GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

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1-14 逃避行

「あ、あの、おも、私、全然重たくないですけど、おぶって重たくないですか!?」

「ペーペーシャ、なに言ってるかわかんないし、ここ来る前におぶられてたじゃん」

 

 右足が破損し、歩けないPPSh-41(ペーペーシャ)をグレイヴは背負う。そして、廃家から拝借した大き目の古布を外套代わりにして、グレイヴの頭部と背中のPPSh-41(ペーペーシャ)を隠すように被る。スコーピオンもそれに倣った。

 

「あと、グレイヴさん、……あの大きな箱、ほんとに置いて行って大丈夫なんでしょうか?」

「……」

 

 PPSh-41(ペーペーシャ)は申し訳なさそうにグレイヴに聞き、グレイヴはうなづく。逃亡するにあたって、グレイヴは武装棺桶(デス・ホーラー)を廃家の床下に隠して置いていくことにした。PPSh-41(ペーペーシャ)を背負うため、鉄血に見つからないように、隠密に移動するには邪魔だからである。また、あの棺桶を使えるのはグレイヴだけであり、仮に鉄血に発見されたとしても問題にはならないだろう、とグレイヴはそう判断した。

 

「グレイヴ。あたしたちの基地はあっちにあるよ」

「……」

 

 スコーピオンが指をさす。右手に見える山の谷に沿うようにある森林地帯をグレイヴは見つめる。

 

「……」

「な、なんだよグレイヴ。そんなに睨んで」

「……スコーピオンさん。グレイヴさんは基地までどのくらいかかるか、知りたいんじゃないでしょうか?」

「な~んだ。それならず~っとだよ。ず~っと向こう!」

「……」

 

 どうやら長い道のりになりそうだ、とグレイヴは思った。

 グレイヴはスコーピオンの横を通り、先導しようとする。それをスコーピオンが止めた。

 

「待った、グレイヴ。あたしが先に行くからあんたはついてきてよ」

「……」

「スコーピオンさん、それは止めておいたおいた方がいいんじゃ……」

「だいじょ~ぶだよ、あたしだってやればできるんだから!」

 

 自信なさげに止めるPPSh-41(ペーペーシャ)の言葉に聞く耳を持たず、自信満々にそう告げるスコーピオン。どちらが先頭か決めるのに時間をかけ過ぎるのも危険な為、グレイヴはうなづいて肯定の意思を示した。

 

「任せてよ、グレイヴ!じゃあ行くよ!」

 

 スコーピオンはそう言って走り出す。小柄な体躯には想像がつかないほどの速い速度で走るスコーピオンをグレイヴは余裕をもって後を追う。人形1体を背負っているとは思えない走りだった。

 

「わわわ──すごいですグレイヴさん!」

「──おっ、あたしについてくるとはやるなグレイヴ!」

 

 二人がグレイヴを賞賛する。

 

「どこまでついていけるか、──勝負だぁグレイヴ!」

 

 スコーピオンは気合をいれた。

 

 

 

 

 

 ──数時間後・森林地帯

 

「……待って、ゼー──ぐれ……ゼー……イヴ……おねが──ゼー……いだから……」

「だから言ったじゃないですか」

 呆れた様子でPPSh-41(ペーペーシャ)はスコーピオンをなじる。

 顔を赤くし、熱くなった素体を冷却するために、スコーピオンは空冷システム(過呼吸)水冷システム(発汗)を全開で稼働させている。

 グレイヴとの追いかけっこを楽しんでしまったため、調子にのって全力で走りすぎたのが原因だった。くたびれたスコーピオンとは対照的に、グレイヴは平然としている。

 

「グレイヴって、──どうなってるの?疲れてないの?」

「……」

 

 スコーピオンの疑問に、うなずきで返すグレイヴ。そして、グレイヴはスコーピオンの頭の上に手のひらを乗せる。

 

「!?……あ~、気持ちいい。グレイヴの手のひら、すっごく冷たいね」

 

