最終的に〇んだ方がマシなTS聖女   作:政田正彦

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続きはありますか?そこになかったら無いですね。


さては貴方……恋してますね?

「カルネ村まではまだ数日かかりそうなので、今日は日が暮れる前にここで野宿にしましょう。」

 

 そう言ってアトリアはてきぱきと慣れた様子で野宿の準備を進め、生活魔法の一つなのだろう、小さな火を指先に灯すだけの魔法で焚き火を作り、あらかじめ準備していた食料と鍋でスープを作り始めた。

 

 こまごまとした作業を手伝いながらモモンは内心で頭を抱えた。

 

「(食事……当然だけど俺も食べないとダメだよな~……でも、食べたらダダ漏れだし……う~~~ん……。)」

 

 最終的に、モモンは『命を奪ったその日の食事は4人以上で食べてはいけない、という宗教上の教えがあるので、二人が食べ終わってから食べることにする』……という事にした。

 

 それまでは本来の史上と同じだったが、違う点と言えば、そう伝えた後あからさまにシュンとして「宗教の教えなら仕方ないですよね」と眉尻を下げながら笑うアトリアの顔に、モモンの心中に微かに残った良心が、ほんの僅かに傷んだ位だろうか。

 

 モモンはアトリアからスープを注いだ木の器を受け取った後、ナーベと二人で少し離れた場所にある、丁度良い大きさの岩を見つけて腰を下ろした。

 

「……ナーベ、人間が嫌いなのは分かる。好きになれとも言わん。だが……前も言ったが、少しは演技をしろ。だんまりで居られると相手に悪印象を与えるぞ。あんな殺意の籠った目で睨み付けていては猶更だ。」

 

「も、申し訳ありません。」

 

「いや、これから直せればそれでいい。」

 

「はっ……。」

 

「(……本当に分かってんのかな……。)」

 

 モモンは「人選失敗だったかな」と思い少し頭を悩ませたが……状況を客観的に見た時、一番心中穏やかで居られないのは実はナーベラルだったりする。

 

 勿論、至高の御方と、演技であるとはいえ同じ立場で肩を並べて戦う仲間として活動しろという任務で緊張もある……が、それ以上に、その至高の御方の周囲にモモンさんモモンさん(ぶんぶん)と喧しく煩わしい事この上ない白いチョウバエが纏わりついて、しかも恐れ多くも、立場的には自分達と同じ立場であり、情報源としての期待が出来る事からブチッと潰すことも出来ないというこれ以上なく厄介な状況。

 

 ナーベはもしここにモモンの目が無かったら思い切り髪と首を掻き毟った後アトリアをぶち殺してしまいたかった。

 

 むしろ「半径3m以内に入らないで下さい臓物ぶち抜いて豚に食わせますよ」と言い出さず、じっと堪えているだけ彼女にしては大健闘である。

 

 ……人選ミスだったかどうかは、まぁ、言うまでも無い。

 

 夜の帳が下りて、街道の端で火を囲む一同の周りはとっぷりとした暗闇と、じっと見ていると思わず手を伸ばしてしまいそうになるほどの美しい星空。

 

 沈黙の中で黙々と食事……というのは少し気まずいと思ったのか、頻繁にアトリアやンフィーレアが話題を提供したり、モモンもそれを察してか話を広げる為にあれこれ質問したり……と、まだ会ってからそう時間が経っていない面々ではあるものの、それなりに打ち解けつつあった。

 

「あの……私、ナーベさんに何か失礼な事をしてしまいましたか?」

 

「……いえ、そんな事はありません。気に障ったのなら、もう視ません。」

 

 ……約一名も、受け答え位は出来るようになったらしい。目を瞑って何も見ないようにする、という策によってようやく、だが。

 

 そういう事じゃないんだけど、と苦笑いするアトリア。

 フン、と鼻を鳴らした後そっぽを向いてしまうナーベ。

 

 すると、アトリアが不意に何かに思い至ったように尋ねる。

 

「ひょっとして……ナーベさんはモモンさんが好きなんですか?」

 

「……。」

 

 ピキッ、と場の空気が固まる幻聴が、確かにモモンには聞こえた。

 

「……仲間としては、信頼しています。」

 

「やっぱり! なるほどなるほど、そういう事だったんですね……。」

 

 ナーベがしばらくの沈黙の末に、頭をフル回転させて導き出した回答に、それほど問題があったとはモモンも思わなかった。 だが、何故だろう、とてつもなく嫌な予感がする。

 

「……何がですか。」

 

 そして、それはナーベも同じだったらしい。 聞きたくはない、聞きたくはないが、聞かなければならないような気がしたので、ナーベは思い切り苦々しい顔でそう聞いた。

 

