GUNGRAVE -OVER DOLLS-   作:ガロヤ

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前回更新から約5か月経過……。私の怠慢です。あと、ちまちま書いてたら、詰込み過ぎました。


1-5 YOUNG DOLLS

 AR小隊の午前の射撃訓練が終わり、昼の休憩時間に入った。

 AR小隊のメンバーは、屋内射撃場を出て行こうとする。訓練の終わりまで見学していたグレイヴもまた、一緒に退出することにした。因みにペルシカは既に、自分の研究室に戻っている。

 しかしM4だけが、自らのアサルトライフルの構えを解かずに、ファイアリング・ライン(射撃の位置)に留まる。

 M16がM4に話しかける。

 

「M4、まだ訓練をやるのか?」

「ええ、M16姉さん。射撃訓練の結果が悪くて……もう少し続けます」

 

 M4はM16の質問に答えながら、ボタンを押し、新しいマンターゲットを出す。

 

「でも、M4。最近ずっと訓練詰めだよ。ちゃんと休まないと」

「ありがとう、SOPⅡ。終わったらちゃんと休むから」

「もう!この前もそう言って、時間一杯までやってたじゃん」

「う──」

 

 SOPⅡの指摘に、M4は困ったように笑う。

 

「好きにやらせてやりな、SOPⅡ」

「M16……」

 

 SOPⅡを諭すM16。

 

「先に出てる。M4もほどほどにな」

「はい、M16姉さん、ありがとうございます」

 

 そう言って、屋内射撃場を後にするM16。まだなにか言いたげだったが、M16の後を追ってSOPⅡも射撃場を出た。AR-15も、M4の横顔を一瞥して、無言で出ていく。

 

「……」

 

 最後に、グレイヴも射撃場の出入りドアに近づき、振り返ってM4を見る。

 最初に射撃場に入った時と同じく、いまだ思い詰めたような焦りと、疲れを含んだ表情が見て取れる。

 M4の様子を気にしながらも、グレイヴは射撃場を後にした。

 

 

 

 

 

 グレイヴは、M4を除いたAR小隊の3人と共に、研究員などが利用する休憩室にいた。

 自室に戻ろうとしたが、SOPⅡが「グレイヴも一緒にどう?」と誘ってきた為、断るのも野暮だと思い、同席することとなった。

 M16とAR-15、SOPⅡは、首から伸びたケーブルを、シートに備え付けられた端子に接続して、エネルギーの充填を行っている。

 その様子はグレイヴにとって、あまりに奇妙な光景だった。そんな中、SOPⅡは気になったことを、グレイヴに尋ねた。

 

「?──グレイヴは何か食べないの?」

 

 休憩室には、食堂が併設されている。16Labの研究員が食事している中、グレイヴは何も注文していなかったことを、SOPⅡは不思議に思った。

 

「ああ・・・・・・グレイヴは腹が減らないんだ」

 

 事情を知っているM16が代わりに答える。

 

「えっ!?グレイヴ病気なの!?」

「そういうわけじゃない──グレイヴは人間の死体から造られてて、戦闘に必要がない消化器官や生体機能が死滅しているから必要ないんだよ」

 

 SOPⅡの発言にツッコミつつも、M16は説明した。

 

「グレイヴはゾンビなんだね……いや、ゾンビは人肉食べるから違うか」

「おい、グレイヴに失礼だろう。強いてあげれば血液が主食ってところじゃないか……ほらっ、身体の維持に血液交換が必要って聞いたし」

「じゃあ吸血鬼?」

「それとも違うだろ……よくもまあ本人の前で言えるなあ、お前」

 

 M16はSOPⅡの例えに呆れる。

 

「私達は食事はできるし、コードからエネルギーの充填ができるのに……グレイヴの身体って不便なんだね……」

 

 SOPⅡの純粋な感想に笑うグレイヴ。

 

「俺には……君達が人形だということが信じられない」

 

 グレイヴもまた、率直な感想を口にする。ケーブルでのエネルギーの充填という光景を見ても、彼女達が造り物だとは到底思えなかった。

 

「グレイヴは自律人形とか周りにいなかったの?」

「……」

 

