。

…何かがおかしい。慌ててベッドから飛び起き、枕元に置いていたはなちゃんを抱えて寄宿舎の外に飛び出す。

 

「……」

寄宿舎から出た僕は、口をぽかんと開けてその光景を見つめるしかなかった。

僕の視線の先に、黒煙をもうもうとあげるコンクリートの塊が現れていて。

 

それは紛れもなく、体育館の残骸だった。

 

 

「一体、何が……」

「うーわ、こりゃすごいねー」

聞き慣れた声に振り返ると、後ろに根焼くんが立っていた。鉄骨や土台が剥き出しになった体育館を仰ぎ見ている。

「誰がやったの?コレ。もしかして、もうコロシアイが終わって学園を壊してるとか?」

「…その可能性は低いでしょうね」

続いて寄宿舎から出てきた贄くんが、その言葉を否定した。

 

「ボク達はまだ、コロシアイの首謀者を打倒するに至っていません。用意周到な黒幕が、そのような状況でこんな形でゲームを終わらせるとは思えませんよ」

「ど、どうなってるの…?これ…」

月詠くんが、顔を強ばらせた掃気さんと荒川さんの2人と一緒に出てきた。

 

「ど、どうして体育館がこんなことに……?」

「もこ、ちょっとだけ…こわい…」

「大丈夫だよ、みんながいるからね…」

月詠くんが両脇の2人を落ち着けるように背中をとんとんと叩く。

これ以上、寄宿舎から人が出てきそうな気配はなかった。おかしいな、あと一人残っているはずじゃ…。

 

それを不審に思いながらも、とりあえず体育館の跡地へと足を向ける。

 

その途中で気づいたけど、別館やプールもところどころ壊されているようだった。中庭の池はすっかり干上がってしまっている。

そして、巨大な体育館がただのコンクリートの塊に成り果てた光景は、なかなか見る人に衝撃を与えるものだった。

 

それと、近づいてわかったことがもう一つ。

僕達の目線よりもはるか上の空に、1人の女の子がふわふわと浮かんでいた。

 

「……羽」

少女の背中からは、白く輝きを放つ羽が生えていた。服装も今までのものとは少し違っている。

彼女は下にいる僕達を見向きもせず、手に持ったステッキを軽やかに振るう。すると、その矛先にあった時計塔が轟音を立てながら崩れ落ちていく。

これらの破壊を誰がやったかは、もう一目瞭然だった。

 

見知った顔がこちらをようやく振り返ったかと思うと、上空から、僕達の目線の高さまで降りてくる。その目には、いつものようなきらきらとした光は宿っていない。

 

 

 

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「…芥原、さん……」

「………」

芥原さんは何も言わずに、じっと無表情でこちらを見つめている。

「く、芥原さん……どうして…?」

「なんだか、女の子向けの魔法少女アニメの、最終話で覚醒する主人公キャラみたいだね……かっこいい姿だとは思うけど…」

荒川さんと月詠くんが話していても、彼女は全く耳を傾けていないようだ。

 

「緊急用破壊措置を、続行します」

しばらくの沈黙の後、芥原さんはそう言った。確かに声の高さや声色は芥原さんのものだけど、芥原さんとは違う声だ、と感じる。

…どこか機械的な声だ。

 

「待ってください。なぜ貴方は、いきなりこのようなことを?」

贄くんが、また上空に飛び立とうとする芥原さんを素早く引き止める。

「くぐはらは、この学園生活を壊さなければいけないからです」

芥原さんは、迷うことなくそう答えた。

 

「どうして、い、いきなり壊したりなんかするんですか……?」

荒川さんの追及に、芥原さんはふるふると首を横に振る。

「この学園生活は間違っているものです。だから、みんなのために早急に壊さなければいけないのです。もういいですか?」

 

「ちょっと待ってよ。芥原さんがこの調子で学園を壊してったら、ボク達まで巻き込まれちゃうかもしれないじゃん」

根焼くんがむすっとした顔で反論した。

そうだ。このまま芥原さんが縦横無尽に学校を壊していけば、いつ僕達が巻き込まれて怪我をしてしまうかわからない。なんとかして止めないと…!

 

「…僕達はもうすぐで黒幕への証拠を掴んで、このゲームを終わらせられそうなんだ。芥原さんも一緒にこのコロシアイを終わらせようよ…!」

「…いつまで時間が必要ですか?」

僕の言葉に、芥原さんはどこか噛み合わない質問をする。

「…え?」

「証拠を掴むまでに、どのぐらいの時間がいるですか?」

 

「ど、どのぐらいって言われても…」

「3時間」

僕が言い淀んでいる間に、芥原さんが言いきった。

「3時間で終わらせてください。それ以上遅ければ、くぐはらはこの学園を完全に破壊します」

 

「3時間って…そんな短い時間で大丈夫なのかなあ…」

月詠くんが不安そうにつぶやく。これだけの時間をかけて見つけられなかったものを、本当に3時間で見つけられるのか…?

