超特急論破 後編   作:鳶子

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非日常編2

「妄崎さん……」

「い、生きてたんですか…!?」

「ふーん、やっと黒幕サンのお出ましってワケ?」

僕も推理してはいたけど、やっぱり驚きを隠せない。まさか本当に彼女が生きていて、この場に現れるなんて…。

 

「…ようやく再会できましたね、妄崎さん」

「うんうん、みんな久しぶり〜。元気だった?…あは、元気そうには見えないね!」

妄崎さんは僕らの動揺など意にも介さず、にこにこと笑っている。

「いやぁ、とうとうここまで辿り着いちゃうなんて、あんた達の信頼とか絆とかいうヤツはほんとにすごいね〜。尊敬しちゃうよ」

彼女はわざとらしく感心したような態度を見せる。

 

「貴方がボクを嵌めた、ということでよろしいんですね?」

「嵌めたって…酷い言い方だね〜。根焼くんと同じ言い訳になっちゃうけどさ、生き返らせてあげたんだからいいじゃん。正真正銘、本物の笑至くんをさ」

 

「………」

「それに、あんたが死んだお陰で、そっち側にもヒントが増えたでしょ?一回死んでも生き返りが可能だっていう、この世界の真実を突き止めるヒントがさ」

「…なるほど、そういう理屈なんですね」

贄くんは半ば諦めたようにため息をついた。

 

「ちょ、ちょっと待ってください!どうして妄崎さんが生きてるですか!?くぐはらのデータでは妄崎さんはもう死んでいたはずです!」

芥原さんはかなり混乱しているようだ。僕もそれについては、さっぱり訳が分からない…。

「そりゃあ今の芥原ちゃんの、お堅いデータベースにはないだろうね〜」

 

「どうして私が生き返ったのか、みんな知りたいよね〜?じゃ、途中まで話してあげるよ。あれだけ証拠も集めさせてあげたんだし、後はあんた達で考えてね」

妄崎さんはそう言うと、話を始める。僕達はただ、それに聞き入るしかない。

 

 

「この場所で更生プログラムなるものが行われてた資料は見つけたでしょ?あれって実はほんとでさ、途中までは順調に進んでたんだよ」

更生プログラム──最後の方に見つけた、あの資料のことか。

 

「でも、それを私が改変しちゃった!楽しい楽しい、コロシアイ学園生活にね」

 

「それと、パソコンの日記みたいなのあったでしょ?薄々気づいてたとは思うけど、あそこに書いてあった捕まった職員の公開処刑…おしおきには、あれを活用させてもらったんだよね。

だから元は私の案じゃないよ、あれは人間が作ったもの。グロくて怖くて、最っ高にエクストリームだよね〜!」

 

人間、という単語がふと頭に引っかかる。…まるで、自分は人間じゃないとでも言うかのような言い方だ。

「おやおや、その表情だと何か気づいたかな?」

妄崎さんが僕の顔を見てそう言う。

 

「あんた達はさ、自分が人間です!って言いきれる証拠を持ってる?絶対に覆せないような、確実なものをさ」

「……?」

そんなことを突然言われても、思いつかないに決まってるじゃないか…。自分が人間以外の存在だなんて、考えたこともないだろう。

 

「それなら質問変えるけど、人間が生き返るなんて有り得ると思う?笑至くんみたいに、1度鉄パイプでグサグサっと刺されて死んじゃった人が今ここに平気な顔して立ってるなんて、おかしいと思わない?」

「……それはおかしいと思う、よ」

「そうだよね、そう思うよね〜」

 

「はあ…なんか誰も正解当ててくれなそうな雰囲気だし、つまんないから教えちゃうね」

妄崎さんは、ひどく退屈そうに欠伸をして言い放つ。

 

 

「この場所の正体は政府が作った巨大な実験場。あんた達は全員、ここで作られたクローン人間だったんだよ」

 

 

「クローン……?」

「え、そんな訳ないでしょ…だってボク達心とかあるし……」

「…そもそもクローン人間の作成は、世界で禁止されているはずではありませんでしたか?」

贄くんの質問に、妄崎さんが答える。

「だから、これは極秘の実験なんだよ。更生プログラムという嘘のヴェールに包んでるの」

 

「極秘でクローン人間の開発に成功すれば、将来戦争やらなんやらいろんな不穏なことに使えちゃうでしょ?

しかもその技術は、世界でその国しか持っていない……そんなの、お金に目が眩んだ人間達は開発したくもなっちゃうんじゃない?」

「……………」

…そんなの、信じられない。

 

でも、もし僕達がクローンだと言うのなら、生き返りだって納得できてしまう…のかもしれない。

足が、がくがくと震え出す。この場に立っているのが精一杯だ。今までの常識が、がらがらと音を立てて崩れ落ちていく。

 

「クローン人間に、脳味噌はいらない…必要なのは、データや記憶を詰めた、ICチップだけ。

つ・ま・り……頭さえ損傷しなければ、いくらでも生き返りが可能だってことなんだよ〜!」

妄崎さんは呆然とする僕達の反応を見て、嘲笑うように言った。

 

「…でも、それではおかしいですよね」

贄くんが絞り出すような声で言った。

「貴方は、揚羽くんに頭を釘バットで殴られて殺されたはずです。それが事実なら、貴方のICチップとやらは、その時に破壊されたはずではないんですか?」

 

