冒険者組合の一室。
チームで集まって情報のすり合わせをする為、あるいは依頼人を交えて依頼の説明や会議を行う為に自由開放されている部屋で、彼らは向き合っていた。
「では改めて。白雪の硝子、アトリアです。この度は新たにアダマンタイト級冒険者が現れたと聞き、同じアダマンタイト級冒険者としてご挨拶に来ました。」
「これはご丁寧に。私は漆黒のモモン、こちらは相棒のナーベです。」
「……ナーベです。」
軽い会釈をするナーベだったが、その視線は常にギロリとアトリアに向けられており、警戒心と敵対心を隠すことも無く睨み付けている。
モモンは内心で焦るが、当のアトリアに全く気にしている様子が見られない。
……しかし、モモンもナーベが警戒する理由は分かる。
自分たちはアダマンタイト級冒険者になったばかりで、そう都合よくアダマンタイト級冒険者が居合わせるという事がどれくらいの確率なのだろうか。
加えて、冒険者に対して悪い印象を持った直後で、冒険者って皆あんな感じなのでは? と怪しまずにはいられない、というのが本音である。
だが……。
「先ほどはすみませんでした。勝手に割り込んだのもそうですが、彼らはアレでも私の先輩なので……。」
「貴女が悪いわけではないでしょう。助かりました。」
「そう言っていただけると助かります。えと、彼らも決して根が悪い人という訳では無いんです。ただ、突然アダマンタイト級冒険者になった人が現れたので、驚いたんだと思います。」
……確かに突然自分達の働いていた職場に全く顔も名前も知らない上司が現れてデカい顔されたら……うん、確かに、なんだお前はと思わないでもないかもしれない。
モモンガが居た世界でそんな事を言おうものなら明日、いや、次の瞬間から社会的に首を飛ばされ路頭に迷う事になるだろうが……。
というか、驚いた結果がアレってどうなんだ、彼らは野生の猿か何かか?
まぁそれはいい。そういえば、彼女は先程用があると言って居たが、まさか、本気でただ挨拶する為にやってきたというだけなのだろうか?
「それで……本題はなんでしょうか? 挨拶というだけなら、ここじゃなくても良かったのでは?」
「いえ……実は最初は本当に挨拶するために来ただけなんですよ。ただ、ロビーだと他の人の目と耳があるのと、落ち着いて挨拶したかったというだけです。多少の打算が無かったかと言われれば嘘になりますが。」
「打算……?」
「本音を言えば、少し助けてほしい事があったりするんですが……まだ貴方達とそこまで親しくも無ければ、お互いの事を何も知らない状況で協力というのもおかしな話でしょう? なので、まずは挨拶をと思ったんですが……。」
その矢先にあの騒ぎがあった、と。
つまりアトリアは、モモン達とコンタクトを取る事で協力を要請しようと思っていたらしい。アダマンタイト級冒険者の手を借りたいという仕事をしているが、彼女だけでは力不足である可能性があり、そこに来て自分達が現れたから、あわよくば……という魂胆だったのだろう。
しかし、その割にすぐに手伝ってほしいという訳でも無いようだ。
アトリアの言う通り、まだお互いがどの程度の実力で、協力するに値する人物か、また協力してもらうに値する人物なのかが分からない。
それを見定めに来た、という事だろうか。
ただ交流を深めようと言っているのではなく、始めから交流を深める目的を明らかにしてもらったお陰で随分と分かりやすく、そして対応もしやすい。
「では、いずれ協力してほしい、という事でしょうか?」
「そうですね、助けてほしいのは確かなんですが……機密性のある情報を含む依頼内容なので、ひとまずこの話はおいておきましょう。内容を聞いたから手伝ってもらうと言われても、困るでしょう?」
なるほど、道理である。
もし事情を一方的に伝えられて「機密を知ってしまったな、では手伝え。」とか言われたら我慢できずにナーベが斬りかかっていたかもしれない。
アダマンタイト級冒険者ともなるとそういう機密にも関わる仕事をする事になるのか……そういうのはちょっとだけカッコいいなと思う。
その分大変そうだが……ナザリックの力を使って出来ない事はそうそう無いだろう。見返りと今後の彼女の頼み方次第では、協力をしてやってもいいかもしれない。
モモンはそう思った後、そもそも彼女は他に協力をしてくれる人……グループのメンバーは居ないのだろうかと疑問を持った。
