「この馬鹿」
グリフィンに救助されたグレイヴは、そのままヘリで16LABの研究所に向かい、およそ2週間ぶりに再会したペルシカの開口一番がこれである。
「言ったわよね・・・AR小隊と共に脱出。難しかったら、M4だけでも連れてきてって。忘れてたの?」
「……」
グレイヴを指差しながら詰め寄るペルシカ。グレイヴは言われるがままである。
ペルシカの目元のクマはいつも以上にドス黒い。声もガラガラで、頭に生えた謎の獣耳は左右とも後ろ向きになっている。いつも以上にくたびれた様子で、かつ不機嫌だった。
「AR小隊は、状況に応じて作戦プランをいくつか立ててたのよ。その中には、M4単独でグリフィン基地に救援をお願いするっていうのもあったわ」
「……聞いていなかった」
「でしょうね」
ペルシカはそう言ってビーカーに入ったどす黒いコーヒーを飲み干して、グレイヴに向き直る。
「口が固いのは良いことだけど、言葉が足らないと大事なことも聞けないから取り返しがつかなくなることだってあるのよ……わかる?」
「……」
「こっちは本当に大変だったわ――グレイヴだけ残ったって聞くわ、M4たちから救援のお願いされるわ、でヘリアンとクルーガーには借りを作りっ放し……まあ、おかげで面白……優秀なグリフィンの指揮官には知り合うことができたのは良かったけれど……」
鬱憤が溜まっていたのであろう、ペルシカは気だるげに、かつ棘があるような声音でまくし立てるように喋る。耳が痛くなる内容にグレイヴは押し黙る。
「でもあなたのおかげでAR小隊は欠けることなく戻ってきてくれたわ……ありがとうね」
「……」
ペルシカの感謝の言葉に場の空気が緩む。
「だからヘリ一機失ったのは気にしていないわ。ええ、本当に気にしていないから」
「……」
痛いところを突かれたグレイヴは気まずくなって口を僅かに歪める。
一通り愚痴をぶちまけたペルシカは、ようやく落ち着いたのか一息つく。そして、血液交換用装置の椅子を指さす。
「さあ、座って。とっくに交換サイクル過ぎてるから、早くやるわよ」
血液交換の終了のブザーが鳴り、グレイヴもまた目を覚ます。一通り身体を動かし、異常がないことを確認したグレイヴはシャツを着ながらpcの画面を凝視するペルシカの隣に移動する。
ペルシカは眉を寄せ、唇を少し尖らせている。腑に落ちない、解せないというような、何か納得していない様子をグレイヴは感じた。ペルシカは口を開く。
「ねえ、グレイヴ。S09地区内で血液交換した?」
出来るわけがない、とグレイヴは首を横に振る。
「そうよね……んんっ……?」
ペルシカは小さいうなり声をしばらくあげた後、何かを思い出してPC画面から目を離す。
「そうだった・・・グレイヴ、行くわよ」
「……?」
「S09の前線基地。あなたの救援作戦を行ったグリフィンの基地よ」
「AR小隊はね、しばらくグリフィンに預けることにしたの」
ヘリに揺られながら、グレイヴはペルシカの話を聞く。
「今回の一件もあるけど、AR小隊単独だとできる作戦行動に限界があったから……グリフィンと共同で作戦する為の練習と、個々の成長には必要かなと思って……」
「……」
「今は救援作戦を行った基地の司令官に指揮権限を移譲しているの……新人の指揮官だけど、なかなか優秀なのよ……ほら、見えてきたわ」
グレイヴはヘリの窓の外を見る。囲んだ塀により区画ごとに分かれた敷地、軍用の車両や飾り気のない外壁の建物が複数見える。
「S09地区794基地……暴走した鉄血との最前線で戦うグリフィンの基地のひとつよ」
ヘリから降りたグレイヴとペルシカをオレンジ色の髪をサイドポニーにした少女が出迎える。
「ペルシカリア様とグレイヴ様ですね。遠方からお疲れ様です!私はカリーナ!この前線司令部の後方幕僚です!」
「救援作戦では世話になったわ。ペルシカよ、よろしく。様はいらないわ」
「こちらこそ!16LABの主席研究員であるペルシカさんに会えて光栄ですわ!」
ペルシカとカリーナは互いに握手を交わす。グレイヴはまだ年若いカリーナの出現に困惑する。
「それより指揮官は?いるんでしょう?」