「だから、そのトリックを考えろって言ってんじゃん。あ、ちなみに頭を殴ってたのも、頭の出血も本当だよ〜。さてさて、わかるかな?」

妄崎さんは、僕達を試しているのか。

必死に、今まで生きてきた中でのクローン人間についての記憶を思い出す。元の人がいてそれをコピーしたもの…だよな……。

 

 

「……あ、」

妄崎さんの言っていることが正しいのなら、僕達には、コピー元の人間がいる。

そして、その心当たりはあった。

あの時に見た、僕達にそっくりな、更生プログラムの参加者だ。彼らがもしこの実験場に、いるとするのなら。

 

「妄崎さん…君は、自分のコピー元の人を、あの時に身代わりにしたってこと?揚羽くんが殺したのは、君ではなく君の制服を着たその人…そういうことなの?」

「うん!正解だよ〜さすがは名探偵だね!」

妄崎さんは、にっこりと微笑んだ。

 

「ちなみに、笑至くんのは予備のボディがあったからそこに移し替えたよ。でも中身は変わらないけどね〜」

「自分の身体の秘密が人に明らかにされるのは、気分が悪いですね…。それでは、ボク達は誰でも、この入れ替わりができるということですか?」

「うん、理論上はね」

 

「そ、それなら、その予備の体に今まで亡くなった方のICチップをいれれば、全員生き返るってことですか…!?」

荒川さんの目に微かに光が戻る。もしかしたら僕達は、全員ここから生きて帰れるかもしれないってことか…?

「そういう期待しちゃう感じか〜。残念だけど、それは無理だね〜」

妄崎さんは、その希望をあっさりと打ち砕く。

 

「まず、ICチップは貴重だから同じものは2つとないっていうのを前提として覚えてね。つまり、脳天ぶち抜かれちゃったスティーヴンくんや、あま〜いチョコレートになっちゃった佐島くんは、まず当然生き返れないよ」

 

「……っ」

掃気さんが、息を詰まらせる音がこちらまで聞こえてきた。僕も、スティーヴンくんと佐島くんの顔が頭に浮かぶ。

「それで、後の頭を怪我してないみんなのことだけど……」

 

 

「残ってたみんなのICチップは、私がぜ〜んぶ取り出して、粉々に踏み潰しちゃった。」

 

 

「…は、?」

「だって、そんな死んだ人が生き返った…すごい…!みたいな奇跡の展開、小説の中ならまだしも、現実で何度も起こる訳ないでしょ。信じられないなら1つ例を教えてあげよっか?」

 

…やめろ。やめてくれ。これ以上、話さないでくれ。

 

「宗形くんが今ポケットの中に入れてる、その真っ黒い破片…それが、切ヶ谷さんの残骸だよ」

 

「……ッ…………」

思わず、ポケットの中に手を入れる。薄い破片の感触。

これが、切ヶ谷さんのICチップ…?この中に切ヶ谷さんの記憶や思い出や、何もかもが入っていて。

それが、壊された…?

 

「放心状態って感じかな?好きだった女の子の脳味噌が今自分のポケットにあるなんて、なんとも絶望的だよね〜」

「………………」

何も言えない。何も考えたくない。

 

「…こむぎくん」

月詠くんが、僕に声をかけてきた…みたいだ。

「よくわからないんだけど…これだけ大掛かりなコロシアイを、法典くんが亡くなったあと、しなぐちゃん1人だけで動かせるのかな?しかもしなぐちゃんって途中でいなくなってるのに……」

 

…確かに、そうだ。

月詠くんはモノケンにみんなの動向を伝えていただけだと言うし、これを単身で運営できるのか…?僕達の側にいて何か仕掛けをする人とかも、いた方がいいんじゃないのか?

 

「…あ」

思い出したのは、照翠くんの額の縫合の跡。

 

照翠くんがこのコロシアイの表舞台にいれば…運営は、楽になるんじゃないか?

「こむぎくん、何か思い出したの?おにーさん、全然わからなくて…よかったら、教えてよ……」

例えば、この中の誰かと入れ替わる、とか。

最悪の可能性が、頭の中で大きくなっていく。

 

それができるのは、1度黒幕側に身体が渡った人だけだ。それって、贄くんのことか…?

 

でも、妄崎さんは言っていた。『正真正銘、本物の贄くん』だ…と。

それに、この場所にはもう1人いるじゃないか。

黒幕側に身体が渡って、こちらに戻ってきた人が。

 

「おにーさんはあんまり頭が良くないから、さっぱりわからないなあ……入れ替わりだなんて…。照翠くんと、誰が入れ替わってるのかなあ…?」

彼は、保健室に行ってきたって。そこで、頭の怪我を治してもらった、って。

 

 

【挿絵表示】

 

 

そんなの、誰かなんて…もう決まってるじゃないか……

 

「君は、月詠くんじゃない…照翠、法典くんだ」

僕は震える声で彼を指さして、そう言った。

 

「………………」

月詠くんは、しばらくの間俯いたまま黙っていて──次の瞬間、顔を上げた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「私をいつまで待たせる気だ、凡骨。」

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