神さまお願いします、どうかわたしたちをグールを救ってくれる救世主を、物語に出てくるようなヒーローを、わたしの大切な家族を助けてください。
「いたぞ!」
「追い詰めろ!」
ハッハッ……。足が重い、赫子ももう出せない。詩織は逃げられたかな、わたしの大切な妹。終わりは呆気なく訪れる、そこにグールもニンゲンも関係ない。物語のように予兆がないし、見知らぬ誰かは助けてはくれない。
「あ……」
ドシャッ
どうかわたしたちの救世主を……
その願い叶えよう。
喰種を救う存在を! 儚い生命のたった一つの願いの為だけに我が権能、その全てを捧げて創りあげよう。
身体は並の喰種ではかすり傷一つ付けることが出来ないくらいに強靭に。
闘いをする上で必要な赫子は全て扱えるように。
その身は不変にして不滅、無限にも等しいRc細胞を与えん。
Rc細胞の補充はその身で賄えるように。
誰よりも真摯にもはや名すらも忘れられた吾に対して祈りを捧げた少女の名残りを身体に与える。
そして最後に、この残酷な世界を救うに相応しい知識を持つ魂をこの身体に与えん。
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……え。
……くえ。
またこの声。私の中から聞こえる誰かの声。
……すくえ。
……喰種を。
そんな事を言われても私はやりたくない。痛いことは嫌だし痛くするのも嫌だ。声を届ける誰かは私に救世主になる事を望んでいるのかもしれないけど、私はこの二度目の生を穏やかに過ごすと決めている。
だからほら、今日もあんていくの美味しい珈琲を目当てに私はお店の中に入っていく。まるで街灯に寄っていく虫のように。
『いらっしゃいませ』
私の特等席はカウンターから珈琲を入れている所を覗ける真ん中の席。ここで楽しく古間さんや入見さんとお話しながら珈琲を飲むのが私の今の楽しみ。
それはそうと最近新しくあんていくの仲間になった金木研くん、彼こそがこの物語の主人公であり、物語の鍵を握っていると言っても過言ではない。私の中にある知識がそう教えてくれる。この世界が辿るであろう道筋を、結末を全部教えてくれる。
「金木くん、おかわりの珈琲を一杯下さいな」
『瀬衣さん、畏まりました。今用意しますね』
「うんうん、よろしく頼むよ」
『瀬衣さんこんなのの珈琲の何処がいいんですか』
「まあまあトーカちゃんそう言いなさんな、金木くんの初々しいながらも丁寧に入れてくれる珈琲はこれはこれで美味しいのよ?」
そうやってちょっと嫉妬してる所がトーカちゃんの可愛い所だからわざと彼に頼む所もあるんだけどね。勿論さっき言ったことは嘘じゃないし、楽しみ方の違いだからトーカちゃんの珈琲を飲まなくなるわけじゃないのよね。だから、そう拗ねないで。
『瀬衣さんがそうやってこいつを甘やかすからいつまで経っても上達しないんですよ』
「ふふふ、その分トーカちゃんが金木くんに厳しくしてくれるでしょう? だからこれはバランスが取れてるし私の実益も兼ねるからいいのよ」
『何も良くないと思いますけど……』
『まぁまぁ、両手に花な金木君にはこの魔猿と呼ばれた僕がミッチリと珈琲の入れ方から女性の接し方までレクチャーするから大丈夫だよ』
「『古間さんは静かにしていて(くれるかしら)』」
『おおー怖い』
古間さんはいつもの調子で、他のお客さんの珈琲の用意を始めた所であんていくの店長の芳村さんがやってきた。
「こんにちは、芳村さん」
『こんにちは瀬衣ちゃん』
芳村さんは私がこの世界にやってきてしばらくだった頃に知り合った大切な恩人。その頃は頭の中に聞こえる声に悩まされてて荒れてたけど、芳村さんは親身になって接してくれたおかげで、今は受け流し方を学んで何とか生きてけてる。
いつかこの声に向き合わないといけないんだろうけど、今はまだ、もう少しだけ。
こうしてあんていくで穏やかに過ごす日常が少しでも長く続きますように。