GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

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前の話で、書き忘れてたこととかがあったので、加筆と修正を行いました。
あと、タイトルも変えました。適当に書いてしまったと反省してます。


1-3 変わった世界、変わらぬ男

そして現在ーー

 

「単刀直入に言うわ、今は2062年であなたは50年近く眠っていたの」

 

 グレイヴは、ペルシカの言葉を上手く呑み込む事ができなかった。それ程までに衝撃的だった。

 茫然とした面持ちで、ペルシカを見つめるグレイヴ。そして、椅子に座ったまま、うなだれてしまった。

 ペルシカは内心、対応を間違えたと後悔した。

 

(もう少しゆっくりと教えていくべきだったわ)

 

 グレイヴが死人兵士になって活動していた時期は、データによれば200X年。あまりにも時間が絶望的なまでにずれている。そして、グレイヴが眠っていた間に起きた世界規模の事件によって、世界が大きく変わり果ててしまった。

 ペルシカはグレイヴに、“ネクロライズ”の事や、グレイヴについて色々と聞きたい事があったが、今この重苦しくなってしまった空気の中では、そんな気持ちになれなかった。

 

「混乱させてしまってごめんなさい、ゆっくりと教えていくべきだったわ」

 

 ペルシカの謝罪の言葉を聞いて、グレイヴは、ペルシカにゆっくりと視線を移す。グレイヴの右目は、まだ驚きと衝撃が抜けきっていないのか、瞳は大きく揺らいでいる。

 

「あなたから、色々話を聞くつもりだったけど、今は落ち着く時間が必要ね」

「……」

 

 ペルシカはそう言ってコーヒーを飲む。それを無言で見つめるグレイヴ。

 

「部屋を用意しているわ。今日はもう休んで。落ち着いたら、話をしましょう」

「……」

 

 ペルシカの提案にグレイヴは頷いた。グレイヴは、ペルシカが科学者である為に、“ネクロライズ”を研究したいのではないか、という危機感から、彼女を警戒するべきなのだが、今は心の平静を失い、余裕がなくなっていた。

 

「みんな、グレイヴを部屋へ案内してあげて」

「は、はい。グレイヴ……さん、こちらへどうぞ」

 

 代表でM4が返事をした。グレイヴは立ち上がり、M4へついていく。

 

「それじゃあグレイヴ、おやすみ」

 

 グレイヴはペルシカを一瞥し、AR小隊と共に、研究室を後にした。

 

 

 

 

 

 グレイヴは、AR小隊につれられ、部屋へと案内されていた。M4を先頭に、その後ろにグレイヴ、グレイヴの左右、後ろを囲むように、AR-15、SOPⅡ、M16が付き添って歩く。会話はなく、沈黙が場を支配する。

 前を歩くM4は、ちらりと、後ろのグレイヴを見る。

 グレイヴが起きる前に、ペルシカが話した彼の正体。それを聞いた時は、到底信じられなかったが、初めて遭遇した時に起こった出来事、そしてペルシカとの会話の最中に、密かにスキャンし、M4の網膜に表示されたグレイヴの状態判定が、それが真実であることを示していた。

 “DEAD(死亡)”。人として動き、喋り、脈拍と呼吸がありながら、同時に体温のない冷たい身体を持ったこの男を、M4に備わる戦術人形の機能は、グレイヴを死人と断じている。

 それだけでなく、グレイヴを見たM4は、彼には何かが欠けていると感じた。

 人形が、感じるという、直感めいたものでの判断は、おかしなことかもしれないが、グレイヴはM4やM16に比べて、大柄な体格をしていながら、その身体からはペルシカや、16LABで働くグレイヴよりひ弱そうな研究員よりも、体の精気、言い換えれば、生物が持つ生きている気配のようなものが、ないと思ったのだ。

 死体から造られた死人兵士という、戦術人形と同じ、戦う為の存在。200X年の過去に存在した、そんなグレイヴが、時を越えて、2062年の現代に目覚めさせてしまった。

 成り行きとはいえ、彼を目覚めさせた原因の一つが、AR小隊が発見した為とM4は考えており、ペルシカとの会話で彼が、ショックを受けていた様子を見て、更に罪悪感をM4は持ってしまった。