「もうすこし…延ばせない…?」

「これ以上は待てないですよ」

掃気さんがおずおずと提案するけれど、芥原さんは厳しい表情で首を横に振る。

 

「そういうことなら、仕方がありませんね」

贄くんが渋い顔で頷いた。

「皆さん、早く動きましょう。時間は有限です。ここで止まっている暇はない」

「…うん、わかった」

僕達の返答を聞いて、芥原さんは静かに上空の方へと昇っていった。

 

「手がかりを探すって言っても、どこからやればいいんだろう……」

「…芥原さんが学園内を壊したメリットが、一つだけありましたね」

贄くんが、辺りを見回しながらそう呟いた。

「ナニナニ?教えてよー」

根焼くんが贄くんの方をにやにやとしながら見やる。

 

「あそこを見てください」

贄くんが指さした先には、外との隔たりである、有刺鉄線の巻かれた分厚い壁が壊れている部分があった。

「あれは…!」

「も、もしかして私たち、外に出られるんじゃないですか!?」

急いで壁の大きな穴が空いている部分に近づく。まさか、こんなことがあるなんて…どうしても期待に胸が高鳴ってしまう。

 

その穴から外を覗き込んで見ると、

 

「え…?」

 

 

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眼前には、明らかに街としての機能を停止した、ゴーストタウンが拡がっていた。

 

 

おかしい、コロシアイが終われば外に出られるはずじゃなかったのか…?どうして……ここは一体どこなんだ?

しかも、最悪な知らせはまだあった。

 

──僕はこの街に、見覚えがある。

 

その殺風景の中には、友達のお父さんが営む八百屋さんも、風邪をひいた時によく行っていたお医者さんも、メロンパンが美味しいパン屋さんも、含まれていた。

「…………」

みんなは、無事なんだろうか。

友達は、近所の人は、お父さん、お母さんは。

この状況下で、生きているんだろうか。

 

「そんな……」

「これはヤバいかもねぇ…」

他のみんなも同様の反応だった。じっとりとした嫌な汗がシャツに滲んでくる。もしかしたら、街のみんなはもうとっくに──

 

「…皆さん、この風景に見覚えが?」

贄くんが、ふと訝しげに言った。

 

「うん、あるけど……」

「ボクも見覚えがありますが…こむぎくん、それっておかしい事だと思いませんか?」

「…?」

見覚えがあることがおかしい…?何が変なんだろう。首を傾げる僕に、笑至くんは一つの疑問点を指摘する。

 

「ボク達が全員同じ町に住んでいるなんてほぼ有り得ないはずなのに、この風景は全員見覚えがある…どうしてでしょうね」

 

「本当だ……」

いとこ同士だった揚羽くんと切ヶ谷さんだったらまだしも、僕はこの中の誰かと幼なじみだったり血縁関係があったりした記憶はない。

外に出られると思っていたのに、むしろ余計に疑念が増してしまった…。

 

「…みんな、外がこんな状況なら今は家に帰ることよりも、黒幕への証拠を見つけなきゃだめだよ」

月詠くんが僕達にそう声をかける。そうだった、今はそっちに集中しないと。

「て言っても、どうしたらいいのかなぁ。宗形、どうすんの?」

「そ、そんないきなり言われても困るよ…」

 

「…最初の殺人の真犯人が黒幕であることを証拠をもって立証すれば、向こうも大人しく出てきてくれるのではないでしょうか」

贄くんが考え込む仕草をしながら言った。

「立証するって、つまり…」

「ええ、証拠を見つけて、最初の殺人の再審を要求しましょう」

 

「再審って…そんなの、意味あんの?」

根焼くんが不思議そうに尋ねる。

「確固たる証拠が出て、あの裁判が間違っていたことになれば…容疑者である黒幕は登場して、ボク達と戦わざるを得ないでしょう」

「ふーん、なるほどね。そーやって黒幕を炙り出すってワケだ」

 

「はい。そのために、まずはもう一度、照翠くんの遺体を調べてみましょう」

「照翠くんの遺体を…?」

笑至くんの言葉を聞いて、掃気さんが僕の袖をぐいぐいと引っ張る。

「遺体…もこの研究教室に、ある……はやく」

「う、うん!」

 

僕達は急いで、掃気さんの研究教室へ向かった。

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