最終的に〇んだ方がマシなTS聖女   作:政田正彦

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今これが投稿されている時、僕は新住居へ彼女さんと一緒に同棲を始める為、引っ越し作業でてんやわんやしている事でしょう。そしてネットがまだ出来ないので、死んだセミのようになっていることでしょう(スマフォは繋がるけどPCが無い)

続きは(ストック的な意味でも)ありません。





思い出を穢す行為を許せますか?

 

 ンフィーレアの依頼を終えた次の日の昼……アトリアはとある事件の為にエ・ランテル冒険者組合に招集を受け、要人たちとの会議の場に参加していた。

 

「多忙なミスリルの皆、そしてアダマンタイト級のお二人が、急な招集に応じてくれた事、まずは感謝する。早速だが本題に入ろう」

 

 エ・ランテル冒険者組合長、アインザックがそう切り出して話し始めた内容はこうだ。

 

 昨晩、エ・ランテル近郊の森にて(アイアン)級の冒険者が吸血鬼らしき謎の化け物に襲われ、7人のうち5人が死亡、帰って来た2人の冒険者からの証言では、外見は銀髪で、大口という印象が強いとの事だったが、逆に他は何も分からないというのが現状である。

 

「吸血鬼は、吸血した相手を絶対服従の配下にする事が出来る……もし奴がエ・ランテルに侵入した場合、一大事になってしまう」

 

「フン、やられたのは鉄級の冒険者だろう? それでは強さの度合いも分からんではないか」

 

「いや、警戒するに越したことは無い。もしかしたらその5人の他にも、吸血によって配下が増えている可能性もある」

 

「(さて、どうしたものかな~)」

 

 アトリアとしては、正直言って関わったところで殺されるだけなので何か理由をつけて不参加でありたい所である。というか下手に関わると「シャルティアを支配した何者か」との関連性を見出されかねない為、今回は特に下手に動けない。

 

 ……なお、そう言った事情もあって今日は【演技の鬼才】はオフの日だ。下手にオンにしてしまうとキャラクターとしてのアトリアが「吸血鬼がよお……! 冒険者をよお……! 殺したり眷属にしたりするなんてよお!! んな事ぁ許せねえよなあ!? アダマンタイト級冒険者として許せねえ! そん吸血鬼俺がぶっ殺してやるぜ!!」って感じに飛び出していってしまう可能性があるのである。

 

 

「(う~ん……どうしたものか)」

 

 そしてアトリアと同じように内心で今回の件に対して人知れず頭を悩ませているモモン。彼としては、冒険者の介入を阻止しつつ、ナザリックに対して謀反を起こしたという疑惑がかかったシャルティアを一刻も早く確認しに行きたい所。

 

 

「目撃された場所の付近に洞窟がある事が確認されている。まずはそこに偵察隊を派遣したい」

 

「その前に、いいかな?」

 

「モモン君?」

 

「その謎の吸血鬼の件だが……正体に心当たりがある」

 

「なんだと!? 適当な事言ってんじゃねえぞ!」

 

「落ち着け、イグヴァルジ。……で、その心当たりとは?」

 

「その吸血鬼の名は……ほ……ホニョペニョコだ。少々因縁があってね……私は、ずっと奴を追って来ていたのだ。……奴は、かなり強い」

 

「へえ? アダマンタイト級冒険者ともあろう方が随分と弱気だなあ?」

 

「おい、イグヴァルジ!」

 

「……チッ」

 

「……偵察は私とナーベの二人で行いたい。そしてその場にもしその吸血鬼が居たら、私が奴を滅ぼします」

 

「なにをっ!?」

 

「そんな(ん渡りに船じゃん)! 危険すぎます(から是非私を置いて行って下さい)モモンさん!」

 

「心配いりません。切り札もあります」

 

 アトリアが内心で思っている事など露知らず、モモンは懐からある物を取り出す。

 それは、何らかの魔法を封じ込められた、魔封じの水晶……希少さ故、市場に出回る事はおろか、めったにお目にかかることの無い程のレアアイテムだが……。

 

「これには、第八位階の魔法が込められています」

 

「なんだと!?」

 

「そんな馬鹿な! 第八位階ともなれば英雄、いや、神話の領域だぞ!? いくら貴様がアダマンタイト級冒険者とはいえ、嘘に決まっている!」

 

