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▶side:凰玄
朝食の時に笑至に食べ終わったらすぐに時計塔の小部屋に来るように言われた。行ってみると鍵は空いており、そこには神妙な顔をした笑至が座っていた。
「どうしたの?夜時間以外は集まらないんじゃなかったかしら」
「すみません、緊急招集というやつです。少しまずいことになりましてね」
「まずいこと…?」
「遅くなってごめんね…!」
そこで、息を切らした月詠が部屋に入ってきた。
「大丈夫ですよ。それでは揃ったことですし話を始めましょう。誰かに見られると良くないので手短に…」
そう言って彼はしーっ、というポーズをする。前から思ってはいたけど、一つ一つの仕草が演技じみている男だ。
「宗形くんと、佐島くんが手を組んだようです」
「こむぎくんと、としおくんが?珍しい取り合わせだねえ…」
「それに、何か問題でも?」
笑至と一緒に行動していた宗形が佐島と接触している。彼を巻き込まないために笑至は自分と同盟を組んだのだろうし、それに特に問題があるとは思えない。
「あちらも同盟を組んだということは…こちら側の同盟は、高確率で憎き敵役にされてしまうんですよ。ボクは宗形くんを半ば見捨てたことになっていますしね、ヒール役としてはおあつらえ向きでしょう」
「…状況はわかったワ」
「それは困ったね…」
黒幕を打倒しようとしているこちらが仲間に打倒されるのでは意味がない。むしろそうしていがみ合っている時間がマイナスだ。黒幕はそこまで計算していたのだろうか?
「それで、どうするの?あなたのことだから何か考えてあたし達を呼んだんでしょう?」
そう尋ねると、笑至はしっかりと頷く。この短時間でこれだけ素早く行動に移せるのは、やはり策士としての才もあるのだろう。
「ええ。向こうがこちらを敵役に仕立て上げる前に、先手を打ちましょう」
「先手?」
「同盟を公表し、こちらの目的をはっきりさせる…向こう側が例えボク達をその後敵だと言ったとしても、同盟に参加していない方々は混乱するでしょう。少なくとも、一方的な展開にはならないはずです」
「公表かあ…確かにいいかもしれないね。おにーさん頑張ってかっこいい顔しとくよ」
月詠ははりきったようにそう言った。
「成程ね。それはいつやるの?」
「なるべく全員が集まっている時がいいですから、今晩の夕食の時で如何でしょう」
「わかったワ」
そこで笑至が思い出したようにぽん、と手を叩いた。
「ああ、それともう1つ。上手くいかなかった時の保険をかけておきましょう」
「上手くいかないことがあるの?」
「その同盟に協力者がいた場合、数では勝てませんからね…推察するに、貴方と仲の悪い根焼くんはおそらく向こう側に与する可能性が高い」
「…そうね」
あの男なら、同盟が公表されたとしても、こちら側には絶対につかないだろうという確信はある。
「うまくいかず、全員から敵視されるようなことになった場合は、ここに身を隠しましょう。身の安全は確保できますし、寄宿舎を見張られても、そこにいなければ隠密に行動することもできます」
「お泊まり会みたいだね。準備しないと…」
「はい。宿泊の用意をお2人ともお願いします。夕食までに入浴して、荷物をまとめておいてください。あと、月詠くんは携帯食糧の準備をしていただいてもいいですか?」
「うん。厨房の中に結構あったから持ってくるね」
笑至はてきぱきと指示をする。他にも様々な連絡事項を共有して、その場は解散となった。
「……あ!」
そして、時計塔から帰っていく3人を、上空から見つめる少女がいた。
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▶side:こむぎ
佐島くんの話を聞いているうちに3人はどこかに行ってしまったらしく、結局夕ご飯までに笑至くんを見つけることはできなかった。
3人で食堂に行くと、いつもと席の並びが少し違っていた。荒川さんや芥原さん、妄崎さんの位置は変わらないけど、根焼くんは少し違った位置に座っていた。
