GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

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すいません、何度も書き直しをやったり、家族の引っ越しの手伝いやら、オリュンポスの空想樹の伐採やらで投稿が遅くなりました。


1-4 未定の朝

 グレイヴが目覚めてから翌日、グレイヴはペルシカの研究室にいた。

 

「あなたの体内に残ってた血液を採取して、同じ成分に調整した人工血液をあなたに輸血しているわ」

「……」

 

 ペルシカは、グレイヴに施した処置について説明する。グレイヴは、人工血液という便利なものがあることに感心する。

 

「コンテナから回収した制御システムのデータだけど、何分プログラムが古くて。再現ができていないの」

「……」

「あと、コンテナも再度調査したけど、先の戦闘で、設備が損傷。使い物にならなくなったわ」

 

 死人兵士のグレイヴは稼働状態になってから、死人兵士の制御システムが破壊されてしまった為、休眠状態に移行することができなくなってしまった。例えるならば、今のグレイヴは、冬季に誤って、冬眠から覚めてしまった熊である。

 

「戦闘で外がうるさかった、っていうのもあるかもしれないけど、制御システムからの命令なしで、自力で起動するって、普通は不可能なんだけどね~」

「……」

 

 ペルシカの意地悪そうな笑みを浮かべながらの指摘に、グレイヴの顔が歪む。

 緊急時とはいえ、グレイヴが起動できたのは、グレイヴ自身の意志で、システムに逆らって、起動したことに他ならない。

 

“どんだけ強いメンタルしてるのよ、彼”

 

 ペルシカは内心、呆れと感心を抱いた。

 そんなペルシカの思いをよそに、グレイヴは懸念していた事を口にした。

 

「……俺をどうするつもりだ?」

 

 なんらかの研究や実験を受けるものとばかり考えていたが、今のところ、そういった行動を見せないペルシカの真意を、グレイヴは量れずにいた。

 

「う~ん……それなんだけど」

 

 若干、言い淀みながら、探り探りで言葉を選ぶペルシカ。

 

「実はあなたが眠っている間に、皮膚の表面を採取したんだっ……待って、座って、最後まで話を聞いて」

 

 グレイヴが無言で立ち上がった為、慌ててペルシカは弁解する。ここで、グレイヴに暴れられたら、とてもじゃないが命がない。

 

「皮膚を採取した瞬間、すぐ塵になってしまったの。何回か試したけれど、駄目だったわ」

「……」

「解剖するのも視野に入れたけど、M4達にあなたを助けるって言った手前、やるのをためらって……」

「……」

 

 もしM4達がいなければ、解剖するつもりだったのではないかと、威圧する様にグレイヴは睨んだ。その視線を居心地悪そうに、ペルシカは受ける。

 視線に耐え切れなくなったペルシカ。

 

「……ああ!そういえば、あなたが話してたミカっていう人のことだけど──」

 

 強引な話題転換だが、効果はあったらしい。剣呑な視線が消え、グレイヴは反応した。

 

「ごめんなさい。コンテナのデータを調べたけど、ミカさんの所在はわからなかったわ」

「そうか……」

 

 グレイヴの表情が翳る。

 

「代わりにって訳ではないけど、コンテナに写真があったわ。この人でしょ?ミカさんって」

 

 そう言ってペルシカはグレイヴに写真を渡す。そこに写し出されていたのは、グレイヴと、灰色のショートカットの少女のツーショットだった。

 渡された写真を見て、グレイヴの顔がほころぶ。

 

「この人……大切な人?」

「ああ──俺の家族(ファミリー)だ……」

「そう……」

 

 静かに、なお強い想いが込められたグレイヴの返答に、ペルシカはこれ以上野暮だと思い、余計な詮索を止めた。

 写真をじっと見つめるグレイヴに、ペルシカは尋ねた。

 

「ねえ、あなたはこれからどうしたいの?」

 

 写真から顔を上げたグレイヴは、ペルシカを見る。

 

「あなたがもう一度、休眠状態に戻りたいなら協力するわ。元々、私が派遣したM4達があなたを見つけたおかげで、目覚めたようなものだし──」

「……」

「けど、制御システムの完成には、正直、どれくらいの時間がかかるかわからない。だったら、起きてる間に、何かやりたいこととかあったら、それをするのも悪くないんじゃない?」

「俺は……」

 

 グレイヴは考える。ミカの行方が気になるが、定期的な血液交換が必要な死人兵士の体では、長期の捜索はできないし、これ以上、ペルシカに世話をかける訳にはいかない。

 それに昨日のM16との会話の中で、シードに関する話は出てこなかった。すなわち、この世界には存在していないことになる。殺すしか能のない自分に、闘う理由も目的もない。答えに窮するグレイヴ。

