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「それじゃあ、改めてルール説明…といきたいところなんだけど、今回の裁判って一体何をするのかな?」
モノケンがちょこんと首を傾げる。
「今回の裁判の目的は、最初の殺人の再審…照翠くんを殺害した真犯人を見つけることです」
その問いに、贄くんが答えた。
「えーっと?再審も何も、あの時のクロは笑至クンでみんなが納得したはずだよ?」
「しらばっくれんなよ、モノケン」
根焼くんがやや冷めた表情で言う。
「笑至が犯人なんて、今のボク達は納得してないけど?」
「そうだよ。あの裁判は僕達が間違っていたんだ。モノケン、もう一度議論させてよ」
僕はモノケンに言った。あの時に笑至くんを信じきれず、犯人だと決めつけてしまった後悔を晴らすには、今しかないだろう。
みんなもモノケンの方を真剣な眼差しで見つめている。
「んもう、しょうがないなー。ボクは可愛い可愛い生徒達の頼みには弱いからね!特別にもう一度議論することを許可しましょう!」
モノケンは鷹揚に頷き、言葉を続ける。
「ただし、この議論で真犯人とおぼしき人を当てられなかったら、オマエらは全員おしおきされるからね?」
「そのぐらいのリスクは承知しています。それに、こうなってしまえば真犯人を隠蔽し、ゲームのルールに違反している貴方達ももう後には引けないはずですよ」
贄くんがモノケンをきっと睨みつける。
「ボク達が真実を言い当てたか。嘘をつかずにきちんと判決を下してください」
「あー、わかってるわかってるって。…それじゃあ気を取り直して、議論スタート!」
そんなモノケンの投げやりな合図とともに、裁判が幕を開けた。
「以前、ボクとこむぎくんで最初の殺人のアリバイを再確認しましたが…アリバイがなかったのは、ボクと、根焼くん、芥原さん、妄崎さんの4人でした」
「くぐはらはやってないですよ!嘘はつくのは正しくないことですから!」
芥原さんが少しむっとしたように贄くんの言葉を否定する。
「ボクも前はああ言ったけど…アレは冗談。照翠の事件に関しては何もしてないよ。アリバイがないのは事実だけどね」
根焼くんも首を横に振った。妄崎さんはもうこの場にはいない…。贄くんはそれを聞いて話を続ける。
「芥原さんは体格差の問題で殺害は難しいでしょう。根焼くんに関しては、犯行自体は可能ですが…」
「黒幕ではない彼が自分の才能も分からない状態で人を殺害するのは、あまり現実的でないように感じますね。コロシアイのルールを壊した人が黒幕とはとても思えませんし」
そう言って贄くんはモノケンの方に向き直る。
「貴方達は、常に監視カメラでクロの動きを観察していたんですよね?」
「クロの犯行映像という決定的な証拠を持った上で、誰がクロかを判断していた…監視カメラの映像が写ったテレビは既に見つけています、否定しても無駄ですよ」
「うーん、まあそういうことだよ」
モノケンが渋々といった様子で頷く。
「それでは貴方達は、ボクが家庭科室で照翠くんを問い詰めた場面も、拷問をした場面も、その場で殺害した場面も、すべて見ていたということですね?」
「なんだよ、しつこいなー!そうだよ、キミの犯行は全部監視されて、映像に残ってるんだよ」
その答えを聞くと、贄くんはなぜか満足したように頷く。
「そうですか。それを聞いて安心しました」
「え?」
彼は浮かべていた笑みを深めた。だけどどうしてそんなことを言うんだ…?
