──あの雨の夜から5日が経過した後の昼間。隠れたウッドハウスのベッドで眠るスコーピオンと
死人兵士の活動限界である10日を越えたが、未だに肉体の崩壊が起こっていない。それを疑問に感じつつ、グレイヴはこの時ばかりは、あまり信じていない、存在するかわからない神に感謝した。
だが、いつ崩壊が起こるのか、またグリフィンの基地を見つけることができるのか、危機的状況におかれているのは変わらず、楽観視はできない。
そんなグレイヴの思考は、外の鉄血の人形兵の部隊が見えたところで止まった。自らが隠れるウッドハウスの近づいてくるのを確認したグレイヴは、急いで二人を起こす。
「スコーピオン、ペーペーシャ」
「どうしたの、グレイヴ?」
「グレイヴさん?」
「鉄血がくる」
「「!?」」
端的に状況を伝えるグレイヴ。その言葉に緊張感が走る。グレイヴは設置されたクローゼットに視線を移す。
「隠れてろ」
「はいはい──いつもの手ね」
グレイヴの言葉に、スコーピオンは逃亡の過程で何度か行ったグレイヴの死体になりすます行為を思い出す。最初の頃は怪訝な様子だったが、流石に慣れてしまった。
クローゼットの中に隠れた二人を見て、グレイヴは座り込んで壁にその身を預ける。しばらくして、下の階の扉が開く音を聞いた。
隠れ家に侵入した鉄血の人形兵は、グレイヴたちのいる二階へ歩を進める。
グレイヴはじっと動かずに、状況を注視する。二階にたどり着いた鉄血の人形兵たちは壁にもたれるグレイヴを見る。その瞬間、人形兵たちは一斉に銃口を向けた。
(……!?)
銃口を向けられたグレイヴはすぐさまケルベロスを抜き、引き金を引いた。お互いに撃ち合いになり、グレイヴは被弾しながら、この場にいる鉄血の人形兵全てを撃破する。
銃声が鳴り止んだタイミングを見計らい、スコーピオンがクローゼットから出てきた。
「グレイヴっ!?」
スコーピオンは散らばる鉄血の残骸と、被弾し出血しながら立ち上がるグレイヴを見て驚く。そんな様子をグレイヴは無視して、話し始めた。
「見つかった」
「なんで!?」
「……」
グレイヴとしても、このまま鉄血が自らの対策を行わないとは露ほども思ってはいなかったが、その対策の効果が、グレイヴにとって最悪のタイミングで発揮されてしまった。
恐らくだが、これから鉄血の増援が向かってくる。激しい戦闘が予想できた。
「……」
敵を迎撃しに、無言で外に出ようとするグレイヴをスコーピオンは止める。
「あたしも戦うよ!グレイヴ!」
「だが……」
「あたしは戦術人形だ!足手まといにはならない!」
「……」
スコーピオンの決意は固い。ここで言い争っている時間はなさそうだ、とグレイヴも覚悟を決めた。
「通信はできるな?指示を出す」
「うん!任せてよ!」
「あの……私は……?」
元気に返事するスコーピオンとは対照的に、
「ここで待て、すぐ戻る」
「……はい」
「ペーペーシャ、あたしたちの勝利を信じててよ」
「うん……頑張ってね、スコーピオン、グレイヴさん」
「それでグレイヴ、作戦はどうするの?」
尋ねるスコーピオンに、グレイヴはライトヘッドを無言で構える。
「……わかりやすそうな作戦だね」
空笑いをするスコーピオンと共に、グレイヴは家の外へ出た。
──その様子を別の家屋から覗き見る影がある。
「ええ、対象を発見──座標は──」
グレイヴが隠れていた家のある地域は元々は小さな村だった。未舗装の農道に数件の家屋が並ぶその村は小高い丘に囲まれている。
グレイヴの姿はその村の中心にあった。初めからなく隠れることはせず、死人兵士の力と、自信の殺し屋としての技をもって、正面から敵を迎撃するつもりだった。
気配を研ぎ澄ますグレイヴは、正面からくる大量の敵の気配と足音を感じ取る。鉄血の人形兵の姿を視認したグレイヴは、ケルベロスを構えて発砲する。放たれた弾丸は、鉄血兵の頭を容赦なく吹き飛ばす。
仲間をやられた鉄血兵たちは散開し、岩や丘の傾斜の影を遮蔽物にして隠れ、陣形を組んでグレイヴを狙い撃つ。
鉄血兵たちの射撃をその身に受けつつも、グレイヴはその陣形の中心へと全力で駆ける。グレイヴは移動しながら、一体、また一体と鉄血兵たちを葬っていった。
