──S09地区 上空
けたたましいローター音を響かせて飛ぶヘリ。そのヘリの中にグレイヴの姿はあった。
ヘリはAR小隊の信号が途切れる直前に示していた場所──S09地区の第3セーフハウスへと向かっている。
グレイヴは操縦席にはいない。ペルシカが用意したそのヘリの操縦は、AIを用いたオートパイロットシステムが行っていた。
グレイヴは紙の地図を拡げて地理を頭に入れつつ、ペルシカと通信していた。
『グレイヴ、AR小隊は第3セーフハウスでのデータをダウンロード・・・・・・情報を回収中に鉄血に捕捉されたのだと推測するわ』
ペルシカから状況の説明を受けるグレイヴ。
『あなたはAR小隊と合流して、共に鉄血の占領地域外へ脱出するのが目標よ。後、かの・・・・・・いえ、なんでもないわ』
ペルシカは何かを言いかけて止めた。グレイヴは疑問符を持ったが、あえて聞かなかった。しかし、続けて出たペルシカの指示を無視する事はできなかった。
『──全員での脱出が難しい状況なら、
「何故だ?」
短い言葉だが、ペルシカはグレイヴの問いを誤解なく察した。
『M4が回収したデータを持っているの・・・・・・そのデータはとても重要なものなのよ。鉄血に奪われる訳にはいかないわ』
そのデータがどんなものかグレイヴにはわからないが、ペルシカにとって非常に重要、かつ回収係を任されているM4は最も優先するべき救助対象になるだろう。だがしかし──。
「──それだけか?」
『えっ?』
「それだけが理由か?」
確かにペルシカは嘘は言っていない。しかし、数多の生死を賭けた闘争に身を置き、またマフィアとして多くの組織の人間や政治・経済の有力者を見てきた経験によって鍛えられたグレイヴの洞察力は、ペルシカに他の理由があることを感じ取った。
『それは・・・・・・』
ペルシカは言葉を詰まらせ、押し黙る。暫く沈黙が続いたが、
「・・・・・・もういい。もうすぐ交戦予測地帯に入る」
グレイヴはペルシカが話すのを諦めて、この話を止めた。インカムの向こうから安堵の息が聞こえた。
交戦予測地帯に入れば、16LABの情報が漏れないように通信を切る事を、事前にペルシカと打ち合わせている。
『・・・・・・今更だけど、良かったの?鉄血の紛争地帯をヘリで飛行するのは危険じゃない?』
「そちらの方が早い」
『そうかもしれないけど・・・・・・』
当初はS09地区に入る手前の地域で着陸後、そこから徒歩で向かうプランでいたが、グレイヴの提案でS09地区内の第3セーフハウスに目的地に変更した。
昼間の、しかもヘリで堂々と侵入すれば即座にバレる。しかし、AR小隊と早く合流する為、そして、鉄血と遭遇しヘリが飛行不能になっても、生き残れる自信がグレイヴにはあった。
「切るぞ」
『ええ・・・・・・グレイヴ、無事でね』
ペルシカとの通信が切れた。それを確認してから、グレイヴはM4へ連絡を取る。電子音が僅かに鳴った後に、応答が返ってきた。
『・・・・・・誰?』
声は固く、切迫感が伝わってくる。声の外から射撃音などが混ざっていた。
M4の無事を確認できたグレイヴは安堵する。
「グレイヴだ」
『グ──グレイヴさん!?』
『グレイヴなの!?なんで!?』
『通信はグレイヴからなの!?』
驚くM4。グレイヴの名前に反応したのは、どうやらSOPⅡとAR-15のようだ。
「無事か」
『は、はい!みんな無事ですけど、なんでグレイヴさんが!?』
動揺するM4。グレイヴはM4の動揺を無視して、話を進めた。
「今、そちらに向かっている。M4逹は進んだルートを戻れ。合流する」
『え・・・・・・ええっ!?』