「そういえば、他のメンバーはどうしたんですか?」
「他のメンバー……? ああ、いえ、白雪の硝子という冒険者チームは正確にはチームではなく、私が冒険者として活動する際に用いている、ちょっと格好の付く肩書みたいなもので……活動自体は私一人でやっているんです。」
「なるほど、つまりソロって事ですか……。」
……とすると、協力して欲しい事というのはソロでは多少無理のある内容……それでいて機密性があり、恐らくは少人数で臨むべき依頼なのだろう。そして、即座に手を貸してほしいという訳ではないという事は、かなり長期的な依頼内容である可能性があると見て良いかもしれない。
モモンがそう思案していると、アトリアがそわつきながらこう提案した。
「あの……もしよければ、何か一つ、一緒に仕事なんかが出来たらいいな……なんて思うんですが、どうですか? いや、もし予定があったら断って頂いて全然いいんですが……。」
せっかくこうして会えたのも何かの縁だと思うんです。と締めくくり、アトリアはキラキラした目でこちらを窺う。
……なんでこの子、一人で冒険者やってるんだろう。
つまりはアトリアはこちらが協力してもらうに足るか、そしてモモン達はアトリアが協力するに足る人物かを見定める……のを最終目標に、お互い仕事を通じて仲良くなりましょう、という事だ。
「……それはいいですね。 アダマンタイト級冒険者同士、これから何かあった時に頼る事もあるかもしれませんし。 お互いの人となりを知るのは良い事です。」
そもそもモモンが冒険者をしている表向きの理由を考えれば、アトリアという冒険者は情報源として有用だ。無理強いしない事や現状の彼女の振る舞いは今のところは好印象を覚える。
友好的な関係を築くに値する人物かもしれない。
そう思い了承したのだが……先ほどからずっと険しい顔で黙って見守っていたナーベは小さい声で「えっ」と漏らした後「いいんですかモモン様」と言わんばかりの驚愕の表情をしてモモンに視線を送る。
「あっ……ナーベさんも、それで良かったですか……? 何か、私が勝手に盛り上がっちゃって、その……ご、ご迷惑でしたか……?」
「モモンさ……んがそう仰るのであれば私から異議を唱える事は有りません。」
そう言うナーベの顔は大変不服そうだし、迷惑なのも否定しないようだ。
またモモン様と言いかけているし、台詞もだいぶ堅苦しい物になってしまっている……大丈夫だろうか?
チラ……とアトリアを窺い見るも、気にした様子は無い。
……飛びぬけた善人か、鈍いのか、何かを察していて、不必要に事情に踏み込むのを避けたのか……分からないが、こちらにとっても都合が良いので黙っておく。
……それはそれとして、可哀想だがナーベには後でちょっとだけ説教だ。
「では、決まりですね。早速1階に戻って何か仕事がないか聞いてみましょう!」
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そうして再びロビーへと戻った三人。
と同時に、ざわざわとし始める周囲。
……話が終わったらまた姿が見れると踏んでさっきまで居た冒険者の多くが残っていたようだ。
「(アダマンタイトってそんなに凄いのか……いや、もしかするとこのアトリアって子が特別凄いのかな? ソロで活動してるってだけでも、話題性があるもんなあ……。)」
そんな事をぼんやりと考えながらロビーにある掲示板……を通り抜け「(あれ?)」……受付へと向かうアトリアとその後に続く二人。
「こんにちは。」
「こんにちはアトリアさん。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「今日はいつもみたいな依頼じゃなく、この三人で受けられる依頼を探しているんです。組むのは初めてなので、最悪アダマンタイトがやるような仕事じゃなくても構いません。何かよさげな物をいくつか見繕ってくれませんか?」
「かしこまりました、少々お待ちください。」
「……じゃあ、少し座って待ちましょうか。」
「(なるほど! そうやって依頼を受ける事も出来るのか……これは覚えておこう。文字、読めないし。)ええ。」
文字が読めないのでどうしようとは思っていたところだ。