「ほ、本当に第八位階の魔法が……?」

 

「この場で鑑定を受けてもいいが……そんな時間は無い」

 

「な、何故でしょう? お言葉ですが、もっとしっかり準備を整えてからでもいいのでは?」

 

「いいえ。その近辺に洞窟があるというなら、奴は十中八九そこに逃げ込んでいるはずです。何故なら、奴も化け物とは言え所詮は吸血鬼……昼間は日光を嫌がるでしょうから。そして、昨晩に冒険者達が襲われたというなら、今なら奴もまだその場所を動いていない筈。……逆に、日が暮れてからは奴が自由になってしまう。そうなったら最後、奴は逃した獲物を追って一直線にこのエ・ランテルへとやってくるでしょう」

 

 なるほど、と納得する一同。……なお、一見するとまともな意見に聞こえるが件の吸血鬼は当たり前のように日光に対して耐性を持っているので今から行く理由は「早めに事態を収束させたい」の一心でしかない。

 

「では、もしその魔法で吸血鬼を斃せたとして……報酬はどうする?」

 

「その話は私が無事に戻ってからゆっくりとする事にしましょう。ああ、もし違う吸血鬼だったら、倒した証拠品を持ち帰ります……では、そういうことなので、私は今すぐに出立させていただきます」

 

「待て! 俺のチームも行くぞ!!」

 

「……残念だがミスリル程度では足手まといだ」

 

「何だと!? 新参者の、それも不正疑惑がかかっているお前を信用出来るか!」

 

「やめないかイグヴァルジ!! さっきからあまりにも無礼だぞ!! それに試験が不正だったならあの魔獣はなんだというんだ!? あの魔獣こそ、彼が真にアダマンタイト級冒険者に相応しい実力者である証ではないか!」

 

「……くっ!」

 

「……モモンさん。ミスリルならダメでも、アダマンタイトならどうですか? ……彼女でも力不足でしょうか?」

 

「えっ?(ちょ、何言ってんのコイツ?)」

 

「それは……(う~ん、どう言ったものかな。ハッキリ断ればいいんだけど、一応同じ階級の冒険者としてこれからやっていく相手だし、言葉を選ばないと……)」

 

 招集されたミスリル級冒険者の一人が、そう言いながらモモンを見る。

 モモンはアトリアに視線を送り、アトリアもそれに気づいて「いやマジやめろよ?」という意思を込めながら冷や汗を流しながらモモンと目を合わせる。

 

 モモンからすれば、仮にも同じ階級の冒険者、それも、折角交流を持つに至った貴重な情報源でもある。もしこれが他の冒険者だったら闘いに巻き込まれた事にしてサクッと始末する所だったが……そうもいかない。

 

 さて、どう声をかけたものかと思案して……10秒程沈黙した後に、同じように言い訳を考えていたアトリアが先に口を開いた。

 

「実力でならば私は足手まといにはならない自信があります……ですが、モモンさんが足手まといと言っているのは、実力だけではなく、巻き込んでしまうから、という意味ではないですか?」

 

「というと?」

 

「モモンさんが先ほど取り出した魔封じの水晶……第八位階の魔法が込められていると言っていましたよね? 皆さん知っての通り、その領域は神話の領域……その威力は凄まじく、周囲への影響も並大抵のものでは済まないと予想されます」

 

「……それがどうした? 巻き込まれないよう、逃げればいいだけの話だろう」

 

「はぁ……まだ分かりませんか? その逃れるために必要な走力が足りていないんですよ。それこそ、あの魔獣……森の賢王の、森の中でも風のように駆けることが出来る強靭でしなやかな脚が必要なのでしょう。そして、いくら森の賢王と言えど、人を3人も4人も乗せて走るには無理がある……よって、私達は今回全員足手まといである……こんな所ではないでしょうか?」

 

「…………素晴らしいですね、あれだけの言葉でそこまで真意を酌み取るとは……いえ、違いますね、これは私が言葉不足でした。すみません」

 

「いいえ、冒険者たるもの、切り札とも言える魔法の詳細は隠しておきたい、その気持ちは理解出来ますから」

 

 

 ……という事になった。モモンは全くそのようなことを考えていなかったがこれ幸いとアトリアの推理(言い訳)に乗っかり、アトリアは「パッと考えた割には上手い言い訳だ」と自賛し、他の面々は、他の冒険者に被害を出すまいとするモモンの深慮と、それを瞬時に察してフォローできるアトリアに心から尊敬の念を送った。