 それに反比例するかのような「そうか分かったぞ、そう言う事だったのか!」とでも言わんばかりの得意げな笑顔でアトリアはこう答えた。

 

「ずばり、ナーベさんはポッと出の私がナーベさんの想い人であるモモンさんにあれこれ頻繁に話しかけたりするものだから、面白くなかったんでしょう!」

 

「ブッ!?」

 

「……。」

 

「なっ! ち、違っ!!」

 

 我関せずとしていたンフィーレアがスープを噴出し、モモンが「あちゃ~……。」と額に手を置いて星空を眺め、羞恥ではなく怒りで顔を真っ赤にしたナーベが「このアマ今回ばかりは許さねえぶち殺してやる」とばかりに立ち上がるものの、アトリアはそれを見て余計に確信を得たとばかりに笑顔を深めた。

 

「ほら、顔まで真っ赤じゃないですか! なーんだ、私てっきりナーベさんは心が鉄で出来た冷たい人なのかと思っていましたが、そんな可愛い一面もあったんですねえ。」

 

「このっ……! おまっ……! こ、ころ……!!」

 

「(ちょちょちょ、待てナーベ! 抑えろ! 演技! 演技を忘れるな! な!?)」

 

「フーッ、フーッ!」

 

 モモンに押さえられている手は今にも剣を抜いてしまいそうだし殺意と怒気に満ちた表情には「モモン様どいてそいつ殺せない」とでも言うような鬼気迫るものがあったが……事情を理解していないンフィーレアからはもう、それが「本心を言い当てられて怒り狂う、嫉妬深い女性」くらいにしか見えておらず、小さく苦笑いしてしまう程だ。

 

「あ、大丈夫ですよ! 冒険者は身の上の詮索はご法度ですからね! これ以上詮索したりしませんとも、ええ!」

 

「モモン様! この害虫を殺す許可を下さい!!」

 

「や、やめろ! 落ち着け!」

 

 荒れ狂うナーベを抑えて落ち着かせるのにモモンはこの世界に来て最も苦労し、時間をかけたかもしれない。

 

 

「ハァ……そういうアトリアさんは、どうなんですか? 恋人や想い人なんかが居るのでは?」

 

「私ですか……? う~ん……。」

 

 ちょっと意趣返しのつもりでそんな質問を投げかけてみるものの、アトリアはしばらく考えた後「考えたこともありませんね~」と返され、ナーベは吹っ切れたのか「つまらない答えですね」と罵るも、やはりアトリアに気にした様子は無い。

 

「ンフィーレアさんは?」

 

「えっ!? ぼ、僕ですか? 僕は、その……。」

 

 突然話を振られたンフィーレアだったが、想い人は? と聞かれて思わずとある女の子の顔が脳裏をよぎる。

 

「……その、これから行くカルネ村に……想い人っていうか、片思いっていうか、幼馴染の女の子が居て……。」

 

 そして始まる、少年の甘酸っぱい恋心の話。

 彼女はこういう女の子で、こういう所に惹かれて……でも、僕はまだその子に告白すら出来ていなくて……でも、今では他よりも稼ぎがいい自信もあるし、いつか……。

 

「ンフィーレアさん……私、そういう話大好きです! 何か協力して欲しい事とかあったら、是非言ってくださいね!」

 

「そうですね、私も出来る事なら協力しますよ。」

 

「あ、ありがとう……ございます……。」

 

 アトリアとモモンは健気な少年の恋路を素直に応援し、協力して欲しい事があれば、なんでも言ってほしい、と更に打ち解けた。

 

 

 その後、火の番を決めた後、一行は休息をとる事にした。

 とはいえ、モモンとナーベの二人は、休息をとるフリだが。

 

 

 モモンは火の番として火に枯れ木を入れた後、改めて、この世界に来た時と同じ星空を眺める。

 

 アンデッドとなり、人としての心は失ってしまったかもしれないが、何度見てもこの色とりどりの宝石を散りばめたかのような光景は、純粋に綺麗だと思う。

 

「(いつか……皆とも一緒に観れたらどれだけ良いだろう。)」

 

 特に、こういった自然を愛するブループラネットさんがもしもこの場に居たのなら……きっと自分の100倍の語彙でこの感動を言葉にし尽そうとしていたに違いない。それを見て、別に逃げるもんじゃないですから落ち着いて下さい、なんて言うのだ。

 

「(この世界のどこかに……皆も居るのだろうか。)」

 

