超特急論破 後編   作:鳶子

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(非)日常編7

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▶side:こむぎ

 

朝の放送が鳴る前に、浅い眠りから目覚めた。昨日はあんなに楽しいこともあったのに、最後に聞いた笑至くんの言葉が頭から離れない。

 

(…佐島くんは、ほんとに悪い人なんだろうか)

 

…わからない。わからないからこそ、笑至くんにもう一度、その真意を聞いてみるしかないと思った。今日は彼を探して、ちゃんと話し合ってみよう。僕を避けている理由も、今まで聞けなかった、契約書や最初の殺人についてのことも。昨日一晩考えて、本気で彼とぶつかる決心が自分の中でついていた。

 

「よし、今日も頑張るよ、はなちゃん」

 

はなちゃんに水をあげてそう呼びかけ、僕は食堂に向かった。

 

 

食堂では、昨日の夕食の時と同じように全員がそろっていた。僕も席について黙って朝ご飯を食べ始める。

しばらくすると、僕がまだ食べ終わらないうちに食事を終えた笑至くんが立ち上がった。揚羽くんと月詠くんに何か小声で話しかけたあと、彼はつかつかと早足で歩き、1番に食堂を去ってしまった。

 

(…何を話していたんだろう)

 

食事を終えた僕は早速、笑至くんを探しに行こうとした。

「どこ行くの?宗形さん」

「…佐島くん」

声をかけてきたのは佐島くんだ。僕のことを不思議そうに見ている。…たぶん、僕が怯えたような顔をしているんだろう。

 

「えっと、笑至くんを探しに行こうと思って。やっぱりもう1回、ちゃんと彼と話がしたいんだ」

「それなら僕と掃気さんも手伝うよ。人手が多い方がいいでしょ?僕達は今はチームなんだから、頼ってくれていいのに」

「そ、そうだよね、ごめん…!」

 

咄嗟に謝る。こんなに親切にしてくれてるのに、勝手に彼に対して怯えていたのが申し訳なくなってきたな、と思いながら、僕達は3人で笑至くんを探すことになった。

 

「人探し?ボランティアです、くぐはらも手伝うですよ!」

食堂に残っていた芥原さんも学園内のパトロールがてら別行動で探してくれることになり、僕達3人は校舎内を探し回り始めた。

 

しかし、本校舎や管理棟を探しても、笑至くんの姿はなかった。

途方に暮れていた時、佐島くんが思い出したように言った。

 

「そういえば僕、本校舎の4階を見たことないんだよね。なんだか暗くて幽霊が出そうだったから、一人で行けなかったんだ」

「もこも…ない……」

「僕も行ったことないなあ」

 

笑至くんと明日回ろう、と約束していた場所だ。そのことを思い出して胸がきゅっと締めつけられる。

「人目のつかないところにいるかもしれないしね。行ってみようよ」

佐島くんの言葉に従って、僕達は階段を昇った。

 

4階に着くと、研究教室らしき扉が3つと、奥に大きな扉が1つあった。目が痛いような壁や床は3階までと同じだが、電灯は薄暗く時々チカチカとついたり消えたりしていて、本当にお化けか何かが出そうな雰囲気を醸し出している。

「な、なんだか怖いね…」

「でしょ?」

残念ながら、廊下に僕達以外の人の姿はなかった。

 

「ここ、もこの…?」

掃気さんが1つの研究教室を指さす。そこには確かにアンティーク調の字体で"超高校級の特殊清掃員"と書かれたプレートが下げられていた。

「入ってみる?」

僕がそう聞くと、掃気さんは頷く。

重厚そうな扉を開けると、そこは高級そうなドアとは真逆の、コンクリートの壁でできた簡素な作りで、

 

「 な 」

6人分の、見覚えのある死体があった。

 

照翠くん、野々熊さん、陰崎さん、片原さん、切ヶ谷さん、スティーヴンくん。

彼らは、青いビニールシートの上に綺麗に並べられていた。傷やこびりついた血は、僕が以前見た遺体そのままだ。

 

「………」

「特殊清掃員の研究教室…例えこれが人形だとしても、さすがに趣味が悪いね」

佐島くんも眉をひそめている。掃気さんは震えながら、佐島くんの背中にぴっとりとくっついて離れない。

 