戦闘中に突如のグレイヴからの通信でM4は混乱し、事態を上手く飲み込めていないようだった。
混乱するM4に代わって、M16が通信に割って入る。
『グレイヴ、あんたが救援か?』
「ああ」
『それはペルシカさんの指示か?』
「俺が頼んだ」
『了解。あんたがいれば百人力だよ』
グレイヴの言葉にM16は笑う。
そんな中で、グレイヴが乗るヘリの機内に警告音が響く。どうやら近くの鉄血に補足されたらしい。
「通信を切る。敵だ」
『え、あの、グレ──』
M4が何かを言いかけてる最中に、グレイヴは通信を切った。デス・ホーラーを構えて、ヘリのサイドハッチを開き、外を見る。
見下ろす地上には、鉄血のダミー兵の部隊がこちらに攻撃を仕掛けている。射程外で威力は減衰しているが、ヘリの装甲に弾が当たっている。
グレイヴはデスホーラーを構え、ダミー兵に向ける。そして、バルカンでの攻撃を開始した。ヘリの機内での武器使用は禁止されているが、それを知らないグレイヴはお構いなしだった。
バルカンによる弾丸の雨は、ダミー兵を粉微塵にしていく。ヘリからの攻撃で、次々とダミー兵を撃破していくグレイヴ。しかし、空からの蹂躙は終わることとなる。
衝撃、そして、ヘリが爆発した。燃え盛るヘリはなすすべなく、地上へと墜ちていった。
──ヘリを撃墜し、プラズマライフルのスコープから目を離した鉄血の狙撃兵であるイェーガーは、地上に墜ちたヘリへ近づく。他の鉄血兵と共に燃えるヘリの周囲を索敵する。生体センサーに反応がない事を確認したイェーガーと、ダミー兵の部隊は索敵モードを終了した。
ヘリから視線を外し、第3セーフハウスにいる侵入者の迎撃に向かおうとするイェーガー──突如、風切り音が聞こえてきた。
周囲を見回し、その音が自身の真上で聞こえてくることに気付いたイェーガーは、空を見上げた。直後、視界は暗転し、イェーガーは機能を停止した──。
何かの鈍い音に気付いた鉄血ダミー兵が、音のした方に振り向く。そこには、イェーガーを下敷きにし、二丁の巨銃を構える漆黒の男──グレイヴがいた。ヘリが爆発する直前、グレイヴはヘリから跳躍し、墜落するヘリから脱出を果たしていた。
グレイヴはケルベロスを連射する。反応が遅れたダミー兵達はその連射に晒され、撃破された。周囲のダミー兵達を撃破したグレイヴは辺りを見回し、ヘリの機内で頭に入れた地図を頼りに、AR小隊がいるであろう第3セーフハウスに向かって走り出した。
──S09地区 旧市街地
グレイヴがS09地区に侵入してから数時間が経過し、既に空が辺りを赤く染め始めていた。1、2時間も経てば、完全な夜となる。
かつて、人々が生活していたであろう市街地。鉄血の人形が暴走し、荒れ果てた様相を呈する無人のその場所で、数多の銃声が響き渡っていた。
AR小隊と合流しようと進撃するグレイヴは、何度目の遭遇かわからなくなった鉄血のダミー兵部隊と交戦していた。
グレイヴと鉄血ダミー兵は、お互いに銃口を向けて構える。グレイヴのライトヘッドから放たれた弾丸は、鉄血ダミー兵に命中し、生体部品と機械部品をまき散らして、
仲間をやられた他の鉄血ダミー兵の集団が、遅れてグレイヴに攻撃する。グレイヴは走りながら、ケルベロスで牽制射撃する。牽制といっても、1発でも当たれば機能停止、かすっても戦闘継続は不可能になる程の威力を誇るケルベロスの射撃で、1体、また1体と鉄血ダミー兵はケルベロスの餌食となっていった。
数で勝る鉄血ダミー兵の攻撃は激しく、グレイヴも攻撃が当たっているが、全く効いていない。死人兵士の耐久力、そして修復機能により、皮膚が弾丸を弾き、または損傷を異常な速度で修復させていた。
