超特急論破 後編   作:鳶子

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非日常編4

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【挿絵表示】

 

 

休憩を挟んで、少し気分が落ち着いた。加えて、僕は1つ忘れていたことを思い出した。

「えっと、まず最初に確認したいんだけど……」

僕は贄くんの研究教室にあった、あの契約書を頭に浮かべる。

「僕は贄くんと照翠くんの名前が書かれた契約書を見つけたんだけど、あれは何のためにあったの…?」

 

「…契約書?あぁ、あのゴミか。見つけた者が幸運であれ不幸であれ、紙切れ1枚で冤罪を被った哀れな男に"黒幕側だったかもしれない"という可能性を貴様等に教えてやっただけだ。

結構振り回されてくれたらしいが、この私が着手金も無しに私の能力を凡骨に提供する訳無いだろ。慈善活動じゃないんだぞ」

 

「……契約書の話はありましたが、そういう目的のものだったんですね」

贄くんは眉をひそめる。彼を疑ってしまったことへの罪悪感が、今更ながらに湧き上がってくる。贄くんは僕を信頼してくれていたのに、僕は彼を、心のどこかでは疑ってしまっていたんだ…。

 

「ところで。どうして、このコロシアイはルールを忠実に守ろうとしたのか、教えていただいてもよろしいですか?」

贄くんは、契約書に関しての話はもう終わったとばかりに、妄崎さんに問いかける。

 

「あ〜。うん、教えてあげる。なぜかってね…これはゲームである以上に、見世物なんだよ」

 

「見世物?」

「そう。謀反を企てた人間がさ、全世界に実験場の様子をLIVE中継しようとしたって、パソコンの日記に書いてあったでしょ?」

「…まさか、貴方はそれを……」

「ピンポンピンポーン!まあ、ここまで言われれば誰でも察するよね〜」

 

「この裁判の様子は電波をジャックして、世界中に流されている…

勿論今だけじゃない、あんた達が最初にここで出会った時からずーっと、ね。そして今からやることも、すべて修正無しの生々しさで、全世界に配信されちゃうの!」

 

 

「…君は今から、ナニをする気なの?」

根焼くんが様子を探るように尋ねる。

「うぷぷ、知りたいの?うんうん、今これを見てる皆さんも聞きたいことでしょうし、教えてあげましょう!」

妄崎さんは僕達の目線よりやや上の方の一点を見つめて言った。おそらくその場所に、カメラがあるんだろう。

 

 

「これからあんた達には1人ずつ、2つの選択肢の内、1つを選んでもらう……

『希望』か『絶望』どちらか1つをね」

 

 

「そ、そんなの、希望を選ぶに決まってます……!」

「ぜつぼうなんて…えらばない……」

「まあまあ、話は最後まで聞いてよ。絶望も悪いもんじゃないよ?むしろあんた達にとっては、希望って言うのは結構残酷なものだと思うけどな〜…」

妄崎さんは焦らすように人差し指を口元に当てる。

 

「じゃあまず、希望って選択肢に関して説明する前に…芥原ちゃんが豹変したことについて、みんな気になったでしょ?」

「………」

それが気になっていたのは確かだ。なんで芥原さんは、いきなり学校を破壊するような行動に出たんだろう。

 

「芥原ちゃんの身体には、元々緊急用プログラムがインストールされていた…目的は、実験体である私達が暴走してしまった時に止められるようにするため。その証拠はあったはずだよね」

「…うん。パソコンの日記にそのことも書いてあった」

「そう、プログラムに誤算が生じて起動に時間がかかる、ともね」

 

「じゃあそのプログラムが、今朝起動したってこと…?」

「話が早くて助かるね〜、そういうこと。プログラム芥原ちゃんは、改変されてしまった学園生活を目の当たりにして…間違ったものだと認識した。本来の目標は清く正しい学園生活なのに、生徒同士が殺し合っちゃってるんだから当たり前だよね〜」

 

