超特急論破 後編   作:鳶子

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(非)日常編6

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▶side:凰玄

 

「なにせボクは、最初の殺人の真犯人…黒幕を、おおよそ突き止めているのですから」

 

「………」

「ええ…!?」

月詠が口元に手を当てて驚いたような仕草をする。

「今は詳しくお話できませんが、どうでしょう?これで僕と同盟を組んでくださる気にはなりましたか?」

笑至はこちらに顔を向ける。その表情から何を考えているかは読み取れない。

 

「…悪くはないワ。それで、これからあたし達を使ってどうするつもり?」

「黒幕を追い詰めるためには、反論される隙が無い、完璧な推理が必要です。まあ、この言葉は"彼"の受け売りですが…。

そのためには、証拠を集める必要があります。ボクが犯人ではなく、黒幕が真犯人であるという証拠を集めるのを手伝っていただきたいのです」

 

彼、という単語も気になったけれど、とりあえず聞き流す。

「コロシアイを終わらせるためには、まずあの学級裁判が不成立であったことを証明すればいいんです。どうもこのゲームは何らかの決まったルールに則って動いているように思えます。そのルールに違反していることを示せば、道は開けるはずです」

 

「…あたし達は、その証拠とやらを探せばいいのね」

「はい。あくまでこれは秘密同盟なので、基本的にはまとまらず自由に行動していただいて構いません。ただ、夜時間になったらこの場所に集まり、今日の成果をお互い報告する、というのだけは約束事にしておきましょう」

成程、生半可な動きをしていればここで報告することがない。つまり、動かざるを得ない訳だ。よく考えられている。

 

「いいワ。手を組みましょう、どうせ今のままではどうにもならないし」

「おにーさんも、このコロシアイを終わらせるためならできることは何でもするよ」

「ありがとうございます。それでは、同盟成立ということでよろしいですね」

 

笑至は再びにっこりと笑った。月詠がふと思い出したように彼に訊く。

「この同盟って名前はあるの?秘密同盟じゃ、ちょっと呼びにくいな〜と思って…」

「名前ですか。そうですね、ではこんなのは如何でしょう……」

 

「…いいわね」

「うん、なんかかっこいいね!」

「では、校舎に戻りましょう。ボクは念の為時間差をつけて行きますので、お2人は先に出てください」

 

どこか決意に満ちた顔で時計塔をあとにする2人と小部屋で息を潜める1人。この3人は同時刻、もう1つの同盟関係が結ばれていることなど知る由もない。

 

 

✧ ✧ ✧

 

▶side:こむぎ

 

佐島くんと掃気さんが中庭を出てまっすぐに向かったのは、食堂の中にある厨房だった。

「ここで何するの?」

「それは始まってからのお楽しみだよ」

「………」

掃気さんは口を開かないけど、心なしか嬉しそうな顔だ。

 

佐島くんがキッチンの引き出しから取り出したのは、薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖、卵、牛乳、そしてサラダ油。さまざまな調理器具は掃気さんがせっせと用意している。

どうやら、これから何か料理を作るみたいだ。

 

「さあ、作っていこう。宗形さんも手伝ってね」

「う、うん!」

手伝ってと言われても、何を作るかもわからないんだけどな…。

 

まずはボウルに薄力粉、ベーキングパウダー、砂糖を入れて泡立て器で混ぜる。

「うわっ!」

泡立て器のスイッチを入れると、思ったよりすごい音でびっくりしてしまった。

「泡立て器って、意外とパワーがあるんだね…」

「そうだね。あ、そのぐらいでいいよ。掃気さんのは僕がやるから、宗形さんはこのボウルで卵と牛乳を混ぜててね」

そう言って佐島くんは慣れた手つきで自分のと掃気さんのボウルの中身を混ぜる。佐島くんが作るものだし、やっぱり甘いお菓子なんだろうか…?

 

「宗形さん、混ぜ終わった?」

「うん、これでいいかな」

「大丈夫。じゃあこれをこっちのボウルに移して…」

佐島くんはてきぱきと作業を進めていく。卵と牛乳を加え、泡立て器で混ぜると淡いクリーム色の液体ができた。この状態なら僕も見たことがあるかもしれない。

 

「これで生地は完成だね。じゃあ、焼いていこう」

サラダ油を染み込ませたキッチンペーパーでフライパンに油を薄く塗り、フライパンを加熱する。

「……ここに…いれる…?」

「いや、1回濡れたふきんの上に置いて熱を取ってから、弱火で焼くんだよ」

「…たのしみ……」

僕がふきんを濡らすと佐島くんはその上にフライパンを置き、火を弱火にしたあと、自分の作った生地をおたま1杯分とり、上から中心に落とした。

これを見て確信した。今作っているのはホットケーキだ…!