「いえ、ボクは照翠くんを殺害していませんよ。けれど、これで自分が殺していないという決定的な証拠は、ボク自身の中では掴むことが出来ました」
「……?」
「なぜなら、ボクが照翠くんを問い詰めていたのは家庭科室ではなく、教室だったのですから。映像で残ってるんでしょう?でしたら、今からボクが彼を"家庭科室で"問い詰めた場面をお見せして頂いていいですか?」
「………」
モノケンは黙り込む。前に見た、あの巨大スクリーンを出しそうな気配はない。
「モノケン…あやしい……うそ、ついてる……」
掃気さんがモノケンを指さしてそう言うと、周りのみんなも同意する仕草を見せる。
「映像が見せられないと言うなら仕方がありませんね。こむぎくん、次の議題に移りましょう」
贄くんは敢えてそれ以上は追求せずに、僕に目配せした。
僕はみんなに向かって言う。
「…僕は今、妄崎さんが1番怪しいと思うんだ」
そして、月詠くんの方を見て尋ねた。
「月詠くん。妄崎さんは君と追いかけっこをしている途中、いなくなった時間があったんだよね?」
「うん。しなぐちゃんは一回追いかけてこなくなったよ。後からまた追いかけに来たけど…」
「その時間に、妄崎さんは照翠くんを殺害したんじゃないかな」
「で、でも…照翠さんがどこにいるかも分からないのに、すぐに見つけて殺すなんて、できるんですか…?」
荒川さんが遠慮がちに言う。
「…あらかじめ、照翠くんを指定した場所に呼び出していればいいんじゃないかな」
「あらかじめ…?」
「最初から、贄くんを犯人に仕立て上げるつもりで、指定した場所と時間に照翠くんを呼び出して殺害したた…そう考えられないかな」
僕は自分の推理を述べる。そうすれば、妄崎さんは時間を見てこっそり追いかけっこを抜け出せばいいだけのはずだ。
「でも、照翠さんはこの時間にこの場所に来て殺されてくださいって言われて、のこのこと殺されには行かないんじゃない?ボクだったら絶対やだな」
根焼くんが怪訝そうに首を捻る。僕はそれを否定した。
「いや、妄崎さんと照翠くんが最初から協力関係にあったなら…それは可能になると思うんだ」
「協力関係…?どういうこと?」
月詠くんが不思議そうに言う。
「えっと、贄くんが照翠くんを黒幕、もしくは内通者だって推理したこと…僕は、あれは正しいと思うんだ。贄くんの観察眼は、他の人よりもすごいから」
僕はたどたどしくも言葉を続ける。
「それで、もし照翠くんが内通者だとしたら…内通者は、黒幕の言うことを聞くよね」
「…ボクも同じことを考えていました」
贄くんが僕の発言を肯定する。
「だからこそ、ボクは妄崎さんが黒幕だと推理したんです…全ては、厄介な存在であるボクをクロに仕立て上げるための周到な計画だった、とね」
「そういえば、揚羽が妄崎さんが黒幕って言ってたっけ。あれってマジなの?じゃああいつ、ほんとに黒幕殺してたの?」
根焼くんが意外そうな顔をするが、贄くんは首を横に振った。
「いえ、こうしてまだコロシアイは続いているので、本人はまだ生きている可能性が高いですね。あの死はダミーだった…ということではないでしょうか」
「それについてはとりあえず置いておいて…妄崎さんは、追いかけっこの最中にひっそりと抜け出し、照翠くんを殺害し、そのまま月詠くんを追いかけに戻った…」
「それって結構時間がかかるんじゃないですか?どうして月詠さんは気づかなかったんですか?」
芥原さんが続いて質問する。
その質問に対しては、僕は思いついていたことがあった。
「月詠くんは怪しい動きに気づいてたとしても、たぶん言わなかったと思うな…」
「どういうことですか…?」
「それが殺人と直結しているとわからなかったあの状況で、自分の発言で妄崎さんを容疑者に浮上させたくなかったんじゃないかな」
「………」
月詠くんは俯いて黙っている。
優しい月詠くんは、自分の不用意な発言で妄崎さんが疑われてしまうことに耐えられなかったんだろう。だから長時間いなくなっていたことを不審に思っても、あの場で口に出せなかったんじゃないだろうか…。
「それに、妄崎さんが黒幕であの事件の犯人なら、辻褄が合うんだ。それなら、彼女が犯人だっていう決定的証拠があるから…」
僕は地下2階の奥の部屋を思い出しながら言った。
「地下にある部屋に、誰かの血を拭き取った痕がある金属バットがあったんだよ」
「妄崎さんは、あのバットで照翠くんを殴り、拷問したような跡をつけた。あれをやるには、女の人の素手だと怪我をしてしまうらしいから、バットを使ったんだと思う。それから同意の上で、照翠くんを包丁で刺した。
それで、贄くんが照翠くんを拷問して、そのまま彼を殺害したように見せかけたんだ」
「使った金属バットは、僕達に絶対に見つからない、黒幕だけが知っているあの部屋に隠した。
その後、妄崎さんは何食わぬ顔で月詠くんを追いかけに戻ったんだ…!」
「これが僕達の辿り着いた真実だ!本当は、君は生きてるんだよね…早く出てきてよ、妄崎さん……!!」
「…………………」
裁判場を沈黙が支配する。ふと間違っているのではないか、という一筋の不安が頭をよぎる。
──いや、彼女は絶対に、この場に現れるはずだ…!
その時、裁判場の中に誰かの声が響き渡った。
「……うぷぷ」
それは、しばらく聞いていなかった、女の子の笑い声。
「うぷぷぷ……あははははは!」
モノケンの後ろ…裁判場の奥の方から人影が、つかつかとこちらへ歩んでくる。
彼女は、モノケンのすぐ目の前の座席で足を止めて、すうっと息を吸う。
「ピンポンピンポーン!だいせいかーい!!照翠クンを殺したクロは、なんとなんと、妄崎サンでしたー!!」