幾度も鉄血の部隊と遭遇し、応戦するグレイヴには不可解な疑問が湧いていた。
──鉄血の反応が遅い──
鉄血ダミー兵はグレイヴを視認しても武器を構えない、または銃口を向けてもそこから動きを止めるなど、すぐ攻撃を行わないのである。
グレイヴから攻撃し、そこからようやく反撃を開始するという、あまりの判断の遅さにグレイヴは当初、気のせいだと思ったぐらいだった。しかし、二度、三度と同じ事が起これば、それが気のせいではなくなった。
かつてAR-15から、グレイヴを回収することになった任務で遭遇した鉄血の部隊が、グレイヴを初めて見た時に攻撃を止めたことをグレイヴは聞いている。
どういう理由か推測を立てられないが、同様の事例が起こり、鉄血ダミー兵との戦いが、グレイヴにとって有利に働いていることに違いはない。存分に利用してやろう、とグレイヴは思った。
走りながら射撃するグレイヴに悪寒が走る。グレイヴは急停止して身を引く。その瞬間、グレイヴの一歩前の、左側面にあるビルの壁に大きな弾痕ができ、遅れて銃声が響いた。
──スナイパーっ!──
グレイヴは右手にある家屋の屋根を見る。そこには、グレイヴを狙撃しようとした鉄血ダミー兵──イェーガーが銃口を向けていた。
即座にレフトヘッドを構えて、標準を定める。そして、銃口から火を噴き弾丸が撃たれる。寸分の狂いもなくライフルのスコープごと、イェーガーの頭部が砕け散った。
しかし、イェーガーを狙い撃つ為に停止したグレイヴに、鉄血ダミー兵の集団が一斉に攻撃した。
グレイヴは攻撃を喰らいながらも、腰の下で吊るした銃火器搭載棺桶──デス・ホーラーを肩に乗せて鉄血ダミー兵の集団に向ける。デス・ホーラーは変形し、巨大な銃口が露わになる。その銃口からエネルギー弾が放たれた。
デスブロウと呼ばれるそのエネルギー弾は、鉄血ダミー兵の集団に命中、爆発する。その破壊力はかつての鉄血部隊を全滅させた時と同じ結果をもたらした。
爆発により、鉄血兵たちが爆散する。周囲を見渡すグレイヴ。どうやらこの旧市街地に存在した鉄血の部隊はいなくなったようだ。
それを確認したグレイヴは、再び移動を開始しようとし──
「全く……無様ですわ」
──声と共に聞こえた巨大な発射音が鳴った方向に、グレイヴは咄嗟にデス・ホーラーを盾にした。
すさまじい破壊力と衝撃をもたらしたその攻撃は、盾にしたデス・ホーラーに着弾してグレイヴを吹っ飛ばす。倒れまいとグレイヴは足を踏ん張り、地面を掘削するように滑る。
ようやく停止したグレイヴは、声のした方を見て絶句した。
「クズ鉄を率いる生ゴミの他に侵入者がいたとは」
グレイヴの視線の先──壁面が崩れ、建物内部が露出したビルの2階に、ホワイトブリムを装着した漆黒のメイドが立っていた。
補足
・紙の地図を活用するグレイヴ
この話を執筆する際、グレイヴ、もといブランドンはマフィア時代を1990年代前半に設定しています。なので、スマートフォンやタブレット、PCの操作に疎いことにしています。いずれは慣れていくかも。
・ペルシカが言いかけたこと
1-6の話で出てきた指揮官のこと。正体はドルフロ遊んでいる人ならわかると思われる。
・ヘリから飛んで着地したグレイヴ
ゲーム版無印で、けっこう高いビルから飛び降りて着地、O.D.だと高高度の貨物輸送機から飛び降りて無事だったりしている。でもムービー銃(センターヘッド直撃)にはかなわなかった。
・グレイヴが進行中の時のAR小隊の動向
M4がエージェントの首絞めから復帰後、グリフィンの残存した(見捨てられた)人形たちと共に決死の撤退戦を行っている。