 この異世界の、あるいは……この星々のどこかに、彼らは居るのだろうか。

 居たらいいな、と思いながら……モモンガは一人、孤独感を感じていた。

 

 それに気づいたモモンガは……きっと、あの娘が色々と気をまわしてずっと喋っていてくれたから、それが無くなった静寂に、孤独感を感じているのだろうと冷静に判断する。

 

 ……もしかすると、心のどこかで自分は、彼女を自分と同じような存在じゃないかと思っているのではないか。

 

 周囲から逸脱した力。 

 一人で今まで活動してきたという共通点。

 そして、白と、黒という、対となる存在。

 

 何を馬鹿な、とモモンガは首を振り、今日初めて会ったばかりの人間に何を言っているんだか、と心の中で自嘲した。

 

 時間になるまで、モモンは他愛もない事を考えたり、今日教えてもらった事をまとめたりしつつ時間を潰す事にした。

 

 

 次の日の朝、一同は目を覚ましてすぐ、再びカルネ村へと向かった。

 

 和気藹々、とまで行かないものの、雰囲気はそこまで悪くはなく、雑談混じりで様々な話をしつつ、歩みを進める。

 

 モモンは「遠方からやってきたこの辺りの地理や事情について詳しくない異邦人」というつい昨日生まれた設定を活かして、あれこれ気になる事をアトリアやンフィーレアに聞く事で、情報を得る事に成功出来たので、極めて有意義だったと言えるだろう。

 

 そんな移動中に、モモンがタレントの事について聞いた時の事だ。

 

「タレント、でしたか。どんな人でも持っているんですか?」

 

「どんな人でもって訳ではないですね、むしろ持っている人は少ないと思います。一説によれば、100人に1人だとか、もっと少ないとか、気付いてないだけでもっと多いとか、色々ですね。」

 

「なるほど……。」

 

 つまりは、効果があるとハッキリ理解出来るほどの力のあるタレントというのは、それだけ珍しいものであるという事だ。

 

 マジックアイテムをなんでも使用可能、などというユグドラシルに居たらぶっ壊れだろと言われるようなタレント持ちがそうそう居ないと分かっただけでも今は良しとした。

 

 と、そこまで聞いてモモンは「そういえば普通じゃないのがもう一人居た」と思いその人物に尋ねてみる事にした。

 

 

「アトリアさんは何かタレントを持っているんですか?」

 

「え? ええ、まあ……その……」

 

「……あ、すみません、言いたくなければ……。」

 

「い、いえ、大したことじゃないんです。ただ、私は私のタレントがちょっと嫌いで……。」

 

 自分のタレントの事になった瞬間、アトリアは顔に影を落とした。

 何か事情があるのだろうか。

 

「私……『早熟する』というタレントを持っているんです。」

 

「えっ、でも、早熟ってそう悪いことではないような……?」

 

「…………。」

 

「……え、あっ、もしかして……。」

 

 モモンは、一つの可能性を導き出してしまう。

 ……もしそうだとしたら彼女は……。

 

「まぁ……そういう事です。実年齢は、多分、ンフィーレアさんとそう変わらないんじゃないですかね?」

 

「ええ~~~っ!?」

 

「なんというか……今まで大変でしたね。」

 

「ええ、本当に……。最初の頃はこれで結構苦労しましたよ。」

 

 思いがけず本人の核心に触れるような事を聞いてしまい申し訳ないと同時に、ンフィーレアと同じ位という事は……15か16程度という事だろうか。

 

 そんな少女が、20代前半くらいにも見える成熟した身体になるまで急成長し、一線で戦う冒険者として名を馳せているという事実に驚きを隠せない。

 

「(もしかして……()()()なんだろうか。)」

 

 そう、それは今までモモンが頭の片隅でずっと考えていた事。

 どうして彼女のような人物が、たった一人で冒険者をしているのだろうという疑問。

 

 早熟。それがもし身体の成長だけでなく、実力そのものの早熟をも表しているのだとしたら、実際の年齢が近い人物、つまり同年代はもちろん、外見年齢に近い人でも、彼女の実力に釣り合う事は無く、合っていても彼女が他の面々の実力を自分の意思とは関係なく追い越し、差が生まれてしまう。

 

 そうなると、パーティーの中で不和の原因にもなるし、そうでなかったとしても、彼女にとって他の、自分の成長についてこれない人物は足手まといになりかねない。

 

 いや、それよりなにより、そんなタレントを持っていた彼女は子供時代にどんな精神状況で日々を過ごしていたのだろうか。

 

 見ようによっては、彼女は世界に子供でいる事を許されなかった子供であるとすら考えられてしまう。

 

