超特急論破 後編   作:鳶子

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非日常編7

僕の心は、もう決まっている。ボタンに手を伸ばした。

 

僕は『希望』を押した。

モニターの左側に、緑色の光が1つ点灯する。

 

 

「そういえば、妄崎さん…ボクが何の才能だったのか、ちゃんと外出る前に教えてね」

緑色の光が点灯する。

 

 

「これが、くぐはらの選んだ未来です」

モニターの右側の光が点灯する。

 

 

「これからもみんなで進むために、私は…!」

緑色の光が点灯する。

 

 

「………ッ、…」

贄くんが苦悶の表情で、爪を立てて右手を押さえつけるが、その手は徐々に赤いスイッチへ伸びていき…

右側の赤色の光が、点灯した。

 

「…もこの未来は、もこが決める…」

緑色の光が点灯する。

 

これで『希望』を選んだ人が4人。『絶望』を選んだ人が2人。

 

「……うぷぷ、あはははは!」

妄崎さんが、途端に笑い出す。

「…これで、絶望の勝利は決まったよ!あんた達がどんなに抵抗しても結局は計画通り、こうなるの!あはははは!」

 

「待ちなさい、まだ、照翠くんは投票していませんよ」

贄くんが、妄崎さんの言葉を止める。

「あれ?言い忘れたっけ?このままだと、照翠くんと私が絶望で同票でしょ?同票になったら、覚醒して莫大な力を持っている、私達がいる方が勝つようにできてるんだよ」

 

「…え、?」

「そんな…!それは卑怯ですよ!」

「さすがに後出しはずるくない…?」

──そんなことが、許されるのか。僕たちのこれまでの努力はどうなるんだ?

 

「…照翠くん、先に押していいよ。私は最後に押すから」

妄崎さんが、照翠くんに向かって呼びかける。

「…契約、忘れてないよね?」

「ええ、勿論」

 

内通者である照翠くんは妄崎さんに忠実な様子だったし、きっと彼女を裏切らない…。

 

終わった…のか。全てが、無駄だった。

どんなに希望を求めても、最後にはこうなってしまうのか…?

 

照翠くんが、ゆっくりとボタンに手を伸ばす。こちらからは、その手元は見えない。そして──

 

 

緑色の光が、点灯した。

 

 

「…は、?」

妄崎さんが、思わず動揺した声を漏らす。

 

僕も何が何だかわからない。このまま行けば、絶望が勝つことだって有り得たはずなのに。照翠くんは、どうして内通者なのに、希望を選んだんだ…?

 

「…ふふ」

そんな中でただ一人、この場で笑っている人がいた。

 

「本当に、いつそちら側に寝返ってしまうのかと、心臓が破裂しそうな思いでしたよ……」

「寝返る?僕は希望と絶望、どちらの側にもついた覚えはない。言っただろ、着手金も無しに能力は提供しない…ただ、僕が貴様の側に興味が出た。それだけの話だ」

 

「あんた達、何の話してるの…?照翠くんは、私が契約してたはずでしょ?」

「人質の生存が確保されていない時点で、明確な契約違反だ。僕には貴様の言うことを素直に聞く理由が無い」

「………」

「それに、彼と契約を組んでいるのが貴方だけだと思いましたか?」

 

「こんな有能な人材、利用させてもらわない手はないでしょう……失礼、結構な物言いにはなってしまいましたが。彼はボクの契約相手です」

「僕は貴様に報酬を支払う能力があるとあの時判断しただけで、少しでもしくじったら直ぐに見捨てるつもりだったがな。…まあ良い」

照翠くんは妄崎さんを見据えて、口元を綻ばせた。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「私に嬲られる気分はどうだ?凡骨」

 

「…ふふ、だそうですよ。いかがですか?」

 

「………ッ、こんなの認めない!大体、どうして何も持っていないあんたが、こいつと契約を結べるのよ…!」

「生憎、指名手配犯を何度か捕まえたことがあるので、お金だけは持っていたんですよ。まあその金もどうなったかは分かりませんが…」

「少し調べたが、貴様の金は残っていたぞ。あの廃墟の中に」

「へえ、本当ですか?あの隠し場所は荒らされていなかったんですね。日頃からの用心は大事です。では、外に出たらそれでお支払いするということで」

「分かりました」

「………?」

全く話についていけてないのは、僕だけか…!?

