GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

19 / 25
1-15 穢れた雨の中で

「……嘘だ」

「そんな……」

 

 その光景を見たスコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)がかろうじて発した一言。それはここにいる全員共通の思いだっただろう。グレイヴは周囲を見回しながらそう感じた。

 グレイヴが先導し、必要に応じてスコーピオンに指示を出して、遭遇する鉄血のパトロール隊や哨戒する飛行偵察無人機(ドローン)を、時にはかわし、時には倒しながら、グレイヴ達は逃亡を続けた。

 逃亡を開始してから5日が経過し、ようやくスコーピオンたちが案内した基地に辿り着いたグレイヴたちを待っていたのは、廃棄され、荒れた基地の跡だった。

 地面や建物の外壁や内部は、おびただしい弾痕や爆発痕があり、ここで激しい戦闘が行われていたことは想像に難くない。

 スコーピオンはペタリと座り込んだ。

 

「ごめん……グレイヴ……」

「スコーピオンさん……」

 

 謝るスコーピオン。そんな彼女の肩にグレイヴは手を置く。

 案内したスコーピオンやPPSh-41(ペーペーシャ)が悪い訳ではない。ただタイミングが悪かったのだろう、とグレイヴは思った。

 

「これからどうしよう──グレイヴ……?」

「グレイヴさん……」

「……」

 消え入りそうな声でスコーピオンはグレイヴに訊ねる。PPSh-41(ペーペーシャ)も不安げにグレイヴを呼んだ。

 グレイヴ自身にも、この先のことはわからない。だが、少なくとも、ここで立ち止まっている時間がないことだけはわかっていた。

 

「行くぞ」

「え……」

「まだ終わりじゃない……」

「……」

 

 そう言ってグレイヴは歩き出す。スコーピオンはその背中を追った。

 

 

 

 

 

 あれから更に3日が経過した。基地跡を南下し、新たな基地を探してグレイヴたちは夜のS09地区内を彷徨うように歩く。

 現在の天気は晴れ。月がよく見え、地上が月明かりで照らされて見通しが良い。必定、敵からも発見されやすくなっているので、森林地帯や岩場の多いルートを通り、遮蔽物に身を隠しながら、慎重に進んでいた。

「きれいですね~」

「うん……鉄血の占領区域内じゃなければ、お月見しながらお菓子をつつくのもいいよね~」

「……」

 PPSh-41(ペーペーシャ)とスコーピオンの会話を聞きながら、グレイヴは内心の焦りを気取られないように歩いていた。

 既に8日が経過し、刻一刻と自らの活動限界が迫る。10日を過ぎてすぐ身体が動けなくなることはないと思いたいが、確実に逃亡に支障をきたす。このまま無計画にS09地区内を彷徨うべきか、グレイヴの中で迷いが生まれつつあった。

 一度、グレイヴは昼間にスコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)が休んでいる隠れ家を抜け出し、十分な距離をとって、危険を承知で通信を試みた。だが通信はつながらず、グレイヴは落胆しながら隠れ家に戻ったことがある。

 そんな頭を悩ますグレイヴの頭上に、ピシャリと雷鳴がなった。

 

「うわっ!」

「きゃっ!」

 

 スコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)が短い悲鳴を上げるの聞きながら、グレイヴは空を見上げる。

 先ほどまで、月がよく見えていた空が暗雲に覆われ、雷を発している。雷で一瞬照らされる雲は、気のせいか黄色く濁っているように見えた。

 急すぎる天候の変化に驚くグレイヴたちの頭上に大雨が降り注ぎ、身体を濡らす。その雨に打たれながら、スコーピオンの顔は急に青ざめた。

 

「グレイヴ、まずい!──ここ、イエローエリアだ!」

「……?」

 

 グレイヴは聞き慣れない言葉に疑問を浮かべて、スコーピオンを見る。

 

「知らないの!?コーラップスで汚染された区域だよ!?呼吸するだけでも害なんだここは!」

 

 スコーピオンは早口で説明する。

 

「私たち人形は大丈夫ですけど、人形じゃないグレイヴさんは……汚染された雨で……」

 

 背負われたPPSh-41(ペーペーシャ)はグレイヴを見ながら顔色を悪くしていき、口を閉ざす。

 絶望感に囚われる二人がグレイヴを見る。そのまま三人は固まった。

 1分、2分と時間が経過していく。だが、予想した最悪の未来は起こらず、PPSh-41(ペーペーシャ)はグレイヴに恐る恐る尋ねた。

 

「あれ……グレイヴさん……大丈夫なんですか?」

「……」

 

 無言で、グレイヴはうなづく。信じられない様子でスコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)はグレイヴを再度、じっと見つめる。