「ああ~……指揮官さまですか……」
ペルシカから指揮官の所在を聞かれたカリーナは言葉を濁す。
「今回の救援作戦で徹夜していて、休憩中なんですが……」
「こっちも忙しいの。早く会わせて」
「……わかりました。ではこちらへ」
ペルシカに促され、カリーナは案内する。グレイヴもそれに続いた。
「ペルシカさん、グレイヴさん」
基地内に入った二人に声を掛けたのはM4だった。M4の後ろに他のAR小隊の三人が続く。
「あら、M4。出迎えご苦労様」
「いえ、少し遅れました……カリーナさん、ありがとうございます」
「いえいえ!仕事ですから」
「グレイヴさんも身体の方は大丈夫ですか?」
「……」
グレイヴは肯定の意味を込めて頷く。
「これから指揮官に会いに行くところなの」
「では、同行します」
AR小隊も合流し、共に指揮官の司令室へ向かうことになった。案内されている最中、グレイヴはカリーナの背中をじっと見つめる。その視線に気づいたカリーナは振り返った。
「グレイヴさん、私に何か……?」
「……あの二人は?」
「はい?」
「……スコーピオンとペーペーシャは大丈夫か?」
「ああ!あの二人なら現在修復中です。損傷は激しくて時間はかかりますが、問題なく復帰できますわ」
「……そうか」
二人が無事なことにグレイヴは安堵する。
「損傷した二体の人形と共に脱出した要救助者――グレイヴさまのことはこの基地で話題になっているんです」
「……」
「自らのみならず人形の仲間とも共に脱出――この場を借りて感謝いたしますわ」
「……いや」
カリーナからお礼を言われて、グレイヴは軽く返事をする。
しばらく基地内を進み、一行は射撃場を通る。最後尾にいるグレイヴは興味を示して場内の様子を見る。
恐らく戦術人形であろう少女、女性たちがサブマシンガン、ハンドガン、アサルトライフルなど千差万別の銃を握り、的となっているロボットに射撃している。
豊富な銃の種類の有無と、女が銃を握っている光景を除けば、生前のマフィア時代の射撃場での訓練をグレイヴは思い出す。しかし同時に、彼の頭に疑問が浮かぶ。
「グレイヴ、なんか気になることでも?」
グレイヴの射撃場を見る視線に気づいたM16が声をかけた。
「何故、鉄血と同じ装備を使わない?」
グレイヴのいる今は2062年――更には、実際に鉄血の人形兵とハイエンドモデルと戦闘したグレイヴは鉄血が使った高性能な装備を目の当たりにしている。
弾速は速く、威力も大きく、リロードが極力必要ないエネルギー式の鉄血の装備。2062年という年代を考えれば、M4やスコーピオンという銃はあまりにも古い。
グレイヴの事情を知るM16は合点がいったように口を開く。
「ああ。そりゃ鉄血の兵器が軍用で、私たちグリフィンが
「……?」
「AIが暴走する前の鉄血工造は軍に製品を納入していた。だから鉄血の装備は最新で強力なんだ」
「……」
「当然だが民間人、民生人形が軍用兵器を使用することは法律で禁止されてる。だからわざわざ50年以上前の武器を掘り起こして使っているのさ、私たちは」
納得がいったようにグレイヴは頷く。だが新たに疑問が生まれる。
「どうしてグリフィンが鉄血と戦ってる?軍はいないのか?」
「軍は色々忙しいんだよ――国家システムが崩壊した現代じゃあ、自分たちの利益となるところを守るのに手いっぱいなのさ」
「……」
「鉄血が暴走して鉄血工造が管轄していた地域は奪われた。……北蘭島事件で狭くなった人類の居住権を取り返すのは急務だ――だから、私たちは戦っている」
「……人の代わりに?」
「……ああ、そうさ」
「みなさん!こちらが司令室ですよ!」
カリーナの声にグレイヴはそちらの方を向く。
司令室の扉をノックもなく開いたカリーナ。ズカズカと遠慮なく部屋に入るペルシカとカリーナに、困った様子でAR小隊の面々とグレイヴはそれを眺める。
部屋へと入ったグレイヴたちは辺りを見回す。指揮官らしき人物は見当たらず――否、ベッドの上の布団が不自然に膨らんでいるのが見える。
ベッドに近づいたカリーナは容赦なくシーツを剥がした。
「指揮官さま!お客様です!起床のお時間はとうに過ぎてますよ!」