 SOPⅡの質問に、グレイヴは首を横に振る。

 

「ある訳ないだろう──グレイヴは50年以上眠っていたんだ。50年前なんて、自律人形どころか人工知能の研究の真っ最中だ」

 

 M16が指摘する。

 

「そっか~……私はれっきとした人形だよ──ほら!左腕だって鉄血のやつを取り付けたんだ~!」

 

 そう言って、SOPⅡは自らの左手を見せびらかす。その手は黒く、鉤爪を連想させる。人間の肌なら簡単に引き裂けそうな鋭さと禍々しさを持っていた。

 しかし、グレイヴが人と感じたのは見た目ではない。

 

「──身体は機械かもしれないが……君たちと会話して、心があると俺は感じる」

 

 グレイヴには、人工知能や人形に関する専門的な知識などないし、アンドロイドやロボットなどは若い頃に観た映画の中にいる、架空の存在だ。しかし、彼女達との会話で感じたのは、例えるなら機械が持つ自動化された冷たさなどではなく、生きているものが持つ温みだった。

 

「そうなの?……わたしにはよくわからないな」

 

 SOPⅡは難しい顔をして答える。

 

「……くだらないわ」

 

 これまで喋らなかったAR-15が冷たく吐き捨てた。

 

「人形にはメンタルモデルが搭載されているから、人に近い受け答えをしているだけ……私達、人形は人間の命令に従って結果を出すことを求められるだけの存在──それ以上でもそれ以下でもないわ」

 

 グレイヴはAR-15の言葉の節々から怒りがにじみ出ているのを感じた。その様子を見てM16がAR-15に喋りかけた。

 

「AR-15……まだイライラしているのか?」

「別に……」

「も~、M4が調子悪くしてからずっとじゃん」

 

 SOPⅡが指摘を聞いて、グレイヴは眉を動かす。先程、グレイヴが射撃場で見たM4の不調は今に始まったことではないことを察する。

 気になったグレイヴはSOPⅡに尋ねた。

 

「M4は……ずっと不調なのか?」

「うん、そうだよ。グレイヴを回収した任務からなんだ……」

 

 グレイヴは眉間に皺が寄る。もしや、自らに原因があるのではないかと思った。

 

「違うよ、グレイヴ。あんたのせいじゃない。原因は別だ」

 

 M16がグレイヴの顔を見て、説明した。

 

「グレイヴの回収した時の任務で、鉄血の部隊に出くわしたんだ……あんたが起きてやっつけた連中さ」

 

 グレイヴはその時のことを思い返す。

 

「グレイヴがいたコンテナのデータのコピー中に、連中に見つかってたみたいでな」

「M4はね……自分が鉄血の占領区域から遠かったとはいえ、油断して索敵を怠ったから、小隊を危険に晒したって、自分を責めてるんだよ」

 

 M16の言葉に、SOPⅡが続く。

 

「私達も、警戒を緩めてたから、お前だけのせいじゃない、みんなの責任だ、って伝えてるんだが、なかなか聞かなくてな……」

「……あいつはなんでもかんでも気にしすぎるのよ……」

 

 AR-15が苦々しく話し始める。

 

「演習でも任務でもなにか失敗するたびに、茫然としたりおどおどしたり……私達の隊長ならもっと堂々としてほしいわ……」

「隊長……?」

 

 AR-15から出た意外な言葉に、グレイヴは反応した。

 

「ああ、M4はうち……AR小隊を指揮する隊長なんだ。意外か?」

 

 正直なところ、面倒見がよく、みんなのまとめ役をやっているように見えるM16が隊長かとグレイヴは思い込んでいた。

 

「私達の中でも一番指揮能力が高いのがM4なんだよ。人間の指揮官には劣るが、成績もいいんだ。グレイヴの回収指示とペルシカさんに助命のお願いをしたのも、M4なんだよ」

「……!」

 

 M16がどこか自慢げにM4のことを話す。そして、グレイヴは自分を助けたきっかけがM4からだったことに驚いた。

 

