超特急論破 後編   作:鳶子

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非日常編3

「ごめんね、お待たせしちゃって〜。早く登場したくてうずうずしてた?」

「うずうず、という表現は適切ではないが…このまま凡俗共の中に骨を埋める羽目になるかと思ったぞ」

「あはは、そんなことしないって〜。最初に死んじゃって全然しゃべり足りないでしょ?ほら、好きなだけしゃべっていいよ!」

 

「あっでも〜、その前にどうして月詠くんと入れ替えたかだけ説明してもいい?…いいよね?」

「…どうぞ、お好きな様に」

妄崎さんの顔が一瞬、恐ろしいほど無表情に見えた。そんなことをどこかぼんやりと思った。

 

「実は月詠くん、2番目の事件の時に転んで頭打ったでしょ?あれのせいで、彼のICチップが修復不可能なほどバキバキに割れちゃったんだよね〜。でも息はしてるし、肉体的には生きてた。そこで…絶望的におもしろ〜いアイデアを思いついたの」

 

「月詠くんの中に、照翠くんのICチップを入れて、そのまま月詠くんとして仲間の中に戻そう…ってね!…あは、いいよ、あんた達のその表情!たまんない…!」

妄崎さんは僕たちの様子を眺めて恍惚とした笑みを浮かべた。

 

「そういう訳で、後は"月詠くん"に説明してもらってね〜」

そう言って、彼女は手をひらひらと振る。

「…あのひとを、すぴかおにいちゃんってよばないで……!」

掃気さんがぎゅっと拳を握りながら言った。

 

「あれ?そんなにあの子のことが大事だった?ごめんごめん、まぁ優しいおにーさんが誰も知らない内に間抜けに死んでるなんて、思いもしないよね〜」

「……やめろ。それ以上君が、月詠くんのことを語るな」

今まで聞いたこともない、低い声が耳に響いた。…しばらくして、自分の声だってわかった。

 

優しくて、気配り上手で、仲間思いで。僕達の支えだった月詠くんをそんな、簡単な言葉で。

許せない。ふつふつと体の奥から、言いようもない怒りがこみ上げてくる。

 

「あれあれ?怒っちゃった?いいよいいよ!もっと感情を昂らせて!その分、堕ちた時の絶望も大きくなるんだから……!」

「ッ……!君は、!」

「こむぎくん!!」

贄くんの叫び声で、頭がきん、と冷えた。

「落ち着いてください。今は彼女への怒りより、照翠くんの話を聞く方を優先すべきです」

 

「……ごめん、」

自分でも感じたことがないほど、身体が熱くなっていた。

「彼が内通者として、今までどのような役割を果たしていたか…怒りという非論理的なものより、きちんと事実を聞く方が大事です。覚えてください」

「…うん」

 

「…話は終わりましたか?」

照翠くんがにっこりと微笑む。月詠くんの、あの人好きのする笑顔で。

そのことにまた、暗い感情が湧き上がるけれど、むりやり抑え込んで話を聞く。

 

「貴様らは話がやたらと長い上に、要領を得ない。仕方が無いから僕が簡潔に説明することにする」

 

 

「僕が内通者として何をしたか。勿論貴様らが知っての通り直接的な事は何もしていない。

 

「…いや、1つあったか。3つ目の事件の途中に起きた停電。アレは私の仕事だな。

あの停電を起こしたお陰で、件の時間差トリック…次いで2人の被害者、1人の加害者、1人の悵恨を同時に拵えられた。

 

「…総じて間抜けな顔で黙りか。なら落ち着くまで僕が喋ろう

 

「そうだな、まず…殺し合いという場において最初に必要な物は何か解るか?

 

「…考えるのも答えるのも遅いな凡俗。

 

「動機だよ。…若しくは発端。或いはトラブルの火種…要はクロが人を殺すのに至った言い訳を、私が作ってやったんだ。

 

「内通者として最初に貴様に殺されてやったのも、殺し合い全体のスタートとしては中々の仕事だったな。

文字通り死ぬ程痛かったが序盤にしては中々盛り上がっただろ。なぁ?

 

「冗談はさておき…自分の家族、友人、ペット…大事な存在が人質にされていた事を覚えているか?

…あぁ、勿論僕が貴様らを調べ上げた結果だ。この情報のお陰で随分と事が進んだ。

 

「僕がこの男と遜色なく成り代われたのも、全員の情報が細かに揃えてあったから、と言えるな。そうでも無ければ僕がわざわざ貴様等の名前なんか覚えてやる意味も無い。

 

……ね?善良で家族思いなおにーさんが大切な家族のために内通者をやっていた、って知ってもみんな同情してくれたでしょ?」

 

 

「……………」

その声色で、ずけずけと。でもここで怒ったら、照翠くんの思う壷なのかもしれない…。

みんなも反応せずに、静かに話の続きを待っている。

 

 

「…そう、此方だけが情報強者であり続けるのも公平では無いからな。後で文句を言われても面倒だ。

…だから"月詠澄輝でもある僕"が内通者であるという情報を貴様等にくれてやった。

 

「少し尻尾を掴ませてやるだけで首謀者への対抗組織2つが互いに対立するだけの構造に成り下がった。

つまらん嫌悪感や猜疑心如きで事の本質を見失ったお陰で、貴様等は悵恨を燻らせていたあの男から目を離した。

 

「しれっと犯行に使えそうな部屋の存在をやつに示しただけで後はあのザマ…レジスタンスが聞いて呆れる」

 

 

「…………」

贄くんが、恨めしげに照翠くんを睨んでいた。照翠くんの言葉が、その場にいながらも犯行を止められなかった悔しさを余計に掻き立てるんだろう…。

 

「…まだ私に喋らせるか。ならば閑話休題…あぁ、自惚れていた貴様を忘れていた。根焼夢乃。」

「…ナニ?」

少し疲れたような顔をした根焼くんが、気だるそうに返事をする。

 

「他の凡骨共もそのまま間抜け面で聞くことを許可しよう。コレはあくまで場を和ませるための余談だからな」

「…ボク、他人に笑われるような滑稽なことなんてした覚えないけど?」

根焼くんが少しイラついたような表情を見せる。

 

「…貴様の研究教室に用意されていたあのノート。僕の管轄外だから教えてやる。貴様、アレだけは何故か未だに自分のことだと思っているらしいが…あの記述は紛れも無く僕の話だ」

 

「他人の業績を見て自分の能を勘違いする馬鹿が人心掌握?笑わせるな凡骨。貴様など僕からしたら精々器用貧乏の只のスケコマシだ」

「……………」

根焼くんは反論しようとしたが、言い返す言葉が見つからないのか口を閉ざしてしまう。

 

「理解したか?…なら例の黒幕の真似事みたいな一発芸。もう1回やっていいぞ。中々愉快だった。」

 

「……ッ、」

彼は完全に戦意を喪失したような顔で、いつもの獲物を狙うような目を、静かに照翠くんから逸らした。

 

裁判場には、再び静寂が戻った。

 

 

「おっと、話は終わりかな?じゃあ次のお話…と行きたいところなんだけど、みんな疲れきった絶望顔してるからさ、ちょっと休憩入れよっか!」

妄崎さんがパン、と手を叩いて言った。そんな声が、脳内で空虚に響く。

 

こんな苦しさが、辛さが、全てがばらばらになるような恐怖感が、更に続くのか?

知らないうちに、瞬きすら忘れていたことに気づく。喉もからからだ。助けは、来ない。

 

「まだまだ、絶望はこんなものじゃ終わらないよ。…覚悟してね」

 

 

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