 AR小隊を窮地から助けてくれた恩人であるグレイヴへの興味と感謝、目覚めさせたことに対する罪悪感がないまぜになりながら、M4は何度もグレイヴを見る。

 そんなM4の視線に、気づいたグレイヴは足を止めて、M4の顔を見た。周りにいたAR-15、SOPⅡ、M16は、突然のグレイヴの停止に、不思議そうな顔をする。

 グレイヴとM4の、目と目が合う。

 グレイヴは、M4の視線に、自分に何か用があるのか、という疑問を視線に乗せて送る。対するM4は、突然、グレイヴと目が合ってしまい、内心慌て出した。

 M4は、グレイヴを見ていたことが彼に気づかれ、どう対応していいのかわからない。M16や、SOPⅡなら、上手く喋れるかもしれないが、M4自身、自分は臆病で、他者とのコミュニケーションが苦手なのを、自覚している。

 なにを喋ったらいいかわからず、頭の中で右往左往するM4。グレイヴはそんなM4の内心を知らずに、訝しむ。

 ほんの数舜の沈黙の後、M4は一言ひねり出した。

 

「だ……大丈夫ですか?」

 

 ぽかんとした顔をするグレイヴ。AR-15達も、同じような顔でM4を見る。

 

(失敗した……)

 

 なんの脈絡もなく出た言葉に、M4は顔を真っ赤にして、顔を地面に向けた。恥ずかしさでグレイヴやAR-15達の顔を見られない。

 気まずい沈黙が流れる。そんな中で、M4は、うつむく自分の頭の上に、不意に大きな何かが乗った感触が感じた。

 最初それがなんなのかわからず、視線をわずかに上に向ける。見ると、グレイヴが、M4の頭の上に、手を乗せていた。要するに、頭を撫でていた。

 頭を撫でられてるとわかったM4は、先程とは違う恥ずかしさに襲われた。ペルシカから、任務が終わった後や、訓練後などで、褒められ、撫でられたことはあったが、ペルシカ以外、しかも男性にこんな風に撫でられているのは、初めてだったからだ。しかし、不思議と嫌ではないので、振り払うという気持ちにならなかった。

 グレイヴも、唐突なM4の言葉だったが、自分を気遣っているのを感じ、彼なりにM4の優しさに対する、感謝と慰めの意味を込めての、スキンシップだった。

 まだ幼さがあったミカを撫でたことを、思い出しながらM4を撫でるグレイヴ。顔を真っ赤にしながら、撫でられるM4。

 しかし、それは唐突に終わることになる。

 

「いつまで気安くM4に触ってんだ!」

 

 シスコンの気があるM16が、遂に痺れを切らして、グレイヴの左足に、右足によるローキックを入れて、ツッコんだ。

 蹴られたグレイヴは、痛みに悶え……ることなく、驚きながらも平然とし、逆にM16の方が、蹴った右足を押さえて、その場にしゃがみこんだ。

 

「いっ~~~!?」

「M16姉さん!?」

 

 いきなりのM16の奇行に一瞬呆けていたが、我に返ったM4が、M16に近づく。

 

「いてて……あんたの体……かったぁ!?何で出来てんの!?」

 

 流石に、全力では蹴らなかったM16だったが、グレイヴの予想以上の身体の硬さに、驚いていた。

 

「なに考えてんの!?いきなり蹴るなんて!?馬鹿じゃないの!?」

 

 AR-15は、M16の行動を怒りと呆れを持って、けなした。

 

「だって……M4に……」

「そうだよ!M4だけずるい!私も撫でられたい!」

「え!?そっち!?」

 

SOPⅡのズレた発言に面食らうAR-15。そんなAR-15を気にも留めず、グレイヴの近くに寄るSOPⅡ。

 

「ねえ!私もなでなでしてよ!」

 

 グレイヴにねだるSOPⅡ。M4はSOPⅡを注意しようとする。

 

「SOPⅡ、あまり、グレイヴ・・さんにわがままを言うのはーー」

「なんで!?M4だって、気持ち良さそうにしてたじゃん!ずるいよ!」

「私は・・その・・」

 