 

 余談だがこの件で後に「モモンはこの為に森の賢王を力で屈服させ従わせたのだ」などという勘違いが巻き起こったりするがそれはまた別の話である。

 

 

「では……ご武運を祈っています」

 

「……ええ」

 

 その言葉を最後に、モモンはその場を後にした。

 

 モモンが去っていった後も一応会議は続き、残った者達はモモンが帰ってこなかった時や、吸血鬼がエ・ランテルに進行してしまった時の為、準備だけはしておくという事に落ち着いた。

 

「(さて、では私も自分の仕事でもするとしましょうか)」

 

 落ち着いたのだが、結末を知っているアトリアは、普通に無視して自分の仕事をする事にした。

 

 

============================

 

 

 

 モモン、いやアインズがシャルティアの下へ向かっている頃。

 

 所変わって、エ・ランテル近郊にて、街道から外れた場所、丘になっている地面の下に、人目から避けるように作られた人工の簡易シェルター、そこが彼らの拠点であった。

 

 彼らは八本指……の、麻薬取引部門、その更に下っ端の、最近になってエ・ランテル近郊やバハルス帝国までに麻薬を広め始めた売人グループの一派である。

 

「……シュプラ達から連絡が来ない?」

 

「は、はい……もう連絡の時間はとっくに過ぎてるってのに」

 

「アイツらはまた……どっかで女でも引っ掛けて遊んでんだろ。誰か様子を見に行ってやれ」

 

「いや、それが、様子を見に行かせた奴も帰ってこないんですよ」

 

「ああ……?」

 

 彼らの拠点はここだけではない。ダミーを含めれば6つ以上の小さな拠点を経由し、麻薬の取引を行っているのだが、別の拠点にて取引を予定していた別のグループとの連絡が取れなくなったという。

 

 グループの中でもリーダー的な存在であるガスルという男は心底面倒だと言うように立ち上がり「もういい、俺が行く」と告げる。

 

「どうせ途中でモンスターか何かに絡まれでもしたんだろ……まったく、これだから役立たずは……」

 

 ぶつくさと文句を言いながら、出入り口へと向かうガスルは、出入り口……盛り上がった丘に、木で出来たシェルターのような入口を、上から土や草でカムフラージュされた物……を開き、周囲に人が居ないか確認した後、外へと身を乗り出し……。

 

「こんにちは」

 

「は?」

 

 それを、盛り上がった丘の、入口からは死角となっている場所からじっと見つめている者が居た。

 

「そしておやすみなさい」

 

「ほきょっ」

 

 そう言ってその者はガスルの側頭部を軽くデコピンの要領で弾くと、外へ出ようとしていた身体がずるりと滑り落ち、ガクリと力を失い、壁に寄りかかる形でそのまま動きを止めた。

 

「……は?」

 

「お邪魔します」

 

「え?」

 

 そして塞ぐものが無くなった入り口から、よっ、と軽く友人の家に入るかのような気軽さで侵入してきたのは、真っ白な髪、白い肌、華奢な身体の女。あまりにも突然の出来事に、ロクに反応する事すら出来ず、ただその人物を見ている事しか出来ず立ち尽くす男達。

 

「『魔法効果範囲拡大化(ワイデンマジック)気絶(スタン)』」

 

「あっ」

 

 

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「さて、とりあえずこれで目的は達成したと考えて良いかな……っと」

 

 今頃はアインズがシャルティアとガチバトルしている頃か……あるいは願いを叶える指輪の効果が弾かれてブチギレている頃かな? おーこわっ。やったの私じゃないけど。

 

 さてさて……文字通り反吐を吐く程のストレスを受けながらもなんとか演技を完遂した結果だけど、まぁまぁの信頼を勝ち得るのに成功したのではないでしょうか?