 

佐島くんは目にも止まらぬ早さで生地の形を変えていく。そして、プツプツと表面に穴ができた頃、佐島くんがホットケーキをひっくり返すと…

 

「くまさん……!」

ホットケーキはこんがりと茶色く焼け、熊の形になっていた。

「わあっ、すごいね…!」

「宗形さんのもよければやろうか?」

「うん、お願い!」

1個目をお皿に盛りつけると、本当に焦げたところもなく均一に綺麗に焼けている。やっぱりプロは違うなあ…。

僕が調理器具を洗っている間に、3人分のホットケーキが焼かれ、見ると2人がデコレーションをしていた。いつの間にかやってきていたしょりしょりくんも、掃気さんのホットケーキを舌なめずりして覗き込んでいる。

 

 

【挿絵表示】

 

 

「もこの、くまさん…かわいい……?」

「うん、2人ともとってもかわいくできてると思う!」

「ありがとう。宗形さんの分もあるからよければ使ってね」

そう言った佐島くんはどこかふてくされたような顔に見える。

…もしかして、最初にかわいいって言いたかったんだろうか?

 

「「「いただきます」」」

あたたかいホットケーキを口いっぱいに頬張ると、途端に幸せが広がった。

「おいしい!」

「くまさん…おいしい…」

「うん。今日はうまくできたね」

このおいしさは病みつきになりそうだ…。しょりしょりくんも材料の余りで作った小さなホットケーキをあっという間に平らげていた。

 

「こうやっておいしいホットケーキを一緒に食べた訳だし、今日から3人で一緒に動くのはどうかな。同盟…っていうのはなんか固い言い方だけど」

食後、口元をナプキンで拭きながら佐島くんが言う。

「僕はもし2人がよければいいと思うよ」

 

僕は頷く。佐島くんや掃気さんの見たことない一面も見ることができて、この2人といられるのは楽しかった。

…もしかしたら、佐島くんも僕が考えてるほど悪い人じゃないのかもしれない、という気さえしていた。

 

「もこも…おにいちゃんと、いっしょ…いい……」

掃気さんも口をもぐもぐさせながら同意する。

「それじゃあ、そういうことで。今日からよろしくね、2人とも」

佐島くんがにっこりと笑った。僕は2人から見えないように静かに拳を握りしめる。

 

たとえ笑至くんが僕のことが嫌になったって、僕はがんばって調査して、このコロシアイを終わらせるんだ…!

 

 

✧ ✧ ✧

 

午後は疲れた掃気さんがそのまま食堂で眠ってしまい、佐島くんと2人で自分たちの才能や、今までのことについて話していた。佐島くんとこうしてじっくり話す機会もなかなかないだろうな…。

 

気づいたら夕食の時間になり、食堂に人が集まる。それでももう半数近い数がいなくなっているから、テーブルの周りはどこかがらんとしていた。

 

そして、もう1つ。笑至くんと揚羽くんが、食堂にやってきた。

2人は何食わぬ顔でばらばらの席に座り、夕食を食べ始める。途中で根焼くんが2人をからかっていたが、全く意にも介さないような態度だった。

 

そのまま神妙な雰囲気でみんなが食事を終え、僕は佐島くんに話しかける。

「佐島くん、夜時間は何かすることある?」

「いや、いいよ。夜はゆっくり休んでて」

「わかった。…佐島くんも、あんまり働きすぎないでね」

 

食堂を後にして、寄宿舎に向かっていると、

「…宗形くん」

今日初めて、笑至くんに話しかけられた。驚きと焦りのようなものが見える表情。

「佐島くんと、手を組んだんですか」

「…うん」

「………」

笑至くんは額に手を当てて俯いた。まるで最悪の事態が起こった、とでも言いたげだ。その態度に僕は思わず言葉をぶつけてしまう。

 

「彼は、このコロシアイを終わらせるために動いてるんだ。笑至くんが思うほど悪い人じゃないよ。どうしてそんなに敵視するの…?彼をもっと信頼してあげてよ!」

「…もうそこまで植え付けられてるんですね」

笑至くんはぽつりとつぶやいた。

「え…?」

「いえ、貴方を見捨てたことになっているボクにとやかく言う筋合いはありません。ただ一つだけ忠告させてください」

 

「世の中には、情のある人間と、簡単に他人を切り捨てることができる人間がいる。彼は、後者です」

「………」

「用心しておきなさい。彼はいざとなったら簡単に、貴方を裏切ります」

 

笑至くんはそれだけ言うと、僕を置いてすたすたと長い通路を歩いて行った。

 

暗い廊下には、僕がぽつんと一人で取り残されていた。

 

 

✧ ✧ ✧

 

 

「…首尾は?」

「上々。お前の言った通りだったよ、あいつを尾行したら、モノケンと2人きりでこそこそ話してた」

「ふうん。やっぱりね」

「それで?あんな大事な場面を見つけたんだから、報酬はたんと弾ませてくれるんだよな?」

「モノケンメダルだろ。あんなのもらって何が嬉しいんだか…いいよ、僕が今持ってる分全部あげる」

「やりぃ。この前大負けして困ってたんだよね、ボク、ゲームぐらいしかやることないし…」

 

根焼はそこで言葉を止め、顔を近づけて聞いてくる。

「それで?何がわかったの、佐島クン?」

「…キスできそうな距離だね。それに、君も薄々わかってるだろうに」

「ホントにしてやろーか?」

「勘弁してほしいな。ファーストキスは恋人のために大事に取っておくタイプなんだ。…うん、これで確信したよ」

 

「月詠澄輝は、内通者だ」

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