 

「──ゆっくり考えていけばいいわ」

 

 ペルシカは察して、そう声を掛けた。そして、立ち上がる。

 

「ねえ、ちょっとお願いがあるんだけど」

 

 ペルシカは笑みを浮かべながら、あるお願いをした。

 

 

 

 

 

 グレイヴはペルシカに連れられて来たのは、戦術人形の為の、射撃訓練場だった。

 部屋に入ると、そこでは、AR小隊の4人の少女達が自らのアサルトライフルで、設置されたマンターゲットに射撃を行い、訓練している最中だった。

 その射撃の様子を見てグレイヴは、表情の険しさをより深めてしまった。

 彼女達が戦術人形と呼ばれる、軍事目的の為に造られた存在であるとはいえ、年端もいかない少女が銃を握る光景は、どうしても、嫌悪感を抱いてしまう。

 そんな気持ちを抱きながら、彼女達の射撃を眺めた。

 戦術人形に備わる機能故か、訓練の賜物なのか、もしくは両方か。グレイヴには判別できないが、彼女達の射撃は、熟練した兵士のような精確さ、機械の流れ作業を彷彿とさせるほどだった。

 

“──ん?”

 

 グレイヴは、彼女達の腕前に感嘆としている中、ある方に視線を移した。

 グレイヴの視線の先には、リロードを行い、射撃を再開するM4がいた。

 M4の構えを見て、グレイヴは眉を顰めた。フォアグリップを握る右手に、力が入りすぎている。腰も些か高い位置にあり、膝の曲がりも不十分だ。それに加え、M4の横顔には、何か、追い詰められているような焦りの表情を見て取れる。射撃に集中しきれていないと、グレイヴは感じていた。

 そんな状態で、M4はマンターゲットに向かって、射撃する。

 

“駄目だ……”

 

 M4の不完全な構えからの射撃。グレイヴはよくない結果を、容易に連想しながら、M4が狙ったマンターゲットを見る。

 幾発かの弾丸は、マンターゲットの胸部の的内に当たるが、的外へ大きく外れるものもあり、安定して中っていない。散々な結果に、M4は溜息をついた。

 M4の不調を、グレイヴは感じ取る。難しい顔をしながらグレイヴはM4を見ていると、不意に声を掛けられた。

 

「あっ!グレイヴ!おはよう!」

 

SOPⅡが、後ろにいたグレイヴに気づき、挨拶した。その声に反応し、他のAR小隊のメンバーも、グレイヴの方を振り向く。

 

「おおっ!グレイヴ、おはよう」

「おはようございます」

「あ……おはようございます、グレイヴさん」

 

 M16、AR-15、M4がそれぞれ挨拶する。M4は先程の自身の射撃の不甲斐ない結果が、尾を引いている為か、声色が少し暗い。

 

「グレイヴはなんでここへ?」

「私が連れてきたのよ」

 

 SOPⅡの疑問を、代わりにペルシカが答える。

 

「ほら、グレイヴの使っていた銃があったでしょう。それの試射をお願いしたのよ」

「でも、グレイヴが寝てる間に、散々撃ちまくりましたよね。必要なんですか?」

「……」

「あはは……」

 

 グレイヴは自身の銃が勝手に使われていた事実を知り、ジト目でペルシカを睨んだ。そんなグレイヴの視線を受けて、ペルシカは笑って誤魔化す。グレイヴは溜息を吐いた。

 M16は試射のことを思い返しながら、グレイヴに話す。

 

「撃ったといっても、ほとんどが銃座で固定しての試射だったから」

 

 M16が喋りながら、壁際に視線を移す。グレイヴもまた、M16の視線を追った。

 壁際には、大きな作業台があり、その上にグレイヴが使用する2丁のハンドガン──ケルベロスと、重火器搭載棺桶──デス・ホーラーが一緒に置かれていた。

 グレイヴは、その作業台に近づくと、ケルベロスに両腕を伸ばす。右手には、赤い十字架をつけたライトヘッドのグリップを、左手には、白い十字架をつけたレフトヘッドのグリップを、それぞれ握り、構える。

 その様子を見ながら、M16は話しかける。

 

「私達じゃあ、持ち上げるのが精一杯の大きさだったからな——構えて撃つなんて、とてもじゃないけど、無理だったわ」

 

 戦術人形は、人間よりも、身体能力は高く造られており、中でもM4を始めとしたAR小隊は、エリート人形に部類される程、より高性能だ。しかし、そのM4達ですら、ケルベロスは使用が困難であった。

 要因としては、ケルベロスが既存の銃よりも巨大であるが故に、M4達の手では、グリップを掴み切れない事。また、ストックやハンドガードのない、“ハンドガン”のケルベロスの大きすぎる破壊力と反動を、受け止めきれなかったからだ。