 

 あとここでやる事と言えば、表向きの用事である「帝国へ麻薬を流している売人の情報と八本指へ繋がる情報、そしてその人物の捕縛」を完遂する事。そうすれば後は一度王都へ戻り、時が来るまでは暇になりますね。

 

 暇と言っても冒険者としての仕事はあるでしょうけど。

 そして今は、その表向きの用事も済ませている途中です。

 

 いや、まあ【探し物の方角が分かる】で麻薬の在り処を探し当て【カルマ値を見破る】で売人や協力者を炙り出し【敵と断定した相手を二度と見失わない】で拠点がどこなのかを探し当てれば、はい終わり。多分これが一番早いと思います。

 

「こ、この野郎……!!」 

 

「おや、早起きですね」

 

「クソが!! 縄を解きやがれ!! ぶっ殺すぞ!!」

 

「はい『気絶(スタン)』」

 

「うがっ、く、そ……」

 

 はぁ、めんどくさい……こういう輩の相手って疲れるんですよね。だからといって殺すわけにも行かないし。持ってて良かった非殺傷無力化魔法。……いやぶっちゃけ生かして捕まえてもまた出てくるだけだし殺した方がいいっちゃいいんだけど、どうせこの後ナザリックに支配されたら死ぬより辛い目に遭うだろうし。

 

 ……ま、いいや、もう。

 

 こういう他人の事を何とも思ってないカスみたいな奴を見てると大昔のトラウマが……あー、やめやめ、思い返しただけでイライラして来た……。

 

 とりあえず必要そうな書類とかをまとめて、早く終わらせようっと。

 

 まだ残っている拠点は……あと一つか。

 ……って、んん? この地点はまさか……。

 

 

 

============================

 

 

 

「……やっぱり、ここだったか……よりによって、ここを拠点に選ぶとは」

 

 それはかつての(アタシ)が作った、見た目だけは立派な、中身はただ地層を盛り上げただけの、馬鹿デカい土くれの塊でしかないそれ。

 

 後に私の名前から抜き取ってつけられたその地名は『フィラ台地』という……思い出の土地、とまでは行かずとも、若気の至りとか過去の産物とかそういった認識でしかなかったけれど。

 

 しかしそれは確かに“彼ら”との思い出の一つ。

 

妖精(あの子)達は元気かな? ……っと、それどころじゃないんだった。」

 

 情報と照らし合わせて見るに、この台地の壁面に、掘って穴を開けた馬鹿が居るらしく、しかもその穴を使って麻薬の密売をしている馬鹿が居るらしい。

 

 タレントに従って歩いていると……なんというか、思っていたよりも分かりやすく、あからさまに大きな入口の洞窟に、ほんの気持ちばかりのカムフラージュに、蔦や草で入り口を隠そうとした試みが見て取れる、そんな入口がそこにぽっかりと空いていた。

 

 中は暗闇で良く見えないですが、おそらく奥に部屋でも拵えてるんでしょう。

 見張りは……居ないですか、まあ居たらカムフラージュの意味が無いですしね。

 

 入口から中に入ると……トラップがそこら中に張り巡らされている。

 まぁ私は【罠の存在に気付ける】があるから引っかからないし、【夜目が利く】があるから暗闇でもある程度見えているんですけどね。

 

 ……妙ですね。

 

 この世界はゲームの世界とは違う。拠点に当たり前のようにトラップが敷かれているという事はそうそう無く、あるとしてもこんなにトラップを敷き詰めたら仲間も入るのに一苦労であるはず。

 

 それこそ、入るのにいちいち優れた罠探知スキルを持つ者が必要になる、そんなレベルだ。それは取引や拠点として使用するにしては不向きだし、なによりそんな拠点面倒すぎる。

 

 森のモンスターや私達のような敵対者を警戒して……の事だとしてもやり過ぎなくらいだ。

 

 だが、別の入り口は無さそうだったし……それだけ重要な物がここにあるとでも?……もしかしたら、普段使いする拠点ではなく、黒粉の保管庫があるのかもしれない。

 

 そのまま進んでいくと、奥はそれなりの広さの拠点となっているらしく、人の気配がする。見張りもちゃんと居るのが見える。

 

「『気絶(スタン)』」

 

「あっ……?」

 

 私は見張りを一瞬で気絶させた後、普通に中に入る。

 

 そこは広間になっているらしい。犯罪組織の癖に無駄に装飾が凝っている。腹立つから後で全部燃やそう。人の気配はここにはない。

 

「(もう少し探索を続けるか……この規模となると逃げ道が隠されているかもしれない、一応警戒して行こう)」

 

 そうして探索していると、一つの部屋を見つける。そこが何の部屋かは見ただけでは分からないが、私はひとまずその部屋から探索しようとして……【聴覚の強化】によって優れた耳が、ある()を拾い上げた。

