GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

15 / 25
次回のイベで出てくるAK-15とRPK-16すごく好き。
一体、どれほどの資源を消費するか楽しみです(震え声)


1-11 恐れ無きが故にそれを恐れ

 頭部が潰れ、動かなくなったエージェントから視線を外して、グレイヴは周囲を警戒する。

 辺りは静寂に包まれ、剣呑たる気配もない。一帯の敵は排除したらしい、とグレイヴは推測する。

 直後、自身に近づく複数の気配を感じたグレイヴは、気配のする方向──薄暗い森林の中を注視する。

 気配は疾駆する足音と共に、どんどんと近付いていく。警戒するグレイヴは足音の主たる姿を目にした時、その警戒を解いた。

 

「……いた!」

「嘘っ!?本当に!?」

 

 M4とAR-15がグレイヴを視認する。と──、

 

「グレイヴ~!」

 

 SOPⅡが二名を追い越して、グレイヴに向かって加速する。その様子を見て、グレイヴは両腕を下に垂らして広げる。

 

「ドーン!」

 

 奇妙な擬音を叫びながら、SOPⅡはグレイヴに抱きつく。抱きつく瞬間、鈍い音が鳴ったが、グレイヴに特に影響はなくSOP2の頭をひと撫でする。

 

「……呆れた──相変わらず頑丈ね」

 

 いつも通りといった感じで、AR-15はぶっきらぼうに声を掛けるが、その表情は少し柔らかい。

 

「いやー……まさか、本当に単独でここまでくるとは……お疲れ、グレイヴ」

 

 後からやってきたM16がグレイヴを労う。グレイヴは変わらず抱きついたままのSOP2を撫でながら微笑む。それは誰一人欠けることなく、合流できたことからくる安堵の微笑だった。

 抱きつくSOPⅡは、視線をグレイヴの足元に移して驚く。

 

「あれっ!?これってエージェントっ!?」

「ほんとだ……あんた、こいつを倒したのか?」

 

 グレイヴは頷く。質問したM16は驚いていた。

 

「単独でエージェントをやるとは──やられかけた私達の面目が立たないな」

 

 乾いた笑みを浮かべるM16。SOPⅡはグレイヴから離れて、エージェントの残骸から生体パーツを拾い上げては、懐に仕舞っていく。

 

「第3セーフハウスにいる時に、M4と一緒にエージェントと交戦したんだ……流石に危なかった」

 

 そう言ってM4に視線を移す。M4は黙したまま、自らが通ってきた森林の奥を見つめていた。

「M4」

「……」

「M4!」

「あっ!……はい、なんですか?」

 

 話を聞いていなかったのか、呼ばれたM4はうろたえる。

 

「いくらグレイヴと合流できたからって、ボーっとしないで……まだ戦闘中よ」

「ごめんなさい……AR-15」

 

 注意されたM4は表情を暗くして顔を伏せる。それでも、M4は先程見ていた森林の奥を横目で見ようとしていた。

 それを見ていたグレイヴは疑問を浮かべる。M4の様子は、敵を警戒しているのではなく、まるで何か後ろめたさを感じているような、そんな風な印象をグレイヴは受けた。

 ふと、M4の額に付いた血の痕にグレイヴは気づく。グレイヴは心配しながらM4へと近づき、その額を指で軽く撫でる。

 

「……」

「あっ……平気です。応急処置は済んでますから……」

 

 触れられたM4は恥ずかしがりながら、言葉を返す。必死に抑えてはいるが、嬉しくてはにかみそうになっているのを誤魔化しきれていなかった。

 そんな様子に嫌気がさしながら、AR-15はわざとらしく咳払いをする。我に返ったM4は顔を赤くしながら、グレイヴから離れる。

 

「で──これからどうするの?」

「鉄血の数は私達より遥かに多かった……一時的に追撃部隊を撒いたけどきっとすぐ見つかる。あれに囲まれたらきっとひとたまりもないわ」

 

 SOPⅡは今後の行動をどうするか聞き、AR-15が現状を端的に説明する。危機からは未だ脱してはいなかった。

 

「……」

 

 沈黙するM16は、事前にAR小隊と打ち合わせていた作戦の一つを頭に浮かべる。

 予備プランC──それは、AR小隊のリーダーであるM4一人でグリフィン本部へ救援要請を行い、残った三人が分散して殿を務め、時間を稼ぐというものだった。

 危険な作戦だが、恐らく一番確実な方法であり、なおかつグレイヴがいる。M4がグレイヴと共に行動すれば逃亡できる確率は高まり、グリフィン本部への救援要請も早く行えるかもしれなかった。

 M16はその作戦を提案しようと口を開きかけ──突如、十字架を背負う背中が目に入った。

 