「それでも、この遺体は何か証拠に繋がったりするんじゃない?ほら、君が言ってた最初の事件の手がかりなんかも、もしかしたら照翠くんの遺体にあるかもしれないよ」

そう言って佐島くんが照翠くんの遺体に近づいていく。

「すごいね。とても作り物には見えないな」

じろじろと死体を検分している。

 

その時、僕の足元を小さな影が通り過ぎた。

「あっ…!」

掃気さんが思わず声を上げる。…しょりしょりくんが、照翠くんの遺体に素早く近づき、死体処理…食べようとしていた。

「ダメだよ。食べるなら僕にしな」

佐島くんがしょりしょりくんを掴みあげた。そのまま頭にかじりつかれても、何食わぬ表情だ。痛くないんだろうか…。

 

「ここに長居するのはあんまり気分が良くないね。なぜか腐敗した匂いはしないけど、早く出た方がいいだろう」

「…そうだね」

僕達は部屋を後にした。僕と掃気さん、しょりしょりくんを頭に乗せたままの佐島くん。傍から見ればかなり変な3人組だろう。

 

「あっ!この奥の扉はなにかな?」

僕は元気のなさそうな掃気さんを少しでも元気づけるために、そんな風に声を上げて、奥の方へと向かった。

近づくとわかるけど、今までの部屋に比べてかなり大きそうだ。扉も巨大で、結婚式場のような真っ白なものだ。

 

扉をそっと開けると、真っ先に目に入ってきたのは、正面にある大きな十字架。

周りを見渡すと、白と金色と赤で統一された荘厳な空間が広がっていた。十字架の下に置かれているのは、パイプオルガンだろうか?

 

「マップには、礼拝堂って書いてあるね」

「…きれい……」

確かに、天使の像が置かれていて、窓ガラスは綺麗なステンドグラスになっている。いかにも教会といった感じだ。

「こんな場所があったんだ…」

「こんなのよく作るね。お葬式でもあげるつもりだったのかな」

…この場所にモノケンが神父の服装で立ってるのはあまり見たくはないな。

 

ふと掃気さんを見ると、両手を胸の前でぎゅっと握り、目をつぶって俯いていた。

お祈りをしているんだろうか。佐島くんが話しかけるな、というように目配せしてくる。しばらくすると掃気さんはふっと顔を上げて、ぽつりと言った。

「ここにも…いない……」

 

「ああ。そういえば、笑至さんを探してるんだったね」

「4階にも見当たらないなんて、一体どこに行ったんだろう…」

「とりあえず、もう戻らない?礼拝堂まであるなんて、いかにも死んだ人が出てきそうで嫌だな」

佐島くんの顔は少し青ざめている。本当に幽霊が怖いんだ…。

 

僕達が階段を下り、2階の廊下を歩いていると、窓をコンコンと何かが叩く音が聞こえた。

「…!?」

僕が窓の方を見ると、窓の外には…芥原さんがふわふわと浮かんでいた。慌てて窓を開ける。

「芥原さん!?な、なんで…ここ2階だよ…!?」

「くぐはらは魔法少女なので空も飛べるですよ!」

そう自慢げに言いながら、芥原さんはとん、と廊下に着地する。

 

「宗形さん、笑至さんを見つけましたよ!」

「ほ、本当!?すごいよ芥原さん…!笑至くんはどこにいたの?」

「ふふん、くぐはらはすごいですよ!笑至さん達が時計塔から出てくるのを見ました!」

「時計塔…?」

僕の困惑を代弁するように佐島くんが話し出す。

 

「へえ、時計塔って中に入れたんだね。それで、笑至さん達ってことは、ほかに誰かいたんだよね?」

「はい!えっと、えっと…あっ、思い出しました、揚羽さんと月詠さんです!」

「……揚羽さんはいいとして、そうか、月詠さんか…」

佐島くんが俯いてなにやら考え出した。

 

「芥原さん、ありがとう…これ、よかったら」

僕は芥原さんに、ガチャガチャで出た簡単ぬか漬けキットを渡した。

「ややっ!?ありがとうございます、寄宿舎に置いてくるですよ!」

芥原さんは嬉しそうに寄宿舎の方へとスキップしていった。喜んでもらえてよかったなあ…。

 

「うーん、僕が思ってたよりまずいかもしれないね」

芥原さんがいなくなった後、佐島くんは浮かない表情でそう言った。

「まずいって…何が?」

「笑至さんが月詠さんと組んでたのは予想外だったなあ、いや、もしかすると最悪の場合…」

「?」

佐島くんは何を考えてるんだろう。笑至くんが月詠くんと一緒にいると、いけないことでもあるんだろうか…?