「ただ、人間の心に近いメンタルモデルのせいかな。よく怯えたり、自己嫌悪に陥ったりする……考えすぎるきらいがあるのは確かだ。まあ、そこがかわいいんだがな」

「それでやらかしと失敗続きなら良くないわよ。最近の演習と訓練の成績も落ちっぱなしよ」

 

 M16がにやつきながら、M4の欠点と惚気を同時に喋る。そんなM16を冷めた目で見つつ、M4の最近の失態を口に出すAR-15。

 

「……」

 

 グレイヴは昨夜、自身を気遣ってくれたM4の顔を思い浮かべる。彼女からは臆病さ、それと同時に優しさが見て取れた。また3人の話から、感情に素直で、仲間想いだと感じられる。

 それ故か──自分の失敗で招いたと思っている危機に、仲間を巻き込んだ自分が赦せず、自責の念にかられている。そんな思いを抱えながらでは、集中を欠いたままになり、思わしくない訓練の結果を出してしまう。その悪い結果を覆そうと、更に訓練に没頭しようとするが、先の自責の念と、過度な訓練による疲労が重なって、より悪い結果を引き寄せてしまう。

 

「悪循環だ……」

「……ええ、そうね」

 

 グレイヴは、M4の現状を端的に口に出し、AR-15がそれに同意を返した。

 ──昼の休憩時間が終わるまで、M4は、休憩室に来なかった。

 

 

 

 

 

 AR小隊の3人との食堂での会話から、5日が経った。

グレイヴはペルシカからのお願いで、不定期に、ケルベロスとデス・ホーラーの性能実験や、使用されている弾丸の調査などに協力していた。

 ペルシカ曰く、人形用の武器の実用技術に応用ができないかどうかの研究の為だそうだ。

 グレイヴは血液交換や死人兵士の制御システムの復元、住居の世話を受けている以上、恩を返す意味で、ペルシカに協力していた。

 今日のペルシカの実験の手伝いが終わり、既に時間は深夜をまわっている。

 

「それじゃあグレイヴ、また明日」

 

 ペルシカは軽く手を振りながら、グレイヴを見送る。グレイヴもまた軽く頷き、研究室を後にした。

 

“──んっ?”

 

 研究室を出てすぐの廊下で、グレイヴの右目の視界の端に人影が映った。その人影はすぐ廊下の角を曲がってしまい見えなくなってしまったが、金と赤の残影が僅かに見えた気がした。

 

“SOPⅡ?”

 

 人影が消えた廊下の角を見て、その廊下の先は屋内射撃場に通ずる方向である事を確認する。それと同時に、M4の不調が未だ続いている事が頭をよぎった。気になったグレイヴは、人影が向かったであろう先へ歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

「M4っ!」

 

 SOPⅡはドアを開けた瞬間、開口一番で射撃場にいるであろう人物の名前を叫んだ。

 案の定、ファイアリング・ライン(射撃する位置)にM4が立っており、突然やってきた来訪者と大きな声に驚き、アサルトライフルを構えたまま、SOPⅡを見て固まっていた。

 

「もう、SOPⅡ、いきなり大声出さないで」

「ああっ、ごめ──じゃなくって!M4!いい加減ちゃんと休んだほうがいいよ!」

「だから、後でちゃんと──」

「それも何回も聞いたよ!なんで私の言う事聞いてくれないの!?」

 

 もう何度も勧めたM4への休息への提案、だが肝心のM4本人は全く聞かずに、訓練に勤しみ続けていた為、遂にSOPⅡも我慢の限界がきてしまった。

 

「大丈夫よSOPⅡ。人形の私達なら、少しくらい無理しても──」

「それでもM4はやりすぎだよっ!顔見れば疲れてるってわかるよっ!」

 

 訓練や演習で、顔を合わせるたびに、M4の顔は日を追うごとにやつれていっている事をSOPⅡは感じていた。

 

「でも、最近、訓練成績が悪いから。もっと頑張らないと……」

「そんなに無理してたら悪くなって当たり前じゃん!もうやめよう、M4」

 

 SOPⅡは懸命にM4を説得する。しかしM4は連日の過度な自主練の疲れで余裕がなく、SOPⅡが自身の心配をしていること以上に、邪魔をしているという思い込みによる苛立ちが募っていた。