 

 

 

――やだよう……もういたいのいや……だれかたすけて……

 

 

 

 瞬間、頭が真っ白になった。

 

 隠密なんて気にせずに全力疾走でその部屋へ向かい、私は勢いよくドアを蹴破る。

 

「な、なんだあ!?」

 

 突然の轟音に驚いて振り返る、半裸の男に……その男の前には、小さな鳥かごのようなものに詰められた、ボロボロに痛めつけられ、綺麗な羽根は見る影も無く毟られ、泣き腫らした顔で目を見開いて私を見る、いつかの私(囚われた妖精)がそこに居た。

 

「おい!! 侵入者だ!!」

 

「女か!?」

 

「一人じゃねえか」

 

「何のつもりだこの女?」

 

「ここがどこだか分かってんのかあ!?」

 

 半裸の男の声と、ドアを蹴破った音でぞろぞろとクズ共が集まってくるのを感じる。手元の杖に視線を向け、意識を切り替える。

 

 

 

 

 ()は杖の先端を地面へ向け、両手で捩じるように捻ると“ガキンッ”という音と共に杖が上部と下部に……細剣と鞘に分かれる。

 

 これは俺の秘密兵器の一つ……『仕込み武器』である。

 

 俺の持つタレントの一つには【卓越した剣の才能】という物がある。

 そのタレントの持つ力は、名前の通り、剣を扱えばその習熟度を限界を超えて修める事が出来るというもの。

 

 普段俺が杖を使い、魔法詠唱者として振る舞っているのはこの切り札を隠す為なのだ。

 

 切り札というのは文字通りの意味だけではなく……『相手を切って捨てる為の札』でもある。故に俺がこの細剣を抜く時というのは……。

 

 

「武技『人間特攻』『能力超向上』『超神速』『超連続空刃斬』」

 

 

「――な」

 

「ん――」

 

「……だ!?」

 

 

 

 ……つまり、こういう事だ。

 

 奴らから見て俺の身体はブレたように見えたぐらいで、なにをしたのか見れた奴は一人も居なかった。

 

 だが見る必要は無い。

 分かる必要も無い。

 

 俺は細剣を鞘に納めて元の杖の形に戻し、持ち直す。

 

 茫然とした様子の半裸の男を無視して、奴の前にある鳥かごのようなもの……その上部を持ち上げる。

 

「え……あれ?」

 

「もう大丈夫だよ。怖かったね。痛かったね。助けるのが遅れて、ごめんね」

 

「お、お前……今何をした!?」

 

 男は俺が檻の上部()()を持ち上げたのが不思議だったらしくそう喚く。

 何をも何も……超高速でぶった切っただけだ。

 

「『重傷治癒(ヘビーリカバー)』……どう? 痛い所ないかな?」

 

 そう俺が聞くと、妖精(フェアリー)の少女は震えながら頷き、私を見上げる。

 

「帰ろっか」

 

「……いいの?」

 

「もちろん。……おいで」

 

 手を伸ばし、妖精に手の平を向けると、まだ不安なのか、妖精はビクビクしながら俺の指先に手を伸ばし、意を決したようにその上に乗り上げた。

 

「おい! 待てや!! そいつはうちの新しい商品だ……ぞ……」

 

 男がそう言うと、手の平の上の妖精が「ヒッ」と声を上げて酷く怯えた様子を見せ、うずくまってしまったので「大丈夫だよ」と優しく声をかけ、うずくまった背中を優しく包み込む。

 

「どうした?」

 

「おい、お前腕が……」

 

「は? 何か言ったか?」

 

「あれ?」

 

「おっ」

 

「ひぎゃあああああああっ!?!?」

 

 

 そして、今頃になって斬られた事に気付いた奴らが、()()()()()()

 

 ……自分の身に何が起きたかも理解出来ないまま、彼らは肉と骨と臓物のサイコロになって夥しい量の血と共に周囲に散らばった。

 

 俺はそれに何の感情も抱くことなく、ひとまずその場を後にした。

 

 

 

============================

 

 

 

 結論から言うと、この洞窟は以前このフィラ台地の調査の為に誰かが掘った物らしく、作っている内に偶然出来たのか故意的に掘ったかは分からないが、台地の上、つまり妖精達が棲む場所まで縦穴が繋がっており、奴らは新しい商品として、彼女達に目をつけた、という事らしかった。

