1-1 目覚めた男
「ブランドン」
小さいころから共にいて、ずっと一緒にいると疑わなかった親友。
「ブランドン」
幸せになってほしいと願った、愛した女。
「ブランドン」
自分に生き方を示してくれた、父の様に慕った男。
「グレイヴ」
愛した女と尊敬する男の間に生まれた、共に戦った少女。
守る。
例え、人の道を踏み外しても、人の身を捨ててでも、守ると。
だけど_____
「ママは殺されたの・・ハリーに」
「ビッグダディが殺されてなきゃ__」
「やれよブランドン、今度はお前の番だ、さあ」
俺は、間違ったのか・・・。
ゆっくりと瞼を開く。最初の目に映ったのは真っ白いきれいな天井だった。しばらくしてぼやけていた視界と意識が少しずつ明瞭になっているのを感じつつ、上体を上げる。起きて、鈍い重さを感じる頭に手を当てて、自分の格好を確認する。上半身は何も着ておらず、ズボンを履いているだけだ。
そうして男は自分の記憶を辿る。
(・・俺は・・チェンバー(血液交換用椅子)に座って・・!!)
そこまで思い立って周囲を見渡す。床、壁、天井が全て白で統一され、壁の一部に大きな鏡が張られてる部屋。自分が最後に眠ったコンテナとは違う場所。
男は警戒して目を細める。直後。
『あっ、起きた?』
どこかくたびれた印象を受ける女の声が部屋に響いた。天井にはスピーカーが取り付けてあり、そこから声が聞こえる。
『ごめんごめん、いきなりこんな所にいてびっくりしたでしょう?』
男はもう一度周囲を見渡す。カメラなどは見当たらない。
『覚えてる?あなたがコンテナで目覚めたこと』
その言葉に男の動きが止まる。そして男はスピーカーに目を向けた。女は話を続ける。
『AR小隊がコンテナであなたを見つけて、その後、鉄血の人形兵との戦闘の最中にあなたが起きて、鉄血兵たちを倒したって聞いたけど』
「・・・・・」
男は自身の記憶を思い出そうと頭を回す。が、記憶が朧気ではっきりしていない。男は首を振る。
『まあ、しょうがないか。あなた、起きたばかりだしね、誰だって寝起きは悪いものか」
「・・・・・」
男は今まで聞いた女の言葉から出てきたいくつかの単語を思い返す。
AR小隊、鉄血、人形兵。どれも聞き慣れない単語でそれがなんなのかわからなかった。
「・・・・・」
「ねえ、聞いてる?一言くらい返してほしいな」
「・・・・・」
男は喋らない。ここがどこで、今喋っている女が自分をここへ連れてきた目的がわからない以上、うかつに情報を与えたくはないからだ。
沈黙が続く。
「・・・はあ、話さないならこちらから質問していくわよ」
沈黙に耐えきれなくなったのか、痺れを切らせて女が喋りだした。
「あなたの名前はビヨンド・ザ・グレイヴ、で合ってるわね?」
男___グレイヴは壁の鏡を睨む。自分の名前をどこで知ったのか。
「あなたがいたコンテナのコンピュータからデータをとっていてね、そこにあなたの事が書いてあったのよ」
グレイヴの警戒心が更に高まる。
『あなたがネクロライズで蘇った死人兵士だって』
「ネクロライズ」の言葉を聞いた瞬間、グレイヴは凝視していた壁の鏡へ突進し、壁を思い切りぶん殴った。
爆弾の爆発を彷彿とさせるほどの衝撃と轟音が部屋中に響く。グレイヴのただのパンチで壁に人1人が通るには充分な大穴ができた。
グレイヴは粉塵が舞う中で穴を通って前を見る。
約5m先にある壁際に、声の主だろう白衣を着た女と、女を守るように前に立つ4人の少女達を確認する。
女はあっけに取られた顔で驚いている。
(嘘・・戦術人形が仮に全力でぶつかっても耐えられる防護壁よ、それを素手1発で壊した・・)
驚く女をグレイヴは睨む。グレイヴが寝ていた部屋にはカメラがなかった。だが、グレイヴの様子をわかっていて会話していた。外目ではわからない小型のカメラが設置されていたか、もしくは直接観れる場所にいたか。そして、壁の向こうに人がいる気配を感じたグレイヴは正解が後者であることを察した。
ちなみに、白衣の女はグレイヴに鏡越しに睨まれた際、(あれ、もしかして私がいるのばれてる?)と思い、安全の為に離れたのが功を奏した。
グレイヴが白衣の女に近づこうと歩き出す。
「動かないでください!」
すると、白衣の女の護衛であろう少女達の一人が制止の警告を行うと同時に各々装備していたアサルトライフルを構え、グレイヴを取り囲む。