 そして、それが爆発してしまった。

 

「ねえ!エ──」

「ああっ!うるさいっ!」

 

 突然のM4の激昂にSOPⅡの言葉は止まる。

 

「ずっと後で休むって言ってるでしょう!だから邪魔しないで!」

 

 突然、怒鳴ってしまったことで、M4の息が荒れる。そして、我に返り、SOPⅡの方を見た。

 SOPⅡは、M4の激昂に驚きで口を半開きにしていたが、少しずつ目が潤み始めていた。

 

「ソ……SOPⅡ……」

「……うん……ごめん……M4……邪魔してごめんね……」

「あ……待っ……」

 

 M4の呼びかけを無視して、足早にSOPⅡは射撃場を出た。M4はSOPⅡが出て行ったドアに虚しく右手を伸ばしたまま固まっていた。

 SOPⅡが出て行ってから少しして、M4は右手で頭を抱えた。

 

「ああ……もう……なんで……」

 

 M4は弱々しくひとりごちる。

 SOPⅡが自分の心配をしてることくらいわかっていた。それなのにその思いやりを足蹴にしてしまったことに、M4は激しく後悔する。ひどく頭が痛むような気がして、頭に当てた右手の力が強まる。

 

“隊長失格だ……これじゃあ”

 

 ──思えば、経験の浅い自分より、姉であるM16の方が隊長に相応しいと思っていた。それでも自分が選ばれて、頑張ってきた。だが先程のSOPⅡへの暴言、そして前回の任務での自身の油断による不始末が頭をよぎる。

 突然の襲撃、応戦で手一杯の自分とAR-15、身を隠すので精一杯のSOPⅡ、そして銃撃と爆発に身を晒されて窮地に立たされたM16。

 前回の任務以来、ずっと頭にこの失敗の記憶が残り続けた。次は挽回しようと、訓練に力を入れたが、この記憶がこびりついて、思うような結果を得られなかった。仲間を危険に晒した事実を、M4自身が赦せなかった。

 再び、自身の失敗の記憶を反芻してしまい、M4は頭の痛みと重さが増した気がした。

 

「……クソ」

 

 自身の不甲斐なさと苛立ちで、M4は毒づいた。そして、自身と同じ名を冠するアサルトライフルを両手で掴み、そのまま両腕を真上に伸ばす。

 

「クソッ!」

 

 そして、怒りをぶちまけるかのように、M4は半身たるアサルトライフルを床に叩きつけようと、両腕を振り下ろし……振り下ろす両腕が途中で止まった。

 

「……えっ……?」

 

 M4は視線を床から上に移す。そこにはM4が持ったアサルトライフルのハンドガードを右手で掴み、いつのまにか隣に立っていたグレイヴの姿があった。

 

 

 

 

 

 ──時間を少し遡る。

 人影を追って屋内射撃場の近くまで来ていたグレイヴだったが、射撃場のスライドドアが開き、突然ドアから飛び出してきた人物と体がぶつかってしまった。

 

「!?」

「きゃ!?」

 

 グレイヴは少し驚いただけだったが、ぶつかってしまった人物はぺたんと尻餅をついた。尻餅をついたのは、グレイヴが見かけたSOPⅡだった。

 

「すまん……」

 

 ぶつかった事を謝罪しながら、尻餅をついたSOPⅡに手を伸ばす。しかし、SOPⅡは目線を下に向けたまま、動かなかった。

 

「……?」

 

 グレイヴは怪訝な顔をして、SOPⅡの様子を観察する。顔を下に向けている為、上から見下ろすグレイヴからでは、SOPⅡの表情がよく見えない。が、頬に水摘の線が流れていることだけは確認することができた。

 グレイヴはしゃがみ、目線をSOPⅡの高さに合わせる。SOPⅡは泣いていた。

 

「あ……」

「どうした?」

 

 ぶつかったのがグレイヴだと気付き、声をわずかに上げるSOPⅡに、グレイヴは彼女に涙の理由を尋ねた。少しの沈黙の後で、SOPⅡはぽつりぽつりと話す。

 