 

 手の平サイズのお人形のような妖精は可愛らしい。

 貴族のペットとして高く売れるとでも思ったんだろう。

 

 拠点の中を探索しているうちに他にもまだ4匹も妖精が捕まっていた、もちろん全員もれなく救出。

 

「さ、これで大丈夫。……皆だけで上まで帰れる? 送って行こうか?」

 

「うん! 大丈夫!」

 

「助けてくれてありがと!」

 

「ばいばーい!」

 

 さっきまで人間に拷問じみた仕打ちを受けていたというのに、彼女達は元気に飛び立っていった。……いや、どちらかと言うと元気が無かった原因は洞窟の中で自然と触れ合えなかったからかもしれない。

 

 彼女達は人間よりもかなり自然に近い存在であるため、自然から切り離されたり、自然そのものが失われれば、それに呼応するかのように元気を失ったりするし、逆に自然豊かな場所なら、魔法では治せなかった羽根の欠損が復元されるぐらいには元気になれる。

 

 新商品、と言っていたのはつまり、馬鹿な彼らは新しい商品とその利益を八本指に献上する事で出世したかったのかもしれないが……妖精の性質について理解していれば妖精を調教してペットにしよう、なんて考えには至らない筈だ。

 

 ……やはり人間は愚かだ、特にこいつらは。としかいいようがない。

 

 しかし弱った状態でもいいなら話は別だ。もしかしたら既に誰かに売られてしまった妖精が居たかもしれない、と思い拠点の中をひっくり返すように漁ってみたが、得た情報を見るにどうやらまだ誰も売られてはいなかったようだ。

 

 まあ、あんな檻の中で閉じ込められて、森から連れ去ろうとしようものなら、彼女達はたちまち弱り切ってしまう。

 

 虫の息になった妖精を見て、このままでは商品にならないと考えた彼らは売るところまでこぎつけられず、何で弱るのかも分からず、もしや生き残るために弱ったフリをしているだけなのでは、と考え……無理矢理元気に振る舞うように調教しようとしたとかそんな所だろう。

 

 そして、入口の過剰なまでのトラップは、八本指の他のグループにこの事を知られるのを恐れた……知られない事で、利益を独り占めしようとしたのだろう。

 

 優れた盗賊のスキルを持っている者が居たらしく、そいつの協力なしでは入れない、入れる者は信頼できる者だけ、だからトラップは過剰なくらいが丁度いい。

 

 妖精の扱い方は分からなかったのに、なんでそこでは頭が働いたのかが理解不能だ。

 

 はあ、なんにせよ……胸糞悪い。

 

 件の縦穴は塞ぎ、この洞窟の入り口も塞いでおいた。

 というより、ここの事は()()()()()にする事にした。

 

 まだ中に人が居るのではって?

 

 

 はにゃ……? ちょっと何言ってるのか分かんないですね。

 

 

 ひとまず仕事は完了、情報を持ち帰ってエ・ランテルから王都に帰ろうっと。

 

 

 







【中の人】
土に還った。

【妖精】
エルフではなくフェアリー。過去に主人公が棲み処を作ってあげたけどそのせいで警戒心0に育ってしまった個体がちらほら居る。自然に近い存在なので、悲しみや痛みを引きずる事が無い(感じないわけではない)本来の流れでは、戦争による被害や生存競争の流れに負け、数を減らしつつも別の場所に移動して細々と暮らすはずだった。

【仕込み杖】
アトリアの秘密兵器。捻ると上部と下部で分かれ、下が持ち手、上は鞘になり、中から細剣が現れる。杖状態と細剣状態で性能が違い、杖状態だと精々上級か最上級だが、細剣状態だと伝説級にまで跳ね上がる。……が、ルーンで無理矢理性能を底上げしているものの、切ったら回復する、といった特殊な効果などはなく、ただただ耐久性に優れ、優れた切れ味を持つだけの細剣でしかない。

【武技①】
『人間特攻』:人間種に対してのみ追加攻撃力を得る武技
『能力超向上』:ステータスが軒並み上昇する武技
『超神速』:目にも止まらない速さ、その更に上を行く速さを叩き出す武技
『超連続空刃斬』:連続で斬撃を飛ばす武技

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