 SOPⅡの言葉に、恥ずかしがるM4。

 グレイヴは戸惑いながら、SOPⅡの頭を手の平で撫でた。

 

「えへへ~」

 

 上機嫌になるSOPⅡ。

 

「もう、子供じゃないんだから」

「ええ~。AR-15も、撫でてもらえばいいじゃん」

「私!?私はいいわよ……っていいです、結構です」

 

 AR-15は、SOPⅡの提案と、グレイヴが頭の上に伸ばそうとする手を、同時に一蹴した。

 先程の沈黙はどこかにいってしまい、賑やかになった場の中で、グレイヴは、この世界で初めて微笑った。

 

 

 

「先程は、お騒がせして、ごめんなさい」

 

 ようやく部屋へ案内したM4は代表して、グレイヴに謝罪した。

 

「改めて、この前の戦闘では、助けていただき、ありがとうございました」

 

 M4をはじめ、AR小隊全員で感謝の礼をした。

 グレイヴは、わずかに笑って、気にするな、と首を軽く振った。

 

「それでは、おやすみなさい」

「グレイヴ~、またなでなでしてね~!」

 

 AR小隊は、グレイヴを後にし、グレイヴもそれを見送った。

 

 

 

 

 

 グレイヴはスライドドアを閉め、部屋を見渡す。備え付けのベッドとテーブル、そしてソファがテーブルを挟んで、向かい合うように2つあった。壁には、テレビの画面が設置されている。

 グレイヴはソファに座り、考え込む。今、自分が置かれている状況に、ついていけてない自覚があり、頭の中を整理する。

 グレイヴはかつて、死人兵士として復活し、シードを根絶する為に闘った。そして、最後は、あのコンテナの中で、ミカに見守られながら、眠りについた。

 ミカ。グレイヴにとって、大切な家族(ファミリー)。守られる存在から、いつしかグレイヴと共に闘う存在となった強い少女。文字通り、命を懸けて、自らを支えてくれた少女。

 そのミカに見送られ、眠り、偶然にもこの2062年の世界に目覚めた。

 まだ、この世界がどうなっているのか、全容はわからない。しかし、先程、一緒にいた少女達ーー戦術人形を思い出す。

 外見は、どう見ても普通の少女だ。機械の義手や頭の角のようなものがなければ、判別なんて出来ない。

 シードやネクロライズの技術を除けば、とてもじゃないが、グレイヴがいた世界以上に、発達した技術を持った世界に、今、グレイヴはいる。

 死人兵士に、人の身を捨てると決めた時に、覚悟したつもりだった。どんな場所、どんな状況にいても、揺るがないつもりだった。

 だが、いざ出くわすと、思っている以上にショックを受けた自分がいる。とんでもない場所にきてしまったと、グレイヴは思った。

 グレイヴは思考の海に沈んでいく。そんな思考は、来客を告げるブザーの音で終わった。

 グレイヴは立ち上がり、壁に備え付けられたパネルを見る。スライドドアのカメラに映し出されたのは、眼帯をした少女ーーM16が映っていた。

 疑問符を浮かびながら、パネルでドアを開ける。

 

「いや~、急に来て悪いね~」

 

 M16は軽く挨拶しながら、グレイヴの横切り、ソファにどさっと、座った。横切った瞬間、グレイヴはM16から、酒の匂いを嗅いだ。

 グレイヴは、M16と向かい合うように、ソファに座る。そして、若干、非難を込めた瞳で、彼女を見る。M16の手には、酒の瓶が握られていた。

 その視線に気付いたM16は、

 

「なんだよ。悪いけど、人形には未成年とかそういうのがないから問題ないよ。それに、これは私の趣味だ。これがないと生きていけない」

 

 そう言いながら、ぐいっと酒を飲んだ。どうやらここに来る前から、酔っ払っていたらしい。言動もさっき一緒にいた時より、緩い気がするとグレイヴは思った。

瓶を口から離し、M16はグレイヴを見据える。

 

「さっきは蹴ってすまなかったね。それと、改めてだけど、助けてくれたお礼もしときたかったからね」

 

