男の子になっちゃった!?   作:naonakki

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第一話 プロローグ

 雲一つない抜けるような真っ青な空から暖かな日が差し込み、満開の桜から花吹雪が舞い散る、まさに春というのに相応しいこの日、ここ女子高である音ノ木坂学院高校では新たな一年の扉が開かれようとしていた。

 

 本校舎とは別棟に建てられた造りは古いが手入れが行き届いた体育館に、在校生から新入生に至るまでの全校生徒がそれぞれのクラスごとに列を成す形で一同に集まっていた。

 …もっとも、全校生徒といっても、昔は生徒で埋め尽くされていたであろう体育館に、半分以上の空白地帯ができてしまうほど、現在の生徒の人数は減っており、どことなく寂しさを感じてしまう。

 

 新学期の初日、毎年の恒例として、理事長から挨拶があり、解散すると言った流れのこの日。

 高校という場に不慣れな新入生を除く生徒の大半は、特に緊張した様子を見せず、要所要所では雑談をしていたり、うつらうつらと船を漕ぎ始める人などなど、新学期の初日、というには少し気の抜けたような雰囲気に包まれていた。

 といっても、まだまだ学生の身である彼女たちにとって、堅苦しい挨拶の場というのは、退屈以外の何でもなく、仕方のないことなのかもしれない。

 

 しかし、放送部の人の紹介によって、この学校の理事長が堂々とした所作で壇上にのぼりはじめると、ざわざわしていた生徒達も雑談を控え、壇上に視線を向ける。

 白色を基調とした、シミ一つないきっちりとしたスーツに身をまとい、艶がかった灰色の髪と、トサカのような髪型が特徴的なその女性は、理事長というには、若く整った顔をしており、些かその大層な肩書きに違和感を覚えてしまう。

 しかし、その立ち振る舞いは、実に堂々としたものであり、凛としたその表情、美しく輝くベージュ色の力強い瞳が、彼女を理事長たらしめている。

 そんな見た目麗しい彼女にも高校二年生の娘がいるというのだから驚きだ。

 

 これから、使い古された定型文のような挨拶がされ、すぐに解散。

 新入生ならいざ知らず、在校生らは、皆、誰もがそう思っていた。

 

 事実、お手本のような導入のあいさつ文に始まり、これまでの学校の活動内容の簡単な経緯、これからの一年に対する抱負といったことを淡々と述べていく。

 生徒たちも一応は、静かに理事長に視線を向け、話を聞いてはいるが、はたして何人がこの話を真剣に聞いているだろうか? 

 退屈、その感情が生徒達を支配する中、ようやく理事長の話が終わりにさしかかる。

 もうすぐ終わる…そんな、期待に満ちた生徒たちに向かって、理事長は一度喋る口を止め、数瞬、辺りを見渡す。

 ここで初めて、これまでキリッとしていた理事長の顔に、わずかではあるが、悔しさ、迷いといった表情が浮かぶ、が、それも一瞬。すぐにそれらを押し込み、再び真っすぐに前を見据え、ゆっくり口を開きある言葉を告げた。

 

 

 

 

 

 「ここ、音ノ木坂学院高校は『廃校』となります。」

 

 

 

 

 

 体育館内がざわつく中、私はその言葉が意味することを理解できず、ただただ呆然としていた。

 まるで、巨大な鐘が頭の中で打ち鳴らされているように、頭の中がぐわんぐわんとしており、思考がまとまらない。

 その後も理事長は何かを言っていたが、その内容までは把握することができなかった。

 それほどまでに、先ほどの言葉は私にとっては、受け入れがたく、衝撃的な言葉だった。

 

 こうして私の輝かしい高校二年生としての生活の始まりを告げるはずだった新学期の挨拶が、訳の分からないまま幕を閉じてしまったのだった。

 

 ―――――――――――――

 

 衝撃的事実が伝えられた挨拶が終わり、それぞれがこれから一年を共に過ごす新クラスの教室へ戻った後、教室内は喧噪に包まれていた。

 あちこちでグループを作り、「さっきのどういうこと?」「急だよね」と、話題になっているのは、言わずもがな、先ほど理事長の口から伝えられた『廃校』のことだった。 

 

 「海未ちゃんっ!? さっきの廃校っていうのどいうこと!?」

 