「だから、緊急用の破壊措置が発動した…本来の芥原ちゃんは、今はプログラムに頭を乗っ取られて、記憶の奥に無理やり押し込められてる状態なんだよ。可哀想に……」

妄崎さんは憐れむような目で芥原さんを見つめる。

「…くぐはらはみんなを正しく導くために作られた物です。これは正しい行動です」

彼女は厳しい目付きで妄崎さんを睨みつける。

 

「う〜ん、まあ、プログラム芥原ちゃんってのはこんな感じってことだよ」

妄崎さんは僕達に向き直る。

「芥原ちゃんは、暴走した実験体──つまり私と、実力が同程度になるように調節されている。後はあんた達の行動次第で、これからどうなるかが決まるの」

 

「僕、達が………」

 

この二者択一の状況で、何か罠が仕掛けられるのか?…妄崎さんは、僕達に一体何をさせようとしているんだ?

 

 

「まずは『希望』を選んだ時。もちろんこの選択肢は希望なんだから、あんた達は待ち望んでいた外の世界に出ることができるよ。

…でも、その世界にあんた達を待っている人っているのかな?あんた達が帰れる場所って、あるのかな?」

 

「………」

彼女が暗に示していることぐらいわかる。僕達がここで造られたクローン人間なら、外の世界に居場所はない。

「ちょっと待ってください!」

その時、芥原さんが妄崎さんの言葉に割り込んだ。

 

「この実験の失敗は、政府の失態でもあります…貴方達の外に出てからの身の安全は、政府が確保してくれるですよ。くぐはらのデータベースに、みなさんの保護準備を始めたという情報が入ってきています」

「…でもそれだって、本当に安心かは分からないよね〜?勘のいい子はもう分かると思うけど」

 

「………」

根焼くんがその言葉を聞いて押し黙る。彼は何かに気づいてしまったんだろうか。

「それと、この場所を出るには緊急用プログラムである芥原ちゃんの"魔法"……そう、これも一般人には公開されていない、核融合やらなんやらやばめの最新鋭の科学の代物なんだけど…」

 

"発達した科学は、魔法と区別がつかない"。そんな言葉が脳裏に甦ってくる。

「薊博士って相当すごい人だったみたいだね〜。科学で魔法のようなことを再現するなんて普通の人間なら絶対できないよ。

だから、自分の技術を詰め込んだかわいい愛娘の名前に、自分の苗字をつけたくなったのかもね」

 

薊と芥生。2つの名前の読みが同じだったのは、やっぱり偶然なんかじゃなかったんだ。

 

「そして、その"魔法"を使ってあんた達が外に出るとしたら…学校の中でそれを使う本人である芥原ちゃんが、無事でいられるという保証は、どこにもないんだよね〜!」

 

「そんな…!く、芥原さんは一緒に出られないってことですか!?」

「…くぐはらも、この魔法は使ったことがないので分かりません。ですが、くぐはらに悔いは無いですよ。この学園の修正には、ここを壊す以外に選択肢はありません」

芥原さんはふるふると首を横に振った。

 

 

「…さて、もたもたしてると芥原ちゃんにぶっ殺されかねないし、次は絶望の話に移ろうか。

 

『絶望』を選べば、あんた達は永遠にこの箱庭で暮らすことになる。あぁでも安心して、もう誰も死ぬことはないから。コロシアイはもう終わり。ここは閉鎖するから、危ない人間が侵入してくることもない」

 

「この配信を見た後の世界はきっとかつてないほど混乱して、いろんな戦乱が巻き起こっちゃうかもしれないけど…まあそんなの、私達にはもう関係ないもんね?

私達を開発して好きなように利用しようとした意地汚い人間のことなんて、どうでもいいよね〜」

 

「どうでも、いい……」

僕達はきっと、人間じゃない。本当にそうなのかもしれない。

 

気にする必要なんてなくて、自分たちが楽しく暮らすことだけ。

危ない外になんて出ないで永遠に、このユートピアみたいな場所で、素敵な仲間と過ごせる。

逆にこれのどこが、絶望だって言うんだ…?

 

「さて、あんたはどちらを選ぶか決められるかな〜?」

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