グレイヴのライトヘッドとエクスキューショナーのブレードがぶつかり合う。
(斬れねぇ!?──いやっ、それよりっ!)
エクスキューショナーは、自身の斬撃では斬れないグレイヴの銃の硬さに驚くが、すぐにその意識は鍔迫り合い、刃から伝わるグレイヴの力の強大さに向けられる。
(圧し負けるだとっ!?)
弾き飛ばされるのを直感したエクスキューショナーは、ステップを踏んで、後方に下がる。
グレイヴはケルベロスを連射する。エクスキューショナーは横に移動しながらブレードを持つ右腕の手首を回転させ、プロペラのようにして弾丸を弾き続ける。それと同時に、左手に持つプラズマハンドガンで応戦する。
(重てぇ!)
先程の遠距離射撃を防いだ時にも感じたケルベロスの破壊力に瞠目する。グレイヴはエクスキューショナーのハンドガンの攻撃を被弾し出血しているが、傷は修復され、効いている様子はない。
(エージェントの戦闘記録通りタフだな、おいっ!?)
銃での撃ち合いは不利と判断したエクスキューショナーは、間合いの外でブレードを振るい、斬撃を飛ばした。
斬撃の衝撃波は地面を抉りながら、グレイヴに迫る。グレイヴはそれをサイドステップでかわし、背後にあった民家に直撃して壁面を粉々に破壊する。
エクスキューショナーが飛び込み、落下する勢いのまま、グレイヴを斬りつける。
今度はレフトヘッドの銃身でブレードを受け止めたグレイヴは持ち手を動かし、斬撃の勢いを殺さぬまま地面へといなした。土埃を上げてグレイヴの右側に着地したエクスキューショナーに、すかさずグレイヴはライトヘッドの銃口を向ける。
だが、エクスキューショナーは左手のハンドガンをグレイヴのライトヘッドに向けて連射する。プラズマ弾がグレイヴのライトヘッドと右腕に命中し、照準をブレさせ、グレイヴの横へ回り込むことに成功する。そして、横薙ぎの一閃を喰らわす。
エクスキューショナーの横薙ぎの隙間に、グレイヴは横に飛び込んでかわしながら、ケルベロスを連射する。
再び、エクスキューショナーは右腕を回転させ、剣で弾丸を弾く。剣から伝わる衝撃は殺しきれずに素体まで響き、エクスキューショナーは耐えるために、その脚を止める。否、止められてしまった。
「クソがぁぁ!」
体勢を立て直したグレイヴの苛烈な連射攻撃による弾丸を、エクスキューショナーは雄叫びを上げて弾き続ける。今まで闘ってきたグリフィンの人形の使用する時代遅れの銃器と類似していながら、今まで味わったことがない、比較にならないケルベロスの破壊力に、エクスキューショナーは内心、冷や汗をかく。このまま受け続ければやられるのは明白だった。
エクスキューショナーは両脚を帯電させ地面を踏む。加速装置による爆発的な推進力で横に跳び、グレイヴの攻撃の射線から逃れる。
だがグレイヴは即座に反応し、移動するエクスキューショナーに照準を定めて撃つ。エクスキューショナーは加速装置を起動させたままグレイヴの方向へと踏み込み、弾けるように再び跳ぶ。グレイヴに接近する速度を維持したまま、飛んでくるケルベロスの銃弾を身をよじってかわすが、一発の銃弾が左の頬をかすめ、エクスキューショナーの顔の左側を大きく削る。
無理な方向転換、加速装置による過負荷は、エクスキューショナーの素体を軋ませ、演算領域の消耗は頭痛を引き起こす。更に、顔の激痛が加わり、痛みで音を上げそうになるのを歯を食いしばって耐えたエクスキューショナーはブレードを全力で振るう。
グレイヴは斬撃はかわすが、すかさず二撃目、三撃目の斬撃をエクスキューショナーは振る。ケルベロスで受け止め、かわして反撃を試みるグレイヴだが、斬撃で生じる衝撃波と地面を抉って飛び散る粉塵がグレイヴの動きを鈍らせ、動きを阻害させる。
エクスキューショナーはグレイヴが自身の性能を上回っているのを本能的に察している。そのため、エクスキューショナーは素体の悲鳴と鼻から垂れる血を無視して、出力限界ギリギリでブレードを振るい続ける。反撃の隙など与えないために──。