 そして、この少女、高坂穂乃果もその例に漏れず、親友に問い詰めるように説明を求め、状況を理解しようと必死だった。

 学校指定である真っ白なシャツの上に紺色のブレザーを羽織り、少し短めにアレンジしたスカート、そして胸元でその存在を主張する‘赤色’のリボンは、今日から彼女が晴れて二年生になったことを示している。

 肩まで伸びた明るい茶色に染まった髪と、ぴょこぴょこしたサイドテールが特徴的である彼女は、元気溌剌、天真爛漫、そんな言葉が似あう少女だ。

 しかし、そんな普段、お日様のようなエネルギーに満ち溢れている彼女の表情にあるのは、戸惑い、不安といったものだった。

 

「ちょっと落ち着いてください、穂乃果。」

 

 荒ぶる親友を優しく窘めるように、そう言葉を投げかけるのは、園田海未。

 学校の制服を着崩すことなく正しく身にまとう彼女は、腰まで伸びた、艶のある流れるような黒い髪、凛とした立ち振る舞い、敬語を自然と使いこなし、まさに大和撫子を体現したような存在だ。 

 しかし、そんな冷静沈着と評判のある彼女の顔からも少なからず動揺の表情を読み取ることができる。

 一年間過ごしてきた愛着のある学校が廃校になるとう事実を受け入れるには高校二年生の彼女たちには若すぎるのだ。

 だが、自分まで取り乱してしまうと、穂乃果を諫める者は誰もいなくなる。

 そんな義務感にも似た感情から彼女は自分の気持ちを必死に沈めて親友に落ち着くように声をかける。

 

 「…ほら、そんな泣きそうな顔をしないで顔を上げてください?」

 「うぅ、だってぇ~、廃校だよぅ??」

 「はいはい、よしよし…」

 

 たまらず、ギュッと抱き着いてきた穂乃果を優しく迎え入れるように抱きしめ返し、手慣れた手つきで彼女の頭を優しく撫でる。

 海未は、親友の温かいぬくもりを感じ自分の中の不安が少し晴れるのを感じた。

 

 ……抱き着いてきているだけなのに、なぜこんなにも安心するのでしょうね。

 

 無論、こんなことは恥ずかしくて口には出せないが、その代わりに穂乃果の頭を撫で続ける。

 しばらくすると、ぐずっていた穂乃果も少し落ち着いてきたのか、「ふにゅ~」なんて、間の抜けた声をあげながら気持ちよさそうにしだした。

 それはあたかも、春の日差しにあてられて今にも眠りにつく子猫のようだ。

 そんな親友の姿にたまらなく愛おしさを感じてしまい、自然と顔がほころぶのを感じてしまう。

 

 ……こんな幸せな思い出が詰まった学校が廃校になるなんて、悲しいですね。

 

 教室の外、どこまでも続いているような青空を見ながらそんなことを心の中で呟いた。

 

 

 

 「……って、はっ!? 思わず海未ちゃんの抱き心地が良すぎて寝ちゃうところだったよ!?」

 

 ほどなくして、穂乃果は突然我に返り、バッと私から離れ、驚愕の表情を浮かべている。

 穂乃果が離れてしまったことを少し残念に思いつつも、気持ちを切り替えていく。

 

 ……おかげで、私はだいぶ落ち着きましたが、穂乃果はそうでもないようですね。

 まあ、先ほどより落ち着いてるようには見えますので、それはよかったです。

 ほっと胸をなでおろし、改めて穂乃果に向き直る。

 

 「穂乃果、もうすぐことりも帰ってくるでしょうし、少し待ちましょう。」

 「……そうだね。理事長のところに行って事情を聞いてくれるんだよね?」

 「ええ、ですがことりにも説明をしていなかったということは、よほど何か事情があるのでしょうか…。」

 「……うん、早く戻ってこないかなぁ、ことりちゃん。」

 

 二人のもう一人の親友であり、理事長の娘でもある南ことり、彼女が廃校についての詳しい事情を聞くために、単独一人で理事長室に向かったのだ。

 そろそろ理事長室に向かってから10分が経とうとしていた。

 帰りが遅い親友に不安を抱き、穂乃果と海未が教室の入り口に視線を向け、表情に影が差し始める中

 二人の気持ちに応えるように、教室の入り口に待ちわびていた親友が姿を現した。

 