まぁ、最悪掲示板に貼られている物を適当にはぎ取っていけば、最高位のアダマンタイト級冒険者なのだから、受けられない事は無いだろうが……。
低位の冒険者の依頼を自信満々に持っていったら恥ずかしい事になりそうだ。
「……そういえば、いつもどのような依頼を受けていらっしゃるんですか?」
「私は主に治療魔法が必要な依頼をこなすのがメインですかね……やはり一人で遠征する依頼は少し無理がありますし。」
治療魔法か……医療が発達した世界には見えないし、医者代わりという事だろうか。
装備はユグドラシルでは見たことの無い物だが、デザイン等から察するに、信仰系の魔法詠唱者といった所だろう。
「……あっ、そういえば、お互いにどんな職業を修めているのか言ってませんでしたね。待っている間にその辺りの説明をお互いに済ませておきましょうか。」
「そうでしたね。私は見ての通りの戦士、こっちのナーベは第三位階の魔法を使える魔法詠唱者です。」
「第三位階……!? 素晴らしいですね!」
「……この程度、大したことはありません。」
これは事前に調べていた事だが、こちらの世界ではユグドラシルと同じ位階魔法が存在するが、どうも平均的なレベルが低い為、人間の場合、第三位階魔法は「努力でどうにかなる限界」「熟練の魔法詠唱者が最大で第三位階」という認識らしい。
……一方モモンガは第十位階とその上の超位魔法まで唱える事が出来るのだが、これはこの世界では正しく神の御業とでも言うべき魔法であり、超越者にしか使えない魔法であると考えられている。
ナーベも本気になれば基本レベルに見合わない第八位階までの攻撃魔法を行使でき、雷系の攻撃魔法を得意としているのだが、人間に紛れて活動するにあたって、その辺りの本来の実力は秘匿して活動する事にした。
その方が動きやすいだろう、との考えだ。
無論、有事の際にはその限りではないが。
「私は様々な治療魔法が使えたり、蘇生魔法の使い手でもあるんです。自慢ではありませんが、戦闘面でも他のクレリックには負けない自信があります!」
「蘇生魔法……凄い事じゃないですか。」
「え、えへ……でも、戦闘で使える魔法はそんなに多くないんですけどね。」
そう言って照れたように笑い、居心地が悪そうに帽子をかぶりなおすアトリアだったが、蘇生魔法と聞いたモモンの中で少なくない驚愕を生んだ。
蘇生魔法と言えば最低位の「
そんなやりとりをしている最中、アトリアは見覚えのある少年が別の受付に訪れ依頼を出しているのを見かけ、席を立つ。
「あ……すみません、知人が居たので少し挨拶してきます。」
「ああ、どうぞ。」
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「ンフィーレアさ~ん、こんにちは~。」
アトリアが間延びした声で手を振りながら駆け寄った先に居た少年はすぐに声に気が付き振り返ると、少し驚きつつもそれに応える。
「えっ? あ、アトリアさん!? こ、こんにちは……どうしてここに……って、そうか、アトリアさんも冒険者でしたね。」
「そうですよ。ンフィーレアさんこそ、どうしてここに?」
そう聞かれてンフィーレアは迷った様子を見せる。
彼がここに来た理由、それは少し前に店に訪れた赤髪の女冒険者が、鑑定をしてほしいと言って持ち込んだ真っ赤な血のような回復ポーションにある。
赤髪の女冒険者と言うのは、つい昨日、モモンが酔っぱらいに絡まれ、それを投げ飛ばした先で破壊されたポーションの持ち主であり、その後モモンから現物で弁償してもらったブリタという女だ。
結果……モモンから渡された真っ赤なポーションは、薬師の夢でもある「劣化しないポーション」であり、別名、「神の血」とも呼ばれる伝説のような存在である事が発覚した。
これを見たンフィーレアの祖母は、これを製造したのは誰か、製造方法は、とブリタを問い詰め、その赤いポーションと元持ち主であるモモンの情報を買い取り、モモンが冒険者であるという事を突き止めた。
……が、ここでちょっとした障害が発生する。
モモンとナーベ、漆黒を名乗る冒険者グループは、最高位のアダマンタイト級冒険者であった事がブリタの情報から明らかになったのだ。
せめてもう少し下の階級だったなら、情報を聞き出すべく彼らに依頼を出し、お近づきになるなり何とかして、その赤いポーションの製造法を知りたかったが、アダマンタイト級冒険者ともなると、数日彼らの時間を買う事になるだけで、決して安くは無い報酬が必要になるだろう。