取り囲まれたグレイヴに焦りはない。少女達が装備しているアサルトライフルを確認して、死人兵士である自分を殺しきれるものではないと判断した為だ。
グレイヴは考える。自分を連れてきた目的が、自身に施されたネクロライズを研究し、利用する為だとしたら絶対に阻止する。そして何よりも最大の懸念__家族(ファミリー)の無事を確認しなければならない。
グレイヴは初めて口を開いた。
「ミカは何処だ?」
白衣の女は一瞬驚いた顔を見せる。
「ミカ?・・それってあなたの知り合い?」
グレイヴはとぼけていると判断し、より眼光を鋭くして白衣の女に近づく。
その時、少女の1人がグレイヴの正面に立つ。
「お願いです、動かないでください・・」
グレイヴは前に立つ少女を観察する。軍用のM4A1を構えた黒い長髪に緑色のメッシュが入っている少女。恐れを抱き瞳を揺らしながらも、必死に白衣の女を守ろうとしている。
少女を見たグレイヴの脳裏に映像がフラッシュバックした。
自身が誰かの叫び声を聞いた気がして立ち上がろうとするところ。
何かの集団と闘っているところ。
そして、最後に間近で見た少女の顔。
その顔が目の前の少女と重なり、グレイヴはコンテナで目覚めたことを思い出した。
改めてグレイヴは目の前に立つ少女を見た。
まだ警戒心はあるが、今ここで争う気はなくなっていた。グレイヴは目でそれを訴える。
少女もまたグレイヴの残された右目を見て、それを感じ取ったのだろう、グレイヴを取り囲む少女達にサインを出し、グレイヴに向けていた銃口を下げた。
それを見ていた白衣の女は安堵のため息をついた。そして、グレイヴに提案をする。
「私の研究室で改めて話しをしましょう、ついてきて」
グレイヴは警戒しながらも、頷いた。
白衣の女と護衛の少女達に連れられて、研究室へとたどり着いた。
グレイヴにとって、今まで見たこともない機材やコンピュータ、資料が散乱した机、そして一際目を引く手術台を思わせる台とその上に吊り下がったロボットアームを見る。
ちなみに、今グレイヴは女が渡してくれた自身のシャツとジャケットを着ている。
白衣の女は冷蔵庫からコーヒーを出して、椅子に座った。グレイヴも対面する形で椅子に座る。
改めて、グレイヴは白衣の女を観察した。
くすんだ色のボサボサの長髪に獣の耳のようなものがついていて、瞳は赤色で、目の下には隈があった。白衣とその下に着てるシャツはヨレヨレで、その下はタイトスカートで生足を惜しげもなく出しており、裸足である。
だらしない印象をグレイヴは彼女に持った。
「今、失礼なこと考えてなかった?」
「・・・・・」
「・・・まあ、いいわ。コーヒー飲む?」
グレイヴは首を横に振る。死んだ自分に食事は必要ないからだ。
コーヒーを飲みながら、白衣の女は話をした。
「私はペルシカ、この16LABの主席研究員をやっているの、でこの子達は・・・」
それを聞いた少女達は前に出て各々自己紹介をする。
「M4A1です」
「M16だ」
「コルトAR-15よ」
「M4 SOPMOD-Ⅱ! SOPⅡって呼んでね!」
グレイヴは怪訝な顔をした。少女達が名乗った名前が、それぞれ装備しているアサルトライフルの銃の名称だったからだ。何かの暗号名かと勘繰る。
その様子を見たペルシカは喋り出す。
「そうか、そっちから教えないといけないか」
ペルシカは一人頷きながら、グレイヴに説明する。
「信じられないかもしれないけど、彼女達は戦術人形っていってね、生体素材と機械素材を融合して作られたロボットみたいなものなの」
グレイヴは改めて少女達を見る。人間にしか見えない彼女達だが、よく見ると機械の義手や頭に金属の角のようなものが生えている。
驚くグレイヴ。しかし、その驚きはペルシカの次の言葉で塗りつぶされた。
「単刀直入に言うわ、今は2062年であなたは50年近く眠っていたの」
補足
グレイヴはゲームとアニメで設定や過去、ストーリーが微妙に違います。なので、この話を書く際のグレイヴはゲームメインの設定にアニメの過去などを自分の匙加減で混ぜてる状態です。読んでて不快だったら申し訳ない。
ドルフロのキャラ達もそうですが、グレイヴのキャラが極力ぶれないように気を付けていきたいです。