 

「私はまだあなたの射撃を見てないから——早速だけどお願い」

 

 ペルシカは目を輝かせながら、グレイヴにお願いする。人形の武器と、それに搭載する実用技術の開発を行っているペルシカは、ケルベロスの本来発揮される性能に興味深々だった。

 

「……」

 

 グレイヴはペルシカを見ながら、無言で射撃場のファイアリング・ライン(射撃する位置)に立つ。その様子をペルシカとAR小隊は、じっと見守る。

 グレイヴはスイッチを押す。するとブザーの音が鳴って、グレイヴの前方25m先にマンターゲットが出現した。

 出現した瞬間、グレイヴは左腕の上に右腕を交差させて構え、ケルベロスをマンターゲットへ向けて、引き金を引いた。

 いわゆるクロス撃ちという、映画やゲームといった、フィクションでしか見られない非実用的な射撃方法だが、グレイヴは手慣れたように、ケルベロスを連射する。マシンガンを彷彿させる程の早い連射により、射撃場に轟音が響き渡る。

 右と左で9発ずつ射撃し、グレイヴはケルベロスを下ろす。そして、命中確認の為に、マンターゲットを射手に近くに動かすボタンを押す。ゆっくりとマンターゲットが、グレイヴの方に近づき、停止した。

 マンターゲットの頭部と胸部にあたるところに、3重の円があり、それぞれの最小の円の中に、弾丸が集中して、当たっていた。

 

「グレイヴッ!すごい!」

 

 この結果を見て、SOPⅡは素直な称賛の言葉を出す。

 

「すごい……」

「へ~……大したもんだ」

「はぁ——」

 

 M4とM16もグレイヴの精確な射撃を素直に称賛する。自他ともに厳しいAR-15ですら、感嘆の息を漏らす。

 

「……」

 

 しかし、肝心のグレイヴの顔は浮かない。

 

「なんだ?なにか不満か?」

 

 グレイヴの顔から察して、M16が疑問を投げかける。

 グレイヴは黙って、マンターゲットに指を指す。その指が向けた先は、頭部の三重の円の、最小の円の外側にある2発の弾痕だった。

 

「もしかして……全弾、最小の円内に当てるつもりだったのか?」

「どんだけ自分に厳しいのよ……」

 

 M16とAR-15が若干、呆れながら言葉を飛ばす。

 

「ねえ、グレイヴ」

 

 グレイヴは、声をした方へ向き、驚く。呼んだのはペルシカだが、目がぎらついて、少し怖い。

 

「あなたが眠っている間に、発射試験はやったのよ──百発以上は撃ったかしら」

「……」

 

 ペルシカの言葉はどこかおどろおどろしい雰囲気を醸し出している。AR小隊の面々も、引きつった笑いを浮かべる。

 

「それでね、弾切れが何故か起きないのよ、この銃……スキャニングやら銃の材質を調べても何もわからないのよ……」

「……」

 

 ペルシカは科学者だ。そのペルシカにとって、このケルベロスの無制限の装弾数の謎を解こうとしても、解けなかったことは非常にストレスだった。

 

「自分で解答を出せなかったのは、非常に業腹だけどね……使用者のあなたなら、この銃が弾切れしない理由……わかるよね?」

 

 ペルシカは期待を膨らませて、グレイヴに問いかける。しかし、グレイヴは難しい顔をして、残念な一言をつぶやく。

 

「──わからない……」

「……へっ?」

 

 ペルシカは間抜けな声を出した。

 

「……本当にわからないんだ──すまない……」

 

 ケルベロスを製作したのは、Dr.Tを始めとした、ネクロライズ計画の技術者達である。グレイヴにわかるのは、銃の扱い方や整備方法だけで、使用材質や技術は門外漢だった。

──結局、ケルベロスの無制限の装弾数の謎を解けなかったペルシカは、悔しさと敗北感を胸に刻みながら、この問題について考える事をやめた。




補足
・ケルベロス
グレイヴのメイン武器。正確に言うと、死人兵士専用の武器であり、全部で三丁ある武器の総称。いうなればケルベロスシリーズ。
グレイヴが使用しているのは、2丁で1組のハンドガンである“ライトヘッド”と“レフトヘッド”。口径15mm、全長約60cm以上、弾数無制限とかいう化物銃。その破壊力は装甲車や武装ヘリすら破壊できるほど。明言はされていませんが、ネクロライズやシード技術をもたらした地球外生命の技術を使って造られたんだろうと自分は思っています。学生時代、この銃と悪魔狩人の2丁拳銃に出会ったことで、作者の中二病がこじれた。
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