「……M4にね……休んで──ほしい、ってお願い……したんだけど……邪魔だ──って言われて……」

 

 そう言ったSOPⅡからは嗚咽を漏らしながら、泣き出した。

 

「……」

 

 グレイヴはそれを聞きながら、AR小隊が初めて出会ったことを思い返す。あの時のことは目覚めた直後で、記憶が朧気だが、もう一度意識を失う直前に見たM4の顔は憶えていた。怯えと憂いを帯びた表情、そしてその中にも自身を気遣う優しさが確かに彼女にはあった。そんな彼女が今、自責の念にかられ、仲間の声を聞く余裕すらなくなりつつある。

 グレイヴはこの16LABとAR小隊とは関係のない部外者だ。しかし、泣いているSOPⅡ、そして、自身を助けるきっかけを作ってくれたM4を放っておくことはできなかった。

 

「……」

「……あ」

 

 グレイヴはOPⅡの頭に掌を乗せた。グレイヴの掌は体温はなく冷たかったが、頼もしさと安心を感じさてくれる大きな手だと、SOPⅡは感じた。

 グレイヴはSOPⅡに掌を乗せながら言った。

 

「ここで待て、できるな?」

 

 グレイヴはSOPⅡを見る。SOPⅡは少し逡巡の後に、無言で頷く。それを見てグレイヴは微笑んだ。

 グレイヴはSOPⅡの腕を引いて立ち上がらせた後に、射撃場へと入った。そして、グレイヴの視線の先には頭に右手を当ててるM4がいた。

 グレイヴはM4の方へ歩を進める。すると、M4はアサルトライフルを持った両腕を上に上げる。

 

“──!”

 

 M4の意図を察したグレイヴは足を速めた。そしてアサルトライフルのハンドガードを掴むことで、M4を止めた。

 

 

 

 

 

 ──そして、現在に至る。

 グレイヴはM4のアサルトライフルのハンドガードを掴んだまま、M4を見る。M4は、突然のグレイヴの出現に驚き、アサルトライフルを持った手の力が緩み、手放してしまった。

 

「あっ!?返して、返してください!」

 

 何故ここにグレイヴがいるのか。M4にはわからなかった。そして、慌てた様子でグレイヴに自分のアサルトライフルの返してもらうように求める。しかし、肝心のグレイヴは掴んだアサルトライフルを見つめたまま、応じなかった。

 

「あの……グレイヴさん」

 

 弱々しく、名前を呼ぶM4。そんなM4をグレイヴは見る。

 グレイヴの右目を見て、M4は息を詰まらせた。威圧されている訳ではない、だが、グレイヴの目からは有無を言わせない迫力と威厳を、M4は感じた。

 

「借りるぞ」

「えっ……?」

 

 グレイヴの突然の発言の内容に、M4は面食らう。そんなM4を気にしたそぶりを見せずに、グレイヴはM4のアサルトライフルを持って、射撃場のファイアリング・ライン(射撃する位置)に立つ。それを戸惑いながらM4は見る。

 グレイヴは、アサルトライフルを構え、取り付けられたホロサイトを覗き、それから、丹念に動作チェックを行う。一通り確認した後、弾倉を一度抜き、弾倉内の弾丸を視認して再度、装填し直した。

 

“この人……上手い”

 

 戸惑いながらもM4は、グレイヴを観察する。非常に滑らかで無駄がない、扱い慣れている印象をM4は持った。

 グレイヴは、マンターゲットを出す為のボタンを押す。銃口をわずかに下に構え、マンターゲットが出現するのを待つ。

 マンターゲットが表示された瞬間、グレイヴはアサルトライフルを構えて、セミオートで射撃した。

 放たれた弾丸は見事に、マンターゲットの頭部の的の最小の円内に着弾した。

 

「あぁ……」

 

 M4は思わず感嘆の息が漏れてしまった。先日の戦闘でのケルベロス、そして今のアサルトライフルの射撃を見て、ビヨンド・ザ・グレイヴはあらゆる銃火器に対応でき、優れた射撃技術を持っていることを再認識する。

 グレイヴは射撃を終えると、M4の元へ歩み寄る。

 

「撃て」

「えっ?」

 