 死人の冷たい身体が今回は役に立ったらしい。スコーピオンは気持ちよさそうにグレイヴの手のひらに頭を擦り付ける。そんな様子を眺めながら、PPSh-41(ペーペーシャ)はグレイヴに気になったことを聞いた。

 

「……あの、グレイヴさんってなんなんですか?人間……でもないんですよね」

「……」

 

 グレイヴは横目でPPSh-41(ペーペーシャ)を見て、困ったように笑う。──と、不意に感じた気配にグレイヴの目の色が険しくなった。とっさに、スコーピオンの肩をつかみ、降り積もってできた雪塊の陰に隠れた。

 

「な、なんだ──ん!」

 

 グレイヴはスコーピオンの口を左手で覆い、右手で静かにするようジェスチャーする。

 グレイヴが何かを見ていることに気づいたスコーピオンは、グレイヴの視線の先を見る。そこには、周囲を警戒しながら前進してくる複数の鉄血の人形兵が見えた。

 

(……鉄血のパトロール隊)

 

 息を殺し、パトロール隊の視界に入らないよう、雪塊に隠れる3人。このままパトロール隊が3人の横を通りすぎるのを待つが、またもや気配を感じてグレイヴは後ろを振り返る。

 

(どうしたんですか、ぐれ──)

 

 小声で喋るPPSh-41(ペーペーシャ)も同じく気づいた。後ろの方からも、別の鉄血のパトロール隊が近づいていたのだ。

 

(ま、まずいよ、グレイヴ)

「……」

 

 スコーピオンのいう通り、非常に良くない状況だった。挟まれた形になってしまい、どちらかの視界に入らないように動けば、必ず見つかる。

 グレイヴ単体なら戦闘になっても問題ないが、今はスコーピオンと動けないPPSh-41(ペーペーシャ)がいる。戦闘になれば犠牲は免れないだろう。

 

(こうなったら……覚悟を決めて)

 

 スコーピオンは自らの銃を手に取る。が、グレイヴは銃身の手を置く。

 

(でも、グレイヴさん……)

 

 不安げに見つめるスコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)に、グレイヴは力強い視線で応える。グレイヴは2人に指示する。

 

「うつ伏せに寝ろ」

 

 

 

 

 

 ──鉄血のパトロール隊のうちの1体の人形兵が、雪塊の近くに何かがあるのを発見する。布を被ったそれは人間の男だった。うつ伏せに倒れた男の顔を見つめ、男が死亡していることを、網膜に表示される生体認知のシステムが判定する。危険はないと判断した人形兵たちは男の死体を素通りしていった──。

 

 

 

 

 

 充分な時間をかけて、パトロール隊が遠ざかるのを確認するグレイヴ。すると──。

 

「ぐぐぐ、グレイヴ~。もうそろそろい、いい?さささ、寒いんだけど~」

「スコーピオンさん、もう少し我慢できないんですか?」

「ロシア産まれのペーペーシャと比べないでよ。流石にもう無理」

 

 うつ伏せで寝るグレイヴの大きな身体に覆い被されるように隠れ、共に寝そべっていた2体がグレイヴの身体から這い出てくる。積もった雪に寝そべっていたため、素体が冷え切ったスコーピオンが身体を震わす。

 

「もう駄目だと思いましたけど、おかげで助かりました」

「すごいよグレイヴ!鉄血ども、攻撃してこなかったよ。何したの?」

「死体に化けた」

「「えっ……」」

「……冗談だ」

 

 冗談ではなかった。グレイヴは死人兵士であり、肉体はとうの昔に死んでいる。生体反応のない肉体が、鉄血の人形兵の生体反応を探るシステムの目をかいくぐったのだ。

 かつて、鉄血の人形兵との戦闘で、グレイヴを見た人形兵の反応が鈍かった。その理由は、エージェントとの会話が解明のヒントになった。

 