なぜなら、笑至くん、揚羽くん、月詠くんが元々根焼くんの座っていた位置を占領し、3人つづきで座っていたからだ。
「………」
「おーい、佐島。こっちこっち」
根焼くんがこっちを見て手招きしてくる。僕達は根焼くんの隣の、ちょうどその3人と向き合うような形で座った。
「みんなそろったし、ご飯持ってくるね」
「あ!僕も手伝うよ」
「私も手伝います…!」
緊張した空間から一転、みんなで夕ご飯をテーブルに運び始めた。今日のメニューはハンバーグだ。
「いただきます」
席順以外には大した違和感もなく、いつも通り食べ始める。今日もおいしいなあ…。
みんなが食べ終わりそうになった頃、笑至くんが声を発した。
「皆さん。少し、よろしいですか?」
「……?」
みんなが怪訝そうな顔をする中、笑至くんはすらすらと話し出す。
「ボクが黄泉がえりの書を使って生き返った、というのはご存知でしょう。どのようにして生き返ったのは自分でも分かりませんが、ボクはせっかく巡ってきたこのチャンスを活かすしかないと思いました」
「…ボクは黒幕を倒してコロシアイを終わらせるために、もう一度動くことにしました。黒幕の正体も、不確定ではありますが推理できています」
黒幕の正体。その言葉にみんなの顔がぐっと強ばるのが見えた。…笑至くんは、もうそんなところまで辿り着いていたんだ。
「そこで、ボクは揚羽くんと月詠くんに協力していただき、黒幕を突き止める組織を作ったことを皆さんにご報告します」
笑至くんはにっこりと笑ってそう言った。それは、今までとは違う、好戦的な妖しい笑みに見えた。
「打倒黒幕のための同盟…"レジスタンス"を」
「ちょっと待ってよ」
おお、とかすごい、とか驚いたような声が食堂にあがる中、佐島くんが口を開いた。
「そんなデタラメをみんなが信じると思ったのかな?」
「そーそー。嘘八百だね、お前ら」
根焼くんも同調するように言う。
「嘘…とはどういうことでしょう。ボクは全て真実をお話したまでですが」
「しらばっくれても、残念ながらわかってるんだよ」
佐島くんはやや呆れたように言う。
「そこにいる月詠さんは黒幕側の内通者だし、そもそも君が最初にいた笑至さん本人かどうかも分からない。君たちは打倒黒幕じゃなくて、場をかき乱して黒幕を援護するための組織なんじゃないの?」
「……!?」
月詠くんの顔が一瞬で青ざめた。根焼くんがそれを見ながらにやにやと笑って続ける。
「それにもう1人だって人殺しだし、信用できる訳ないよねー。3人で結託して誰か殺そうとしてんのかなぁ、怖いなぁ?」
「…………」
揚羽くんの顔つきが変わる。食堂の中はさっきとは全く違う、不穏な雰囲気が蔓延っていた。みんなが恐れたような顔で3人を見つめている。
「…信じてもらえないのなら、仕方がありませんね」
しばらくの静寂の後、笑至くんが首を横に振った。
「ボク達は誰のことも殺しませんし、皆さんの敵ではありません。そこの2人の印象操作です…彼らは根も葉もない噂を流して、自分達の正当性を高めようとしているだけです」
彼はそうきっぱりと言い切り、2人を睨みつけた。
「あの方々を、信用しないでください」
「あれ程仲間を信じろって言ってたのは誰だっけ?…まあ君はもう別人かもしれないし、しょうがないか」
「酷いなぁ、ボクはみんなのために動いてるのに!」
佐島くんと根焼くんは口々に笑至くんを責め、そのまま食堂を去っていった。
「…プラン変更です」
それを皮切りに再びご飯を食べ始めたり、片付けをしたりする物音が響き渡る中、笑至くんがそう小声で言ったのが、たまたま耳に入った。
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翌日、食堂に朝ご飯は用意されておらず、3人はどこを探しても見つからなかった。まさかと思って時計塔に行ってみると、重そうな扉には、鍵がかかっている。
「たてこもり……」
掃気さんがぽつりと呟いた、凶悪犯に用いるようなその言葉が、やけに僕の脳内に残っていた。