 グレイヴはアサルトライフルをM4へ突き出す。どうやら射撃をやってみせろということらしいとM4は思い、恐る恐るアサルトライフルを受け取ってファイアリング・ライン(射撃する位置)に立ち、M4は構えた。

 

「待て」

 

 そう言いながらグレイヴはM4の背中越しに、フォアグリップを握ったM4の右手に手を這わせる。

 

「ぐっ、グレイヴさんっ!?」

 

 突然、体に触れられた事にパニックになるM4だが、グレイヴは気にも留めていなかった。

 

「もっと力を抜け」

「あっ……」

 

 M4は自身の右手を見る。フォアグリップを握る右手は強張っていた。

 

「背中を少し丸めろ……腰を落とせ……」

「はっ、はいっ」

 

 グレイヴはM4の射撃姿勢の改善点を次々指摘し、M4も言われた通りに矯正する。時折、グレイヴがM4の膝や肩に触れて姿勢を直し、そのたびにM4は気恥ずかしくなってしまう。

 一通り、グレイヴの指摘が終わる。

 

“私……射撃姿勢がちゃんと出来ていなかったんだ……”

 

 本来、第二世代戦術人形には戦闘用機能を集約しているコアというパーツを搭載し、かつ烙印システムと呼ばれる戦術人形と特定の銃器を紐づけする技術を施す事で、高い運用効率と銃撃精度を獲得する事ができる。

 そんな第二世代の戦術人形の技術の粋を集めて製造されているはずのM4が銃撃精度の悪化に陥ったのは、搭載されたコアと烙印システムの不具合故か、その二つに悪影響を及ぼす自らのメンタルの状態故か、あるいは両方か。

 

“やっぱり駄目なんだ……自分は──”

 

 自嘲するM4。再びメンタルが暗く淀んでいきそうになって──不意に右肩に優しく置かれた手の感触で我に返った。手が置かれた右肩の方を振り向くと、グレイヴが横にいた。

左目の傷痕を隠す為に、グレイヴの顔の左半分を覆うように伸びた髪のせいで、M4はグレイヴの表情を窺うことができない。

 

「落ち着け」

「えっ」

「大丈夫だ……この構えなら外さない」

「……」

 

 M4はグレイヴからの言葉を聞き、再び25m先のマンターゲットを見据える。まだ右肩にはグレイヴの手が置かれたままだ。人口皮膚から伝わるグレイヴの掌は冷たいが邪魔だとは思わず、その大きさと柔らかく置かれた感触が、メンタルを落ち着かせていく。

 グレイヴとM4は関わりを持って、まだそれほど時間が経っていない。だが、グレイヴの言葉には、不思議と大丈夫だと思わせる力のようなものをM4は感じていた。

 アサルトライフルを持つ腕の震えが止まり、銃口がマンターゲットを正確に捉える。その瞬間、M4は引き金を引き、銃口から火が噴いた。

 放たれた弾丸は3発。その全てはマンターゲットの頭部にある的の最小の円内に着弾した。

 

「……っ」

 

 M4は思わず吐息を漏らした。それはグレイヴを回収した任務から不調続きであり、久しくなかった会心の射撃による、歓喜から出たものだった。

 M4はグレイヴがいる方に顔を向ける。そして突然、彼女の頭を何かが触れた。驚くM4だが、その感触には覚えがあった。案の定、それはグレイヴの手によるものであり、グレイヴはM4の頭を優しく撫でている。M4はその指の隙間から、グレイヴの顔を覗く。その顔には微笑みが浮かんでいた。言葉はないが、射撃を褒めてくれていると、M4は察した。

 M4は自らの頬が熱を持つのを感じ、視線を下に移す。グレイヴに撫でられたのは二度目だが、ペルシカ以外の人、しかも男性に褒められ、触れられるのはとても照れくさい。しかし、嫌悪感はなく、嬉しさと恥じらいが混じった奇妙な感覚を味わっていた。