『まさか反応を偽装して、死体に化けるなんて』

 

 偽装でないのだが、この言葉でグレイヴは理解した。簡易的なAIしか持たない鉄血の人形兵に、死亡している人間を攻撃する無駄な機能などなく、人形は混乱していたのだと。そして、攻撃してきたのは決まって、グレイヴが攻撃したあとであり、それは自己防衛のための反射行動だったのだ。

 グレイヴはPPSh-41(ペーペーシャ)を背負う。そして、スコーピオンに視線で移動することを促す。

 

「……」

「う、うん。わかった。──頼むよ、グレイヴ」

 

 スコーピオンは素直に従う。高い身体能力と今回の窮地を脱した手際に、流石のスコーピオンもグレイヴを認めた。こうして、グレイヴを先頭に、3体の影はこの場を去った。

 

 

 

 

 

 夜が白み始めてきたところを見計らい、グレイヴたちは一軒のウッドハウスに身を隠した。脱出の段取りを打ち合わせる際、移動は日が沈んだ夜に行い、昼間はどこか身を隠せる場所で休息することに決めている。

 死人兵士であるグレイヴは休息しなくとも問題ないが、人形である二人は違う。活動中にメンタルに溜まったキャッシュをクリアするために必要であり、溜まりすぎれば任務活動にも支障をきたす。人間と同じように、彼女たち(人形)にもストレスや疲労物質の蓄積は毒なのだ。

 

「はぁ~……流石に疲れたよ」

「あ、ありがとうございます」

 

 ドカッと、音を立ててスコーピオンはベッドに座り込む。どことなくだが、声に張りがない。流石に夜通しでの移動は疲れたのだろう。その隣に、グレイヴはPPSh-41(ペーペーシャ)を労わるように座らせる。

 

「グレイヴさんは大丈夫なんですか?休まなくて」

「……」

 

 ベッドで眠る準備を整えているPPSh-41(ペーペーシャ)の質問に、グレイヴは無言でうなづく。昼間の休息中にグレイヴは歩哨として、周囲を見張るつもりだった。

 ケルベロスの銃身を肩に置き、窓際に立つグレイヴ。

 

「ふふっ……」

 

 不意にベットの方からスコーピオンの笑い声が聞こえた。グレイヴはそちらを見る。

 

「──前に、基地で古い映画を見たんだ。確か……私たちに似たアンドロイドの男がさ、ガソリンスタンドで見張りをやってるの。あれにそっくり」

「……」

 

 グレイヴにもその映画に心当たりがある。グレイヴの生前に、世界的に大ヒットした映画で、何人かの部下が観ていたな、と述懐する。

 グレイヴは再びベッドの方を見る。疲労の限界だったのだろう、二人は寄り添い、瞼を閉じて寝ている。

 ほんとに子供だな、とグレイヴは二人を見ながら微笑み、胸に手を当てる。

 

(脱出まで……もつか)

 

 グレイヴには懸念があった。──かつて、Dr.Tから聞いた話では、死人兵士の活動時間はおおよそ10日であり、それを過ぎれば、徐々に肉体は崩壊していくことになる。肉体の維持には、定期的な血液交換が必要なのだ。

 最後にペルシカのところで血液交換をしてから、1日以上が経過している。9日以内でこの広大な山脈地帯から脱出できるか否か。

 

(それでも──この娘たちだけでも──)

 

 覚悟を胸に、グレイヴは窓の外をにらんだ。




補足
・人形兵の監視の目をかいくぐるグレイヴ
捏造。自我のない鉄血人形兵だと、死体に対する行動はマニュアル、システム頼りになるだろうなと作者の脳内で決めた。

・スコーピオンが話題として挙げた映画
シュワちゃん主演の2作目。自分も大好き。

・死人兵士の活動限界
アニメ「Gungrave」で、死に際のDr.Tが言ったセリフから引用。自分の中では、肉体が平常な状態を維持できる期間が10日間と考えている。
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