だが、それでも諦めきれず、アダマンタイト級冒険者を数日借りて、なんらかの依頼を取り付けるのに一体いくらかかるのか、その相場を知るためにンフィーレアは今日冒険者組合へと訪れていた。
結果、貯金を切り崩せばまあなんとか……と言った所。
さて、どうしたものかと悩むに至った。
「ある人に薬草採集の最中と道中の護衛を依頼しようとしたんですが、その人、高位の冒険者だったみたいで、どうしようかなあと迷っていたところなんです。」
と、モモンという名前は出さずにンフィーレアはアトリアに事情を話した。
名前を出さなかった理由は、不用意に名前を言い触らして相手の迷惑になるのを恐れた為だ。
「なるほど……ある人ですか。」
……遅くなったが、ンフィーレアとアトリアは、既に「客」と「店」としての関係を築いている。
アトリアがこの街に来てすぐの頃に、既に彼女はンフィーレアの工房を訪れていた。
ひょっとして既にモモンとナーベが来ていて、彼らは漆黒の剣と一緒に依頼に出てしまった後だったりしないかと心配したのが半分、後々関係を築いていた方が、もしもの時に話しやすいと考えた為が半分である。
初見、ンフィーレアは彼女を「自分よりちょっと年上の若くて綺麗な白い女の人」としか認識していなかったので、首元で光るアダマンタイト級冒険者の証を見て腰を抜かしかけたのは記憶に新しい。
そんな見た目と強さのギャップ、そして冒険者にしては珍しい人柄も相まって、ンフィーレアの記憶にアトリアという女性は強く刻まれていた。
そんなアトリアは少しだけ困った様子のンフィーレアをよそに、考えている素振りを見せる。
「(あ、しまった、迷惑をかけてしまっただろうか。)」
そう思ったンフィーレアは咄嗟に謝ろうとしたが、アトリアが先に口を開いた事で阻止された。
「その“ある人”でないとダメなのですか?薬草採集と、その行き来の護衛は。」
「え、あ、はい。」
「う~ん、そうですか……私だったらアダマンタイトとは言え一人ですし、多少は安く雇えるのではと思ったんですが……あ、でも今日は同伴する冒険者の人が居たから、どちらにせよ無理でしたね……。すみません、ンフィーレアさん。」
「ああ! いえ、そんな! 貴女が気にするような事じゃないですよ!」
「でも……その人の名前を教えてくれたら、もしその人に会った時、ンフィーレアさんの工房を紹介する、とか、そういった形でなら協力できるかもしれません。」
どうですか? と続け優しい微笑みを浮かべるアトリアにンフィーレアはほんの一瞬固まった後、咄嗟に目を逸らした。
なに、この……なんだこの人? 聖職者って皆こんな人なんだろうか? 聖職者って皆こんな優しくて人当たりとか面倒見とかあとなんか匂いまで良い匂いがするものなのだろうか?
……もし今の自分に
そう思い頬を赤らめたンフィーレアはキラキラ輝く青銀色の瞳に負け、素直にその探している人物の名前を口にする。
するとアトリアは更に笑顔を深め、突然ンフィーレアの手を掴むとそのまま彼を一体その細腕のどこにそんな力があるのかと言いたくなる勢いで、どこかへと向かう。
向かった先に居たのは……。
「モモンさんナーベさん、紹介します。この方、この街で一番の薬師、ンフィーレアさんです。」
「は?」
「はい?」
「えっ? あ、あの……ンフィーレアです……?」
「ンフィーレアさん、こちら、期待の大新星、漆黒のモモンさんとナーベさんです。」
「……ええと? アトリアさん?」
こうして、少年と漆黒の騎士が白の聖女によって邂逅した。
内なる聖女様(笑)「ヨシ!(現場猫)ぃよォしッッッ!!(集中線ガチ恋距離現場猫)
来るのは分かってたぞンフィー君!!正直銅級じゃなくてアダマンタイト級にしちゃったから来ないんじゃないかって不安だったぞンフィー君!!!赤いポーションへの好奇心に負けちゃったんだねンフィー君!!!
そんなところが大好きだぞンフィー君!!!
ぶっちゃけもし来なかったらこの先の予定が狂うとこだったぞンフィー君!!!!
つまり何が言いたいかって言うとここまで来たからには……絶゛ 対゛ に゛ 逃゛ が さ゛ ん゛ ぞ!!」
ンフィー「なんかこの人良い匂いする。」