 思えば、外見年齢の割には無鉄砲だったり、行動に子供のような無邪気な一面が垣間見える事がある。

 

 彼女は、このタレントのせいで過去に何かがあったのかもしれない。

 しかし……昨日彼女が言っていた通りなら、冒険者同士の身の上の詮索はご法度。

 

 聞くにしてももう少し関係を深めるべきだろうし……そもそも、聞いてほしくないのであれば、こちらも無理に聞く必要はどこにも無い。

 

 これから同ランクの冒険者として、表面上仲良くやっていければそれでいいし、それに、これはただの憶測に過ぎないのだから。

 

「すみません、ちょっと空気が重くなっちゃいましたね……大丈夫ですよ、もう慣れているので。でも……聞いて下さってありがとうございました。話した事で、少しだけ気分が晴れたみたいです。」

 

 そう言ってアトリアは二人(ナーベはツンと興味無さそうにしている)に対し気丈に笑ってみせる。

 

 モモンは少しタレントの事について聞いたことを後悔したが……逆に言えば、そんな事まで話してくれるような信頼を得るに至った、と考えれば無駄ではなかったかもしれないと思いなおすことにした。

 

 そのうち、手伝ってほしい事についても、聞かせてくれる時が来るかもしれない。

 

 そうなったら……まあ、情報料の分だけは、手伝ってあげてもいい。

 なんてことをモモンは思うのだった。

 

 

 それからまたしばらく。

 

 街道を進んでいくと少し高所になっている場所に着き、遠くに、雪に覆われて真っ白な山脈が大きな森から顔を出しているのが見えた。

 

「あれは、アゼルリシア山脈です。リ・エスティーゼ王国とバハルス帝国の間の国土を分けている境界線に位置する山脈で、聞くところによると、霜の竜(フロスト・ドラゴン)霜の巨人(フロスト・ジャイアント)が生息しているらしいです。」

 

 見ていたのを見られていたのか、聞く前に情報が返って来た。

 そうなんですか、と相槌を打ちつつその雄大な山脈を目にしながら歩みを進める。

 

 ドラゴンか、と聞いてもし本当に居るのなら、注意すべきだろうなと考える。

 ユグドラシルに存在する種族の中でも、最強と名高い種族である為だ。

 

「とはいえ、こんな麓まで降りてくる事はそうそうないと聞きますし、こちらから会うには雪と岩肌という険しい道のりを越えて行かないといけませんけどね。」

 

「そうですか……いつか、会ってみたいですね。」

 

 忘れかけていた冒険心、とでも言えばいいだろうか。

 もし行く機会、会う機会があったとしても、最大限注意が必要だろう。

 あれば、の話だが。

 

 

「あの、少し気になったんですが……。」

 

 ふと、ンフィーレアがアトリアへと顔を向けて尋ねる。

 

「白雪の硝子……って、どういう意図でつけられたんですか?」

 

 白い雪山を見て、白い雪と言えば、と連想して思ったのだろう、そう言えば、名前の由来なんかを聞いてはいなかったなとモモンも顔を向けると、当の本人は気恥ずかしそうに頬を搔いていた。

 

「ああ……えっと、少し恥ずかしいのですが、この白い髪に因んで白、と……硝子は、本当は「完璧・冷静沈着・神秘的」という意味を持つ水晶を入れようと思ったんですが、ちょっと気取り過ぎかなと思って、硝子にしました。」

 

 確かに、白雪は言わずもがな、低温の地帯でしか降らない真っ白な雪の事を指していて冷たいイメージだが、一方で硝子は材料を高温で熱して溶かして、それから形状を変えていったりして、一つの形となるのが硝子である。超高温で溶けた鉱物を硝子状、と表現する程だ。

 

 ……ネーミングセンスに関して言えばモモンは事あるごとに仲間から大顰蹙を買い、自身の作ったNPCの名前すら命名権を奪われてしまった程なので何も言えないが。

 

「モモンさん達は?漆黒というのはやはり、ナーベさんの髪やモモンさんの鎧の色からですか? あ、それとも、十三英雄の一人の黒騎士から?」

 

「色ですね。……その……。」

 

 その十三英雄とかいうのが気になる。

 聞いても良いんだろうか? これもまた、この世界では誰でも知ってる一般常識だったりするんだろうか。

 

「その、十三英雄っていうのは?」

 

 ……いや、だとすればむしろ今聞いておくべきか。

 

 聞くとアトリアは少し驚いた顔を見せた後「確かにこの辺りの人じゃないなら知らないかもしれませんね」と言い、素直にその十三英雄について教えてくれた。

 

 