 不意にM4の頭の上にある感触がなくなる。M4は少し名残惜しさを感じながら、頭を上げた。グレイヴはM4の後ろ──屋内射撃場のドアの方に視線を向けていた。

 M4は振り返る。ドアの前には、AR-15が無愛想な表情で立っていた。いつものジャケットは羽織っておらず、その下に着ているキャミソールワンピースだけの、待機中や休憩中によくしている軽装だ。

 突然のAR-15の来訪に、驚くM4をよそに、グレイヴはAR-15の方へと歩く。そして、AR-15の横を素通りして、射撃場を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

「……」

 

 残された射撃場で互いに沈黙する。そして、先に動いたのはAR-15だった。ツカツカと、靴音を鳴らしながら、M4の方へと歩く。M4は戸惑いながらも、AR-15の様子を見る。

 

「……私も少し射撃するわ」

 

 AR-15はそう言って、M4の隣まで来ると、射撃場に備え付けられた、訓練用のハンドガンを手に取った。動作チェックを終え、ターゲットを出現したのを確認し、射撃を開始した。

 

「……」

「……」

 

 お互いに無言のまま、AR-15の射撃による乾いた発砲音だけが、射撃場に響く。それをM4はただじっと見つめる。

 5分程経った頃、AR-15が射撃を中断し、リロードを行っている最中に、M4は口を開いた。

 

「ごめんなさい……」

「何が?」

 

 M4の謝罪に、AR-15は表情を変えず、持っているハンドガンに見たまま、短く謝罪の理由を問う。その声色はどこか刺々しい。

 

「グレイヴさんを回収した任務の時に、私達は鉄血の部隊に襲われた」

「……」

「私が周囲の警戒と索敵を指示しなかったから、奴らの奇襲に対応できずに小隊を危険に晒した。本当に私が情けないわ」

「……」

 

 M4の悔恨の言葉を、AR-15は黙って聞く。そして、ハンドガンの操作を再開する。

 M4はちらりと、AR-15の横顔を見る。その表情は、射撃場に入ってきた時の不愛想なままだ。不甲斐ない隊長の自分に対してとても怒っているのだろうな、とM4は思った。

 

「ねえ、あの時のM16の射撃の事、覚えてる?」

「えっ?」

 

 AR-15の言葉に、というより、その内容に一瞬、M4の反応が遅れた。

 

「M16が寝そべりながら射撃していた事よ」

「……ええ、覚えてるわ」

 

忘れる訳がない。信頼する姉のM16がやられていたかもしれない危機的状況だったのだ。しかし、なぜM16の話を出したのかがわからなかった。

 

「おかしいと思わなかった?」

 

 AR-15の問いの意味を、M4はわからなかった。

 

「私達の中で一番、作戦経験が豊富なM16が、あんな遮蔽物のないところで不用意な射撃をしたのよ。M16らしくないわ」

「あっ……」

 

 AR-15の指摘に、M4はようやく気付いた。M16ほどの猛者が、自身の位置を敵に知らせる危険な射撃をしたことは、確かにM16らしくない。

 

「直接聞いた訳ではないけど──多分、あれは自分を囮にする為だったのよ……私達を生かす為に……」

「そんな……」

 

 M4は頭をハンマーで殴られたような気分になった。M16姉さんに自己犠牲を選択させた事。改めて後悔の念に襲われそうになる。しかし、

 

「あの時──M16の射撃の意味に気付いて、鉄血の人形兵の攻撃がM16に集中した時……とても悔しかった」

 

 AR-15の「悔しい」という意外な言葉。M4は、何が悔しかったのか疑問に思った。

 

「M16が攻撃されているのに、なにもできなかった。それに、私達が生き残る為には、M16を囮にすることを認めてしまったことが、許せなかった」

 

 AR-15がそう言ってマンターゲットに発砲する。その銃弾はターゲットから外れた。

 M4は気付いた。AR-15は怒っている。AR小隊で、誰よりも仲間思いの彼女が、仲間を囮として、見殺すことを容認してしまった自身に怒っている。M4が判断ミスで小隊を危険に晒した事に後悔しているのと同じように。

 

「あんたが、ミスに対して反省するのは構わない」

 

 そう言いながら、M4に近づくAR-15。

 

「でも、それで自分を責めて、追い込んで……訓練でも任務でも、支障をきたすのなら、いい加減にして。あんたは私達の隊長なのよ。これ以上、失望させないで」

 