自他共に認める戦闘狂のエクスキューショナーは初めて自身より強いかもしれない敵に出会った。そんな存在に自身の全力を試す初めての体験に彼女の口角が上がる。それは恐怖による引きつりなのか、または歓喜による狂笑なのかわからない。とにかく彼女は嗤っていた。
「いいぜ──もっとオレを楽しませろよ、死体男!」
気合の雄たけびを上げ、エクスキューショナーは殺気と共にブレードを振るい続ける。グレイヴはそんなエクスキューショナーを睨んだ。
「グレイヴさん……スコーピオン……」
片足で立つ
だからだろうか、彼女の背後に迫る存在に気付かなかったのは──。
「あら──こんなところにもいらしたの」
突如、背後から聞こえた声に、
「あっ……つ!」
右腕と左足を穿たれた
黒髪のツインテール。口元をマスクで隠し、指揮棒を持つその少女に、
「スケア……クロウ……」
名前を呼びながら、
「ううっ……」
「大人しくしていてください、ボロ人形」
情報の収集と分析が得意な彼女は、自らの分析に希望的観測など一切混ぜない。それゆえに、彼女はエクスキューショナーの敗北を予測する。
──エクスキューショナーは素体の全能力をフル稼働させて戦闘している。なんとかそれで拮抗した戦いを継続しているが、当然、そんな戦い方は長く保てない。その証拠に、演算回路の過負荷で鼻血を出し、素体の表面のいたるところから内出血が起こっている。更には、戦闘中に発する煩わしい叫び声をほとんど上げていない様子に余裕のなさがうかがえる。限界は近いことは容易に推察できる。
対して男の方は攻めあぐねているように見えて、無理に攻めず、回避に専念していることから、エクスキューショナーの限界を見極めているようだった。
鉄血のエリート人形を上回る性能と戦闘能力を持っているかもしれず、エージェントを倒した男。仮にエクスキューショナーと組んで二対一で戦っても、仕留めきれるかどうかわからない。鉄血兵の増援は向かってきているが、その到着までにエクスキューショナーがもたない。時間がなかった。
(このままでは任務未達成ですわね)
スケアクロウは状況の打開を求め、拘束されている
(あの男……わざわざ動けない人形を……)
スケアクロウは邪魔でしかない人形を連れて逃亡していたかもしれない男の行動を侮蔑する。それと同時に一つの策が彼女の頭に浮かぶ。
正直なところ、自身の策が通じるかどうか賭けだ。しかし、打てる手段が他にない。スケアクロウは拘束されている
「役立たずのお人形……私のお役に立ててもらいますよ」
グレイヴとエクスキューショナーの戦いは未だ続く。エクスキューショナーは斬撃を出し続け、グレイヴを圧倒する。しかし、グレイヴには焦りはなかった。
エクスキューショナーの攻撃は確かに強力で範囲もでかいが、直線的すぎるが故に読みやすい。ブレードの向き、剣を持つ手首の向きを見極めれば回避は容易だった。更に、エクスキューショナーの動きが遅くなってきている。エクスキューショナーは疲弊しきっており、決着が近づきつつあるのをグレイヴは感じた。
(当たらねぇ……!)
エクスキューショナーはグレイヴが自身の攻撃を見切り始めているのに気づく。その証拠に斬撃の衝撃波の範囲を見極め、回避の動きが小さくなっており、反撃もし始めている。なんとかグレイヴの動きをよく観察し、攻撃を全力を費やしてかわす。
わずかに両者の間合いが広がり、それを詰めるためにエクスキューショナーは脚を踏み込み──、膝から力が抜け、バランスを崩した。
(しまっ──)
限界を迎えたエクスキューショナーは、こちらに銃を向けるグレイヴを見る。エクスキューショナーは0秒後に迎える自身の死を明確に感じ取る。
──その刹那、両者の間にレーザーの光跡が走った。
(新手──!)
グレイヴはレーザーが放たれた方向を見て、目を見開いた。
「止まりなさい、
そこには浮遊し、同じく浮遊するビットを操るマスクをつけた少女と、それに率いられた鉄血兵に捕まる
後書き、補足
・グレイヴとエクスキューショナーの攻防
なんだかボスのグレイヴに挑む挑戦者エクスキューショナーみたいな構図になってしまった。いささか自分のバイアスが強くて、グレイヴとの力量差を大きくつけすぎたかもしれない。