GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

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チャプター2開幕
登場人物が一気に増える予定。果たしてそれぞれの見せ場をつくれるのか……


Chapter 2 : Griffin dolls & Grave
2-1 着任


 ローターの反響音が響き渡り、飛行による振動がヘリの機内を揺らす。そのシートに身を預けた少女が一人。

 

『嬢ちゃん、もう少しで基地だ。空の旅はどうだったかな?』

「はい、おかげで快適でした。ありがとうございます」

 

 ヘリのパイロットからの機内アナウンスに、少女は朗らかに返事する。ベレー帽をかぶった銀灰色の髪をした少女は、その可憐さに似つかわしくない銃を膝の上に置いている。

 G36c──彼女が持つ銃の名称であり、同時に少女が冠した名前。元々は民生人形だったが、民間軍事会社であるグリフィン&クルーガーに入社し、戦術人形として改造を受けたG36cは、新兵として配属先となる基地に向かっている。

 その基地はS09地区794基地。対鉄血の最前線の基地のひとつだ。

 

 

 

 

 

 ヘリから降りたG36cを、メイド服を着た目つきが鋭い女性が出迎える。その姿を見てG36cは嬉しそうに笑う。

 

「G36お姉さん!お久しぶりです!」

「ようこそ、G36c。会えて嬉しいわ」

 

 お互いに笑いあう二人。

 ──当然だが、人形に血縁関係はない。コアの装着、そして戦闘能力向上の為に銃と人形に特殊な繋がりを持たせるASST(烙印システム)による影響が原因である。

 ASST(烙印システム)を施す際、その銃の製造された目的、製造工程、その歴史がデータとして人形の記憶モジュールにインストールされる。それが人形のメンタルに影響を与え、同型の銃、同じ社系の銃を持つ人形同士で、互いに親しい、もしくは深い関係になる場合が多い。最も、この二人は同型機の人形であるらしく、元から仲睦まじい。

 

「なんだか基地の中が慌ただしいですね」

「実はこれから出撃よ。その準備に追われているの」

「えっ?そうなのですか?」

 

 指揮官の元へ案内されるG36cは、姉の話に驚く。

 

「旧市街地付近で、拠点を作り始めた鉄血のゴミ掃除よ……着きましたわ」

 

 スライドドアが開き、中には大型電子パネルや巨大なコンソールが並ぶ作戦司令室に両者は入室する。

 

「失礼します、ご主人様。G36cを案内しましたわ」

「ありがとう、G36」

 

 司令室に金髪の女性がお礼の言葉を述べる。G36cは、敬礼する。

 

「本日から配属しました、G36cです」

「この基地の指揮官のミラ・A・バルザックよ。よろしく」

 

 ミラも敬礼したあとに、手を差し出す。驚きながら、G36cはおずおずとその手を握った。

 

「さて……毎回、配属された新人に、グリフィンが現在おかれている状況の説明しているの。もしかしたら、既に知っている話かもしれないけれど……」

「いえ、構いませんわ。指揮官、お願いします。」

「ありがとう……鉄血の人形が暴走した事件は知っているわね?」

「はい。胡蝶事件ですね」

 

 「鉄血工造」──戦術人形を主力にした大手軍需企業であり、とある機密情報を保有していた為、人形の性能も極めて高かった。同じ自律人形製造企業であるIOPとシェアを二分していたその企業に、ある事件が起こる。

 当時、研究・開発された上級人工知能「エリザ」が突然、制御不能に陥る。「エリザ」は鉄血のネットワークの全権限を強奪し工廠内を封鎖、戦術人形を起動させ工廠内の従業員を含む全ての人間を殺害し、人類に反旗を翻す。これが「胡蝶事件」である。そして、「エリザ」と支配された鉄血製人形は人類の居住地に侵略を開始し、着実にその支配地域を広げていった。

 そして、それに対抗するのが、民間軍事会社「グリフィン&クルーガー」。IOPと提携し、戦術人形を戦力の中心として組織され、政府や自治体からの依頼を受けて、人類の居住区を防衛・一部の管轄を行うのを主な業務としている。このグリフィンが現在、鉄血に奪われた人類の居住地奪還を目指して、泥沼の闘争を繰り広げている。

 

「任務は非常に危険よ。覚悟してね」

「は、はい。ちゃんと頑張ります」

「ほどほどにね。……さて、これから作戦会議の時間よ。G36c、あなたも参加しなさい」

「はい、了解いたしました」

 

 説明を終えたミラを作戦指令室を残し、G36と共に会議室へ向かう。会議室に入った瞬間、部屋にいた戦術人形たちが一斉にG36cを見る。視線を集めたG36c自身は、その視線に委縮する。

 

「え、ええっと……」

「おっ、新入りか?」

 

 G36cに眼鏡をかけ、ハットをかぶった白髪の女性が近づく。外見は、G36cより大人っぽい。

 

「あ、あなたは?」

「シカゴタイプライターだ。呼びづらければトンプソンでいい」

「じ、G36cです」

「お前がG36の妹か。話を聞いているぜ。お堅い姉貴に似ず、華憐だな」

「は、はぁ……」

「トンプソン、G36cをあまりからかわないでくださいませ」

「はいはい」

 

 睨むG36に意を返さず、トンプソンは不敵に笑う。

 

「出撃する時に、配属されるとはなかなか不運だな。G36c」

「全くだ」

 

 G36cとトンプソンに眼帯をつけた少女と、それに続く三人の少女が近づく。

 

「あなたは……?」

「M16A1だ」

「!――っじゃあ、AR小隊のエリート人形ですか!?」

「おおっ、初々しい反応だ。そうだよ。そしてそれを指揮する私の自慢の妹にして隊長、M4だ」

「よろしく……お願いします、M4です」

 