 特徴的な髪型を含めて、理事長と瓜二つの見た目であるが、親である理事長が美人という言葉が似合うのに対し、娘のことりを形容すべき言葉は、可愛い、だろう。

 おっとりとした顔つきであり、華奢な体つき、白くほっそりとした腕、すらっと伸びた足はどれをとっても、女の子らしく、思わず守ってあげたくなるような存在だ。

 また、お菓子作りや裁縫が得意と、外見も中身も文句なしの女の子の中の女の子であり、分け隔てなく、優しく周りと触れ合う彼女は、周りからの信頼もあつい。

 

 そんな彼女が顔を曇らせながら、とぼとぼ、とこちらに向かって歩いてくる。

 その表情が意味することは、芳しい情報を得られなかったのだろう。

 

 

 「ことりちゃんっ!」

 「あ……穂乃果ちゃん。」

 

 心配そうな表情を浮かべながらことりのもとに駆け寄った穂乃果だったが、ことりの表情が晴れることはなく、逆に成果なしで戻ってきてしまったことを申し訳なく思う気持ちが強まり、気まずそうに穂乃果から目を逸らしてしまう。

 

 「ごめんね……ママ…じゃなくて、理事長に聞いてきたけど、決定事項だからって、取り合ってもらえなかった。」

 

 シュンと肩を落としながら、申し訳なさそうに謝ることりだったが、勿論、彼女に非はない。

 ことりにとっても、廃校は初耳であり、他の生徒と同様に驚き、戸惑っているのだ。

 

 「ことり、謝らないでください。あなたは、何も悪くないのですから。」

 「うん、そうだよ! ことりちゃん! むしろ聞きに行ってくれてありがとうね?」

 「二人とも……ありがとうね。」

 

 二人の温かい言葉にようやく、いつもの笑顔を取り戻し、人を惑わすような甘ったるい声でそう、お礼を述べる。

 そんな、ことりの姿に穂乃果と海未の表情にも自然と笑みが浮かぶ。

 親友である以前に幼馴染でもある3人は、今日も仲良く周りに花畑でも見えそうなほど、ほんわかとした雰囲気を醸し、自分たちの世界を作り出している。

 

 しかし

 

「……うぅ、でも廃校かぁ。そうなるとまた、他の学校に入るために、受験勉強とかしないといけないんだよね。」

 

 いち早く我に返った穂乃果が、遠い目をしながらぼそりとそう呟いた。

 穂乃果は、学校が廃校になれば、他の学校に再び入学するために、また受験勉強をしないといけないと思っているのだ。

 つまり、今まで狼狽え、不安がっていたのは、学校が廃校になることへの悲しみというよりは、また勉強をしないといけないことへの恐怖によるものだったのだ。

 

 それを理解した海未は、足の力が抜け、がくり、とずっこけそうになってしまう。

 ことりも、あはは、と苦笑いを浮かべながらそんな穂乃果と海未の姿を見つめていた。

 

 「はぁ……穂乃果、あなたは、とんだ勘違いをしているようですね。」

 「へっ?? 勘違い??」

 

 何のことか全くピンと来ていない穂乃果を見ながら、再び、はぁ、とため息をついた海未が、ジト目で穂乃果を見つめながら、それが『勘違い』であることを事細かく説明するのだった。

 

 

 

 「えっ!? 穂乃果たちが卒業するまでは、学校は存続するの??」

 「うん、まあ、正確には今年の新入生の子達が卒業するまでだね。」

 「……はぁ、理事長もちゃんとそう言っていたじゃないですか、てっきりこの学校での思い出の場所が無くなることを悲しんでいるのかと。」

 「……え、えへへ。早とちりだったんだね?」

 

 廃校と聞いて頭が真っ白になっていた穂乃果は知る由もなかったが、廃校になるのは、現在の生徒達がみんな卒業してから。

 そこは、生徒たちに配慮した学校側の配慮と受け取れる。

 しかし、来年からの入学者は受け付けない。

 つまり、新入生が入学するのは今年が最後であり、後は、毎年ごとに一学年ずつ学校から姿を消してしまうことを意味する。

 

 「でも、やっぱり寂しいね……来年から後輩が入ってこないのは。それに校舎も取り壊されるのも悲しい……。」

 

 俯きながら寂しそうにそう、呟くことり。

 海未も「ええ」と、同じく寂しさをにじませながら、そう同意をする。

 

 ……そっか、来年から後輩も入ってこないし、校舎もなくなっちゃうんだね。

 

 二人の言葉を聞き、改めて想像してみる。

 