 十三英雄とは、二百年ほど前に活躍した御伽噺で語られる英雄達の事である。

 

 かつて、悪魔の王的存在「魔神」が配下の悪魔を引き連れ世界を滅ぼしかけた際に世界中で活躍し、魔神と戦い、世界を救ったという英雄譚。

 

 ただの英雄譚ではなく、今なおその戦いがあったとされる痕跡や、彼らが遺したと思われる武具、マジックアイテムなんかが実在し、各地に眠っているとも、国が厳重に保管しているとも、荒唐無稽な都市伝説染みた話で言えば、今でも十三英雄の内の誰かが生き残っていて、全てを管理しているとも言われている。

 

「で、その十三英雄の中の一人に、4本の暗黒剣を自在に操ると言われている暗黒騎士という人が居たんですよ。」

 

「成程……勉強になりました。」

 

 ともすれば自分はその暗黒騎士とやらに憧れて冒険者を志した冒険譚好きの夢見がちな男とでも思われているのではないだろうか。

 しかも暗黒の騎士って……いや、現在進行形で自分も漆黒の戦士とかいう大分アレな……いやいや、ここは異世界なのだから、そういうのを気にしてたら生きていけない。

 

「十三英雄というのは他にはどんな方が居たんですか?」

 

「そうですね……まずはリーダーなんですが、彼は最初はただの凡人だったんですが、努力で誰よりも強くなった真の強者として語られていますね。彼を主人公にした物語なんかも多く出回っている程です。他にも……」

 

 

 それを皮切りに、水を得た魚のように生き生きと、まるで見てきたかのように話し始めるアトリア。余程こういう英雄譚に憧れがあるのだろう。その熱意は、傍で聞いていたンフィーレアでさえ瞳を輝かせてその冒険譚に想いを馳せてしまう程。

 

 かくいうモモンもそういった冒険が嫌いではない。むしろ好きだ。というか、そういう冒険と言う名の息抜きがしたくて冒険者になったといっても過言ではない。

 

「いつか……その英雄達の痕跡がある場所に行ってみたいですね。」

 

「そうですね……でも、戦闘の跡が残っている位ですから、見ても、余程凄い戦いがあったんだな~としか分からないらしいです。」

 

「……あ! でも、僕はあそこに行ってみたいです! え~と……そう、フィラ台地!」

 

「フィラ台地?」

 

「そうです。かつてその十三英雄に祝福を与えその後の協力をしたという妖精王という強大な妖精の王が、旅の間配下の妖精達を護る為に大地を押し上げて作ったと言われる、今なお妖精達が棲む、妖精の楽園と呼ばれる場所なんだそうです。聞いた話では、人間に友好的で綺麗な妖精達が棲むほかに特筆すべき点は何もない、なんて言われていますが……きっと綺麗なんだろうな~。」

 

 なかなか興味深い話である。

 大地を押し上げて……という事は高度な地形干渉魔法だろうか。

 妖精達、とは、一体どのような妖精なのだろう。

 その妖精王というのは具体的にどのように十三英雄達の力になったのだろう。

 

「夢のある話ですね……アトリアさん?」

 

「え?あ、はい、そうですね。行けたらいいなあ、とっても綺麗だと思います。多分……。」

 

「……???」

 

 

 どこか様子のおかしいアトリアを怪訝に思いながらも、一同は歩みを進める。

 カルネ村まではもう少しだ。

 

 

 




アトリア「タレントのせいで周囲に溶け込めなくて苦労したんですよ~ぴえんぴえん……。」

内なるアトリア(笑)「冗談を言っても許されるようになってきたし、だいぶ仲良くなれて来たんじゃあないの~~~???おまけに同情も誘っておいて……これは協力者フラグ待ったなしっすワ!w」

ナーベ「こいつ いつか ぶち殺す」ピキッパキッ(!?)

モモン「子供時代苦労してそうで可哀想。友達とか居なかったんだろうな……。」シンミリ(純粋)

ンフィー「アダマンタイト級の人が皆良い人で良かったな~」ノホホン


補足

●『早熟する』というタレントについて
過去編でも触れたタレントで、主人公は唯一このタレントがある事だけは隠す事が出来ません。成長を強制的に止める魔法を開発できれば話は別かもしれませんが、もし出来たとして、それが子供の頃に行使出来るかと言われると首を傾げざるを得ません。なので、アトリアは表向きには『多数のタレントを持つ』ではなく『早熟というタレントを持つ』ということになっています。

●ナーベどうしたん
自分自身に纏わりつかれるより自分の主である至高の御方に纏わりつかれる方が彼女的には腹が立ちそうだなと思ったのでこういう感じになってました。

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