 M16の紹介に気恥ずかしさを感じつつ、M4は自己紹介する。M4の前に出たG36cは興奮気味だった。

 

「お話は聞いています!高い作戦能力で、大活躍されているとかっ!」

「あ、ありがとう……」

「あんまり前のめりにはならないでくれ、G36c。M4は人見知りなんだ」

「あっ!……ごめんなさい。つい興奮して」

「いえ。でも私だけじゃなくて、みんなのおかげですから」

 

 お互い恥ずかしがりながら、M4とG36cは笑う。この両名、控えめかつ自己評価が低い。どことなく互いにそれを察し、シンパシーのようなものを感じていた。

 M16の後ろから、白く染めた髪色の少女が、G36cの顔を覗き込む。

 

「M4ばっかりずるい~。私も自己紹介したいっ!――M4、SOPMOD-Ⅱだよ!SOPⅡって呼んでね!」

「はい、よろしくお願いします、SOPⅡさん」

 

 自己紹介をしたSOPⅡはまじまじとG36cを見つめる。気のせいか、その視線は胸部に集中しているような。その視線にG36cは怪訝になった。

 

「あの……SOPⅡさん――」

「G36cはG36と違っておっぱいおっきいねっ!」

「えっ!?」

「あっ……?」

 

 突然のセクハラ発言にG36cは固まる。その発言に場は凍り、横にいたG36のいつもの仏頂面はより険しく、剣呑な雰囲気を纏う。

 ――SOPⅡの背中に、何者かが回り込んだ。

 

「!?いたたたたた――!?」

「SOPⅡ……人形同士でも、セクハラ、パワハラの言動はコンプライアンス違反だわ」

 

 SOPⅡの後頭部に、AR-15はアイアンクローをきめる。その声はどこかおどろおどろしい。ぎりぎりと、SOPⅡの頭から嫌な音が鳴った。

 

「痛い痛い!なんでAR-15が怒るの!?」

「仲間の風紀の乱れを正すのは同じ仲間の務めよ……」

「意味わかんない!?」

 

 作戦前なのに、騒がしくなった会議室の空気についていけず、M4とG36cは右往左往する。トンプソンとM16、他の人形は大笑いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 ──数分後

 定刻になった為、電脳空間(セカンダリレベル)の中で作戦会議が始まる。ミラとカリーナはそれぞれ、電脳内専用の犬と猫のアバターとなって現れる。

 

「それじゃあ会議をはじ──ってどうしたの、あなたたち?作戦前なのに、既に疲れてない?」

 

 犬のミラは人形たちの様子がおかしいことに気付く。質問された人形たちは笑ってごまかした。SOPⅡは頭をさすりながら、AR-15をにらみ、M16とトンプソンはニヤニヤしっぱなしだった。

 

「……まあ、いい。先日、旧市街地エリアで鉄血の哨戒部隊が発見された」

 

 マップを展開しながら、ミラは説明に入る。

 

「衛星のスキャンの結果、鉄血は臨時の拠点と、複数の通信ステーションを作っている。奴らの排除が今回の我々の任務だ」

「川を挟んだビル群……狙撃兵が待ち伏せてるな」

「その可能性は高い。衛星のスキャンでは、拠点周辺を哨戒する部隊は確認できたが、建物内部の鉄血兵の存在は確認できなかった。だが川を渡る鉄橋を防衛していることは容易に推測できる」

「ならどうする?鉄橋を渡ろうとすれば蜂の巣だ」

 

 トンプソンは疑問を唱える。

 

「それについて作戦を伝える。カリーナ」

「はい、こちらを」

 

 カリーナが参加人員のリストを出す。

 

「まず第二、第三部隊がそれぞれ北と南に分かれ、川沿いに移動しつつ鉄血の配置状況の確認。その後、両部隊は南北の鉄橋近くのビルと家屋で待機。そしてWA2000とスプリングフィールドは発見した鉄血兵に狙撃戦を仕掛けてほしい」

「なに?私達だけでやり合えっての?」

 

 WA2000は声を上げる。

 

「小競り合いをすればいいわ。何体か倒して、連中の注意を引きつけること。鉄橋は渡らず、持ち場を守ることに専念すればいいわ」

「……陽動か」

 

 M16の言葉に、ミラは頷く。

 

「実は川から下水道につながる、大きな下水口があるの──本命はARとSMGの小隊である第一部隊とAR小隊がその下水口から下水道を通って、市街地に侵入、南北二つの鉄橋付近の通信ステーションを破壊する。これで鉄橋から進入できるし、敵拠点も攻めやすくなるでしょう」

「下水道かー。臭いのは嫌ですけど、指揮官様の為なら頑張りますよ!」

「ありがとう、M1911。……狙撃や下水道への侵入のタイミングなどの細かな指示は作戦中に行う。何か質問は?」

「いいか、ボス?」

 

 トンプソンが手を挙げる。

 

「前の任務で負傷した、第一部隊(うち)の隊員のMDRが修復中だ。だから部隊は私含めて、G36とM1911の三人しかいない。流石にこの人数は厳しい」

「そうね。誰か代わり人員は……」

 

 ミラが思案しながら、G36cと目が合う。同じくトンプソンも彼女を見た。ここまで必死に会議の聞いていたG36cだけがきょとんとした顔をする。

 

「あ、あのっ?」

 

 戸惑うG36cの肩に、トンプソンが手を置く。その顔には不敵な笑みが浮かぶ。

 

「なかなか楽しい実地研修になりそうだぞ――幸運だな、G36c」

「えっ……」

 

 G36cは状況を飲み込めていなかった。




・登場する人形について
作者の好み。トンプソンは絶対にねじ込みたかった。


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