 来年から、ただでさえ少ないこの学校からさらに生徒が減っていく様を、三年間をかけて出来上がった思い出の場所が無くなってしまう光景を――

 

 そして、最後に海未ちゃんと、ことりちゃん、そして教室内のクラスメイトの姿を見渡す。

 

 

 

 気が付けば

 

 

 

 「……廃校、何とか阻止できないかな?」

 

 

 

 口が勝手に動いていた

 

 

 

 「「え?」」

 

 穂乃果の放った言葉に、二人は思わず俯いていた顔を上げ、視線を言葉の主に向ける。

 

 そこで二人が見たのは、

 

 廃校という事実に悲しむ穂乃果ではなく、瞳の奥に熱い闘志の炎を揺らめかせ、まっすぐ前だけを見つめている穂乃果だった。

 

 

 

 ……ああ

 瞬間、二人は理解する

 

 

 

 「廃校の阻止だよっ!! 穂乃果たちで何とか阻止できないかな?? 私、この学校が好き! なくなるなんて絶対嫌だ!!」

 

 そう、教室中に響き渡るような元気な声を出す彼女の挑戦心に満ち溢れた姿は、まさにみんなの心を明るく照らす『太陽』そのものだった。

 クラス内の生徒も何事かと皆、穂乃果に視線を向けるが、当の本人はそれを気にした様子もなく、それどころか誰も想像すらしていない、明るい未来を見据えているようにも見えた。

 

 

 

 こうなったら穂乃果(ちゃん)は止まらないと

 

 

 

 「――以上が、最近のこの学校の主な部活動の成績だよ?」

 

 放課後、誰もいなくなった教室で穂乃果と海未、ことりは三人で席をくっつけ、学校存続を実現させるための案を出しあっていた。

 まず、目を付けたのが部活動だ。

 分かりやすい例を言うと、甲子園に出場した学校には入学希望者が殺到するという。

 ここ、音ノ木坂学園高校でも何か活躍している部活動はないか、あるならばそれをPRしていけば、あるいは…とおもってのことだったが。

 

 「う~ん、何かパッとしないねぇ。」

 

 直近の部活動の成績や活動内容を調べてくれたことりの報告を聞き、渋い顔を浮かべる穂乃果。

 聞いた内容はどれも、とても入学者が増えるとは思えない結果ばかりだった。

 

 「……まあ、部活動で既に活躍しているならば、廃校にはなっていなかったでしょうしね。」

 

 海未は、ある程度は予想していたのか特に驚いた様子もなく、そう結論付けてしまう。

 

 「やっぱり簡単にはいかないかぁ……。」

 

 対して、落胆を隠せない穂乃果、大見栄を張ったのはいいものの、具体的案が何も思いつかず、早速、座礁にあがっている現状に焦りを感じていた。

 そんな、穂乃果の姿を見た海未は、ふぅ、と短く息を吐き、

 

 「穂乃果? 今日はもう帰って休みましょう。新学期初日から遅く残るのもよくないですしね。私も家で何かいい案がないか考えますので。」

 

 このまま、うんうん頭をひねっても、体力を消耗するだけなので、日を改めようとの提案を行う。

 何が、穂乃果をここまで突き動かしているのか分かりませんが、どう見ても今の穂乃果には余裕がない。

 ここは一度仕切り直すほうがいいでしょう。

 ことりも私の意思をくみ取ってくれたのか、「そうだね」と同意の反応を見せてくれる。

 穂乃果は、もう少しと食い下がる姿勢を見せかけるが、私達が穂乃果を気に掛ける表情を見て、ぐっと気持ちを抑え、提案を受けて入れてくれた。

 

 ……すみません、穂乃果。 

 ですが、明日になれば、穂乃果も落ち着いて、きっといい案の一つでもでるでしょう。

 

 そう心の中で呟き、三人はそれぞれ帰路についた。

 

 

 

 ……絶対、廃校を阻止して見せる。

 明日、そう明日…必ず廃校阻止に繋がる何かを見つけ出して見せる。

 

 そう心に刻み、私は眠りについた。

 

 つづく

 




第一話読んで頂いてありがとうございます!

・・・いや、男になってないや~ん、と思われた方。
すみません、予想以上にプロローグが長くなりました。

本編は、次話からだと思って下さい・・・。

少しでも面白いと思っていただいた方、次話も読んで頂ければ嬉しいです!
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