「あとちょっとだけ、カリーナ!昨日の作戦で徹夜してるの!」
「その作戦の報告書を書いたのは私です!徹夜しているのは私も一緒ですわ!」
布団の中から出てきたのは、カリーナと同年代の、まだあどけなさが残る顔をした金髪の女性だった。
(若いな……)
グレイヴはカリーナと会った時と同様に驚く。指揮官と呼ばれているからには、それなりに年季が入った人物が出てくるであろうという想像を覆されたからである。
グレイヴの心情をよそに指揮官はペルシカを確認するなり、怯えた表情を浮かべた。
「こんにちは、指揮官さん。元気してた?」
「ひっ!?……ペルシカさん」
ペルシカの気だるげな挨拶とは対照的に、指揮官は軽い悲鳴を上げる。何かしたのか、とグレイヴはペルシカを疑惑の目で見つめる。
「何よ、人の顔を見るなり失礼じゃない?」
「それは……お使いや実験と称して、ペルシカさんが何度もうちの人形部隊に出撃させたからですよ!」
「その節はすごく助かったわ。ありがとう」
「どういたし……じゃないです!頻度が多すぎるんです!報告書作成中に実験依頼、任務が終わって部隊を帰還させたと思ったら再出撃命令。就寝しようとしたら、連絡が入って……ここ一週間、私はろくに休めませんでしたよ!」
指揮官はペルシカに不満をぶちまける。昼夜問わず幾度もかかってきたペルシカからの通信でのお願いにより、ペルシカの名前と顔は、指揮官のトラウマとなっていた。
「ははは……ゴメンネ」
「……」
平謝りするペルシカを見つめるグレイヴに、M4とAR15は近づき、小声で話しかける。
「ペルシカさんはお使いと言ってますけど、本当はグレイヴさんの捜索の為だったんです」
「行動予測から当たりをつけて捜索してたんだけど、情報が少なかったから大変だったわ」
グレイヴも少なからず、ペルシカの意図に気づいていた。迷惑をかけた自分を彼女なりに助けようとしてくれたことに、グレイヴは内心、感謝する。
「でもペルシカさんが、急にグレイヴのいる場所を見つけて連絡してきたんだよね……どうやって見つけたんだろう?」
SOPⅡの疑問を聞いたグレイヴに、スケアクロウを撃破する際に援護した謎の存在が脳裏をよぎる。M16もまた表情を変えずに左目をわずかに細める。
その会話の最中に、ベッドの中から這い出てきた指揮官がグレイヴに向き直る。
「始めまして、グレイヴさん。私はミラ・A・バルザック。この794基地の指揮官で、あなたの救出作戦である『角砂糖』作戦の責任者です」
自己紹介と共に、ミラは手を差し出す。
「……ありがとう、世話になった」
グレイヴもまた手を出し、握手を交わす。手に触れた瞬間、ミラは眉をピクリと動かす。
「こちらこそ――グリフィンの仲間であるスコーピオンとペーペーシャを救出してくれたこと、感謝します」
ミラは微笑みながら、グレイヴに礼を述べる。
「ところで、今回はどういったご用件でこちらへ?」
「?」
「あっ。そういえば言い忘れてた」
ミラの疑問に、ペルシカが前へ出て説明する。
「この基地でどこか場所を借りたいの。そうね。……極力、人通りのない場所が好都合なんだけど」
「……カリーナ。どこかある?」
「ちょっと待ってください――」
カリーナはそう言って、基地内で使用されていない部屋などを端末で調べる。カリーナが調べている間に、ミラが質問する。
「ちなみにですが、間借りの目的は?」
「待ち合わせよ。クルーガーと会う約束をしているの」
「なるほど……えっ?」
「えっ?」
ミラとカリーナが同時に止まり、AR小隊も驚きで固まる。グレイヴだけが状況をわかっていなかった。
「しゃ――社長が来るんですか!?」
「静かに……クルーガーがここに来るのは極秘なの。指揮官さんとは会う時間はないし、要件済ましたらすぐ出戻るそうよ」
クルーガー――
考えるグレイヴに、ペルシカは彼の顔を見る。
「要件はあなたよ、グレイヴ……あなたに興味があるって」
あとがき
他のゲームの話で申し訳ないですが、先月、FGOで二部6章クリアしました。一言じゃ言い表せないくらい、色々すごかったです。最高でした。
次の話でチャプター1は完結予定です。