移動するグレイヴに鉄血兵たちは銃口を向ける。──その背中に、家屋の屋根から弾丸が降った。
仲間をやられた近くの鉄血兵たちは屋根の上を見る。
「へっへー!どうだ鉄血のクズ共っ!思い知ったかぁ!」
そこには二挺の銃を構えるスコーピオンがあった。スコーピオンの姿を見た鉄血兵たちが一斉に銃を構える。
「おっと!危ない危ない……」
鉄血が射撃するより早く、スコーピオンは屋根の棟に隠れる。屋根の上にいるスコーピオンを追う鉄血兵の背中を、今度はグレイヴが狙い撃った。
「すごいな~グレイヴ、あたしももっと頑張らないと!」
スコーピオンは隠れたまま移動を開始する。
スコーピオンがもらったグレイヴの指示は、グレイヴが鉄血兵を引きつけている間に、遮蔽物を利用しながら鉄血兵の死角に回り込んで攻撃するというものだった。
スコーピオンの銃の有効射程は極めて短いため、接近戦になりやすく、被弾率も高くなる。グレイヴが盾となることで、スコーピオンが撃破される危険を少なくし、スコーピオンの高い機動力を活かして、有利な位置から射撃して敵の数を減らす。撃ち損じた敵もグレイヴの素早いフォローのおかげで、事なきを得た。
最初こそ、スコーピオンの戦闘能力を疑っていたグレイヴも、素早い立ち回りと精確な射撃を併せ持つスコーピオンの評価を改めた。調子に乗りやすい点を除けば、スコーピオンは優秀な戦術人形だったらしい。スコーピオンの活躍により、鉄血兵の数を順調に減らしていく。
数を減らした鉄血兵が後方に下がりながら、固まって家屋の中へと隠れる。それを確認して、グレイヴはスコーピオンに無線で指示を飛ばす。
「スコーピオン」
『了解!任せて!』
スコーピオンは焼痍手榴弾を、家屋の窓へ投げ入れる。手榴弾が爆発し、焼かれて出てきた鉄血兵を、グレイヴとスコーピオンは撃破する。
『やったね!グレイヴ』
屋根の上からスコーピオンは喜ぶ。その直後、遠くから気配を感じたグレイヴは叫んだ。
「伏せろっ!」
叫んだグレイヴの身体を超高速のプラズマ弾丸が貫く。それと同時に、スコーピオンが隠れた屋根が砕け散った。
「スコーピオンっ!」
『──』
撃たれた痛みを無視して、グレイヴはスコーピオンを呼ぶ。返事はなく、グレイヴの位置からではスコーピオンは見えない。
狙撃された方向に、グレイヴはケルベロスを向ける。丘の上に、キラッと光が反射したスコープと、二体の鉄血兵が見えたグレイヴは二挺の巨銃の引き金を引いた。
点にしか見えないはずの距離から、鉄血の狙撃手二体は頭を撃ち抜かれる。
狙撃手二体を倒したグレイヴは、スコーピオンの安否を確認しようとする。が──、
「ハッハ!やるな貴様!」
突如、先ほど撃った狙撃手のいる方から聞こえた大声に足を止める。そして、グレイヴのその声のする方へ、躊躇なくライトヘッドの弾丸を放った。
大声の主の頭へと向かった弾丸は、その顔を覆うように守る巨大な刀身に阻まれる。
(……!?)
反応されたことに驚くグレイヴは、遠くにいる女の姿を見る。
黒い長髪、機能性を重視した戦闘用のスーツ、黒い金属の両足、巨大な剣とそれを振るうための、巨大な黒いカギ爪を持つ右腕。グレイヴは確信する。──鉄血のハイエンドモデルだと。
ケルベロスで弾丸を弾いた女は、腕に残る痺れを無視して剣を構える。
「たいした威力だ──鉄血工造製品番号SP524、エリート人形“エクスキューショナー”だ」
自己紹介を行ったエクスキューショナーの、両足の踝付近が帯電する。
「エージェントを倒した実力……見せてもらうぞ!」
直後、エクスキューナーが両足を爆発させながら地を駆ける。少なくとも、グレイヴにはそう見えた。
グレイヴとの距離を一瞬でゼロにしたエクスキューショナーは剣を大きく振り下ろす。グレイヴはとっさにライトヘッドの銃身で、その斬撃を防ぐ。銃と剣が互いにぶつかり合い、火花を散らした。
「さあ──オレ様を楽しませろ!死体男!」
補足
・遠距離狙撃できるグレイヴ
ゲームだとロックオンできれば、どんな距離でも全弾命中。アニメでも、暗い夜中に、上空にいる敵の小型ミサイルを撃ち落とせる腕前を見せるグレイヴ。視力も超人化してるんだろうなと妄想。