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僕の、小さい頃のお気に入りの場所。街外れのひまわり畑の風景を思い浮かべていた。
この陽だまりの匂い。暖かい黄色に包まれた景色。泣きそうになったことがあった時は、いつもここに来てたっけ。
「宗形さん」
誰かに、名前を呼ばれたような気がしたけど……まあいいや。僕には関係ない。
「宗形さん!」
「痛っ!?」
むぎゅっと頬をつねられた、ような気がする。
「宗形さん、何してるの!こんなところでのんびりしてる場合じゃないでしょ!」
その声は、僕の耳に懐かしく聞こえた。
「……切ヶ谷、さん」
後ろは、振り向けない。
「…どうして君が?これって、僕の夢?それとも、記憶の一部が活性化した、とか……?」
「宗形さん。ボクから目を逸らさないでよ」
ぐいっと肩を掴まれた、ような気がした。また感覚だけ。
「目を逸らしたら、見えるものも見えてこないよ」
「……」
振り向いたら、全て消えてしまう予感がした。
「大丈夫だよ。宗形さんは、今までだって無理だと思った困難でもバシッと乗り越えてきたでしょ?」
「………」
「他の人と意見が違っても、キミは自分で道を切り開いていってたじゃないか。それは違うぞ!って。あれ、かっこよくて大好きだったんだ、ボク」
「…………」
「キミはボク達に、いつでも歩くべき道を照らしてくれた。ボク達に、希望の光を与えてくれてたんだ」
「……ちがうよ、そんなの」
僕は首を横に振る。
「みんながいたから、僕は今までやってこれたんだ。僕は弱い。支えてもらわなきゃ、1人じゃ何もできない…今みたいに」
「そうかな。確かにキミは最初は弱っちい感じだったけど、強くなった。ボクが言うんだから間違いないよ」
「……それに、僕達が過ごしてきた世界は全部偽物、人間が造った作り物の世界だったんだよ。そんなの、もう価値がないじゃないか…」
「…偽物?どこが?」
「ボク達が今まで泣いたり、笑ったり、怒ったり、喜んだり、悔やんだり、思いっきり楽しんだり…そうやって日々を過ごした、あの感情は本物だろう?誰かに命令されたものじゃないだろう?」
「えっと、AIの自動学習…みたいなこと?」
「なんて?(゜▽゜)…まあ、詳しいことはよく分かんないけどさ!」
「諦めないでよ、宗形さん!キミは1人じゃない、ボク達がいつでも見守ってる。
そう思ってくれてたんでしょ?忘れないでよ、ボク達の存在を!
キミが覚えていてくれる限り、ボクはいつでもキミの傍で、バカみたいな大声で応援してるから、さ」
「切ヶ谷さん…っ!」
僕はやっと、後ろを振り向いた。彼女に、伝えなきゃいけない。
「ありがとう、切ヶ谷さん!ありがとう………!」
この胸から溢れ出しそうな感謝の気持ち。今伝えなきゃ、いけない気がして。
「それは違うぞ!」
「…へ?」
「えへへ、1度言ってみたかったんだよね。でもほんとに、感謝を伝えるのはボクの方だよ。ボクをずっと覚えてくれて、支えとしてくれて、必要としてくれて。」
「ありがとう…宗形さん。」
切ヶ谷さんは、眩しい、きらきらとした光と共に、いなくなった。
僕は、目を開ける。もう迷いはなかった。
「みんな、希望を選ぼう」
「…は?ナニ言ってんの?今までの話聞いてた?」
「そんなことしたら、みんなどうなるか分からないんですよ…!?」
「それでも、こんなところでずっとみんなでずるずる暮らすなんて、やっぱりおかしいよ。僕達の仲間は…そんなこと、望んでいなかったはずだ」
「みんな、思い出してよ。僕達は仲間の思いを託されて、今ここにいるんじゃないのか?それがどんな場所だろうと、いつか帰る日を、ずっと夢見てたじゃないか!
その思いは、こんなところで簡単にリスクとかを気にして諦められるようなものなの?みんなの決意は、そんなものじゃないだろ…!」
「確かに、外の世界は怖いよ。悪い人間が僕らを狙ってくることもあるかもしれない。
でも、それよりもっと怖いことだって、みんなで乗り越えてきたじゃないか。これだけ仲間がいるのに、不安になんて思う必要ない。それに、新しい世界に出れば、新しい仲間とだってきっと出会えるはずだ」
「僕達が諦めちゃだめだ!自分の未来を決められるのは、自分だけ…そしてそれは、自分だけのものじゃない。ここにいた全員の、みんなの、希望に溢れていた未来なんだ…!」
「……………」
「あーあ、しょうがないなぁ!」
「…根焼くん……」
「宗形がそこまで熱弁してもぼっちなの可哀想だし、入れてやるよ。ま、命狙われてもうまく撃退しちゃえばいいだけだし?ボク達に掛かれば余裕っしょ。外に出てもっといろんな女の人にも会いたいしなぁ!」
「追いかけられても私の運で、きっと逃げられますよ…!う、うまくいく保証は無いですけど……皆さんが助けてくれるなら、頑張れますから……。
芥原さんの魔法もあれば、向かうところ、敵無しですよね!きっと学校から出るのも、なんとかなる方法があるはずです…!今は、そんな気がします…!」
「もこも…がんばる……。もこ1人の、命じゃないから。としおおにいちゃんとすぴかおにいちゃんの分まで、生き延びるために……。
戦う、とかはできないけど…お料理、2人から教えてもらったの。もこが、みんなの分を作るね…今はまだへたくそでも、これから頑張る……」
「ちょ、ちょっと、どういうこと…?」
妄崎さんが、額に汗を浮かべている。
「なんでみんな急に、希望論を語り出すの…?そんなの、ただのおとぎ話に過ぎないじゃない……!ねえ、芥原ちゃんもそう思うよね?」
「…確かに、おとぎ話かもしれないです」
芥原さんは頷く。
「それでも、魔法少女はおとぎ話の中の存在ですから。そこで生きることは、くぐはらの本望です。例えそこへ行けなかったとしても、みんなをゴールへと導く、物語の登場人物にはなれます。だけど…」
「……くぐはらは、妄崎さんを見捨てられません。自分が希望の象徴なら、大切な妄崎さんのことだって、くぐはらは助けたい。だから、くぐはらは…」
芥原さんは、苦しそうに顔を背けた。
「くぐはらは、絶望を選びます」
「え…!?」
「そんな、芥原さん…!」
「いいの?ソイツは今までボク達を苦しめてきた張本人なんだよ?それを救うなんて……」
「それでも、妄崎さんはみんなと同じで、くぐはらの大切な人です。くぐはらのボランティアは、博愛主義がスローガンです。例え敵だとしたって、助けたい……!」
「芥原ちゃん……」
妄崎さんは、まるで聖母のような、微笑を浮かべた。
「君はほんとに、いい子だね…」
「…ごめんなさい、みなさん」
芥原さんは、ぺこりと僕達に頭を下げる。
…これが、芥原さん自身が選んだ未来だ。他人が口を出せることではない。
「さーて、それじゃあお待ちかね、投票タイムといこうか!準備のできた人から1人ずつ、ボタンを押していってね!」
妄崎さんが威勢よく告げる。いよいよ、最後の投票が始まる。