 

「宗形さんにはどこから話したらいいものかな、とりあえず月詠さんについて話そうか」

「えっと、月詠くんがどうかしたの?」

 

佐島くんはまるで世間話でもするかのような口調で、僕に爆弾を落とした。

「彼は内通者なんだよ。それを笑至さんが分かってないならまだいいんだけど、もし分かってた場合…」

 

「!?ちょ、ちょっと待ってよ…月詠くんが内通者……!?」

「ああ、そうだけど。別にそれは僕にとっては大した問題じゃないんだ」

「………」

僕は絶句する。

 

あの月詠くんが、内通者…?

ありえない。そんなはずないだろう。彼は殺人が起こる度に、他のみんなよりずっと心を痛めていた。野々熊さんや陰崎さんの死を止められなかったことを本当に悔やんでいるように見えた。

そんな彼が、内通者だなんて……。

 

「…月詠くんが、内通者の訳ないよ……」

「今考えるのはそっちの方じゃないと思うけど」

佐島くんが呆れたような目で僕を見る。

「証拠もいくつかあるし、間違いないよ。君の元相棒とか違って、僕はちゃんと根拠を持った上で結論を出してる」

「………」

「信じられないみたいだし、教えようか」

 

佐島くんはへらっとした顔で話し始める。

「彼は何度か1人でモノケンとこっそり会っていた。密会…とでも言えばいいのかな?もちろん、目撃者もいる。それに、月詠さんが怪我をする前と後でおかしな点があるんだ…そうだよね?掃気さん」

「うん…おにいちゃん……よる、もこの、へや…きてくれなくなった……」

 

「…掃気さんは夜一人でトイレに行くのが怖くて、それを知った月詠さんは夜時間に毎日部屋を訪ねてトイレに連れていってくれてたんだって。

でも、怪我をした後は、部屋を訪ねてきてくれなくなった…彼がモノケンと話しているのを目撃者が見かけたのも、夜時間だ。

つまり、彼は毎日夜時間にモノケンに会って、みんなの動きを逐一報告しているんじゃないかな」

 

「そんな……」

まだショックが収まらない。あんなに優しい月詠くんが、みんなを裏切るようなことを。

「宗形さん。彼のことは信じられない、ということを信じてもらえたかな?」

「…正直、まだ信じられないよ…。でも、それ以上にまずい事態ってなんなの?」

 

「さっき、笑至さんが月詠さんと一緒にいたって言っていたでしょ?もし月詠さんが内通者であることを笑至さんが知らなかったら、どんな目的で揚羽さんと一緒にいるかはわからないけど、その目的は黒幕に筒抜けだ」

「確かに…じゃあ、笑至くんにそのことを注意しないと…!」

「いや、それはまだしない方がいい」

僕の言葉に、佐島くんは首を横に振る。

 

「どうして?笑至くんはコロシアイを終わらせるために揚羽くんと協力してるかもしれない、だったら、早く伝えないと…!」

「…その笑至さんと、今の笑至さんは同一人物なのかな」

 

「…え?」

佐島くんの予想外の言葉に、息が詰まる。

 

「君は本当に彼が生き返ったと思う?人の生き返りなんてあり得ると思う?」

「そ、それは……」

「それよりも、僕はこう思うよ。

『生き返りのように見せて、もう1人黒幕側のプレイヤーを入れたんじゃないか』

…ってね」

「!」

 

笑至くんを生き返らせたように見せかけて、黒幕側のプレイヤー…AIでも、ロボットでもいい。それを送り込んでいるなら。事態は最悪だ。黒幕側の人間が結託してしまっている上に、そこには揚羽くんが巻き込まれている。

そして、笑至くんにそっくりのAIやロボットを入れるのは、少なくとも人を生き返らせるよりかは、簡単にできてしまうだろう。

 

今の彼は、一体誰なのか。いや、"何"なのか。

ただ、事態は僕が思っていたよりずっと、悪い方向に進み続けているのだけは、確かだった。

 

今まで疑いもなく信じていたものが、次々と音を立てて壊れていく。

僕はようやく、この疑心暗鬼のコロシアイの、スタート地点に立たされたんだ。

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