 AR-15の声音には厳しさがあるが、その中にも気をかけてくれている優しさをM4は感じ取れた。

 

「うん。本当にごめ──」

「謝らないで。謝るならSOPⅡにしなさい。そこにいるから」

 

 M4はドアの方を見る。そこには、いつの間にか射撃場に入っていたグレイヴと、その隣にSOPⅡがいた。グレイヴに軽く背中を押され、SOPⅡはM4のところへ近づき、正面に立った。

 

「SOPⅡ、さっきはごめんなさい……心配してくれたのに、ひどいこと言って……」

「ううん、いいよ。M4は頑張ってたのに、邪魔した私も悪いから……」

 

 そんなことはない、SOPⅡは何も悪い事はしてない、とM4は首を横に振る。そして、SOPⅡを見据える。その顔は凛としていた。

 

「今度は……みんなをちゃんと守れるように頑張るから……隊長として頑張るから」

 

 頼りなさげではあるが、それでもM4なりの決意を告げる。

 

「うん!でも、今日はちゃんと休まなきゃ駄目だからね!」

「わかってる。SOPⅡの言う通りにするわ」

 

 互いに笑い合うM4とSOPⅡ。それをグレイヴは微笑みながら、見守っていた。

 不意に、2人の間にいたAR-15と目が合う。AR-15は、プイッと視線を逸らす。そんな様子をおかしく思いながら、グレイヴは静かに射撃場を後にした。

 

 

 

 

 

「ありがとな」

 

 射撃場を出てすぐに、グレイヴの横から声がした。そちらを向くと、壁にもたれながら立っているM16がいた。

 

「これ以上ひどくなるようなら、私から注意しようとしたけど、必要なくなって良かった」

 

 安堵したように笑うM16。

 

「グレイヴがM4にみんなの言葉をちゃんと聞いてくれるきっかけを作ってくれた。本当に感謝している」

 

 グレイヴは首を振った。きっかけを作ったのはSOPⅡで、諭したのはAR-15の2人だ。大したことはしたつもりはなかった。

 

「やっぱり優しいよ、あんた」

 

 グレイヴは少し照れくさくなって、M16から視線を外す。何か話題を変えようとして──ふと、気になった事をM16に尋ねる。

 

「何故、M4はM16を姉と?」

「ああ……あいつが目覚めて、AR小隊の隊長になってから、ずっと訓練や任務でサポートしててな。いつの間にか、姉さんなんて呼ばれてた。M4もそうだが、AR-15もSOPⅡも私にとっては手はかかるが、可愛い妹たちさ」

 

 そう言って、M16ははにかむ。その様子を見て、グレイヴもつられて微笑んだ。

 

「変かな。人形の部隊が家族ごっこするのは?」

 

 M16はグレイヴに尋ねる。グレイヴは首を横に振る。

 

「変じゃないさ……」

 

 グレイヴは、人でなくともお互いを想い合う彼女たちを見て、生前の──青春時代を思い出す。ジョリス、ネイサン、ケニー、そしてハリー。馬鹿やって、喧嘩して、貧しくて何もなかったが、楽しかった日々。

 もう戻ることはできないけれど、それでもグレイヴ(ブランドン)にとってかけがえのない日々を、グレイヴは懐かしんだ。

 

 

 

 

 

 暗い研究室でペルシカは誰かと喋っている。

 

「ええ。そろそろ実行したいの……リコの研究データの回収作戦を……」




補足
・M4を操るグレイヴ
捏造。ゲームとアニメの描写で、
・生前は、都市で、一番大きな力を持つ犯罪組織No.1の殺し屋
・殺し屋時代にスナイパーライフル、死人兵士になってから重火器搭載棺桶を操っている。
ので、きっと殺し屋時代に、合法、違法問わない手段で入手したあらゆる銃火器の訓練を積んでいるだろうと、想像力を大いに働かした結果。

・ジョリス、ネイサン、ケニー
アニメ「Gungrave」の登場人物。グレイヴ、というよりブランドンとハリーのチンピラだった時の仲間。
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