 そう言って、グレイヴに酒の瓶を差し出す。飲めということのようだ。

 断るのも申し訳ないと思ったグレイヴは、瓶を受け取り、酒を口に含み、飲む。アルコールで舌と喉が焼けるような独特の感触、味を感じなかった。

 

「もしかして、味がわからない?」

 

 グレイヴの表情から察したのだろう、M16は質問した。グレイヴは頷く。

 

「酒の味がわからないなんて。あんた、難儀な体してるんだな」

 

 グレイヴから、酒の瓶を返してもらい、また飲み始める。

 

「ペルシカさんから聞いたよ、あんたが200X年にいた死人兵士っていうやつだって。話聞いても、信じられなかったけどな」

「……」

「そんなあんたが、いきなりこの時代に目覚めさせちまったんだ。発見した私達は、あんたに謝らないといけないのかもね」

 

 グレイヴは首を振る。あくまで目覚めたのは、自分の意志によるものだと思っているからだ。

 

「優しいんだな、グレイヴは」

 

 そう言って、グレイヴを見て笑うM16。

 

「なあ、ここで目覚めてわからないことだらけだろう。もし良かったら、私が色々教えてあげようか?」

 

 M16は提案した。グレイヴとしても、今の世界の状況は知りたいと、思っていたことのひとつだ。

 グレイヴは頷いた。

 

「わかった、じゃああんたが眠った後で起こった世界規模の事件を教えよう。そうだなーー」

 

 

 

 

 

「ーーとまあ、鉄血のAIと鉄血製の人形が暴走して、私達、戦術人形がそいつらの相手をしてるってわけよ」

 

 話に一区切りつけたM16は、酒を飲んだ。対して、グレイヴは、険しい顔をしていた。

 北蘭島事件、第三次世界大戦、そして胡蝶事件。あまりにも、衝撃的な内容に、話を聞く前より、混乱を深めてしまった気がすると、グレイヴは思った。

 特に、北蘭島事件ーー世界各地に存在する人類とは違う、未知の生命の遺跡。人智を超えた文明と技術を持った者の、遺跡にあったコーラップス液(崩壊液)が流出し、地球に甚大な環境汚染を引き起こしたその事件は、グレイヴの心に暗い影を落とした。

 かつて、増殖し、己以外の生命を乗っ取ることが目的だったシードの蔓延を阻止する為に、闘ったグレイヴ。しかし、シード以外にも、未知の脅威があり、それが地球を、人類を荒廃させた。

 なんともやるせない気持ちになったグレイヴ。M16は、そんなグレイヴの心情を察する。

 

「やっぱり、ショックだよな。未来がこんな世界になっちまったなんて」

「……」

「あんたは、荒廃する前の世界を知ってるんだろ?どんなだった?」

 

 そう聞かれたグレイヴは、かつてミレニオンに所属していた時の、日常ーー尊敬するビッグダディの下で、殺し屋をし、親友と共に上を目指していた時のことーーを思い出す。

 

「普通さ。親友と一緒に、仕事をして、酒を飲んでた」

「そっか~。今と違って、酒も豊富にあったんだろうな。羨ましいね」

 

 酒の瓶ーージャックダニエルをチラつかせるM16。

 ふと、グレイヴは、ジャックダニエルと同じ酒類の、親友が好きだった銘柄を思い出した。

 

「ティアンサティ……」

「ん?なに?」

「ティアンサティっていうバーボンがある。知ってるか?」

「いや、聞いたことがないな」

「……そうか」

 

 グレイヴがいた世界から、50年以上経ってるこの世界なら、なくなってても不思議ではない。

 

「美味かったのか?その酒」

「……ああ……とても」

 

 しかし、自分が良く知る酒がないと知った時は、寂しさと共に、M16の話を聞いた以上に、違う世界にいると、グレイヴは強く実感した。




補足
・ティアンサティ
アニメ「Gungrave」に出てきた架空の銘柄のバーボン。ハリーの好物。

・M4が感じたグレイヴの気配云々
自分の捏造です。ゲームのO.D.で、屍十二がグレイヴと交戦した時に、「一切の気配のないこの体」とか言ってたのでそこから引用しました。
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