 雨に打たれながら、数舜ののち、おもむろにスコーピオンは口を開いた。

 

「ねえ──グレイヴって何なの?」

「……」

「信号を発していないから人形じゃない……けど、あたしたち(人形)の走りについていけてるどころか、上回ってる。どんなに動き回っても疲れない。そんな重そうな銃を2丁も使えてる。おまけに、コーラップスで汚染されたここに、生身でいてもなんともない……絶対、人間じゃないよね?」

「……」

 

 スコーピオンから溢れる疑問。グレイヴは自身の正体──死人兵士のことを伝えるわけにはいかない。また、信じてもらえるとも思えなかったため、口を噤んだ。かといって、このまま不安を抱えたままでいさせるのも、スコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)に申し訳がなかった。

 

「俺は人間でも人形でもない……だが、お前たちの味方だ……それだけは信じてほしい」

 

 グレイヴは自らの思いを語る。正直、誤魔化しているような気もしているが、それでも伝えずにはいられなかった。

 沈黙が続いたあと──、

 

「……うん、信じるよ」

「私もです」

 

 スコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)は口を開いた。

 

「グレイヴがいなかったら、あたしたちはとっくの昔にやられてた……それに、こうやって鉄血の支配地域のなかで、見つからずに逃げられてる。グレイヴのおかげだもん」

「スコーピオンさんは騒がしいから、すぐ見つかっちゃいますもんね」

「うるさいよ、ペーペーシャ」

 

 スコーピオンとPPSh-41(ペーペーシャ)は歩兵として戦闘任務に従事することが多い。反面、隠密潜入などの難易度の高い任務は非常に不得意であり、それができるのは作戦遂行能力が高いAR小隊や特務部に所属する、一部のエリート人形くらいである。

 

「それにさ──私たちが寝てる間、グレイヴさんは隠れ家から離れましたよね?でも戻ってきてくれました」

「……」

 

 気づかれていたとは思わなかったグレイヴはわずかに驚きながら、横目でPPSh-41(ペーペーシャ)を見る。気配を消すのは不完全だったようで、自らの腕がなまったのをグレイヴは内省する。

 

「動けない役立たずの私を見捨てなかった。だから信じます……最後まで」

「あたしもだよ」

 

 そう言ってグレイヴを見る二人。その目は力強く、グレイヴを信頼していた。

 

「……」

 

 グレイヴは、背負うPPSh-41(ペーペーシャ)の肩に、そしてスコーピオンの頭に、感謝を表すように優しく触れる。そして、改めて自らが進む方向を向いた。

 

「この雨だったら、敵にも見つかりにくくなると思う──急ぐなら今だね」

 

 スコーピオンの言葉にうなづくグレイヴ。

 

「……?」

 

 PPSh-41(ペーペーシャ)を背負い直して、グレイヴはある違和感を覚えた。

 

「グレイヴさん、どうしたんですか?」

「……いや、行こう」

 

 尋ねるPPSh-41(ペーペーシャ)に返事を返し、グレイヴは雨中を走りだした。自らの身体に覚えた高揚感を無視して──。

 

 

 

 

 

 ──S09地区、鉄血指令所

 

「見つけましたわ。何者かが通信信号を出している形跡がある。時間は──昼間の1100頃ね」

 

 スケアクロウが偵察網に引っかかった信号を分析する。

 

「通信したのはあの男か?それともAR小隊か?」

「そこまではわかりませんわ──座標を送ります」

 

 エクスキューショナーは、自らの電脳内に送られた座標を確認する。

 

「前にぶっ潰したグリフィン基地に近いな。生き残りか?」

「何者かが寄っただけとも考えられますわね。断言できませんが」

「もしあの男だったらどうすんだ?私たち(ハイエンドモデル)なら問題ないが、ダミー連中だと死体の信号で鈍くなるんだろう?」

 

 スケアクロウがため息をつく。このエクスキューショナーは戦闘以外に興味がないのかと呆れていた。

「……エルダーブレインとエージェントが、男の姿を確認すれば、生体反応判定を無視して攻撃するように修正するそうです。聞いていなかったのですか?」

「わりぃわりぃ!楽しみすぎて忘れてたわ!」

 

 スケアクロウは再度、ため息を吐いた。エクスキューショナーはそれを無視して、自らの愛刀を抜く。

 

「エージェントはぶっ倒すほどの男……本当に楽しみだ……」

 

 エクスキューショナーは嗤う。その網膜に映されたのは、エージェントの戦闘記録にあった(グレイヴ)の姿だった。




補足

・廃棄された基地

ドルフロのゲーム本編で、第一戦域のストーリーでカリーナが、鉄血との戦闘が激しくなって、司令部をいくつも失っていることを発言しているところから引用。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。