 

 

「ああ、すみません。訳が分からないですよね。今説明しますからご安心を」

贄くんがぽかんとした顔をする僕達に声をかける。

「正直に言うと、あの証拠を集めた時点でボクには真相が8割程度分かっていました。この時のためにお話はできませんでしたが…」

 

「ボク達はクローン人間であり、先程見たあの廃墟──あそこは外の世界ではなく、実験場の延長線です。ここを含めた街自体が、政府直轄の巨大な実験場でした。

ボク達はそこで、高校生になるまで過ごした…理屈はわかりませんが、科学の力とやらでその時間は3ヶ月ほどに濃縮されていたのでしょう」

 

「ですから、あの街に見覚えがあるのも当然なんですよ。すれ違っても互いを認識しないような細工が施されていたのでしょうが…

実際のところ、何度かすれ違ったり、もしかしたら同じ中学にいたりしたのかもしれませんね」

 

「そして、ボク達が父親、母親だと思っていた方々は、実は人間の受刑者の方達ですね。実験に協力する代わりに、減刑が約束されていたそうです。

まじめに罪を償おうとしていた方だけを選んだようですから、皆さん今まで平穏無事に生きてきたでしょう?」

 

 

「平穏無事?笑わせないでよ。そんな訳ないでしょ……」

妄崎さんが低い声で呟く。

「あいつらは悪魔。私に暴力を振るっていた。頭のこの傷だってそうよ、その時の古傷。…それでも姉がいつも庇ってくれてた。でも、そのお姉ちゃんだって、生意気だってあいつらに殴り殺された……」

 

「私は、この世界が憎い。私の幸せを奪った挙句、私の、大切な人まで奪った。ほんっとに、絶望的だよね……。

人間は最低で、最悪な生き物。世界は不平等なんだよ。だから私は思ったの。」

 

「全世界の人間に、絶望を味わせてやるって。この不平等な世界をぶっ壊して、ぐちゃぐちゃにしてやるって!それが私が、このゲームを始めた理由なんだよ…!」

 

 

「妄崎さん……」

彼女に、そんな過去があったなんて。何も知らなかった。もっとちゃんと仲良くなって、聞いてあげていれば、なにか違ったのか…?

 

…その時、照翠くんが大きなため息をついた。

「あれだけの証拠が揃っていたのに、まだそれが勘違いという事に気付いていないようだな、貴様は」

 

「勘違い…?何言ってるの?私はずっと、そのために……」

「それは途中で貴様の記憶に植え付けられた、"思い出したくなくなるようなトラウマ"だ。

私の調査によれば、貴様の家は、一人っ子の娘と父母の、至って普通の家庭だった。貴様が突然父親と母親を刺し殺して家を出るまではな」

 

「まさか……そんなばかな、」

「では聞くが、貴様が殺す時、貴様の両親は叫んでいなかったか?そんな事はしてないと。貴様の事を大切に育ててきた、と」

「……!」

妄崎さんの、動きが止まる。…そして、がっくりとうなだれた。

 

「…はは、あはは……最っ高に絶望的じゃない……存在しない姉のことで世界を勝手に憎んで、大切にしてきた両親を自分の手で殺して……そう、これが、私の求めてた絶望なのね……」

 

「散々希望だの絶望だの言い合っておいて、最後は、金の力で解決?そんな"人間みたいな"終わり方…絶望だわ……あんたも私と同じタチだと思ってたのに…」

「…僕はルールには一切反していない。ルールを改変して無理やり自分の思い通りにしようとしていた貴様とは違ってな。いい加減理解しろ、凡骨」

 

「はぁ…わかってるわよ、そんなこと。最初から、わかってた。こんな消化不良のまま終わりか…これも、絶望なのかなあ……」

「…………」

妄崎さんの目線が動く。どうやら、何かを用意しているみたいだ。

…おしおきだと、直感的に気づく。

 

「妄崎さん。それなら…ちゃんと、"僕達の終わらせ方"で終わりにしよう」

僕は、彼女に告げた。

 

「あんた達の終わらせ方?そんなものある訳……、もしかして…」

「うん。君の思いを聞かせてよ、妄崎さん」

 

「…あんた、正気?こっちが諦めようとしてるのに、あんたが諦めさせないってこと?諦めることすら、許してくれないの?」

「そうだよ。諦めちゃダメだ」

「……諦めるなって、あぁ、そういうこと?これだけ私が酷いことをしたのに、まだあんたは、私を仲間だと思ってるの…?」

 

「うん。だから、君は諦めちゃいけないんだ」

「あーっはっは……あんた、ほんっとに馬鹿だよ。筋金入りの」

妄崎さんは俯いて乾いた笑みを零した後、顔を上げる。

 

「…私が勝ったら、これから全員、存分に絶望してもらうからね。精々後悔しなよ」

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