「グレイヴさん……?」

「グレイヴ?」

「どうしたの?」

「……」

 

 背中を向けて森の奥を見つめるグレイヴの姿を、AR小隊は怪訝な表情を浮かべて見る。

 僅かな沈黙ののち──。

 

「お前たちは逃げろ──俺が敵を抑える」

 

 息をのむ声が響く。グレイヴの口から出たのは、自らが殿を務める意思だった。

 

「む……無茶ですっ!」

「そうよ!あんた何考えてるの!?」

「そうだよ!グレイヴ!」

 

 M16を除く三人がグレイヴを止めようとする。それを無視してグレイヴは言葉を続けた。

 

「ペルシカからの指示だ──集合地点Aに再び集合。ヘリを待たせてるからそれで撤退しろ」

「そんな……だからってグレイヴさんだけが残るのは……」

「お前たちはペルシカから任務を受けたはずだ。その任務を果たせ」

「っく……」

 

 グレイヴに食い下がろうとしたM4だが、ペルシカからのデータ回収の任務を話に出され、口を噤んだ。グレイヴは死人兵士という戦術人形と同じ兵器のくくりに入るが、その素体は人間である。指揮権限こそないが、グレイヴの言葉には僅かにだが、その言葉に従順にならなければいけないと思える強制力がかかっているように感じられた。

 

「大丈夫だ……俺なら大丈夫だから……だから安心して逃げていい」

 

 グレイヴはそう言って笑う。その瞳と笑みは、M4たちがこの一月の間によく見た、頼もしく優しさに満ちたものだった。それを見たM4は──、ゾクリと、背中が震えた。

 

(え……なに……今の……?)

 

 ──何故、悪寒が走ったのか?恐怖?なんで怖いと思った?

 M4は混乱した。グレイヴを心配することを忘れ、感じた恐怖の正体を考える。そんなM4の混乱をよそに、M16が沈黙が破って、口を開いた。

 

「わかった……ここは任せたぞ、グレイヴ」

 

 M16の言葉。それを聞いたM4は思考を止めて叫ぶ。

 

「M16姉さんっ!?」

「グレイヴから提案したんだ。それにこのまま右往左往していたら、鉄血が追いついてくる──早く撤退するべきだ……M4」

 

 M4を呼ぶその声音は、いつもよりはるかに冷たい。無機質とも表現できる声だった。

 M4は唇を噛む。M16は尊敬できる姉だが、時折自分やAR小隊が生き残る為に、酷薄な判断や行動を見せる時がある。今のM16は正にその時だった。

 たった一月とはいえ、世話になったグレイヴは見捨てたくない。だが、M16の言う通り、判断が遅れれば追撃する鉄血に捕捉される。決断を下すべきだった。

 

「──AR-15。グレイヴさんに通信機器を渡して」

「……わかったわ」

 

 M4の指示で、AR-15は自身の所持している通信機器をグレイヴに渡す。通信機器を手渡されたグレイヴは、操作方法をAR-15から聞いた。

 機器を懐に収めたグレイヴに、M4は近づく。

 

「撤退に成功したら、ペルシカさんにお願いして必ず救援を要請します。だから……だから必ず無事でいてください」

 

 涙目になりながら、グレイヴの無事を懇願するM4。そんなM4の頭をグレイヴは撫でる。──直後、後ろから迫る多くの気配をグレイヴは感じ取り、それを睨む。

 

「行け……」

「M4急げ!大量の鉄血の反応だ!近づいてる!」

 

 グレイヴとM16に促され、M4はグレイヴに背中を向ける。そして、撤退を開始しようと走り出す。

 

「グレイヴっ!死んじゃやだからね!」

「死んだら許さないから……絶対生きてなさい」

 

 SOPⅡとAR-15も、それぞれグレイヴの無事を祈る言葉を投げかけながらM4へと続く。とっくに死んだ身ではあるが、生存を願う言葉は受けてグレイヴは笑う。

 最後に、M16がグレイヴを無言で一瞥して去っていく。こうして、グレイヴだけがその場に残った。

 

「……」

 

 グレイヴはAR小隊が見えなくなったのを確認して、迫る大量の敵の気配のする方を睨みながら、通信機器を取り出す。それを操作し、周波数を公開チャンネルに切り替える。信号接続範囲内にある全ての通信設備・機器に繋げしまう公開チャンネルは、敵となる存在にもその発信位置を知らせてしまう。

 だが、それこそがグレイヴの狙い。迫る敵を引き付ける撒き餌だった。

 グレイヴは、静かに通信機器を口に近づける。

 

「来い……」

 

 短い宣戦布告。そして、ケルベロスを構えたグレイヴは、迫る敵に向かって駆けた。




前回、あっさり決着がついてしまったなと反省。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。